2015年1月25日日曜日

【有機単結晶の作り方】〜その1〜

皆さんはどのようにして分子を見ていますか?

筆者は、有機合成を専門にしていますが、
X線結晶構造解析で分子構造を見るのが非常に好きです。
普段はNMRなどの情報から頭の中で分子構造を
想像しています。
また、近年では計算で孤立系における
分子構造を見ることができます。

それはそれで楽しいのですが、
X線結晶構造解析では単なる1つの分子の構造だけでなく、
固相における分子の美しい規則的な並びを見ることができます。
自然界の冷酷なるエントロピー増大の法則に反して
分子間の弱い力の相互作用によって集合した分子が見せる
良い意味で不自然なほどの整列、
その美しさたるや筆舌に尽くし難いものがあります。

しかし、X線結晶構造解析は容易ではありません。
X線結晶構造解析で分子構造を見るためには
単結晶なるものが必要です。
慣れればそれほど労することなく、
好きになれば
筆者のように意欲的に単結晶を作るようになります。


今回はその単結晶の作り方についての話です。
結晶作成は減圧濃縮や13C NMRの待ち時間に少しの手間でできるので
筆者にとって忙しい毎日の息抜きでもあります。

有機単結晶というタイトルにしたのは、
無機分野の方には無機分野の方のノウハウがあると思ったからであります。
あくまで有機分野におけるノウハウとして
参考にしていただければ幸いです。
また、X線結晶構造解析の結果の有無によって
研究室内での議論のみならず、
学会発表などの場においても、
議論が深まります。

手間暇かけて合成して高い純度まで精製した(愛着のある)目的化合物、
その生写真をあなたの手で撮ってみませんか?

それでは長い前振りもここまでで
さっそく簡易版単結晶の作り方を紹介しようと思います。

流れとしては、
1. 試料を精製する

2.溶解度試験を行う

3. 単結晶作製のための検討
と言った感じです。
簡単でしょう?(慣れればSTEP2の溶解度試験は省略しても良いかと思います。)


1. 試料を精製する
化学的には精製されている試料からほこりを除く作業です。

・シリンジフィルターを用いたろ過
お手軽です。時間が惜しければこちらがおすすめ。
ろ過する容器のほこりにご注意下さい。
http://www.monotaro.com/s/c-85732/?sort=price

・熱時濾過
金銭面が惜しければこちらでやるしかないでしょうね。
運が良ければろ液からそのまま単結晶が出ることもあるので
急がば回れかもしれません。

※せっかくの幸運を逃さにために漏斗と受けるフラスコには極力ほこりがないようにする

2. 溶解度試験を行う
数mgの試料でバイアルなどを用いて大まかに
よく溶ける・加熱すれば溶ける・加熱しても溶けない
程度で十分です。

先程も述べましたが、予めある程度溶解度が分かってたり、
以前に類似の構造のものを扱った事があれば、
省略しても良いです。

非極性溶媒
プロトン性極性溶媒
非プロトン性極性溶媒
ベンゼン類(非極性・極性)
※溶解度試験に用いたサンプルを用いて、
そのまま単一溶媒系での単結晶の作成を試みることで、
結晶が出やすい溶媒か出にくい溶媒か、
またどういう形の結晶が出る溶媒なのか
大まかな傾向を知ることができるもあります。


3. 単結晶作製のための検討
いよいよ単結晶の作製です。
基本的に一度の検討で使用する試料は1 mg前後で十分です。
溶解性の悪い試料でも少しでも溶けるのならば可能性は十分にあります。
容器はマイクロチューブや小さなバイアルを使用します。

・簡易析出
お手軽です。
(1)溶解度試験のサンプルに薬包紙等で作った簡易のフタをかぶせ穴を開ける

(2)静置

・過飽和の溶液からの析出
お手軽です。
(1)溶解度試験の結果を参考に、試料が完全に溶けきらない程度に溶媒を加える。

(2)加温して試料を溶かしきる。

(3)放冷(バス等に漬けたまま放冷できるならそれも試してみると良いです)。

・貧溶媒による析出
少し手間ですがいろいろな検討が可能です。
(1)溶解度試験の結果を参考に良溶媒にサンプルを溶かす

(2)マイクロチューブや小さなバイアルに、溶液を小分けする(容積の1/4以下が望ましい))

(3)マイクロチューブや小さなバイアルを入れて、蓋を閉めて密閉できる大きなバイアルをいくつか用意し、それぞれに異なる貧溶媒を入れる

(4)大きなバイアルに先のマイクロチューブや小さなバイアルを入れて蓋を閉めて密閉する(言うまでもなく中の容器にはフタをしないでくださいね。うっかりしてるとよくやります笑)

以上、無駄話のほうが長い【有機単結晶の作り方】の紹介でした。
普段から、単結晶作製を行っている方からすれば
「何を今更・・・」というような内容だったかもしれませんが、
その2では、自分なりのノウハウや特殊なやり方を紹介しようと思います。

それではまた