前回の最後に、「自分なりのノウハウや特殊なやり方を紹介しようと思います。」と言ったきりで、
長らく更新しないままずいぶんと日が経ってしまいましたね。
早速ですが、自分なりのノウハウの部分についてまずは解説しようと思います。
有機単結晶を得るための再結晶でよく問題になるのが、
・綿状もしくは、もやがかかったようにしかならない
・(結晶性は良いが)針状の結晶しか析出しない
の2点かと思います(他にも特殊なケースは存在するかと存じますが)。
それで筆者のケーススタディについて話す前に少しばかり語ります。
(ここからは筆者の妄想ですので、飛ばしていただいても結構です)
はじめに、化学熱力学を思い出してください
「ギブズ自由エネルギーGの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。」
エンタルピーH、温度T、エントロピーSとして
G=H-TS
で表される例のあの式ですね。
結晶化という現象はエントロピーが減少しているにもかかわらず、
自発的に反応が進行しているわけです。
すなわち、結晶化は分子間の結合の組み代わりを伴わない発熱反応なのです。
以上を踏まえてまず、
「綿状もしくは、もやがかかったようにしかならない」についてですが、
これの原因は筆者の経験上、
析出速度が速すぎるか分子間で複数の相互作用が競合しているかのどちらかだと考えています。
前者は単純に溶媒量や温度変化をコントロールすれば解決できることが多いです。
最近、知人から教えてもらった気相拡散法の析出速度のコントロール手段として、
サンプルを溶かしたバイアルを入れた容器を、シリカゲルを入れたバイアルの中に入れるという手法があります。
これは単一溶媒からの析出速度を温度やふたに開ける穴の大きさなどという再現性の低いものではなく、
秤量できるシリカゲルの量で操れるので筆者としては使えるという印象です。
上記の方法や溶媒量や温度変化でも、綿状もしくはもやがかかったようにしかならない場合、
分子間で複数の置換基の相互作用が競合しているために分子が整列しないのとだと考えます。
なので、官能基を変換できるなら変換してから再検討すべきですが、
どうしてもこれでしかやるしかないという時もあります。
そんなときは、はっきり言って半分根性論です。
参考になるかわかりませんが、
筆者のケースでは、わざとDABCOを混ぜることでDABCOと目的化合物の混合物として単結晶を得たこともあります。
こればかりは分子によって官能基の種類や数はまちまちですし、
筆者も未だ法則化できるほどのノウハウはありません。
とことん自分の合成した分子の気持ちになってください。
固体として溶液から析出してくる限り、一歩ずつ進めば必ず単結晶は得られると筆者は信じています。
必ず検討した条件(溶媒の種類と量、温度、時間)と析出の度合い(綿やもやの状態と濃さ、場所)など
記録できることはすべてを必ず記録してください。
そのうち、その分子の気持ちがわかってきます(笑)
あと、できるなら条件とともに写真を撮っておくほうがいいです。
また、実は結晶が析出していたのに見逃していたなんてことのないように
(無色の結晶は、屈折率の関係でものすごく見えにくい場合があります)
必ずよく確認してください。
次に、「針状の結晶しか析出しないケース」についてですが、
これはいわゆる結晶性が良い(多環芳香族)化合物などの結晶化の際に
問題になります。
ここで考えるべきは、何が原因で針状に結晶化してしまっているのかということです。
芳香族分子が針状に結晶化するケースの原因は、
分子間のπ-πの相互作用が強いことだと容易に想像できます。
このようなケースでは析出速度を溶媒量や温度変化でコントロールすることで解決できることもありますが、
難しいケースでは析出速度を変化させてもあまり効果がないというのが筆者の印象です。
そこで筆者の解決法としては、極性溶媒を使って分子間でπ-πの相互作用がしにくくなるもしくはそれよりも強い相互作用の環境下で析出させます。
よく使うのは二硫化炭素か、NMPやDMFなどの非プロトン性極性溶媒です。
ただ、二硫化炭素は結晶溶媒として取り込まれやすく、またディスオーダーするので
最終手段としての使用をお勧めします。
極性溶媒への溶解度が乏しいケースではODCBに溶かして、
貧溶媒として沸点の軽いエーテルやカルボニル系の溶媒を使用する方法です。
以上、あまり役に立つような中身のある話の少ない【有機単結晶の作り方】〜その2〜 】でした。
それではまた