背景
1: ネアウマイシンBとは
- ネアウマイシンB(1)は、2015年に微細胞子菌Actinoplanes sp. ATCC33076から単離されたマクロ環状ポリケチドです。
- MRSAに対するラモプラニンの抗生物質効果を高めることが示されています。
- また、U87神経膠芽腫細胞に対して例外的かつ選択的な細胞毒性 potency を示します。
- 天然源からの入手は、その化学的不安定性により限られています。
- 生物活性、天然存在量の低さ、合成の難しさから、ネアウマイシンBは化学合成の魅力的な標的となっています。
2: 未解決の構造問題
- ネアウマイシンBの単離報告では、原子の連結性は記述されましたが、立体化学情報は含まれていませんでした。
- その後の研究で提案された立体異性体構造が示されました (Figure 1)。
- しかし、発表された構造に対して行われた2つの全合成からのスペクトルデータは、原子の連結性は確認できそうでしたが、報告された構造のものと一致しませんでした。
- これは、ネアウマイシンBの実際の立体構造が依然として謎であることを示しています。
- さらに、報告された構造は細胞毒性活性を欠いています。
3: 研究の目的
- したがって、1の構造の謎を解くためには、さらなる合成努力が必要です。
- これは、その抗神経膠芽腫活性に関するさらなる研究に不可欠です。
- 本研究は、単一アノマー型スピロケタルの立体化学的側面と、立体中心の再割り当ての提案に焦点を当てています。
- 目標は、天然物の構造における notable なサブユニットであるスピロケタールコアへの迅速かつ収束的なアプローチを報告することです。
- これにより、2つの異性体的な単一アノマー型スピロケタルの形成という、まれにしか記述されない結果の起源を記述します。
- 最終的に、この研究から得られた知見に基づいて、天然物中の立体中心に対する修正を提案します。
方法
1: 合成戦略の概要
- 本研究では、ネアウマイシンBのスピロケタールユニットに対する迅速かつ収束的なアプローチを採用しました。
- 主要な断片結合段階として、Mukaiyamaアルドール反応を利用しています。
- この戦略の魅力的な要素は、断片結合プロセスで生成物に関連する立体中心を設定できる点です。
- このアプローチは、立体選択的なアルドール断片結合から生じる基質からの脱水スピロケタール形成を経て進みます (Scheme 1)。
- これは、単一アノマー構造形成のためのヘテロDiels-Alder/C-H結合開裂ベースの以前のアプローチが立体制御に難があったため変更されました。
2: 断片合成(アルデヒド)
- アルデヒド断片の合成はScheme 2に示されています。
- アルデヒド4は、1,3-プロパンジオールから容易に2段階で入手可能です。
- Leightonのその場クロチル化条件下で5が得られ、良好なエナンチオ選択性を示しました。
- 結果として生じるヒドロキシ基の保護基選択が、下流のアルドール反応の成功に不可欠であり、p-メトキシベンジル基が最適でした。
- このシーケンスは、Johnson-Lemieux酸化によりアルデヒド7を形成して完了しました。
3: 断片合成(ケトン)
- ケトン断片の構築はScheme 3に示されています。
- 5-ヘキセン-1-オールのSwern酸化で調製されたアルデヒド8とプロピオニルクロリドのエナンチオおよびジアステレオ選択的シクロ付加により、β-ラクトン9を形成しました。
- この段階は、多グラムスケールで実施可能で、立体異性体の形成は検出されませんでした。
- ラクトン開環、Weinrebアミド形成、nBuLi過剰量添加によりケトン10が得られました。
- NaBH4とEt2BOMeを用いたケトンの選択的syn-還元により、1,3-ジオールが形成され、その後シリル化により11が得られました。
- TsujiバリエーションのWacker酸化により、ケトン12が得られました。
4: 断片結合と環化
- 断片(アルデヒド7とケトン12)はMukaiyamaアルドール反応により結合されました (Scheme 4)。
- ケトン12からのエノリルシラン13とアルデヒド7へのBF3・OEt2を用いた暴露により、アルドール生成物として8:1のジアステレオマー混合物(14)が得られました。
- 14のアシル化により15を形成し、PMBエーテルはDDQにより切断され、ヘミケタール16となりました。
- 16をCSAとMeOHで処理すると、脱保護と環化が迅速に進行し、分離可能な2:1のスピロ環混合物が得られました。
- これらの種は個別にパーアシル化され、構造決定を容易にしました。これにより、17と18がそれぞれ高収率で得られました。
結果
1: 合成されたスピロケタルの特徴
- スピロ環化により、見かけ上1つの立体中心が形成されるように見えますが、2つ以上の立体異性体が可能なのは、スピロ環[5.5.1]系が軸不斉であり、2つの立体発生単位が形成されるためです。
- 我々の合成では、2つのスピロケタール異性体(17と18)が2:1の混合物として分離されました。
- これらの異性体は、単一アノマー型でした。
- Figure 2に示される二重アノマー型異性体(3)は単離されませんでした。
- これはおそらく、軸方向に分岐鎖が存在することに伴うエネルギー的なペナルティによるものです。
- スポンジスタチンの合成でも2つの単一非アノマー型スピロケタールの単離が報告されていますが、詳細な議論は少なく、他にはあまり報告されていません。
2: スペクトル分析による構造決定
- 17と18を1H NMRおよびNOESY実験により分析しました (Table 1)。
- 多くの主要な水素は、非常に類似した分裂パターンとカップリング定数を示しましたが、化学シフトとNOEパターンは著しく異なっていました。
- 分裂パターンの類似性は、スピロケタールユニット上のすべての置換基がequatorial配向であることを明確に示しました。
- これは、生成物の1つがFigure 2の構造3に関連する二重アノマー型異性体である可能性を排除します。
- このシーケンスにおける主生成物(17)は、天然物と合成物から得られたスペクトルデータ(化学シフトとNOE)に非常に近いものを示しました。
- 副生成物(18)は、代替の単一アノマー型異性体と一致していました。
3: 重要な化学シフトの差異
- 化合物17と18の化学シフトにおける顕著な違いは、酸素原子とジアキシャルな関係にある水素に見られます。
- Table 1(ネアウマイシンBナンバリング)によると、17中のC25とC27の水素は、18に比べてそれぞれ1.17および0.18 ppm downfieldに位置しています。
- 一方、17中のC33の水素は18に比べて0.7 ppm upfieldに位置しています。
- 17中のC28のequatorial水素も立体異性体の強い指標であり、18に比べて0.67 ppm downfieldに位置しています。
- 17における異常なdownfieldシフト(天然物でも見られる)の起源は不明ですが、この水素はアノマー配向の酸素とgauche関係にあることが指摘されています。
- これらのスペクトルの違いは、将来のスピロケタール構造を区別するための貴重な出発点となるはずです。
考察
1: スピロ環異性体の起源
- 構造17と18の類似性は、エネルギー的にほぼ同等であるべきであることを示唆しており、これはそれらが2:1の混合物として形成されることと一致しています。
- 純粋な18をスピロ環化条件下に置くと、17と18の2:1混合物への遅い変換が見られました。
- しかし、平衡化は環化よりもはるかに遅いため、混合物は速度論的制御から生じることを示唆しています。
- 立体異性体は、ヘミケタール16から異なる経路を介した速度論的に制御された混合物として生成されると仮定しました (Scheme 5)。
- 経路Aはオキソカルベニウムイオン19を経て進行し、立体電子的により好ましいaxial軌道からのアルコール付加により20を生成します(アノマー位で正味の立体化学保持)。
- 代替経路(経路B)はアノマー中心での立体化学的反転を必要とし、SN2経路または水がオキソカルベニウムイオンと静電的に関連している中間体(21)からの立体制御を伴うSN1経路を介して発生し、22を生成します。
2: C34立体中心の再割り当ての可能性
- 合成された主生成物17のNOE分析は、天然物のスピロ環サブユニットのそれと強い一致を示しましたが、周辺部には顕著な違いが見られました。
- 例えば、Fenicalらは、ネアウマイシンBについて、C35とC25およびC27の水素間にNOEを報告しましたが、これは17では観察されませんでした。
- Amos B. Smith III先生の論文も、合成された1と天然物の間で、C35領域に significant な化学シフトの差異を示していました。
- これは、この領域が立体化学的誤りの潜在的な場所である可能性を示しています。
- C34の立体化学的配置を反転させることで、好ましい側鎖のコンフォメーションを変化させ、この問題を解決できると仮説を立てました。
3: C34エピマーの合成と分析
- この仮説を検証するため、必要な立体化学的配置を確立するためにanti-アルドール反応を行いました (Scheme 6)。
- HeathcockのEvansアルドール反応バリアントがこの目的に適していることが判明しました。
- ホウ素エノラート23をアルデヒド24とカップリングさせ、Weinrebアミド25を合成しました。
- 続く一連の反応(BuLi添加、1,3-syn-ケトン還元、シリルエーテル形成)により26が得られました。
- 終末アルキンのメチルケトンへの変換には、吉田らの銅触媒ボリル化条件を用いる経路が、酸に敏感なアルキンの水和に望ましい方法であることが判明しました。
- 得られたケトン27からのエノリルシラン形成後、7とのBF3・OEt2促進アルドール反応により28が得られました。
- 新たに生成したアルコールをアセテートに変換後、PMBエーテル切断および酸触媒環化により、スピロケタール29と30が相互変換可能なジアステレオマーの分離可能な2.5:1混合物として得られました。主なジアステレオマーをアセチル化して31としました。
4: C34エピマーのスペクトルとコンフォメーション
- 化合物31のNOESY分析は、天然物で観察されるが17では見られない重要な関係性を明らかにしました。
- 特に、H35がH25およびH27とのNOEを示しました。
- これらの水素は平面構造では離れているように見えますが、Figure 3に示すように、ダイヤモンド格子に優先コンフォメーションを重ね合わせることで、その近接性が説明されます。
- H34をH33に対してanti配向に置くことは、アルキル基と環の間のgauche相互作用を最小限に抑えるために望ましいです。
- このコンフォメーションは、H35とH25およびH27の間の近接性を示しています。
- 17の同様のコンフォメーションでは、H35はH25およびH27から離れています。
5: スペクトルと生物活性への示唆
- 特筆すべきは、31におけるH35の化学シフトが、17のH35と比較して0.28 ppm downfieldに位置していることです。
- これは、天然物とSmithの合成物のそれぞれの化学シフトの差異(Δδ = 0.27 ppm)と驚くほど一致しています。
- このdownfieldシフトは、酸素原子との1,3-ジアキシャル関係にあるスピロ環内の水素との空間的類似性とも一致しています。
- これは、分子のこの領域が rigid なコンフォメーションを持つことを意味するのではなく、コンフォメーションバイアスの変化を示唆しています。
- この変化は、最初に提案された構造が生物活性を欠くことの一因である可能性があり、メチル基がコンフォメーション変化を誘導する能力を示しています。
- Supporting Informationには、17、31、天然ネアウマイシンB、合成ネアウマイシンB間の主要なNMR信号を比較した表が含まれています。
6: 限界点
- 本研究はネアウマイシンBのスピロケタールサブユニットに焦点を当てています。
- 報告された構造のすべての立体中心を検証または修正したわけではありません。
- マクロ環の立体化学的割り当てには、追加の誤りがほぼ確実に存在すると考えられます。
- 合成されたスピロケタール異性体(17と18、または29と30)は、平衡状態にあることが示されていますが、これが天然物の構造決定にどのように影響するかは完全に解明されていません。
- 合成中間体の不安定性により、完全な特性評価ができなかった段階もあります(例:ヘミケタール16)。
結論
- Mukaiyamaアルドール反応を介して断片を結合させ、生成物に関連する立体中心を生成する、ネアウマイシンBスピロケタールへの収束的アプローチを開発しました。
- スピロ環化は、中心キラル立体中心と軸不斉立体発生単位の両方を生成するため、2つの単一アノマー型立体異性体のいずれかで形成される可能性があります。
- 相互変換可能なスピロケタールの分光分析は、明確な化学シフトとNOEパターンを示し、容易な構造割り当てを可能にします。
- 初期構造におけるNOESY相関の不足が、スピロ環のC33への側鎖における立体化学的誤割り当ての可能性を探るきっかけとなりました。
- C34における初期の立体化学的割り当てを反転させた結果得られた分光データは、天然物のデータとはるかに整合性が高いことが示されました。
- 本研究は、分子の一領域を修正し、天然物の構造解明における化学合成の重要な役割を改めて示すものです。
将来の展望
- 構造の謎を解明することは、ネアウマイシンBの抗神経膠芽腫活性に関するさらなる研究のために不可欠です。
TAKE HOME QUIZ
- ネアウマイシン B の構造の中で、本論文が合成に焦点を当てている注目すべき部分はどこですか?また、その構造単位は分光データからどのようなタイプであることが示唆されていますか?
- 報告された合成経路で、スピロケタルの形成時に得られた主なスピロサイクル異性体は何種類でしたか?それらは「単一アノマー」型ですか、それとも「二重アノマー」型ですか? なぜ2種類以上の異性体が得られる可能性があるのですか?
- 合成されたスピロサイクル異性体を分析し、その構造を決定するために使用された重要な分光分析手法は何ですか? これらの分析から、主要な異性体と天然物の構造のどの点が一致していましたか?
- 著者らがネアウマイシン B の特定の立体中心の再アサインメントを提案した主な理由は何ですか? 具体的に、どの炭素原子の立体化学に誤りがあると仮説を立てましたか?
- 立体中心の配置を反転させて合成した化合物(31)が、天然物の分光データとより一致することを示した重要な分光学的観測は何ですか?
解答
本論文が合成に焦点を当てている注目すべき部分は、ネアウマイシン Bの構造におけるスピロケタルのコアユニットです。この構造単位は、天然物の分離および全合成において得られた分光データから、単一アノマー型(structure 2)であることが示唆されています。二重アノマー異性体(structure 3)ではありません。
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報告された合成経路で、スピロケタル形成時には2種類のスピロサイクル異性体が生成しました。これらの異性体はどちらも単一アノマー型であり、二重アノマー異性体は単離されませんでした。2種類以上の異性体が得られる可能性があるのは、スピロ環化プロセスが中心キラルな立体中心と軸キラルな立体生成単位の両方を生成するためです。Spiro[5.5.1]環系が軸キラルであるため、スピロ環化時に2つの立体生成単位が形成されます。
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合成されたスピロサイクル異性体(17および18)を分析し、その構造を決定するために使用された重要な分光分析手法は、1H NMRおよびNOESY実験です。これらの分析から、主要な異性体(17)は、天然物または合成物から得られた化学シフトとNOEパターンが天然物と密接に一致することが明らかになりました。特に、スピロケタルユニット上の全ての置換基がエクアトリアル配向にあることが示され、これが主要な異性体と天然物の構造で一致する点でした。
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著者らがネアウマイシン Bの特定の立体中心の再アサインメントを提案した主な理由は、天然物のスピロサイクル側鎖部分におけるNOEパターンが、合成した主要なスピロサイクル異性体(17)のそれと一致しなかったためです。具体的には、天然物で観察されたC35水素とC25およびC27水素間のNOEが、化合物17では観察されませんでした。この観察に基づき、著者らはC34炭素原子の立体化学に誤りがあると仮説を立てました。
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C34の立体中心の配置を反転させて合成した化合物(31)が、天然物の分光データとより一致することを示した重要な分光学的観測は、化合物31における特定のNOEパターンと化学シフトです。特に、化合物31のH35がH25とH27に対してNOEを示すことが観察され、これは天然物で観察される関係性です。また、化合物31のH35の化学シフトが、化合物17のH35と比較して0.28 ppm downfieldに位置しており、これは天然物とSmithらの合成物質におけるそれぞれの化学シフト差(Δδ = 0.27 ppm)と非常に一致しています。これらの観測は、C34の立体化学を反転させた構造が、天然物の分光データをより正確に反映していることを示しています。
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