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特集号の宣伝 Nanocarbons: Advances and Innovations

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2025年6月14日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0240~

論文のタイトル: Metal-free site-selective functionalization with cyclic diaryl λ3-chloranes: suppression of benzyne formation for ligand-coupling reactions環状ジアリールλ3-クロランを用いたメタルフリー位置選択的官能化:ベンザイン生成抑制による配位子カップリング反応

著者: Koushik Patra, Manas Pratim Dey, Mahiuddin Baidya*
雑誌名: Chemical Science
巻: Vol. 15, Issue 40, pp. 16605-16611
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1039/D4SC04108A

背景

1:  研究背景 - 超原子価ハロゲン化合物

  • 超原子価ハロゲン化合物は有機合成において多様な反応を可能にする有用な試薬として注目されています。
  • これらの化合物は、低毒性、調整可能な反応性、様々な官能基との適合性といった利点があります。
  • 特に、λ3-ヨージンやλ3-ブロマンはこれまでに広範に研究されてきました。
  • 一方、同族元素であるλ3-クロラン、特に環状ジアリールλ3-クロランは、そのユニークな性質にも関わらず、十分に研究が進んでいませんでした。
  • λ3-クロランは、高い電気陰性度とイオン化ポテンシャルにより、高い求核脱離能と求核剤捕捉傾向を持つと予想されます。
  • これは、ベンザイン中間体を経由する反応と、配位子カップリング反応という二つの異なる反応様式をもたらす可能性があります。

2: 未解決の課題 - λ3-クロランの反応性制御

  • 環状ジアリールλ3-クロランは、塩基条件下ではベンザイン中間体を経由し、主にメタ位の官能化を起こしやすいことが先行研究で示されています。
  • ベンザイン生成はエネルギー障壁が非常に低く、この経路が優先されるため、オルト位を選択的に官能化する配位子カップリング反応の実現は困難でした。
  • 過去には環状ジアリールλ3-クロランの熱分解による2,2'-ジハロゲノビフェニル合成が報告されていますが、配位子カップリングによるオルト官能化の一般的な手法は未開拓のままでした。
  • この反応性の制御、特にベンザイン経路を抑制して配位子カップリングを促進することが、λ3-クロラン化学における重要な課題でした。
  • 先行研究では、特定の求核剤(フェノール)を用いたジアリールλ3-クロランのC-OおよびC-C結合形成が報告されていますが、これらはベンザイン中間体を経由しています。
  • メタルフリー条件での位置選択的官能化法の開発は、合成法の簡便性や環境負荷低減の観点からも重要です。

3: 本研究の目的

  • 本研究の主要な目的は、環状ジアリールλ3-クロランを用いた新規配位子カップリング反応を開発することです。
  • 特に、より容易なベンザイン生成経路を効果的に抑制し、困難であったオルト位への位置選択的官能化を実現することを目指しました。
  • この目的を達成するため、低塩基性で求核性の高い試薬を用いることで、超原子価ハロゲン中心への直接的な相互作用を促進できると仮説を立てました。
  • メタルフリー条件下で反応が進行する手法を開発することを重視しました。
  • これにより、様々な非対称な2,2'-ビアリール誘導体を効率的に合成できると期待しました。
  • また、他のλ3-ハロゲン化合物(λ3-ヨージン、λ3-ブロマン)と比較し、λ3-クロランの特性を明らかにすることも目的としました。

方法

1: 研究デザインと全体概要

  • 本研究では、環状ジアリールλ3-クロランを用いた配位子カップリング反応の条件検討と適用範囲の検討を行いました。
  • 主に、λ3-クロランと求核剤を組み合わせる反応をデザインしました。
  • 手法として、三成分カップリング二成分カップリングの2つを開発しました。
  • 三成分カップリングは、λ3-クロラン、炭素二硫化物 (CS2)、およびアミンを用いる方法です。
  • 二成分カップリングは、λ3-クロランと様々な求核剤(アミン、S/N求核剤など)を直接反応させる方法です。
  • 反応はメタルフリー条件下で行いました。
  • 反応条件(溶媒、温度、試薬量など)を詳細に検討し、収率と位置選択性を最適化しました。

2: 三成分カップリング反応の検討

  • 三成分カップリングでは、出発物質として環状ジアリールλ3-クロラン (1a)、炭素二硫化物 (2a)、およびアミン (3a) のモデル系を用いて条件を検討しました。
  • 溶媒の影響を調べた結果、DCMが最も高い収率(88%)をもたらし、最適であることがわかりました. DCE、THF、CH3CN、DMF、MeOHでは収率が低下し、HFIPでは反応が進行しませんでした。
  • 反応温度は室温が最適であり、50℃に昇温すると収率が低下しました。
  • λ3-クロランの対アニオンも影響し、BF4-が最適で、OTs-は同程度、OTf-では収率がわずかに低下しました。
  • 最適条件(1a (0.2 mmol), 2a (0.5 mmol), 3a (0.24 mmol), DCM (1.5 mL), 室温, 18時間, N2雰囲気下)を確立しました。
  • この最適条件を用いて、様々な構造を持つアミンの適用範囲を検討しました. 環状脂肪族アミン、非環状アミン、第一級アミンなどが含まれます。
  • また、様々な構造のλ3-クロランの適用性も評価しました. 電子求引基や電子供与基を持つ対称型、および非対称型のλ3-クロランを用いました。

3: 二成分カップリングおよびその他の検討

  • 二成分カップリングでは、λ3-クロランと様々な求核剤を直接反応させました。
  • 特に、低塩基性であると予想される芳香族アミン(アニリン誘導体)との反応性を詳細に検討しました。
  • アニリン以外にも、チオシアン酸アンモニウム (NH4SCN)、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム (TsNa) などの硫黄求核剤や、アジ化ナトリウム (NaN3)、亜硝酸ナトリウム (NaNO2) などの窒素求核剤との反応も試みました。
  • 対照実験として、高塩基性アミンを用いた場合の反応生成物を調べ、ベンザイン経路との関連性を評価しました。
  • さらに、第三級アミン(DABCO, キヌクリジン)を用いた新たな方法論も開発しました. これはアミン塩中間体を経由し、その後に様々な求核剤(N, S, O, C求核剤)と反応させる手法です。
  • λ3-ブロマンおよびλ3-ヨージンについても、今回開発した配位子カップリング条件下での反応性を比較評価しました。
  • 反応メカニズムを調べるために、立体障害のあるアミン、ラジカル捕捉剤(TEMPO)、およびベンザイン捕捉剤(フラン)を用いた実験を行いました。
  • 合成手法の実用性を示すために、グラムスケールでの合成を試みました。
  • 合成した主要な化合物の構造と位置選択性は、単結晶X線構造解析によって確認しました。

結果

1: 三成分カップリング反応の成果

  • 環状ジアリールλ3-クロラン、CS2、アミンを用いた三成分カップリング反応を初めて成功させました。
  • 最適条件(DCM溶媒、室温)下で、モデル化合物であるビアリールジチオカルバメート4aを88%という非常に高い収率で単離しました。
  • この反応は、クロロフェニル置換基に対して排他的にオルト位を選択しました. メタ位生成物は検出されませんでした。
  • これは、in situで生成したジチオカルバメートイオンが低塩基性かつ高い求核性を持ったため、ベンザイン中間体形成よりも配位子カップリングが優先されたことを示唆しています。
  • 本手法は、様々な環状および非環状アミンに適用可能であり、対応するビアリールジチオカルバメートを非常に高い収率(70-88%)で得ました。
  • 対称型λ3-クロランに加え、非対称型λ3-クロランも使用可能でしたが、置換基の電子特性に応じて位置異性体混合物が生じました. 電子求引基(エステル基)を持つ場合、エステル基側のアリール環へのカップリングが優先される傾向が見られました。

2: 二成分カップリングおよびベンザイン経路の結果

  • 芳香族アミン(アニリン誘導体)を用いたλ3-クロランとの二成分配位子カップリング反応も成功しました。
  • これにより、貴重な2-アミノビフェニル誘導体を、優れたオルト選択性で中程度の収率(69%)で合成しました。
  • 様々な置換パターンを持つN-フリーおよびN-置換アニリンに適用可能でした。
  • チオシアン酸塩、スルフィン酸塩、アジド、亜硝酸塩といった他の硫黄および窒素求核剤との二成分カップリングも、高収率(85-91%)かつ排他的なオルト選択性で進行しました。
  • 高塩基性アミンを用いた場合、仮説通りベンザイン中間体を経由した競合反応が起こりました。
  • 環状二次アミンとの反応では、メタ位およびオルト位官能化生成物の混合物が得られましたが、環サイズが増大するにつれてメタ選択性が徐々に向上し、非常に高い収率でメタ体が得られました。

3: 第三級アミン、比較研究、メカニズム、スケールアップ

  • 第三級アミン(DABCO、キヌクリジン)を用いた新しい方法論により、多様な求核剤との反応が可能になりました。
  • この方法では、まずλ3-クロランと第三級アミンからアンモニウム塩を生成し、その後に様々な求核剤と反応させることで、開環生成物や位置選択的なオルト官能化生成物が得られました. これは、高塩基性アミンによるメタ官能化とは異なる経路です。
  • λ3-クロランとλ3-ブロマン、λ3-ヨージンの配位子カップリングにおける反応性を比較した結果、λ3-クロランが最も優れていることが示されました. λ3-ブロマンは中程度の収率でしたが、λ3-ヨージンは室温では反応せず、高温でも低収率でした。
  • メカニズム調査により、立体障害のあるアミンとの反応でオルト生成物のみが得られたこと、ラジカル捕捉剤存在下でも反応が進行したことから、直接求核芳香族置換反応やラジカル機構は否定されました。
  • これは、配位子結合に続く配位子カップリング経路を支持する結果でした.
  • 高塩基性アミン存在下ではベンザイン中間体が捕捉された一方、配位子カップリング条件下ではベンザイン捕捉生成物は観察されませんでした。
  • 開発した手法はグラムスケールでも実施可能であり、小スケールと同程度の収率(三成分で80%、二成分で72%)で目的物が得られました。

考察

1: ベンザイン抑制による新規配位子カップリング

  • 本研究の最も重要な発見は、環状ジアリールλ3-クロランのこれまで未開拓であった配位子カップリング反応を開発したことです。
  • これは、λ3-クロランにおいてより容易に進行すると考えられていたベンザイン生成経路を効果的に抑制し、困難であった配位子カップリングを促進することで達成されました。
  • 特に、低塩基性で求核性の高い試薬(in situ生成したジチオカルバメートイオン、芳香族アミン、S/N求核剤など)を用いることで、ベンザイン生成に必要な脱プロトン化を抑制し、超原子価塩素中心への求核攻撃を優先させることができました。
  • これは、λ3-クロランの反応性を制御する新しい戦略を示しており、先行研究で報告されていたベンザイン中間体を経由するメタ選択的官能化とは対照的な結果です。

2: 幅広い適用範囲とオルト選択性

  • 開発した配位子カップリング反応は、多様な求核剤(様々なアミン、S/N求核剤)および多様な構造を持つλ3-クロランに適用可能であり、幅広い種類の非対称2,2'-ビアリール誘導体を合成できることが示されました。
  • 特に、三成分カップリングおよび二成分カップリング(芳香族アミン、S/N求核剤)は、非常に高い収率で進行し、かつ優れたオルト位置選択性を示しました. 生成物の構造と選択性はX線解析でも確認されました。
  • 第三級アミンを用いた新しいアプローチは、直接反応では困難な二次アミンのオルト選択的カップリング生成物へのアクセスを可能にし、合成的な有用性をさらに高めました.
  • これらの結果は、開発した手法が汎用性が高く、多様なC-SおよびC-N結合形成に適用できることを示しています。

3: 先行研究との比較とλ3-クロランの優位性

  • 環状ジアリールλ3-クロランを用いた配位子カップリングによるオルト官能化は、これまで一般的な手法が確立されていませんでした. 本研究は、この重要な合成手法を初めて実現したものです。
  • 高塩基性アミンを用いた場合に観察されたメタ選択的官能化は、先行研究で示唆されていたベンザイン経路(主にメタ位)と一致しており、本研究のオルト選択的反応との対比として、反応経路の制御に成功したことを明確に示しています。
  • λ3-クロランと、より広く研究されているλ3-ブロマンおよびλ3-ヨージンを比較した結果、本配位子カップリング反応においてλ3-クロランが最も優れていることが分かりました. これは、λ3-クロランのユニークな電子特性がこの反応に有利に働いた可能性を示唆しています。
  • これらの比較研究は、λ3-クロランが特定の種類の変換において、他の超原子価ハロゲン化合物では達成困難な独自の反応性を持つことを強調しています。

4: メカニズムの示唆

  • メカニズム調査の結果は、開発した配位子カップリング反応が、直接的な求核芳香族置換反応やラジカル機構を経由するものではないことを強く示唆しています。
  • 立体障害のあるアミンとの反応でオルト生成物のみが得られたこと、ラジカル捕捉剤存在下でも反応が妨げられなかったことが、これらの機構を否定しています。
  • 高塩基性アミン存在下でベンザイン捕捉生成物が確認された一方で、配位子カップリング条件下ではベンザイン捕捉生成物が観察されなかったことも重要です。
  • これらの結果は、本研究で開発した反応が、求核剤が超原子価塩素中心に配位結合し、その後、配位子カップリングが起こる経路を経由している可能性が高いことを支持しています. この経路は、オルト位への位置選択性を説明することができます。

5: 研究の限界

  • 本研究で開発された手法は非常に有用ですが、いくつかの限界も存在します。
  • 非対称なλ3-クロランを用いた三成分カップリングや二成分カップリング(アニリン)では、位置異性体の混合物が生成することがあります. これは、カップリングが起こるアリール環の選択性をさらに制御する必要があることを示唆しています。
  • 高塩基性アミンを用いると、目的とする配位子カップリングではなく、ベンザイン中間体を経由したメタ選択的官能化が優先されてしまいます. そのため、使用できるアミンにはある程度の制限があります(ただし、第三級アミンを用いることでこの課題の一部は克服されています)。
  • 他のλ3-ハロゲン化合物と比較してλ3-クロランが優れている一方で、λ3-ブロマンやλ3-ヨージンでは本条件下での反応性や収率が低いことが確認されています. この手法はλ3-クロランに特に適していると言えます。
  • すべての種類の求核剤に対して同様に高収率・高選択性が得られるわけではなく、求核剤の種類によっては反応条件の調整や収率の最適化が必要となる可能性があります。

結論

  • 本研究は、環状ジアリールλ3-クロランを用いた初めての配位子カップリング反応を開発しました。
  • これにより、λ3-クロランにおいて競合するベンザイン生成経路を効果的に抑制し、困難であったオルト位への位置選択的官能化をメタルフリー条件下で実現しました。
  • この手法は、二成分および三成分のアプローチで多様な求核剤(アミン、S/N求核剤)に適用可能であり、様々な非対称な2,2'-ビアリール誘導体を高収率・高選択性で提供します。
  • 特に、λ3-クロランは対応するλ3-ブロマンやλ3-ヨージンよりも本反応において優れた性能を示すことが明らかになりました。
  • 本研究は、未開拓であったλ3-クロランの合成化学における重要なブレークスルーであり、新しい分子骨格の構築生物活性化合物の合成に貢献する可能性があります。

将来の展望

            • 非対称λ3-クロランにおける位置選択性のさらなる制御や、他の種類の求核剤への適用拡大が考えられます。
            • この新しい反応性を利用したより複雑な分子の合成への展開も期待されます。


            TAKE HOME QUIZ

            1. この論文が主に焦点を当てている超原子価ハロゲン化合物は何ですか?そして、なぜこの種類の化合物はこれまであまり研究が進んでいなかったのですか?

            2. 環状ジアリールλ3-クロランの反応には、配位子カップリング反応ベンザイン中間体を経由する反応という2つの主要な経路があります。通常、どちらの経路がより容易に進行すると論文では述べられていますか?そして、研究者たちは配位子カップリング反応を優先させるためにどのような戦略を採用しましたか?

            3. 論文では、アミンを求核剤として用いた際に、そのブレンステッド塩基性の強さが反応の選択性に影響を与えることが示されています。塩基性の高いアミンを用いた場合に優先される反応経路は何ですか?そして、それにより分子のどの位置が官能基化されますか?

            4. この配位子カップリング反応を達成するための条件として、論文では金属触媒の有無についてどのように述べていますか?また、同じ反応をλ3-ブロマンやλ3-ヨーダンで行った場合と比較して、λ3-クロランの性能はどうでしたか?

            5. 提案されている配位子カップリング反応のメカニズムは、配位子結合に続く配位子カップリング経路であると論文では結論づけられています。このメカニズムを支持し、ベンザイン機構ラジカル機構ではないことを示すために行われた実験の例を一つ挙げてください。

             解答

            1. この論文が主に焦点を当てている超原子価ハロゲン化合物は環状ジアリールλ3-クロランです。この種類の化合物がこれまであまり研究が進んでいなかった理由として、論文では電気陰性度とイオン化ポテンシャルの高さにより、より高い反応性求核剤捕捉傾向の高さ、そして特にベンザイン中間体の形成傾向が高いことが示唆されています。ベンザイン形成のエネルギー障壁が非常に低く、この競合反応がオルト官能基化を目指す配位子カップリング反応を困難にしていたと考えられます。

            2. 環状ジアリールλ3-クロランの反応には、配位子カップリング反応とベンザイン中間体を経由する反応という2つの主要な経路があります。論文では、通常、ベンザイン中間体を経由する反応がより容易に進行すると述べられています。研究者たちは配位子カップリング反応を優先させるために、ブレンステッド塩基性が非常に低く、同時に強力な求核剤を用いる戦略を採用しました。これにより、競合するベンザイン形成を抑制し、ハイパーバレントハロゲン中心への求核剤の直接的な相互作用を促進することを目指しました。

            3. 論文では、アミンを求核剤として用いた際に、そのブレンステッド塩基性の強さが反応の選択性に影響を与えることが示されています。塩基性の高いアミンを用いた場合に優先される反応経路は、ベンザイン中間体を経由する経路です。それにより、分子のメタ位(3位)が官能基化された生成物が得られます。対照的に、塩基性が低く求核性の高いアミン(またはin situ生成した求核種)を用いると、配位子カップリング経路が優先され、分子のオルト位(2位)が官能基化されます。

            4. この配位子カップリング反応を達成するための条件として、論文では金属触媒は用いない金属フリー条件で行われていると述べています。同じ反応をλ3-ブロマンやλ3-ヨーダンで行った場合と比較して、λ3-クロランは配位子カップリング反応において優れた性能を示しました。具体的には、三成分系反応ではλ3-ブロマンは中程度の収率であったのに対し、λ3-ヨーダンはほとんど反応しませんでした。二成分系反応や第三級アミンを経由する反応でも、λ3-ブロマンは収率が低く、λ3-ヨーダンは不成功でした。

            5. 提案されている配位子カップリング反応のメカニズムが、配位子結合に続く配位子カップリング経路であり、ベンザイン機構やラジカル機構ではないことを示すために行われた実験の例として、以下の点が挙げられます:

              • 立体的にかさ高い弱い求核剤である2,4,6-トリメチルアニリンと反応させた際に、オルトカップリング生成物のみが得られ、ベンザイン機構で予測されるメタ生成物が検出されなかったこと。
              • ラジカル捕捉剤であるTEMPOの存在下でも、目的の配位子カップリング生成物が有意な量で単離されたこと。
              • ベンザイン発生条件下ではトラップ剤との付加物が観測されるのに対し、目的の配位子カップリング反応条件下ではベンザイン付加物が観測されなかったこと。

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