有機典型元素化学では,有機分子と典型元素を組み合わせた化合物や反応を扱う分野です。この有機典型元素化学について解説するにあたり,主に使用する教科書は「Arrow Pushing in Inorganic Chemistry: A Logical Approach to the Chemistry of the Main-Group Elements」です。
有機化学は炭素の化学であり,典型元素化学で核となるのは無機化学であるという印象を持たれている方も多いかもしれません。確かに,無機化学は膨大な数の分子と化学反応で構成されており,その全てを網羅することはかなり難しいでしょう。おそらく,その膨大な情報量と不連続性により,無機化学は暗記の学問であると思われてしまいがちです。しかし,本書では典型元素化学に足して機械的アプローチ、具体的には有機的な矢印の押し込みによってこの状態を変える試みを行っています。具体的には、ルイス構造の中心原子が価電子帯に8個以上の電子を持つ高原子価の化合物でも、矢印の押し込みがうまく機能することが分かります。これまでの無機化学の教科書は教科書というよりも辞典に近いものであるというのが率直な印象でした。一方,有機化学の教科書の多くは,本質的にあらゆる反応に対して利用可能な「求核剤」と「求電子剤」という概念に基づいて,あらゆる反応を反応メカニズムに立ち返って説明しています。このような有機化学において普遍的に用いられる概念を典型元素化学に適用して解説しているのが本書です。
本題に入るにあたり,高原子価についての混乱を避けるために前置きとして以下の左右の構造について解説します。それぞれ,右の多重結合構造が一般的ですが,右の多重結合構造を有機化学的に考えてしまうと,酸素原子と結合している高原子価の原子が電荷的に等価だと誤解し混乱してしまうかもしれません。そこで,本ブログでも教科書同様に明瞭な感覚的な理解を促すために,非現実的な形式電荷の左側の構造で解説しようと思います。(典型元素ガチ勢の人はよりよい方法があれば教えてください)
また,これからその2で話していく内容は,おそらく大学の学部2年生以上の有機化学の知識を前提としていますのであしからず。
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