論文のタイトル: Halogenation-induced C–N bond activation enables the synthesis of 1,2-cis C-aryl furanosides via deaminative cyclization (ハロゲン化誘起C-N結合活性化による1,2-シスC-アリールフラノシドの脱アミノ環化合成)
著者: Wenbo Wang, Jiawei Wu, Kaiyu Jiang, Maochao Zhou, Gang He*
雑誌名: Chemical Science
巻: Volume16, Issue1, 410-417
出版年: 2025
DOI: https://doi.org/10.1039/d4sc07410f
背景
1: 研究の背景
- 1,2-シスC-アリールフラノシドは、天然に存在し、生物活性を示す重要な化合物群です。
- 特に、Streptomyces属によって産生されるギルボカルシンVは、抗腫瘍活性と低い毒性を示します。
- これらの化合物は、創薬化学や全合成において重要なターゲットです。
- 従来の合成法では、複雑な保護操作が必要であり、効率が低いという課題があります。
2: 未解決の問題点と研究の目的
- 1,2-シス配置は、立体電子効果と立体障害により、合成が難しいです。
- 従来の合成法は、保護基の導入と脱離を必要とし、合成経路が長くなりがちです。
- 保護されていないアルドースから、簡便かつ効率的な手法で1,2-シスC-アリールフラノシドを合成すること。
3: 研究の具体的な目的と成果
- ペタシス反応と脱アミノ環化反応を組み合わせた新しい合成法を開発する。
- 複雑な保護操作なしに、1,2-シスC-アリールフラノシドを高い選択性で合成できる手法を確立する。
- この手法は、天然物や生物活性物質の合成に役立つと期待される。
方法
1: 研究デザイン
- ペタシス反応と脱アミノ環化反応を用いた二段階合成法。
- ペタシス反応: 保護されていないアルドースとアリールボロン酸またはボロネートを用いて、1,2-トランス配置のヒドロキシアミンを生成。
- 脱アミノ環化反応: ハロゲン化によりC-N結合を活性化し、分子内SN2反応により1,2-シスC-アリールフラノシドを生成。
2: 主要な評価項目と測定方法
- 主要な評価項目: 1,2-シスC-アリールフラノシドの収率と立体選択性。
- 測定方法:
- 核磁気共鳴 (NMR): 生成物の構造と立体配置を決定
- X線結晶構造解析: 生成物の立体配置を確定
- 反応条件: 反応温度、反応時間、試薬の当量など
結果
1: ペタシス反応の結果
- p-トルイジンまたはインドリンを用いたペタシス反応により、1,2-トランス配置の1-アリールポリヒドロキシアミンを高い選択性で得ました。
- グルコースと4-メチルフェニルトリフルオロボレートを用いた場合、1と2が得られた。
- 反応は、空気雰囲気下で、湿気に対して特に注意する必要なく実施可能
2: 脱アミノ環化反応の結果
- ハロゲン化(NBSまたはNCS使用)により、C-N結合が活性化され、1,2-シスC-アリールフラノシドが生成。
- NBSを用いた場合、85%の収率で3が得られました。
- NCSを用いた場合も、同程度の収率が得られました。
3: 反応機構の検証
- エナンチオ濃縮基質を用いた実験により、分子内SN2反応による立体反転が確認されました。
- ハロゲン化により生成した四級アンモニウム塩が、脱離基として働き、C-N結合の切断を促進。
- オルト位のハロゲン化も、C-N結合の切断を促進している可能性
考察
1: 主要な発見とその意味
- ペタシス反応と脱アミノ環化反応を組み合わせることで、保護されていないアルドースから1,2-シスC-アリールフラノシドを効率的に合成できることを発見。
- ハロゲン化によるC-N結合の活性化が、分子内SN2反応を誘起する鍵であることが判明。
- この手法は、1,2-シスC-アリールフラノシドの合成における新たな戦略となる可能性。
2: 主要な発見の重要性
- 天然物や生物活性物質の合成において、1,2-シスC-アリールフラノシドの合成は重要な課題です。
- この研究で開発された手法は、従来法よりも簡便であり、より幅広い応用が期待されます。
- 医薬品や機能性材料の開発にも貢献する可能性があります。
3: 先行研究との比較
- 従来の合成法は、複雑な保護操作を必要とし、効率が低い。
- 本研究では、保護されていないアルドースを直接使用し、ワンポットでの合成も可能であることが示された。
- 先行研究でも、1,2-シスC-アリールフラノシドの合成例はあるが、本研究の手法はより簡便で汎用性が高い。
4: 反応機構の詳細
- ペタシス反応では、p-トルイジンがアルデヒドと反応してイミンを生成し、同時にC2-OHがアリールボレートを捕捉し、ボロネート錯体を形成。
- 次に、分子内アリール基転移が起こり、1,2-トランス選択的な1-アリールポリヒドロキシアミンが生成。
- ハロゲン化によってアリールアミンが四級アンモニウム塩となり、C-N結合が活性化され、SN2反応が進行。
5: 研究の限界点
- 電子豊富なアレーンを持つ1-アリールポリヒドロキシアミンの場合、SN1反応も起こり、アノマー混合物が得られた。
- マンノース、ラムノース、リキソースを用いた場合、SN2反応で生成する立体配置がSN1反応による異性体も得られた。
- 1,2-cis配置がすべて同じ側にあるため、SN2反応の遷移状態では立体反発が起こる可能性。
結論
- 本研究では、保護されていないアルドースから1,2-シスC-アリールフラノシドを効率的に合成する二段階法を開発。
- ハロゲン化によるC-N結合の活性化が鍵であり、分子内SN2反応を誘起。
- この手法は、広範なアルドースとアリールトリフルオロボレートに適用可能。
将来の展望
- アミン含有基質の選択的な変換への応用も期待される。
TAKE HOME QUIZ
1. 1,2-シスC-アリールフラノシドとは何か?
- (a) アリール基がフラノースのアノマー位に結合し、C2-OHと同じ側にある炭水化物
- (b) アリール基がフラノースのアノマー位に結合し、C2-OHと反対側にある炭水化物
- (c) アリール基がピラノースのアノマー位に結合している炭水化物
- (d) アリール基が炭水化物のどの位置にも結合していない
2. ギルボカルシンVの主な生物活性は?
- (a) 抗生物質活性
- (b) 抗腫瘍活性
- (c) 抗炎症活性
- (d) 抗ウイルス活性
3. 本研究で用いられた二段階合成法は?
- (a) ペタシス反応と脱アミノ環化反応
- (b) フリーデルクラフツ反応とグリコシル化反応
- (c) ウィッティヒ反応とディールスアルダー反応
- (d) 還元反応と酸化反応
4. ペタシス反応で生成する中間体の立体配置は?
- (a) 1,2-シス
- (b) 1,2-トランス
- (c) 1,3-シス
- (d) 1,3-トランス
5. 脱アミノ環化反応でC-N結合を活性化するために使用される試薬は?
- (a) 水素化ホウ素ナトリウム
- (b) N-ブロモスクシンイミド(NBS)またはN-クロロスクシンイミド(NCS)
- (c) リチウムアルミニウムヒドリド
- (d) 過マンガン酸カリウム
6. 脱アミノ環化反応の反応機構は?
- (a) 分子内SN1反応
- (b) 分子内SN2反応
- (c) 分子間SN1反応
- (d) 分子間SN2反応
7. 脱アミノ環化反応で、ハロゲン化によって生成する中間体は?
- (a) カルボカチオン
- (b) カルバニオン
- (c) 四級アンモニウム塩
- (d) ラジカル
解答
- (a)
- (b)
- (a)
- (b)
- (b)
- (b)
- (c)
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