SALC(対称適合線形結合)とは、分子の対称性に従って原子軌道を組み合わせ、分子軌道の基底関数を構築する方法です。点群の既約表現を用いることで、軌道の対称性を明確に分類できます。まず、「SALC」の意味と構築方法を、水分子(H₂O)を例にして解説します。群論の応用の中でもSALCは「分子軌道理論と対称性の橋渡し」となる重要な概念です。
1: SALCとは何か?なぜ必要なのか?
定義:
SALC(Symmetry Adapted Linear Combination)とは、分子の対称性に従って、複数の原子軌道を線形結合して、分子軌道の基底関数を構築する方法です。
なぜ必要?
- 分子軌道(MO)は原子軌道(AO)の組み合わせでできている
- しかし、どのAOが結合できるかは対称性で決まる
- SALCを使えば、群論的に正しい組み合わせを選べる
2: 水分子(H₂O)を例にSALCを構築する
ステップ①:点群の確認
- 水分子はC₂v点群に属する(操作:E, C₂, σv, σv')
ステップ②:関与する原子軌道の選定
- 配位子(水素原子)H₁, H₂の1s軌道を対象とする
- 中心原子(酸素)は後で結合相手として使う
3: SALC構築の手順(水素1s軌道)
ステップ①:各対称操作で軌道がどう変化するかを調べる
原子軌道ベクトル:
- H₁ = φ₁
- H₂ = φ₂
ステップ②:分子の対称性に従った線形結合(SALC)を作る。
線形結合を考える場合、
対称な組み合わせ:
\[ \psi_1 = \phi_1 + \phi_2 \]
反対称な組み合わせ:
\[ \psi_2 = \phi_1 - \phi_2 \]
操作による変化:
| 操作 | φ₁ | φ₂ | φ₁ + φ₂ | φ₁ – φ₂ |
|---|---|---|---|---|
| E | φ₁ | φ₂ | φ₁ + φ₂ | φ₁ – φ₂ |
| C₂ | φ₂ | φ₁ | φ₂ + φ₁ = φ₁ + φ₂ | φ₂ – φ₁ = –(φ₁ – φ₂) |
| σv | φ₂ | φ₁ | φ₂ + φ₁ = φ₁ + φ₂ | φ₂ – φ₁ = –(φ₁ – φ₂) |
| σv' | φ₁ | φ₂ | φ₁ + φ₂ | φ₁ – φ₂ |
→ φ₁ + φ₂ はすべての操作で不変 → A₁表現に属するSALC
→ φ₁ – φ₂ はC₂とσvで符号反転 → B₁表現に属するSALC
4. SALCの意味と使い方
SALC = φ₁ + φ₂(A₁)
- 対称性が高い
- 酸素の2s軌道や2pz軌道(A₁)と結合可能
SALC = φ₁ – φ₂(B₁)
- 左右非対称
- 酸素の2px軌道(B₁)と結合可能
SALCの表現と酸素の軌道の表現が一致するものだけが結合可能!
5. SALCを使った分子軌道構築(MO理論)
| SALC | 酸素軌道 | 結合性 | MOの性質 |
|---|---|---|---|
| φ₁ + φ₂(A₁) | 2s, 2pz(A₁) | 有 | 結合性軌道(σ) |
| φ₁ – φ₂(B₁) | 2px(B₁) | 有 | 結合性軌道(π) |
| φ₁ – φ₂(B₁) | 2s, 2pz(A₁) | 無 | 対称性が合わず非結合 |
このように、SALCを使えば、結合可能な軌道のペアを群論的に判定できる。また、2py(B₂) → SALCに対応する軌道がない → 非結合性軌道として残る。
まとめ:SALCの本質と水分子での応用
| ステップ | 内容 | 群論的意味 |
|---|---|---|
| 原子軌道の選定 | H₁, H₂の1s軌道 | 配位子軌道の基底 |
| 対称操作の適用 | φ₁ + φ₂, φ₁ – φ₂ | 可約表現の構築 |
| SALCの抽出 | A₁, B₁表現に分解 | 既約表現に分類 |
| MO構築 | 酸素軌道と結合 | 対称性が一致するもののみ |
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