2023年2月15日水曜日

Organic Process Research & Development【OPR&D】を深読み 〜その1〜

みなさんはOrganic Process Research & Developmentを読んでいますか?

プロセスケミストになったわけではないけど、昔からOPR&Dから学ぶことが多くて学生時代からよく読んでいたので、みなさんにもOPR&Dを好きになってもらうべくMost Readにあがっている論文や、John Knight先生によって定期的に他誌のプロセス化学者に読んでほしい論文をまとめたSome Items of Interest to Process R&D Chemists and Engineersを深読みしていこうと思います。

それでは本日の論文ですが、筆頭著者&責任著者はスペラファーマ株式会社 製薬研究本部 山田雅俊氏、CMC研究本部 原薬チームのメンバーと国立大学法人東北大学の皆さまと共著した以下の論文です。

Efficient and Scalable Asymmetric Total Synthesis of (−)-Emetine with Pharmaceutical Grade Quality;First Multigram Scale Synthesis

出発物質は安価なhomoveratrylamine(3,4-ジメトキシフェネチルアミン)を用いています。終盤にもう一度出てくるので、驚きました。
Wikipediaによると、3,4-ジメトキシフェネチルアミンの合成は、バニリンかそのメチル化体を出発物質にして、酢酸との縮合反応により増炭した後、二重結合に対して水素添加して、Hofmann転位といったところでしょうか。
他にも、ニトロメタンを使ったHenry反応からの還元による経路もあるそうです。

まずは、homoveratrylamineからの6,7-Dimethoxy-3,4-dihydroisoquinolineの合成ですが、末端アミンのイミン形成からの分子内SEAr反応をワンポットで行っています。余談ですが、校舎の反応はPictet-Spengler反応という名称があるそうです。反応の本質は、Duff反応で用いられる酸性条件下、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)が分解することで生じる求電子性の炭素を反応に用いている点ですね。反応の順序的には、流石に先にDuff反応によるアシル化が起きてはいないと思うのですが、一応計算してHOMOを見ておきました。
試薬を加える手順から考えても、酢酸溶媒中の原料と0.1当量のHMTAに対して氷浴しながら2.3当量のTFAを加えているので、フリーデルクラフツ型の反応を有利にすすめたいなら、HMTAとTFAを加える順序は逆でもいいはずなので。また、TFAに対して、原料のアミノ基による中和に加えて、HMTAが反応したとしても、まだ十分な量のTFAが残っているであろう状態で加熱を始めています。そこへ、残りの0.3当量分のHMTAを3度に分けて加えて、HMTAは全量でも0.4当量しか加えていませんが、精製も含めて最終的に7割近い収率でえているので、これは、HMTAが少なくとも2回は求電子性の炭素を供給していると考えて良さそうです。
1回目は、HMTAのアダマンタン骨格の歪みエネルギーの解消が駆動力になっていそうですが、2回目もやはりビシクロ骨格に取り込まれたヘキサヒドロトリアジンの開環による歪みエネルギーの解消が駆動力ということで良いのでしょうか。。。?それでも分子内にも第一級アミンがいる状況で、分子間反応を優先させるのは難しそうな印象があります。それもあって、常に原料がHMTAの2倍以上は量がある状況を保っているのかも?
流石に3回目ともなると、ヘキサヒドロトリアジン環の分子内で炭素−窒素結合が開裂したとしても、再び分子内のアミンが付加する方が速いと思われますし、原料の濃度は下がっているのに、反応後のHMTAの残骸の濃度は上がってくるので、おそらくこれ意図的に少なめの当量で反応をかけていますね。本文中ではHMTAを過剰に入れると、酸化反応が進行してイソキノリンが生成してしまうと言及されていますね。
これ今は無置換なので炭素−窒素結合が開裂しますが、もしかしてグルコースのときの隣接基関与みたいな感じで、脱離基を導入できれば、上手いことαβの選択性出して面白い分子作れるのでは?とふと思ったり。。。
反応の終盤は、HMTAが炭素源として2度働くのであれば、ブレンステッド酸(BA)を4倍消費した上で、反応後のHMTAの残骸もBAを消費するのであれば、計5倍は消費するので、原料(生成物)の窒素と合わせてブレンステッド酸を3.0当量消費するので、2.3当量のTFAは全て中和されていそうです。反応後は水で希釈して108 molのNaOHを水溶液で加えています。酢酸が98 mol使用されているので、TFAと合わせて116 molのBAが反応混合物にいたので、塩基として働く物質の量は、計23 + 108 molなので、15 molほど塩基が多くなるように加えているようですね。実際、pHも9付近で落ち着くようです。
酢酸エチルで抽出した後、コハク酸を加えて有機塩として6,7-Dimethoxy-3,4-dihydroisoquinolineを単離しているあたりも渋くていいですね。

つづいて、6,7-Dimethoxy-3,4-dihydroisoquinolineの不斉アリル化では、スケールアップの闇が垣間見えていますね。およそ130 gのスケールでうまく行ったので、触媒と配位子の量を更に増やして2 kgのスケールで反応をかけたら収率が激減したので、塩化銅と比較的安い不斉配位子を追加してなんとか進めたというところでしょうか。銅触媒反応は、良い反応が多いのですが、酸素に敏感なので軽い気持ちで当量を減らすと痛い目を見ることがあるのが怖いですね。

末端アリル基の官能基化は、エチルアクリレートとのオレフィンメタセシス反応を泣く子も黙る第2世代グラブス触媒を使って達成していますね。窒素官能基があると、単離の度に有機塩にできるのでいいですね。

Benzoquinolizidine骨格の構築は、tetrahydroisoquinolineの第二級アミンのα,β-不飽和ケトンへのMichael付加と、続く分子内環化によって行っています。このとき、先の単離で塩酸塩にした原料の中和をきっちり1当量のトリエチルアミンで行うことで、重合しやすいメチルビニルケトンを使ったマイケル付加を制御しています。その後の分子内環化ではピロリジンを追加してケトンのα水素を脱プロトンして、反応をワンポットで進行させているのでしょう。

残ったケトンは水素化ホウ素ナトリウムで還元していますが、還元によって生じるアルコールとエステルの分子内での縮合によるラクトン形成と、形成したラクトンの還元も競合してしまうそうです。言われてみれば、さもありなん。。。特に、後処理過程での濃縮が大敵のようです。なので、無水トシル酸を加えてアルコールをトシル保護して、ついでにトシル酸塩として単離しています。賢い。

水添でトシル基を除去した後、エステルの加水分解と、続くピバル酸クロリドとトリエチルアミンを使った活性化を行った後、最初にも出てきたhomoveratrylamineを縮合させてアミドを形成します。ここで、Vilsmeier-Haack反応で有名な塩化ホスホリルを使ったアミドからイミンを形成する手法によって、求電子性の炭素を生じることで、分子内SEAr反応を行っています。Bischler-Napieralski反応という名前があるそうです。

最後は野依不斉水素移動反応によってイミンを還元することで、目的化合物を得ています。

いかがだったでしょうか?
後半は駆け足になってしまいましたが、OPR&Dを深読みするのも学びが多くいいものだと思います。

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