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2025年10月28日火曜日

対称性と電子遷移~その1~水分子を例に「群」を理解する試み

まず、化学における「群」とはなにか。(対称操作の集まり\(^o^)/)


1: 群とは何か?

対称操作の集まり

水分子の対称操作を例に考えると、水分子は折れ線型(V字型)で、以下のような「対称操作」が可能です。

  • E(恒等操作)

何もしない

  • C₂(回転)

分子を180°回転

  • σv(鏡映)

垂直面で反射

  • σv'(別の鏡映)

もう一つの垂直面で反射

これらの操作は「水分子を変えない操作の集まり」であり、を形成します。

「集合」と「演算」の意味から

  • 集合:対象の集まり。例:整数の集合 {…, –2, –1, 0, 1, 2, …}
  • 演算:その集合の要素同士を組み合わせるルール。例:加法(+)

群とは、「集合」と「演算」がセットになって、以下の4つの性質を満たすときに成立します。

  1. 閉包性:演算の結果もその集合に属する
  2. 結合性:演算の順序が変わっても結果は同じ
  3. 単位元の存在:演算しても元の要素が変わらない要素が存在
  4. 逆元の存在:演算して単位元になるような要素が存在
正直言って、この4つの性質、どれをとってもナンノコッチャなんですよね。なので、以下に「水分子の対称操作」と「整数の加法」という2つの例を並列で示すことで、群の4つの性質を1つずつ徹底的に解説します。


2: 閉包性(Closure)

意味:演算の結果が、必ず元の集合の中にあること。

整数の加法の例:

  • 集合:整数(…, –2, –1, 0, 1, 2, …)
  • 演算:加法(+)
  • 検証:1 + 2 = 3 → 3は整数 → OK
    –5 + 7 = 2 → 2も整数 → OK

すなわち、どんな2つの整数を足しても、結果はまた整数になる。だから閉包性あり。

水分子の対称操作の例:

  • 操作:C₂(180°回転)とσv(鏡映)を組み合わせると、σv'になる(\( C_2 \times \sigma_v = \sigma_v' \))
  • σv'も水分子の対称操作の1つ → 閉包性あり

3: 結合性(Associativity)

意味:演算の順序を変えても、結果が変わらないこと。

整数の加法の例:

  • (1 + 2) + 3 = 3 + 3 = 6
  • 1 + (2 + 3) = 1 + 5 = 6
    → 両方とも結果は6 → 結合性あり

水分子の対称操作の例:

  • \( (C_2 \times \sigma_v) \times \sigma_v' = C_2 \times (\sigma_v \times \sigma_v') \) → 結果は同じ操作になる
  • \( E \times (C_2 \times \sigma_v) = (E \times C_2) \times \sigma_v \) → 結果は同じ操作になるので、結合性あり(実際の行列演算でも確認できる)

4: 単位元の存在(Identity Element)

意味:演算しても何も変わらない要素が存在すること。

整数の加法の例:

  • 単位元:0
  • 5 + 0 = 5、–3 + 0 = –3 → 何も変わらない → OK

水分子の対称操作の例:

  • 単位元:E(恒等操作)
  • \( E \times C_2 = C_2, \quad E \times \sigma_v = \sigma_v \) → 何も変わらない → OK

5: 逆元の存在(Inverse Element)

意味:演算して単位元に戻るような要素が存在すること。

    整数の加法の例:

    • 逆元:–x(xの逆)
    • 5 + (–5) = 0 → 単位元(0)に戻る → OK

    水分子の対称操作の例:

    • \( C_2 \times C_2 = E \) → C₂は自分自身が逆元(180°回転を2回すると元に戻る)
    • \( \sigma_v \times \sigma_v = E \) → 鏡映も自分自身が逆元 → OK

    まとめ:群の4つの性質

    性質 意味 例(整数) 例(水分子)
    閉包性
    演算しても
    集合の中にいる
    1 + 2 = 3 \( C_2 \times \sigma_v = \sigma_v' \)
    結合性
    演算の順序を
    変えても同じ
    (1 + 2) + 3
    = 1 + (2 + 3)
    \( (C_2 \times \sigma_v) \times \sigma_v'\)
    \( = C_2 \times (\sigma_v \times \sigma_v') \)
    単位元 何も変えない要素がある x + 0 = x \( E \times C_2 = C_2 \)
    逆元 元に戻す要素がある x + (–x) = 0 \( C_2 \times C_2 = E \)


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