論文のタイトル: A Dendralenic C–H Acid(デンドラレン型C–H酸の開発)
著者: Denis Höfler, Richard Goddard, Nils Nöthling, Benjamin List*
背景
1: 強力なC–H酸への探求
- C–H酸のユニークな利点: 従来のN–H酸やO–H酸に比べ、炭素は原子価が高いため、より多くの電子求引基 (EWG) を導入できる可能性がある。
- 酸性度と電子求引基: 酸性度は、分子に含まれる電子求引基の数に直接相関することが示唆されている。
- 既知の強力なC–H酸:
- トリス(トリフリル)メタン (1) は非常に強力で、BrønstedおよびLewis酸触媒として高い活性を示す。
- 1,1,3,3-テトラトリフリルプロペン (TTP) は、優れた酸性度と触媒活性を持つアリル型C–H酸である。
- さらなる酸性度向上の必要性: これらの強力な酸を超え、さらに多くのEWGを導入できる新しい骨格が求められている。
2: 研究の動機と課題
- 既存C–H酸の構造的限界: 現在知られている最強のC–H酸でも、導入できるEWGの数には限界がある。
- 高共役系への着目: トリエン誘導体やデンドラレン骨格は、より多くのEWGを効率的に配置し、酸性度を最大化する可能性を秘めている。
- 研究のギャップ: これらの高共役骨格を持つC–H酸の合成と特性評価は、まだ十分に研究されていない。
- 本研究の目的: トリエン誘導体の一つであるデンドラレン骨格に着目し、これまでで最も強力なC–H酸の一つとなりうる新規化合物の設計と合成を行うこと。
3: 研究の具体的な目的
- HTBTの設計と合成:
- トリス(ビス(トリフリル)ビニル)メタン (HTBT) という新規なデンドラレン型C–H酸を設計。
- そのアニオン (TBT) は、負電荷が6つのトリフリル基にわたって高度に非局在化し、超強力な酸性度を発揮すると予想される。
- 構造解析による検証: 合成したHTBTおよびその塩の単結晶X線構造解析を行い、提案された構造が正しいことを確認する。
- Brønsted酸触媒能の評価: 合成したHTBTが、実際の有機反応において強力なBrønsted酸触媒として機能するかを評価する。
- アニオンの配位性評価: 生成したTBTアニオンが、弱い配位性アニオン (WCA) として機能するかどうかを、既知のWCAと比較して検証する。
方法
1: 研究デザインと全体のアプローチ
- 研究デザイン: 新規デンドラレン型C–H酸HTBTの多段階合成、構造解析、および触媒機能の評価を組み合わせた実験研究。
- 合成戦略: トリホルミルメタンとビス(トリフリル)メタンのKnoevenagel型縮合反応を鍵反応とする経路を採用した。
- 主要な合成ステップ:
- HTBTのTMP塩 (HTMP·TBT) の合成。
- HTMP·TBTから遊離酸HTBTへの変換。
- HTBTのBrønsted酸触媒能の評価とエーテラート塩への変換。
- 特性評価手法: NMR分光法 (1H, 13C, 19F) と単結晶X線構造解析を主要な評価ツールとして使用した。
- 触媒性能評価: 既知のBrønsted酸触媒反応であるフリーデル・クラフツアシル化反応を用いて、HTBTの触媒活性を評価した。
2: HTMP·TBT塩の合成と初期精製
- 主要反応物: ビス(トリフリル)メタン (6.0当量) とトリホルミルメタン (1.0当量) を出発原料とした。
- 反応条件:
- ジクロロメタン (CH2Cl2) 溶媒中、低温 (-78 °C) から室温で反応させた。
- 無水酢酸 (16当量) とトリメチルオルトアセタート (4.0当量) を添加し、Knoevenagel型縮合を促進した。
- TMP処理: 反応混合物を濃縮後、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン (TMP, 6.0当量) を加えてHTMP·TBT塩を形成させた。
- 精製: 有機溶媒抽出、酸性水溶液での洗浄、および再結晶化を繰り返すことで精製を行い、5.8%の収率でHTMP·TBT塩を得た。
- 構造決定: 得られたHTMP·TBT塩の構造は、1H, 13C, 19F NMRスペクトルと単結晶X線構造解析により確認された。
3: 遊離酸HTBTの合成と安定性評価
- HTBTの生成: HTMP·TBT塩を濃硫酸で処理することにより、遊離のC–H酸であるHTBTを合成した。
- 不安定性の問題: 生成したHTBTは、室温および−25 °Cで安定性が非常に低いことが判明し、分解が観察された。そのため、正確な単離収率を決定することはできなかった。
- 構造解析:
- NMRスペクトルおよび単結晶X線構造解析により、酸性プロトンが中央の炭素原子ではなく、2つのトリフリル基の間に位置することが確認された。
- この結果から、HTBTは交差共役デンドラレン型C–H酸として特徴づけられた。
- 安定性評価: NMR測定を繰り返し行い、HTBTの分解速度を観察したところ、3日後にはほとんどのシグナルが消失していた。
4: Brønsted酸触媒能とアニオンの配位性評価
- 触媒活性の評価: 新鮮に調製したHTBTを、弱反応性のクロロベンゼンとp-フルオロベンゾイルクロリドのフリーデル・クラフツアシル化反応に適用し、そのBrønsted酸触媒能を評価した。
- 触媒使用量は5 mol%とした。
- エーテラート塩の合成: HTBTがエーテルをプロトン化できるかを確認するため、過剰量のジエチルエーテル (Et2O) をHTBTに添加し、エーテラート塩の形成を試みた。
- エーテラート塩の構造解析:
- 得られたエーテラート塩の単結晶X線構造解析を行い、TBTアニオンの構造と、オキソニウムプロトンの配位様式を詳細に分析した。
- この結果を、既知のBArFエーテラート ([B(C6F5)4]−[H(OEt2)2]+) と比較し、TBTアニオンの配位性を評価した。
結果
1: HTMP·TBT塩の合成と構造的特徴
- HTMP·TBTの合成収率: トリホルミルメタンとビス(トリフリル)メタンからの合成により、5.8%の収率でHTMP·TBT塩が得られた。
- 結晶構造解析 (HTMP·TBT):
- HTMPカチオンは、溶媒として導入された水分子と優先的に水素結合を形成した (N…O距離: 2.780(4) Å)。
- TBTアニオンとのN…O距離は2.971(3) Åであり、水分子との距離よりも長かった。
- TBTアニオンは、わずかに非平面なキラル配座をとることが確認された。
- ビニル水素原子とスルホニル酸素原子間の短い接触が、この非平面性の原因である可能性が示唆された。
- 中央炭素原子周りには局所的なC3対称性が見られたが、アニオン全体としてはC3対称性は観察されなかった。
- NMRスペクトル: 1H, 13C, 19F NMRスペクトルにより、合成された化合物の構造が確認された。
2: 遊離酸HTBTの不安定性と触媒活性
- HTBTの単離とプロトン位置:
- HTMP·TBT塩を濃硫酸で処理することで、遊離のC–H酸HTBTが生成された。
- NMRおよび単結晶構造解析により、酸性プロトンは中央炭素原子ではなく、2つのトリフリル基の間に位置し、HTBTが交差共役デンドラレン型C–H酸であることが確認された。
- HTBTの安定性: HTBTは、室温および−25 °Cで非常に不安定であり、経時的な分解が観察された。
- NMRスペクトルでは、3日後にはHTBTに由来するシグナルが消失した。このため、正確な単離収率は決定できなかった。
- Brønsted酸触媒活性:
- HTBTは、クロロベンゼンとp-フルオロベンゾイルクロリドのフリーデル・クラフツアシル化反応においてBrønsted酸触媒として機能した。
- しかし、収率は27%にとどまり、既報の強力なC–H酸TTPが与えた59%の収率と比較して低かった。触媒の分解も観察された。
3: TBTアニオンの配位性と非配位性分類
- エーテラート塩の形成: HTBTを過剰なジエチルエーテルと反応させることで、TBT·H(OEt2)2エーテラート塩が形成された。これはHTBTの強力な酸性度を裏付ける。
- エーテラート塩の結晶構造:
- 単結晶X線構造解析により、TBTアニオンはHTMP·TBT塩と同様に、理想的なC3対称性も平面構造もとらないことが再確認された。
- オキソニウムプロトンは、TBTアニオンのトリフリル酸素原子ではなく、第2のエーテル分子の酸素原子に配位する傾向を示した。
- 非配位性アニオンとの比較:
- エーテラートカチオン中の2つのエーテル酸素原子間の平均距離は2.444 Åであった。
- この距離は、代表的な弱い配位性アニオンであるBArFに基づくエーテラート ([B(C6F5)4]−[H(OEt2)2]+) の酸素原子間距離2.445 Åとほぼ同一であった。
- この類似性から、TBTアニオンはC–H酸に基づく弱い配位性アニオンとして分類できる可能性が強く示唆された。
考察
1: HTBTの設計と構造的特徴に関する考察
- デンドラレン骨格の成功と構造的制約:
- 多くの電子求引基 (トリフリル基) を導入したデンドラレン型C–H酸HTBTの合成に成功し、超強力酸設計の可能性を示した。
- しかし、結晶構造解析により、HTBTの酸性プロトンは中央炭素ではなく2つのトリフリル基間に位置し、TBTアニオンは設計上のC3対称性や平面構造ではなく、非平面なキラル配座をとることが明らかになった。
- 非平面性の原因: この非平面性は、ビニル水素原子とスルホニル酸素原子間の短い接触に起因すると推測される。
- 負電荷の非局在化: TBTアニオンにおける負電荷の6つのトリフリル基への高度な非局在化は、設計通りに実現され、高い酸性度を裏付ける。
2: HTBTの触媒活性と不安定性の課題
- Brønsted酸触媒活性の確認: HTBTは、弱反応性のクロロベンゼンを用いたフリーデル・クラフツアシル化反応を触媒することができ、その強力なBrønsted酸性度を実証した。
- 安定性不足による性能への影響: HTBTの室温および低温での低い安定性は、触媒分解を招き、既報のTTPと比較して低い収率に繋がったと考えられる。
- 実用化への課題: HTBTの不安定性は、触媒としての実用的な応用に向けた最大の課題である。
- 安定性向上の可能性: 分解経路である求核攻撃を防ぐために、非配位性かつ非極性溶媒中での安定性向上が期待されるが、現状ではHTBTを溶解できる適切な溶媒系は見つかっていない。
3: TBTアニオンの非配位性と新しい概念
- エーテルプロトン化による酸性度の証明: HTBTがエーテルをプロトン化しエーテラート塩を形成したことは、その非常に強い酸性度を明確に示している。
- プロトン配位様式の特異性: オキソニウムプロトンがTBTアニオンのトリフリル酸素原子ではなく、第2のエーテル分子の酸素原子に配位するという発見は極めて重要である。これは、TBTアニオンがプロトンに対して非常に弱い配位性を持つことを強く示唆する。
- BArFエーテラートとの類似性: エーテラートカチオン中の酸素原子間距離が、代表的な弱い配位性アニオンであるBArFのエーテラートとほぼ同一であったことは、TBTアニオンがC–H酸に基づく弱い配位性アニオンとして分類できる根拠となる。
- 有機合成への新たな展望: この新しいタイプの非配位性アニオンの発見は、今後の超強力酸触媒やイオン性液体設計において、新たなアニオン骨格の可能性を拓くものである。
4: 先行研究との関連と位置づけ
- 高酸性度C–H酸の基礎: 本研究は、電子求引基の数とC–H酸の酸性度が相関するというこれまでの知見 (例: トリス(トリフリル)メタン、TTP) に基づいており、この概念をさらに高度な骨格で拡張したものである。
- 合成手法の適用: 合成中間体であるトリホルミルメタンは、Yanaiらが開発したビス(トリフリル)メタンとアルデヒドのKnoevenagel型縮合反応を応用して合成された。
- 非配位性アニオン研究との接点: TBTアニオンの弱い配位性を示すためのBArFエーテラートとの比較は、非配位性アニオンに関する既存の広範な研究 (Ref. 12) に直接関連し、C–H酸由来のアニオンがこの分野に貢献しうることを示唆する。
- デンドラレン骨格の応用: フルオレンやジベンゾフルオレンをベースとした炭化水素系C–H酸の研究 (Kuhnら, Ref. 3) と同様に、デンドラレン骨格も強力なC–H酸骨格としての可能性を持つことが示された。
5: 研究の限界点
- HTBTの低安定性: HTBTは室温および低温で非常に不安定であり、分解が速く、単離収率を正確に決定できなかったことが最大の限界点である。これは、触媒としての実用的な利用を大きく制限する。
- 適切な溶媒系の欠如: HTBTを安定的に溶解できる非配位性かつ非極性溶媒が未だ見つかっていない。これにより、安定性向上やさらなる反応性評価が困難となっている。
- 既存触媒に対する性能劣位: フリーデル・クラフツアシル化反応において、HTBTは既報のTTPよりも低い触媒収率しか得られなかった。これは、単に不安定性だけでなく、触媒としての活性サイトの最適化や反応条件の検討が必要であることを示唆している。
- TBTアニオンの非理想的構造: TBTアニオンが、設計目標であった理想的なC3対称性や平面構造をとらなかったこと は、理論と実際とのギャップを示しており、この構造的特性が酸性度や安定性に与える影響について、さらなる詳細な考察が求められる。
結論
- 新規デンドラレン型C–H酸HTBTの合成: 高度にトリフリル基が置換された交差共役デンドラレン型C–H酸HTBTの設計と合成に成功した。
- TBTアニオンの非平面構造: 結晶構造解析により、HTBTおよびそのアニオンTBTが非平面でキラルな配座をとることが明らかになった。
- Brønsted酸触媒活性: HTBTは低い安定性にもかかわらず、フリーデル・クラフツアシル化反応のBrønsted酸触媒として機能することが示された。
- 弱い配位性アニオンとしての可能性: TBTアニオンは、その構造的特徴から、C–H酸に基づく新しいタイプの弱い配位性アニオンとして分類できる可能性が示唆された。
将来の展望
- 超強力酸化学への貢献: 本研究は、高度に共役したデンドラレン骨格が超強力なC–H酸の基礎となりうることを示し、新しい酸性度設計の概念を提示した。
- 新しい非配位性アニオンの創出: TBTアニオンの弱い配位性は、今後の触媒設計やイオン性液体開発において、従来の非配位性アニオンに代わる新たな選択肢を提供する。
- 実践への提言: HTBTの安定性向上のための溶媒系や構造修飾のさらなる探求は不可欠である。
- 将来の研究方向: TBTアニオンの非配位性メカニズムのより詳細な解明と、より広範なBrønsted酸触媒反応への応用可能性の検討が期待される。
用語集
- C–H酸 (C–H Acid): 炭素-水素結合からプロトン (H+) が容易に解離する性質を持つ化合物の総称。
- デンドラレン型C–H酸 (Dendralenic C–H Acid): デンドラレンと呼ばれる分岐状の共役炭化水素骨格を持つC–H酸。
- 電子求引基 (Electron-Withdrawing Group, EWG): 分子内の電子を引き寄せる性質を持つ原子または原子団。分子の酸性度を高める効果がある。
- トリフリル基 (Triflyl Group, Tf): トリフルオロメタンスルホニル基 (–SO2CF3) のこと。非常に強力な電子求引基である。
- Brønsted酸触媒 (Brønsted Acid Catalysis): プロトン (H+) を供与することによって化学反応を促進する触媒作用。
- 交差共役 (Cross-conjugated): 複数の共役系が共通の原子を介して結合しているが、互いに直接共役していない状態。
- 非配位性アニオン (Non-coordinating Anion, NCA): 陽イオンとの相互作用が極めて弱いアニオン。触媒反応などで陽イオンを活性化するために用いられる。
- フリーデル・クラフツアシル化反応 (Friedel–Crafts Acylation): ルイス酸触媒を用いて、芳香族化合物にアシル基を導入する反応。
TAKE HOME QUIZ
- 酸の設計思想 この研究で新しい強酸HTBTを設計するにあたり、研究者たちはどのような考えに基づいていましたか?酸性度を高めるための2つの重要な設計戦略を、ソースに基づいて説明してください。
- HTBTアニオン(TBT⁻)の構造 HTBTからプロトンが脱離して生成するアニオン(TBT⁻)について、結晶構造解析から明らかになった構造的特徴を2つ挙げてください。また、なぜ設計時に期待された平面構造にならなかったと推測されていますか?
- HTBT遊離酸の合成と安定性 HTBTの遊離酸は、どのような手順で合成されましたか?。また、その収率を決定できなかった理由は何ですか?
- 触媒としての性能 HTBTのブレンステッド酸触媒としての活性を調べるために、どのような反応が試されましたか?。また、関連する酸であるTTPと比較して、その結果はどうでしたか?
- 弱配位性アニオンとしての可能性 論文の結論部分で、TBT⁻アニオンが「弱配位性アニオン(weakly coordinating anion)」として分類できる可能性が示唆されています。その最も強力な根拠となった実験結果は何ですか?具体的に説明してください。
解答
1. 酸の設計思想
- 電子求引性基(EWG)の数を増やすこと:炭素原子は窒素や酸素よりも価数が高いため、より多くの電子求引性基を結合させることができます。この研究では、強力な電子求引性基であるトリフリル基(Tf)を可能な限り多く導入することで、酸性度を高めることを目指しました。
- π共役系を拡張し、負電荷を非局在化させること:アリル型のC–H酸であるTTPの骨格をさらに拡張した、デンドラレン型の骨格を採用しました。これにより、脱プロトン化して生成するアニオン(TBT⁻)の負電荷が、6つのトリフリル基にわたって高度に非局在化し、アニオンが安定化されることが期待されました。
2. HTBTアニオン(TBT⁻)の構造
- 非平面(non-planar)でキラリティを持つ立体配座:設計段階では平面構造の可能性が期待されていましたが、実際の結晶構造解析では、TBT⁻アニオンは平面ではなく、わずかにねじれたキラリティを持つ立体配座をとることが明らかになりました。
- C₃対称性の欠如:アニオン全体としてのC₃対称性は観測されませんでした。
平面構造にならなかった理由は、ビニル位の水素原子とスルホニル基の酸素原子との間の立体的な反発(short contacts)によるものと推測されています。
3. HTBT遊離酸の合成と安定性
HTBTの遊離酸は、その塩であるHTMP・TBTを濃硫酸(H₂SO₄)で処理することで合成されました。 収率を決定できなかったのは、HTBTが室温および−25℃において不安定ですぐに分解してしまうためです。
4. 触媒としての性能
触媒活性を調べるため、反応性の低いクロロベンゼンとp-フルオロベンゾイルクロリドを用いたフリーデル・クラフツ アシル化反応に用いられました。 その結果、HTBTは触媒として機能したものの、収率は27%であり、TTPを用いた場合の収率59%よりも低い結果でした。また、HTBTを用いた反応では触媒の分解も観測されました。
5. 弱配位性アニオンとしての可能性
HTBTを過剰のジエチルエーテル(Et₂O)と反応させて得られたエーテラート塩 [TBT]⁻[H(OEt₂)₂]⁺ の結晶構造解析が根拠となります。 この結晶中で、カチオン部分である [H(OEt₂)₂]⁺ の2つのエーテル酸素原子間の距離(平均2.444 Å)が、代表的な弱配位性アニオンであるBArF⁻のエーテラート塩 [B(C₆F₅)₄]⁻[H(OEt₂)₂]⁺ における酸素原子間距離(2.445 Å)とほぼ同一であることがわかりました。この構造的類似性から、TBT⁻アニオンも同様のアニオン配位挙動を示す、すなわち弱配位性アニオンとして分類できると結論付けられました。
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