2025年4月5日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0231~

論文のタイトル: Hyperstable alkenes: are they remarkably unreactive?(超安定アルケン:それらは著しく非反応性なのか?)

著者: HMatthew D. Summersgill, Lawrence R. Gahan, Sharon Chow, Gregory K. Pierens, Paul V. Bernhardt, Elizabeth H. Krenske, and Craig M. Williams*
雑誌名: Chemical Science
巻: Volume15, Issue46, 19299-19306
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1039/d4sc06697a

背景

1: 研究の背景

  • 1980年代初頭、MaierとSchleyerはケージ型二環式アルケン(オレフィン)を「超安定」と提唱。
  • これらのアルケンは、理論的に「著しく非反応性」と予測された。
  • 当時、抗がん剤タキソールのような天然物にもケージ型アルケンが含まれており、二重結合の安定性を理解する重要性があった。
  • 超安定アルケンの定義を明確化する必要性が指摘されていた。

2: 未解決の問題点と研究の目的

  • 理論的に予測された超安定アルケンの合成が困難で、その特性を十分に検証できていなかった。
  • 過去に合成された例はごくわずかであり、予測された安定性と反応性の関係が不明確だった。
  • 本研究の目的は、新たな超安定アルケンを合成し、その反応性を詳細に調査すること。

3: 期待される成果

  • 効率的な合成法を開発し、複数の超安定アルケンを合成する。
  • 合成した超安定アルケンの水素化反応に対する抵抗性を評価する。
  • 様々な酸化剤に対する反応性を調べ、「超安定」の定義を再検討する。
  • 計算化学的アプローチにより、実験結果を裏付け、より深い理解を得る。

方法

1: 

研究デザインの概要
  • Brown–Mattesonホモロゲーション法を最適化し、ケージ型二環式アルケンを合成。
  • ワンポット合成法を用いることで、効率的な合成を実現。
  • 合成したアルケンの特性を評価するために、水素化反応、酸化反応を実施。
  • 密度汎関数理論(DFT)計算を行い、アルケンの安定性と反応性を理論的に検証。

2: 

対象となる化合物と合成
  • シクロオクタジエンを出発物質とし、ボラシクランを中間体として用いて環拡大を行う。
  • ブロモメチルリチウムを反応試薬として使用。
  • ジクロロメチルリチウムを用いて、炭素骨格の形成とホウ素原子の除去。
  • 得られたアルコールを脱水し、対応するアルケンを得る。

3: 

主要な評価項目と測定方法
  • 水素化反応: パラジウム炭素触媒(Pd/C)と白金酸化物触媒(PtO2)を用いて、様々な条件下で水素化反応を実施。
  • 酸化反応: 四酸化オスミウム(OsO4)、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)、ジメチルジオキシラン(DMDO)を用いて酸化反応を実施。
  • 核磁気共鳴分光法(NMR)とガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS): 反応の追跡と生成物の構造決定。
  • X線結晶構造解析: 生成物の結晶構造を決定。

4: 

計算化学的手法
  • M06-2X/def2-TZVPPレベルのDFT計算を用いて、アルケンの安定性と反応性を評価。
  • 水素化の自由エネルギー(ΔGhydrog)を計算し、アルケンの水素化反応に対する耐性を評価。
  • オレフィンひずみエネルギー(OSE)を計算し、水素化エネルギーとの相関性を確認。

結果

1: 

合成された新たな超安定アルケン
  • bicyclo[5.3.3]tridec-1-ene (10)、bicyclo[4.3.3]dodec-1-ene (13)、およびE-bicyclo[4.4.3]tridec-1-ene (6) など、複数の超安定アルケンを合成。
  • bicyclo[4.3.3]dodec-6-ene (25)も合成され、より安定な異性体であることが示された。
  • 合成法は、ワンポットで効率的であることが示された。

2: 

水素化反応の結果
  • 合成された超安定アルケン(10, 6)は、通常の条件下では水素化されなかった
  • より過酷な条件下(PtO2/H2、50 psi)でも水素化への抵抗性を示した。
  • 過去に合成された超安定アルケンと比較して、水素化に対する抵抗性が非常に高いことが判明。
  • bicyclo[4.3.3]dodec-6-ene (25)は、より過酷な条件下で僅かながら水素化された。

3: 

酸化反応の結果
  • 合成された超安定アルケンは、オスミウムテトロキシド(OsO4TMEDAを用いた反応により、対応するオスメートエステルを生成。
  • mCPBAやDMDOを用いて、対応するエポキシドを生成。
  • 超安定アルケンは、酸化反応に対して抵抗性がないことが示された。

考察

1: 

主要な発見
  • 計算化学的結果実験結果が一致し、超安定アルケンの水素化に対する抵抗性が確認。
  • OSEとΔGhydrogの間に線形相関が見られた。
  • 超安定アルケンの「超安定」は、水素化への抵抗性に限定されることが示唆された。

2: 

反応性の考察
  • 超安定アルケンは、酸化反応に対しては通常のアルケンと同様に反応することが判明。
  • 以前の定義である「超安定」は、水素化に対する抵抗性を意味するにすぎないと結論付けられた。
  • これらのアルケンが持つ独特なケージ構造が安定性に寄与していると考えられる。

3: 

先行研究との比較
  • 過去に報告された超安定アルケンの水素化条件と比較して、本研究で合成されたアルケンはより強い抵抗性を示した。
  • 以前の研究における理論的予測と、今回の実験的結果が一致していることが確認された。
  • 天然物においても、ケージ構造を持つアルケンが報告されており、その安定性について理解が深まった。

4: 

研究の限界点
  • 水素化反応のメカニズムについては、異なる触媒や溶媒の影響を考慮する必要がある。
  • 計算化学的アプローチは、熱力学的なエネルギーのみを扱っており、反応の障壁の高さについては言及していない。
  • 実験的に水素化反応の速度を測定するのが困難であり、計算値で代用した。

5: 

反応経路の補足
  • ホモロゲーション反応における環拡大の制御が難しい場合がある。
  • 反応条件によって、過剰ホモロゲーション炭素-ホウ素結合の転位が起こりうる。
  • 脱離反応でアルケンを生成する際に、より安定な異性体に変化することがある。

結論

    • 新たな超安定アルケンの合成に成功し、その特性を詳細に評価した。
    • **「超安定」**という用語は、水素化反応に対する抵抗性に限定されることが明確になった。
    • 酸化反応に対しては、他のアルケンと同様に反応性があることがわかった。
    • 計算化学が、超安定アルケンの安定性と反応性の理解に役立つことが示された。

    将来の展望

          • 今後の研究では、水素化反応のメカニズム他の反応における反応性についてさらに詳細な研究が求められる。

          TAKE HOME QUIZ

          1. 本研究で合成された超安定アルケンが、水素化反応に対して抵抗性を示す主な理由は何ですか?

            • a) 立体障害
            • b) π結合の強さ
            • c) ケージ構造による特別な安定性
            • d) 電子的な安定性
          2. 本研究で使用された主な合成手法は何ですか?

            • a) Grignard反応
            • b) Diels–Alder反応
            • c) Brown–Matteson ホモロゲーション法
            • d) Wittig反応
          3. DFT計算によって評価された、アルケンの安定性を表す指標は何ですか?

            • a) オレフィンひずみエネルギー(OSE)
            • b) 水素化の自由エネルギー(ΔGhydrog
            • c) 分子量
            • d) 沸点

          記述問題

          1. 本研究における「超安定アルケン」の定義を、実験結果に基づいて説明してください。
          2. 本研究で合成された超安定アルケンの中で、特に水素化に対する抵抗性が高いものはどれですか?
          3. 本研究で用いられた「ワンポット合成」とはどのような合成法ですか?

          解答

          選択問題

          1. c
          2. c
          3. b

          記述問題

          1. 本研究では、「超安定アルケン」とは、水素化反応に対して高い抵抗性を持つアルケンと定義されました。以前の研究では、理論的な予測に基づいて「著しく非反応性」とされていましたが、本研究の結果から、酸化反応など他の反応に対しては通常のアルケンと同様に反応することが明らかになりました。したがって、「超安定」という用語は、水素化反応に対する抵抗性を指すに過ぎません。
          2. 本研究で合成された超安定アルケンのうち、特に水素化に対する抵抗性が高いのは、bicyclo[5.3.3]tridec-1-ene (10)とE-bicyclo[4.4.3]tridec-1-ene (6)です。これらのアルケンは、白金酸化物触媒を用いた加圧条件下でも水素化されませんでした。
          3. ワンポット合成とは、反応容器内で複数の反応を連続して行う合成法です。本研究では、シクロオクタジエンから出発し、ボラシクランを経由して超安定アルケンを合成する過程を、一つの容器内で連続して行いました。この手法により、反応中間体を単離する必要がなくなり、効率的な合成が可能になります。


          2025年3月9日日曜日

          Catch Key Points of a Paper ~0230~

          論文のタイトル: Silylium-Ion-Promoted (3 + 2) Annulation of Allenylsilanes with Internal Alkynes Involving a Pentadienyl-to-Allyl Cation Electrocyclization(Silyliumイオンを触媒とするアレニルシランと内部アルキンの(3+2)環化反応:ペンタジエニルからアリルカチオンへの電子環状反応)

          著者: Honghua Zuo, Zheng-Wang Qu,* Sebastian Kemper, Hendrik F. T. Klare, Stefan Grimme, and Martin Oestreich*
          雑誌名: Journal of the American Chemical Society
          巻: Volume146, Issue49, 33611-33620
          出版年: 2024
          DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c09885

          背景

          1: アレニルシランの化学

          • アレニルシランは、有機合成において、プロパルギルアニオン等価体として広く利用されている。
          • 従来、アレニルシランは、ルイス酸や塩基の存在下で、求核付加反応に用いられてきた。
          • Danheiser環化では、アレニルシランが3炭素合成等価体として働き、五員環の構築に利用されてきた。
          • これらの反応は、アレニルシランがルイス酸活性化されたアクセプターに求核付加することから始まる。

          2: 本研究の着想

          • アレニルシランがカルボカチオン中間体に直接求核付加する例は、ほとんど報告されていない。
          • Silyliumイオンによるアルキンの活性化は知られている。
          • 本研究では、Silyliumイオンによって生成したβ-ケイ素安定化ビニルカチオンへのアレニルシランの付加を検討した。
          • この反応において、ケイ素部位がSilyliumイオンとして放出され、触媒サイクルを形成することを目指した。

          3: 研究の目的と意義

          • 本研究の目的は、アレニルシランとアルキンを用いた(3+2)環化反応の開発である。
          • この反応では、アレニルシランが2炭素合成等価体として働き、従来のDanheiser環化とは異なる。
          • この環化反応は、Silyliumイオンによって開始され、自己再生によって触媒サイクルが維持される。
          • ペンタジエニルからアリルカチオンへの電子環状反応が鍵となるステップである。

          方法

          1: 反応条件の最適化

          • モデル基質として、α-メチル置換アレニルシランと内部アルキンを使用した。
          • Silyliumイオン開始剤として、[Me3Si(HCB11H5Br6)] を使用した。
          • ベンゼンなどの極性溶媒が反応に好適であった。
          • アルキンを1.25当量使用した際に、最高の収率が得られた。

          2: 基質範囲の検討

          • メチル基やハロゲンを含む様々なアルキンが許容された。
          • o-トリル基を持つアルキンは、立体障害により収率が低下した。
          • アレニルシランの置換基も変更し、様々なメチレンシクロペンテンが得られた。

          3: 反応機構の解明

          • 重水素標識実験により、アルキンのメチル基が環化反応に関与していることが示された。
          • アレニルシランは、プロパルギルシランに異性化されることがわかった。
          • DFT計算により、反応機構の詳細が明らかになった。

          4: 触媒サイクルの提案

          • Silyliumイオンが触媒として作用し、反応を促進する。
          • 触媒サイクルは、ビニルカチオン中間体の形成から始まる。
          • ヒドリドシフトとそれに続く電子環状反応が重要なステップである。
          • 最終的にSilyliumイオンが再生され、触媒サイクルが完結する。

          結果

          1: (3+2)環化反応の収率

          • 多くの基質で、中程度から良好な収率で目的物が得られた。
          • 反応条件を最適化することにより、最大で74%の収率を達成した。
          • アレニルシランの置換基の種類により、収率に差が見られた。
          • ビスアルキンを用いた場合、両方の部位で環化が進行し、有用な収率で生成物が得られた。

          2: 生成物の構造解析

          • 生成物 3ae の分子構造をX線結晶構造解析により決定した。
          • NMRを用いて生成物の構造と収率を確認した。
          • 重水素標識体3aa-d3の構造を解析した。

          3: 反応機構の理論的考察

          • DFT計算により、反応機構における各ステップのエネルギープロファイルが明らかになった。
          • 最初のSilyliumイオン移動が律速段階であることが示された。
          • ペンタジエニルカチオンからアリルカチオンへの電子環状反応が、非常に容易に進行することが示された。

          考察

          1: (3+2)環化反応のメカニズム

          • 本研究で開発した(3+2)環化反応は、アレニルシランが2炭素合成等価体として働く点が特徴的である。
          • これは、アレニルシランが3炭素合成等価体として働くDanheiser環化とは異なる。
          • β-ケイ素安定化カルボカチオンが反応の中間体として重要な役割を果たす。
          • ヒドリドシフトに続く電子環状反応は、反応を促進する。

          2: 基質範囲と置換基の効果

          • 様々なアルキンとアレニルシランが、この環化反応に適応できることがわかった。
          • 立体障害の大きい置換基は、反応の収率を低下させる可能性がある。
          • アリール基の存在は、ビニルカチオンの形成を促進する。
          • アレニルシランの置換基を調整することで、様々なメチレンシクロペンテンを合成することができる。

          3:  他の環化反応との比較

          • アレニルシランを用いた環化反応は、Danheiser環化が有名である。
          • 本研究では、Silyliumイオンを触媒とし、アレニルシランが2炭素合成等価体として働く新しい環化反応を開発した。
          • 他の環化反応と比較して、独自の反応機構を持つ。

          4: 研究の限界点

          • 非置換のアルキンの反応性は低い。
          • いくつかの基質では収率が低い。
          • Me2PhSi 基を持つアレニルシランは、望ましくない副反応を引き起こす可能性がある。
          • tBuMe2Si 基を持つアレニルシランは、反応を起こさない。

          5: 生成物の変換反応

          • 生成物3aaを様々な変換反応に適用できることが示された。
          • 脱シリル化により、スキップジエン11が得られた。
          • 水素化反応により、シクロペンタン12が得られた。
          • ヒドロホウ素化と酸化により、アルコール14が得られた。
          • ヒドロシリル化とヨウ素化により、化合物16が得られた。

          結論

          • 本研究では、Silyliumイオンを触媒とした(3+2)環化反応を開発した。
          • この反応では、アレニルシランが2炭素合成等価体として働き、ペンタジエニルからアリルカチオンへの電子環状反応が鍵となる。
          • この反応は、幅広い基質に適用可能であり、生成物をさらに他のシクロペンテン誘導体に変換することができる。

          将来の展望

              • 今後の研究では、反応のさらなる最適化触媒の改良適用範囲の拡大を目指す。

              用語集

              • アレニルシラン: アレン構造を持つケイ素化合物。
              • プロパルギルアニオン等価体: プロパルギルアニオンと同様の反応性を持つ化合物。
              • ルイス酸: 電子対受容体として働く化合物。
              • Danheiser環化: アレニルシランを用いた(3+2)環化反応の既知の例。
              • Silyliumイオン: ケイ素カチオン。
              • β-ケイ素安定化ビニルカチオン: ビニルカチオンのβ位にケイ素原子が結合した構造で、安定化される。
              • ペンタジエニルカチオン: 5つの炭素原子からなる共役カチオン。
              • アリルカチオン: アリル基の炭素原子に正電荷を持つカチオン。
              • 電子環状反応: 分子内のπ電子系が環状構造を形成する反応。
              • スキップジエン: 二つの二重結合が単結合で隔てられた構造。
              • ヒドリドシフト: 分子内の水素原子が隣接する原子に移動する反応。

              TAKE HOME QUIZ

              1. この論文で報告されている反応は、どのような種類の反応ですか?

                • a) (2 + 2)環化反応
                • b) (3 + 2)環化反応
                • c) ディールス・アルダー反応
                • d) フリーデル・クラフツ反応
              2. この反応において、アレニルシランはどのような役割を果たしますか?

                • a) 3炭素合成等価体
                • b) 2炭素合成等価体
                • c) 1炭素合成等価体
                • d) 触媒
              3. この反応の開始剤として用いられるものは何ですか?

                • a) ルイス酸
                • b) ブレンステッド酸
                • c) シリルイオン
                • d) 金属触媒
              4. この反応の重要な中間体は何ですか?

                • a) カルボアニオン
                • b) ラジカル
                • c) ペンタジエニルカチオン
                • d) ベンジルカチオン
              5. この反応の触媒サイクルにおいて、シリルイオンはどのように再生されますか?

                • a) 外部からの供給
                • b) 自己再生
                • c) 反応基質との相互作用
                • d) 溶媒との相互作用
              6. この反応で生成される主な生成物は何ですか?

                • a) シクロヘキサン
                • b) メチレンシクロペンテン
                • c) シクロブタン
                • d) オキセタン
              7. この反応は、どのような種類のアルキンに対して有効ですか?

                • a) 内部アルキン
                • b) 末端アルキン
                • c) 脂肪族アルキン
                • d) 全てのアルキン
              8. この反応において、アレニルシランは反応前に何に異性化されますか?

                • a) アリルシラン
                • b) プロパルギルシラン
                • c) ビニルシラン
                • d) アルキルシラン
              9. この反応の重要な段階は、DFT計算によってどのように明らかにされましたか?

                • a) ペンタジエニルカチオンからアリルカチオンへの電気環化が鍵となる
                • b) シリルイオンの転位が鍵となる
                • c) ハイドライドシフトが鍵となる
                • d) アルキンの活性化が鍵となる

              解答

              1. b
              2. b
              3. c
              4. c
              5. b
              6. b
              7. a
              8. b
              9. a

              解説

              • この論文では、アレニルシランと内部アルキンを用いた新しい(3 + 2)環化反応が報告されています。
              • アレニルシランは、反応前にプロパルギルシランに異性化し、その後、2炭素合成等価体として機能します。
              • 反応はシリルイオンによって開始され、触媒サイクルを通して自己再生されます。
              • ペンタジエニルカチオンからアリルカチオンへの電気環化が重要なステップです。
              • 生成物であるメチレンシクロペンテンは、さまざまな官能基化反応を経て、他のシクロペンテン誘導体に変換できます。
              • この反応は、既知のダナイザー環化反応とは異なり、アレニルシランが2炭素合成等価体として機能する点が特徴です。
              • DFT計算によって、反応機構が詳細に解明されています。

              2025年2月10日月曜日

              Catch Key Points of a Paper ~0229~

              論文のタイトル: Direct conversion of esters to imines/enamines and applications to polyester waste upcyclingエステルのイミン/エナミンへの直接変換とポリエステル廃棄物アップサイクルへの応用)

              著者: Rebecca A. Kehner, Weiheng Huang, Liela Bayeh-Romero*
              雑誌名: Chemical Science
              巻: Volume15, 16947
              出版年: 2024
              DOI: https://doi.org/10.1039/D4SC05160B

              背景

              1: 研究の背景

              • エステルのセミ還元変換は、未開発だが重要な官能基変換である。
              • エステルからイミンやエナミンへの直接変換は、ステップ数と酸化還元効率の面で優れた代替手段となる。
              • エステルは安定性が高く、商業的に広く入手可能であるため、この変換は非常に有用である。
              • エステルからアルデヒドへの部分還元は、有機合成で広く求められている変換である。
              • 従来のDIBAL-H還元は、取り扱いに注意が必要で、低温を維持する必要がある。
              • 代替手法として、Weinrebアミド、ローゼンムント還元、福山還元などが用いられる。

              2: 未解決の問題点と研究目的

              • 従来、ジルコノセンヒドリド(ZrH)触媒はエステルをアルコールまで完全還元していた。
              • これまでのZrH試薬の利用では、アルデヒド中間体は観察されなかった
              • 本研究では、ZrH触媒を用いたエステルの部分還元で、イミン、エナミン、アルデヒドを生成する新しい方法を開発する。
              • アミンによるジルコノセンヘミアセタール中間体の捕捉を利用し、アルデヒド酸化レベルを保持する。
              • これにより、エステルから窒素含有化合物への直接変換が可能になる

              3: 研究の具体的な目的と期待される成果

              • ZrH触媒とヒドロシラン、単純な非保護アミンを用いるプロトコルを開発する。
              • 様々なアリール、ベンジル、脂肪族エステルから、高収率でイミン、エナミン、アルデヒドを得る
              • 副生成物であるアルコールへの還元を抑制する。
              • ポリエステルプラスチック廃棄物の直接触媒化学アップサイクルへの応用を示す。
              • 単一フラスコ多成分反応やエステルの還元的アミノ化など、窒素含有生成物の効率的な調製を提示する

              方法

              1: 研究デザインの概説

              • 本研究では、ZrH触媒を用いたエステルのセミ還元変換の新しい手法を開発した。
              • 反応条件の最適化を行い、触媒、還元剤、アミンを調整して、目的の生成物への選択性を高めた
              • 触媒として二塩化ジルコノセン(Cp2ZrCl2)や塩化水素化ジルコノセン(Cp2ZrHCl)を使用し、還元剤としてヒドロシランを用いた。
              • 各種アミンを添加し、イミン、エナミン、アルデヒドの生成を制御した。
              • 反応は窒素雰囲気下、トルエン中で実施した。

              2: 基質の選定基準

              • 様々なエステル(アリール、ベンジル、脂肪族)を基質として使用し、反応の一般性を確認した
              • ポリエステルプラスチック廃棄物(PETボトル、ポリエステル繊維)を試料として使用し、アップサイクルへの応用を検討した。

              3: 主要な評価項目と測定方法

              • 主要な評価項目は、イミン、エナミン、アルデヒドの収率と選択性である。
              • 収率は、内部標準としてメシチレンを用いた核磁気共鳴分光法(1H NMR)により決定した。
              • ポリエステル廃棄物の分解生成物は、同様の方法で定量した。
              • 反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)で追跡した。

              結果

              1: セミ還元的イミン化

              • アリールエステルから、対応するイミンへの直接変換に成功。
              • 触媒としてCp2ZrCl2、還元剤としてDEMS、アミンとしてn-ブチルアミンを用いたとき、82%の収率でイミンが得られた
              • 反応時間を21時間とした場合、収率は91%に向上した。
              • 各種アミンを用いることで、様々なイミン誘導体を合成した。
              • 芳香族エステルは、第一級アミンを用いてイミンに変換し、シンナメートはフェニルヒドラジンを用いてヒドラゾンに変換した。

              2: セミ還元的エナミン化

              • 脂肪族エステルから、対応するエナミンへの直接変換に成功。
              • 触媒としてCp2ZrCl2、還元剤としてDEMS、アミンとしてピペリジンを用いたとき、定量的にエナミンが得られた
              • 触媒量を減らすことで、収率は低下したが、依然として合成的に有用なレベルであった。
              • 各種環状アミンを用いることで、様々なエナミン誘導体を合成した。

              3: アルデヒドへのセミ還元

              • エステルから、対応するアルデヒドへの直接変換に成功。
              • メチル安息香酸エステル、エチル安息香酸エステルから、高収率でベンズアルデヒドが得られた
              • より立体的にかさ高いエステルは、変換率が低くなるか、アミド化が起こった。
              • シンナメートからα,β-不飽和アルデヒドを得ることもできた。
              • 脂肪族アルデヒドも中程度の収率で得られた。

              考察

              1: 主要な発見の解説

              • ZrH触媒を用いることで、エステルからイミン、エナミン、アルデヒドへの選択的なセミ還元が可能となった
              • アミンを添加することで、アルデヒド中間体が捕捉され、目的の生成物への選択性が向上した。
              • この手法は、従来の還元法よりも、より環境に優しいアプローチである。

              2: 主要な発見の重要性

              • この触媒システムは、多様な官能基を持つエステルに対応可能である
              • ポリエステル廃棄物を、有用な化学物質に変換できる可能性を示した。
              • 単一フラスコで、多段階反応を連続的に行うことができ、合成効率が向上する。
              • この触媒反応により、α-アルキル化アルデヒドやアミンにアクセスできるようになる。

              3: 先行研究との比較

              • 従来のZrH触媒を用いたエステル還元は、アルコールへの完全還元が一般的であった。
              • 本研究では、アミン添加による中間体の捕捉により、この問題を解決した
              • 先行研究では、DIBAL-Hなどを用いたセミ還元法が用いられていたが、これらの試薬は危険性や低温での反応が必要であった。
              • 本研究では、より安全で扱いやすい触媒と還元剤を使用している。

              4: 研究の限界点

              • 高温下では、ニトリルの還元が競合的に起こる可能性がある。
              • 立体的にかさ高いエステルは、還元が困難である。
              • 触媒の活性種に関する詳細なメカニズムは、現在研究中である。
              • ジルコニウムの「X」配位子の特定と影響についての研究がまだ進行中である。

              5: 反応メカニズムの仮説

              • 反応メカニズムは、ジルコノセンヘミアセタール中間体を経由すると仮定。
              • この中間体が、外部アミンによって捕捉されることで、イミンまたはエナミンが生成する。
              • あるいは、アルデヒドが生成後、アミンとの反応が継続的な還元よりも早く進行することで、アルデヒドが保護される。
              • 活性触媒には、ZrH錯体(X = Cl)が関与している可能性がある。

              結論

              • ZrH触媒を用いたエステルのセミ還元変換は、新しい触媒的戦略を提供する
              • アミン添加による中間体の捕捉により、高い選択性と収率を実現した。
              • ポリエステル廃棄物の化学的アップサイクルへの応用が可能となる。

              将来の展望

                • 将来の研究では、触媒メカニズムの解明と触媒活性のさらなる向上を目指す。
                • また、より広範な基質への応用と、より効率的な反応系の開発が期待される。

                用語集

                • セミ還元: 部分的な還元反応
                • ジルコノセンヒドリド(ZrH): ジルコニウムを中心とする触媒
                • ヒドロシラン: 還元剤として用いられるケイ素化合物
                • イミン: C=N結合を持つ化合物
                • エナミン: C=C-N結合を持つ化合物
                • DIBAL-H: ジイソブチルアルミニウムヒドリド、還元剤
                • PET: ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルの一種
                • Cp2ZrCl2: 二塩化ジルコノセン
                • Cp2ZrHCl: 塩化水素化ジルコノセン
                • DEMS: ジエトキシ(メチル)シラン
                • PMHS: ポリメチルヒドロシロキサン
                • TMDS: テトラメチルジシロキサン

                TAKE HOME QUIZ

                1. この論文で開発された手法は、どのような変換を可能にするか? * (a) エステルからアルコールへの変換 * (b) エステルからエーテルへの変換 * (c) エステルからイミン/エナミン、アルデヒド、アミンへの変換 * (d) エステルからカルボン酸への変換

                2. エステルからアルデヒドへの直接変換で、従来の有機化学者が最も頻繁に頼る試薬は? * (a) 水素化ホウ素ナトリウム * (b) 水素化ジイソブチルアルミニウム (DIBAL-H) * (c) リチウムアルミニウムヒドリド * (d) パラジウム触媒

                3. この論文で用いられているZrH触媒を用いた場合、これまでの研究ではエステルは何に還元されていたか? * (a) アルデヒド * (b) アルコール * (c) ケトン * (d) アミン

                4. この研究で、ZrH触媒によるエステルの部分還元を可能にした重要な要素は何か? * (a) 水素化ホウ素ナトリウムの使用 * (b) 光照射 * (c) アミンの存在によるヘミアセタール中間体の捕捉 * (d) 高温反応

                解答

                1. (c)
                2. (b)
                3. (b)
                4. (c)


                2025年1月30日木曜日

                Catch Key Points of a Paper ~0228~

                論文のタイトル: Aerobic Ammoxidation of Cyclic Ketones to Dinitrile Products withCopper-Based Catalysts(銅触媒を用いた環状ケトンからジニトリルへの好気的アミノ酸化反応)

                著者: Ziwei Zhao, Zhanrong Zhang,* Qingling Xu,* Shunhan Jia, Ying Wang, Wenli Yuan, Mingyang Liu, Huizhen Liu,* Qinglei Meng, Pei Zhang, Bingfeng Chen, Haijun Yang, and Buxing Han*
                雑誌名: Journal of the American Chemical Society
                巻: Volume147, Issue1, 1155–1161
                出版年: 2024
                DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c14875

                背景

                1: アジポニトリル(ADN)とその重要性

                • ナイロン-6,6は、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、化学的安定性などの優れた特性を持つため、様々な産業で広く使用されています。
                • アジポニトリル (ADN) は、ナイロン-6,6の重要な前駆体であり、世界的な需要が非常に高い物質です。
                • ADNは、ポリアミドや特殊ポリウレタンの製造にも不可欠な原料です。
                • 2021年には、世界の年間ADN生産能力は約200万トンでした。
                • 世界のADN市場は、2023年から2030年まで年平均成長率8.2%で成長すると予測されています。

                2: 従来のADN合成法の課題

                • 従来のADN合成法は、アジピン酸のアンモニア化によるものでしたが、高温での自己環化反応による低選択性と、装置の腐食という大きな欠点がありました。
                • 1970年代初頭にデュポンが開発したブタジエンを原料とする直接シアン化法が、現在では主流ですが、有毒なシアン化水素 (HCN) の使用が課題です。
                • その他、芳香族基質のC-C結合を選択的に切断する酸化法や、ジメチルアジペートのアンモニア化なども研究されていますが、効率や安全性に課題があります。
                • 環状炭化水素基質を用いた開環反応によるADN合成も試みられていますが、収率は高くありません。

                3: 本研究の目的と成果

                • 本研究では、入手が容易で安価なシクロヘキサノンを原料とし、穏やかな条件下で高収率でADNを合成する新しい方法を開発しました。
                • 銅触媒1,10-フェナントロリン配位子を用い、環境に優しい酸素を酸化剤として、水性アンモニアを窒素源とするアミノ酸化反応により、99%以上の収率でADNを合成することに成功しました。
                • この触媒系は、様々な炭素数の環状ケトンや置換基を持つ環状ケトンにも適用可能で、対応するジニトリルを高収率で得ることができました。
                • 本研究は、ナイロン材料産業の発展に新たな基盤を築くものと期待されます。

                方法

                1実験デザインと触媒スクリーニング

                • シクロヘキサノンをジメチルスルホキシド (DMSO) 中で、水性アンモニアと酸素を用いてアミノ酸化反応を行いました。
                • 様々な銅塩を触媒としてスクリーニングした結果、臭化銅 (CuBr) と1,10-フェナントロリン (phen) の組み合わせが最も効果的であることがわかりました。
                • CuBrとphenの組み合わせは、99%以上の収率でADNを生成しました。
                • 他の銅塩(CuCl, CuI, CuBr2など)や遷移金属触媒は、触媒活性が低いか、反応を触媒しませんでした。

                2: 反応条件の最適化

                • 酸素圧を上げると、ADNの収率も上昇し、5気圧で99%以上になりました。
                • CuBrの量を減らすと、収率は低下しました。
                • CuBrとphenの比率も最適化されました。CuBr:phen = 2:1、1:1、1:1.5で99%以上の収率が得られました。
                • Cu:phen比が過剰になると、Cu-3phen複合体が形成され、反応が阻害されることがわかりました。

                3: 反応機構の解明

                • 反応中間体を調べるために、ヘキサナールとヘキサン酸を反応させました。
                • ヘキサナールは対応するニトリルに変換されましたが、ヘキサン酸は反応しませんでした。
                • これにより、アルデヒドが反応中間体として関与していることが示唆されました。
                • ラジカル捕捉剤を用いた実験から、この反応がラジカル経由で進行することが示されました。

                4: ラジカル機構の確認と基質適用範囲の拡大

                • 電子常磁性共鳴 (EPR) スペクトルにより、反応溶液中にラジカルが存在することが確認されました。
                • 具体的には、OH、O2•-、およびORラジカルの関与が示唆されました。
                • この触媒系を、様々な炭素数の環状ケトンや置換基を持つ環状ケトンに適用した結果、対応するジニトリルを良好な収率で得ることができました。
                • シクロヘプタノンでは99%以上、シクロオクタノンでは約82%の収率が得られました。

                結果

                1触媒スクリーニングの結果

                • CuBrとphenの組み合わせが、最も高い触媒活性を示す。
                • 他の銅塩や遷移金属触媒は、触媒活性が低いか、反応を触媒しない。
                • O2、水性アンモニア、そしてphenが反応に不可欠である。
                • DMSOが最適な溶媒であることが判明。

                2: 反応条件の最適化結果

                • 酸素圧を上げると、ADNの収率も上昇する。
                • CuBrの量を減らすと、収率は低下する。
                • CuBrとphenの最適な比率がある
                • Cu:phen比が過剰になると、反応が阻害される

                3: 基質適用範囲と生成物

                • 様々な環状ケトンから対応するジニトリルが高収率で得られた。
                • シクロヘプタノン、シクロオクタノンなど、異なる炭素数の環状ケトンも反応した。
                • 様々な置換基を持つ環状ケトンも、対応するジニトリルに変換された

                考察

                1主要な発見とその意味

                • CuBrと1,10-フェナントロリンの組み合わせが、シクロヘキサノンからADNへの効率的な触媒であること。
                • **穏やかな条件(80℃、5気圧O2)**で、99%以上の高収率でADNが得られること。
                • 本触媒系は、様々な環状ケトンにも適用できる
                • ラジカル機構によって反応が進行していること。

                2: 反応機構の詳細

                • アンモニアが基質と反応してイミン中間体を形成する。
                • Cu(I)種とO2の存在下で、イミンのβ-炭素から水素が引き抜かれる。
                • シクロヘキシルヒドロペルオキシドが形成され、それがO2-と反応してヒドロキシルラジカルを放出する。
                • C-C結合の切断により5-ホルミルバレロニトリルが生成する。
                • さらにアンモニア化され、最終的にADNとなる。

                3: 先行研究との比較

                • 既存のADN合成法と比較して、本研究の触媒系は、より穏やかな条件で、高収率でADNを得ることができる。
                • 従来のシアン化法と異なり、有毒なシアン化水素を使用しない
                • 他の環状ケトンを原料とする研究と比較して、より広い基質範囲に対応できる。
                • 以前の報告では、環状ケトンからADNへの変換には高い温度や貴金属触媒が必要であったが、本研究ではより実用的な条件で達成された.

                4: 研究の限界

                • 本研究で使用した溶媒はDMSOであるため、より環境に優しい溶媒の探索が必要である。
                • 反応機構については、詳細なステップのさらなる解明が必要である。
                • 今回の実験は主にラボスケールで行われたため、工業的なスケールアップの検討が必要である。
                • 触媒の再利用性や耐久性についても、更なる研究が求められる。

                結論

                    • シクロヘキサノンからADNへの新しい合成ルートを確立した。
                    • CuBr/phen触媒系が、穏やかな条件下で、高収率でADNを合成できることを示した。
                    • この触媒系は、様々な環状ケトンからジニトリルを合成するのに有効である。
                    • 本研究は、ADNおよびその他のジニトリル製造のための、コスト効率が高く環境に優しい方法を提供する。

                    将来の展望

                        • 触媒の最適化や反応機構の詳細解明、スケールアップの検討、触媒リサイクルの研究が期待される。

                        用語集

                        • アジポニトリル (ADN): ナイロン-6,6の前駆体となるジニトリル化合物。
                        • アミノ酸化: アミンと酸素を用いた酸化反応。
                        • シクロヘキサノン: 環状ケトンの一種で、本研究の原料。
                        • ジニトリル: 分子内に2つのニトリル基を持つ化合物。
                        • 1,10-フェナントロリン (phen): 銅触媒の配位子として使用される有機化合物。
                        • ラジカル: 不対電子を持つ反応性の高い原子または分子。
                        • EPR: 電子常磁性共鳴の略。ラジカルを検出するために用いられる分光法。
                        • DMSO: ジメチルスルホキシドの略。本研究で使用した溶媒。

                        TAKE HOME QUIZ

                        問題1: この研究で用いられた触媒は何ですか?また、その触媒が特に高い活性を示す理由を説明してください.

                        問題2: アジポニトリル(ADN)の合成において、従来の製法と比較して、この研究で用いられた触媒を用いた場合の主な利点を3つ挙げてください.

                        問題3: この研究で提案された反応機構において重要な役割を果たす3つのラジカル種を挙げてください。また、それぞれのラジカルが反応においてどのように関与するかを説明してください.

                        問題4: 反応において、水が果たす重要な役割について説明してください.

                        問題5: この研究で使用された触媒系の基質適用性について説明してください。どのような種類の化合物が、この触媒系でジニトリルに変換できるか、具体例を挙げて説明してください.

                        問題6: この研究で明らかになった、反応がラジカル機構で進行することを示す実験的証拠を2つ挙げてください.

                        解答のヒント

                        • 問題1: 触媒は臭化銅(CuBr)と1,10-フェナントロリン(phen)の組み合わせです。CuBrは、シクロヘキサノン過酸化物の生成を抑制し、Cu(I)種を安定に保つため、高い活性を示します.
                        • 問題2: 利点としては、高い触媒活性、高い選択性、温和な反応条件などが挙げられます。また、入手容易な原料環境に優しい点も利点です.
                        • 問題3: ヒドロキシルラジカル(OH)、スーパーオキシドラジカル(O2•-)、アルコキシルラジカル(OR)が重要です。それぞれが連鎖反応に関与しています.
                        • 問題4: 水はアルデヒドのカルボン酸への酸化を抑制し、ニトリルへの変換を促進します.
                        • 問題5: この触媒系は、様々な炭素数の環状ケトンや、アルキル鎖を持つ環状ケトンもジニトリルに変換できます。例えば、シクロヘプタノンやシクロオクタノンなどが挙げられます.
                        • 問題6: ラジカル捕捉剤による反応の抑制と、EPRスペクトルによるラジカルの検出が、ラジカル機構の証拠です.

                        2025年1月29日水曜日

                        Catch Key Points of a Paper ~0227~

                        論文のタイトル: Reactivity of the phosphaethynolate anion withstabilized carbocations: mechanistic studies andsynthetic applications(安定化カルボカチオンを用いたホスファエチノラートアニオンの反応性:機構研究と合成応用)

                        著者: Nguyen, Thi Hong Van; Chelli, Saloua; Mallet-Ladeira, Sonia; Breugst, Martin;* Lakhdar, Sami*
                        雑誌名: Chemical Science
                        巻: Volume15, 14406-14414
                        出版年: 2024
                        DOI: https://doi.org/10.1039/d4sc03518f

                        背景

                        1: 研究の背景

                        • 炭素-リン結合形成のための実用的で持続可能な手法の開発は、触媒作用から医薬品化学、材料科学まで幅広い分野で重要である。
                        • 有機リン化合物は、多くの分野で重要な役割を果たしている。
                        • 従来、PCl3が一般的な出発物質であったが、HCl副生成物の問題があったため、代替となるリン前駆体の開発が求められていた。
                        • ホスフィン酸白色リン (P4) がPCl3の代替として注目されている。
                        • ホスファエチノラートアニオン ([OCP]) は、シアネートアニオンのリンアナログとして、新たなリン前駆体として登場した。
                        2研究の課題と目的
                          • [OCP]の合成は以前から報告されていたが、大規模合成の難しさや空気・水分に対する感受性から、その利用は限られていた。
                          • 近年、GrützmacherGoicoecheaの研究グループによって、安定なホスファエチノラートアニオンの効率的な合成法が開発された。
                          • [OCP] は、リン転送剤としての可能性があり、有機リン分子リンベースの遷移金属錯体の合成に有効であることが示されている。
                          • 本研究の目的は、[OCP] の 両性反応性 を理解し、その合成への応用を明らかにすることである。

                          3研究の目的と成果

                          • Mayrの参照求電子剤を用いて、[OCP]求核性を定量的に評価する。
                          • [OCP]と様々な求電子剤との反応機構を解明し、主要な中間体を特定する。
                          • [OCP] を用いた、合成的に有用な有機リン化合物の合成方法を開発する。
                          • 特に、立体的に嵩高い二級ホスフィンオキシドの合成を達成し、それらを鈴木カップリング反応の配位子として利用する。

                          方法

                          1研究デザイン

                          • UV-可視分光法およびレーザーフラッシュ光分解法を用いて、[OCP] とさまざまな Mayrの参照求電子剤 との反応速度を測定した。
                          • 反応速度データと密度汎関数理論 (DFT) 計算を組み合わせ、[OCP] の リン求核性 を定量化した。
                          • 反応生成物の分析から、二級および三級ホスフィンの形成を明らかにした。
                          • 反応機構を詳細に議論し、主要な中間体を単離・特性評価した。
                          2反応条件
                          • ナトリウムホスファエチノラートは、ナトリウム赤リンtBuOHエチレンカーボネートから合成された。
                          • アセトニトリル溶媒中、20℃で反応を実施。
                          • 求電子剤に対して10当量以上の求核剤を使用し、擬一次反応条件で反応を行った。
                          • 15-クラウン-5 の存在下で、対イオンの影響を評価した。
                          • ジオキサンの反応への影響も調べた。
                          3評価項目と測定方法
                          • 反応速度定数は、レーザーフラッシュ光分解法またはUV-可視分光法を用いて決定した。
                          • カルボカチオンは、対応するホスホニウム塩をレーザー照射により生成させた。
                          • 核磁気共鳴 (NMR) 分光法1H, 13C, 31P)を用いて、中間体の構造を決定した。
                          • X線結晶構造解析により、一部の生成物の構造を決定した。
                          4使用した統計手法
                          • 反応速度定数と求電子性の関係を線形回帰で分析。
                          • DFT計算を用いて、反応機構と中間体の構造を解析。
                          • 遷移状態構造を計算し、反応エネルギーを評価。
                          • **RI-DSD-PBEP86-D3(BJ)/def2-QZVPP/SMD(THF)//M06-2X/6-31+G(d,p)/SMD(THF)**レベルの計算を実施。

                          結果

                          1求核性パラメータ

                          • [OCP]求核性パラメータは、N = 19.02、sN = 0.82と決定された。
                          • [OCP] の リン原子 は、シアネートアニオンよりも5桁、チオイソシアネートのN末端よりも10倍反応性が高い。
                          • [OCP] は、カルボジイミドなどの弱い求電子剤とも反応可能である。
                          • 拡散律速により、反応速度が一定の値に制限されていることが判明。
                          2中間体の特性評価
                          • 低温 (−60 °C) で、[OCP]とカルボカチオンとの反応により、双性イオンが生成することを確認。
                          • 双性イオンを加温すると、ホスファケテン付加体が生成することを確認。
                          • DFT計算により、反応経路が明らかになった。
                          • 双性イオンは、熱力学的に安定な生成物であることが示された。
                          3合成応用
                          • 双性イオンNHCカルベンで処理すると、アゾリウムホスファエノラートが定量的に生成した。
                          • 双性イオンを水で処理すると、二級ホスフィンが生成した。
                          • 二級ホスフィンは空気中で酸化されやすく、二級ホスフィンオキシドとして単離した。
                          • 様々な安定化カルボカチオンを用いて、二級ホスフィンおよび二級ホスフィンオキシドを合成した。

                          考察

                          1主要な発見

                          • [OCP]のリン原子が、反応性の高い求核中心であることが明らかになった。
                          • [OCP] と カルボカチオンとの反応中間体として、双性イオンが確認された。
                          • の存在下で、双性イオンから二級ホスフィンが生成することが判明した。
                          • 二級ホスフィンオキシドは、鈴木カップリング反応の配位子として有効であることが示された。
                          2先行研究との比較
                          • Grützmacherらの研究で、ホスファエチノラートアニオンボランとの反応で同様の複合体が形成されることが報告されている。
                          • Slootwegらの研究では、[OCP] と異なる求電子剤との反応で、ビス(シクロプロペニル)ジホスフェタンジオンが生成することが報告されている。
                          • Goicoecheaらの研究で、アシルホスフィンの合成が報告されている。
                          • 本研究では、立体的に嵩高い二級ホスフィンの直接合成を達成した。
                          • Mayrらの研究は、さまざまな求核剤の反応性を評価するための基準を提供。
                          • HSAB理論が、[OCP] の求核性を説明できないことを示す研究がある。
                          • [OCP] の求核性が、シアネートアニオンチオイソシアネートよりも高いことが示された。
                          3研究の限界点
                          • DFT計算で、双性イオンの安定性を過大評価している可能性がある。
                          • 溶媒効果が計算結果に影響を与えている可能性がある。
                          • [OCP] の酸化メカニズムについては、さらなる研究が必要である。
                          • 二級ホスフィンは不安定であり、取り扱いに注意が必要である。

                          結論

                            • 本研究では、[OCP]のリン求核性を実験的に定量化した。
                            • [OCP] は、動力学的および熱力学的に有利に反応することが示された。
                            • 双性イオンなど、反応中間体を特定し、その特性を詳細に評価した。
                            • 立体的に嵩高い二級ホスフィンオキシドの合成を達成し、鈴木カップリング反応における配位子としての有効性を示した。

                            将来の展望

                              • [OCP] を用いた、新しい有機リン化合物の合成法の開発や、触媒反応への応用が期待される。

                              用語集

                              • ホスファエチノラートアニオン ([OCP]): シアネートアニオンのリンアナログ。リン原子が求核中心となる。
                              • Mayrの参照求電子剤: 求電子性を定量化するための基準となる化合物群。
                              • 密度汎関数理論 (DFT): 量子化学計算手法の一つ。電子構造を計算するために使用される。
                              • 双性イオン: 分子内に正と負の両方の電荷を持つ化合物。
                              • NHCカルベン: N-複素環カルベン。有機触媒として使用される化合物。
                              • 二級ホスフィン: リン原子に2つの炭素原子が結合した化合物。
                              • 二級ホスフィンオキシド: 二級ホスフィンのリン原子が酸化された化合物。
                              • 鈴木カップリング反応: 有機ホウ素化合物とハロゲン化アリールまたはハロゲン化ビニルをパラジウム触媒を用いて結合させる反応。
                              • レーザーフラッシュ光分解法: レーザーを用いて光化学反応を起こさせ、その反応速度を測定する手法。
                              • UV-可視分光法: 紫外・可視領域の光の吸収を測定し、化合物の特性を評価する手法。
                              • 核磁気共鳴 (NMR) 分光法: 原子核の磁気的性質を利用して、化合物の構造を決定する手法。
                              • X線結晶構造解析: X線回折を利用して結晶の構造を決定する手法。
                              • 擬一次反応: 反応物の一方の濃度が過剰で、反応速度が他方の濃度のみに依存する反応。

                              TAKE HOME QUIZ

                              質問1: ホスファエチノラートアニオン([OCP]⁻)の分子構造における求核性中心はどこですか? 

                              * (a) 酸素原子のみ * (b) リン原子のみ * (c) 酸素原子とリン原子の両方 * (d) 炭素原子

                              質問2: [OCP]⁻の求核性パラメータ(NsN)を決定するために使用された実験手法は何ですか? 

                              * (a) NMR分光法のみ * (b) 質量分析法のみ * (c) UV-Vis分光法およびレーザーフラッシュ光分解法 * (d) 赤外分光法

                              質問3: [OCP]⁻と求電子剤との反応において、初期に形成される中間体は何ですか? 

                              * (a) ホスフィンオキシド * (b) 双性イオン * (c) ホスファアルキン * (d) ジアニオン

                              質問4: [OCP]⁻の求核性パラメータは、どの原子の求核性を表していますか? 

                              * (a) 酸素原子 * (b) リン原子 * (c) 炭素原子 * (d) 酸素原子とリン原子の両方

                              質問5: [OCP]⁻のリン原子の求核性は、シアネートアニオンと比較してどの程度ですか? 

                              * (a) 約10倍低い * (b) 同程度 * (c) 5桁以上高い * (d) 約2倍高い

                              質問6: [OCP]⁻と安定化されたカルボカチオンとの反応において、水と反応させることで生成されるのは何ですか? 

                              * (a) ホスファケテン * (b) ホスファアルキン * (c) 第二級ホスフィン * (d) 第三級ホスフィン

                              質問7: [OCP]⁻と高反応性カルボカチオンとの反応において、生成物は何ですか? 

                              * (a) 第二級ホスフィンのみ * (b) 第二級ホスフィンと第三級ホスフィンの混合物 * (c) 第三級ホスフィンのみ * (d) ホスファケテン

                              質問8: [OCP]⁻の反応における律速段階で、反応する求核性中心は変化しますか?

                              • (a) 常に酸素原子が反応する
                              • (b) 常にリン原子が反応する
                              • (c) 変化しない(常に同じ求核性中心が反応する)
                              • (d) 反応条件によって変化する

                              質問9: [OCP]⁻と水との反応で、ホスファンカルボン酸が生成する過程において、DFT計算の結果から、どの段階が最もエネルギー障壁が高いですか? 

                              * (a) 水の攻撃 * (b) OCPHの脱離 * (c) 脱炭酸 * (d) プロトン移動

                              解答:

                              1. (c)
                              2. (c)
                              3. (b)
                              4. (b)
                              5. (c)
                              6. (c)
                              7. (b)
                              8. (c)
                              9. (c)

                              解説:

                              • [OCP]⁻の求核性: [OCP]⁻は、酸素原子とリン原子の両方が求核性中心として機能します。ただし、リン原子の方がより求核性が高いことが実験的に確認されています。
                              • 求核性パラメータの決定: UV-Vis分光法およびレーザーフラッシュ光分解法を用いて、様々な求電子剤との反応速度を測定し、メイアの式を用いて求核性パラメータを算出しました。
                              • 反応機構: [OCP]⁻は、まずカルボカチオンなどの求電子剤と反応して双性イオンを形成し、次に、この中間体が水と反応して第二級ホスフィンを生成します。