2025年2月10日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0229~

論文のタイトル: Direct conversion of esters to imines/enamines and applications to polyester waste upcyclingエステルのイミン/エナミンへの直接変換とポリエステル廃棄物アップサイクルへの応用)

著者: Rebecca A. Kehner, Weiheng Huang, Liela Bayeh-Romero*
雑誌名: Chemical Science
巻: Volume15, 16947
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1039/D4SC05160B

背景

1: 研究の背景

  • エステルのセミ還元変換は、未開発だが重要な官能基変換である。
  • エステルからイミンやエナミンへの直接変換は、ステップ数と酸化還元効率の面で優れた代替手段となる。
  • エステルは安定性が高く、商業的に広く入手可能であるため、この変換は非常に有用である。
  • エステルからアルデヒドへの部分還元は、有機合成で広く求められている変換である。
  • 従来のDIBAL-H還元は、取り扱いに注意が必要で、低温を維持する必要がある。
  • 代替手法として、Weinrebアミド、ローゼンムント還元、福山還元などが用いられる。

2: 未解決の問題点と研究目的

  • 従来、ジルコノセンヒドリド(ZrH)触媒はエステルをアルコールまで完全還元していた。
  • これまでのZrH試薬の利用では、アルデヒド中間体は観察されなかった
  • 本研究では、ZrH触媒を用いたエステルの部分還元で、イミン、エナミン、アルデヒドを生成する新しい方法を開発する。
  • アミンによるジルコノセンヘミアセタール中間体の捕捉を利用し、アルデヒド酸化レベルを保持する。
  • これにより、エステルから窒素含有化合物への直接変換が可能になる

3: 研究の具体的な目的と期待される成果

  • ZrH触媒とヒドロシラン、単純な非保護アミンを用いるプロトコルを開発する。
  • 様々なアリール、ベンジル、脂肪族エステルから、高収率でイミン、エナミン、アルデヒドを得る
  • 副生成物であるアルコールへの還元を抑制する。
  • ポリエステルプラスチック廃棄物の直接触媒化学アップサイクルへの応用を示す。
  • 単一フラスコ多成分反応やエステルの還元的アミノ化など、窒素含有生成物の効率的な調製を提示する

方法

1: 研究デザインの概説

  • 本研究では、ZrH触媒を用いたエステルのセミ還元変換の新しい手法を開発した。
  • 反応条件の最適化を行い、触媒、還元剤、アミンを調整して、目的の生成物への選択性を高めた
  • 触媒として二塩化ジルコノセン(Cp2ZrCl2)や塩化水素化ジルコノセン(Cp2ZrHCl)を使用し、還元剤としてヒドロシランを用いた。
  • 各種アミンを添加し、イミン、エナミン、アルデヒドの生成を制御した。
  • 反応は窒素雰囲気下、トルエン中で実施した。

2: 基質の選定基準

  • 様々なエステル(アリール、ベンジル、脂肪族)を基質として使用し、反応の一般性を確認した
  • ポリエステルプラスチック廃棄物(PETボトル、ポリエステル繊維)を試料として使用し、アップサイクルへの応用を検討した。

3: 主要な評価項目と測定方法

  • 主要な評価項目は、イミン、エナミン、アルデヒドの収率と選択性である。
  • 収率は、内部標準としてメシチレンを用いた核磁気共鳴分光法(1H NMR)により決定した。
  • ポリエステル廃棄物の分解生成物は、同様の方法で定量した。
  • 反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)で追跡した。

結果

1: セミ還元的イミン化

  • アリールエステルから、対応するイミンへの直接変換に成功。
  • 触媒としてCp2ZrCl2、還元剤としてDEMS、アミンとしてn-ブチルアミンを用いたとき、82%の収率でイミンが得られた
  • 反応時間を21時間とした場合、収率は91%に向上した。
  • 各種アミンを用いることで、様々なイミン誘導体を合成した。
  • 芳香族エステルは、第一級アミンを用いてイミンに変換し、シンナメートはフェニルヒドラジンを用いてヒドラゾンに変換した。

2: セミ還元的エナミン化

  • 脂肪族エステルから、対応するエナミンへの直接変換に成功。
  • 触媒としてCp2ZrCl2、還元剤としてDEMS、アミンとしてピペリジンを用いたとき、定量的にエナミンが得られた
  • 触媒量を減らすことで、収率は低下したが、依然として合成的に有用なレベルであった。
  • 各種環状アミンを用いることで、様々なエナミン誘導体を合成した。

3: アルデヒドへのセミ還元

  • エステルから、対応するアルデヒドへの直接変換に成功。
  • メチル安息香酸エステル、エチル安息香酸エステルから、高収率でベンズアルデヒドが得られた
  • より立体的にかさ高いエステルは、変換率が低くなるか、アミド化が起こった。
  • シンナメートからα,β-不飽和アルデヒドを得ることもできた。
  • 脂肪族アルデヒドも中程度の収率で得られた。

考察

1: 主要な発見の解説

  • ZrH触媒を用いることで、エステルからイミン、エナミン、アルデヒドへの選択的なセミ還元が可能となった
  • アミンを添加することで、アルデヒド中間体が捕捉され、目的の生成物への選択性が向上した。
  • この手法は、従来の還元法よりも、より環境に優しいアプローチである。

2: 主要な発見の重要性

  • この触媒システムは、多様な官能基を持つエステルに対応可能である
  • ポリエステル廃棄物を、有用な化学物質に変換できる可能性を示した。
  • 単一フラスコで、多段階反応を連続的に行うことができ、合成効率が向上する。
  • この触媒反応により、α-アルキル化アルデヒドやアミンにアクセスできるようになる。

3: 先行研究との比較

  • 従来のZrH触媒を用いたエステル還元は、アルコールへの完全還元が一般的であった。
  • 本研究では、アミン添加による中間体の捕捉により、この問題を解決した
  • 先行研究では、DIBAL-Hなどを用いたセミ還元法が用いられていたが、これらの試薬は危険性や低温での反応が必要であった。
  • 本研究では、より安全で扱いやすい触媒と還元剤を使用している。

4: 研究の限界点

  • 高温下では、ニトリルの還元が競合的に起こる可能性がある。
  • 立体的にかさ高いエステルは、還元が困難である。
  • 触媒の活性種に関する詳細なメカニズムは、現在研究中である。
  • ジルコニウムの「X」配位子の特定と影響についての研究がまだ進行中である。

5: 反応メカニズムの仮説

  • 反応メカニズムは、ジルコノセンヘミアセタール中間体を経由すると仮定。
  • この中間体が、外部アミンによって捕捉されることで、イミンまたはエナミンが生成する。
  • あるいは、アルデヒドが生成後、アミンとの反応が継続的な還元よりも早く進行することで、アルデヒドが保護される。
  • 活性触媒には、ZrH錯体(X = Cl)が関与している可能性がある。

結論

  • ZrH触媒を用いたエステルのセミ還元変換は、新しい触媒的戦略を提供する
  • アミン添加による中間体の捕捉により、高い選択性と収率を実現した。
  • ポリエステル廃棄物の化学的アップサイクルへの応用が可能となる。

将来の展望

    • 将来の研究では、触媒メカニズムの解明と触媒活性のさらなる向上を目指す。
    • また、より広範な基質への応用と、より効率的な反応系の開発が期待される。

    用語集

    • セミ還元: 部分的な還元反応
    • ジルコノセンヒドリド(ZrH): ジルコニウムを中心とする触媒
    • ヒドロシラン: 還元剤として用いられるケイ素化合物
    • イミン: C=N結合を持つ化合物
    • エナミン: C=C-N結合を持つ化合物
    • DIBAL-H: ジイソブチルアルミニウムヒドリド、還元剤
    • PET: ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルの一種
    • Cp2ZrCl2: 二塩化ジルコノセン
    • Cp2ZrHCl: 塩化水素化ジルコノセン
    • DEMS: ジエトキシ(メチル)シラン
    • PMHS: ポリメチルヒドロシロキサン
    • TMDS: テトラメチルジシロキサン

    TAKE HOME QUIZ

    1. この論文で開発された手法は、どのような変換を可能にするか? * (a) エステルからアルコールへの変換 * (b) エステルからエーテルへの変換 * (c) エステルからイミン/エナミン、アルデヒド、アミンへの変換 * (d) エステルからカルボン酸への変換

    2. エステルからアルデヒドへの直接変換で、従来の有機化学者が最も頻繁に頼る試薬は? * (a) 水素化ホウ素ナトリウム * (b) 水素化ジイソブチルアルミニウム (DIBAL-H) * (c) リチウムアルミニウムヒドリド * (d) パラジウム触媒

    3. この論文で用いられているZrH触媒を用いた場合、これまでの研究ではエステルは何に還元されていたか? * (a) アルデヒド * (b) アルコール * (c) ケトン * (d) アミン

    4. この研究で、ZrH触媒によるエステルの部分還元を可能にした重要な要素は何か? * (a) 水素化ホウ素ナトリウムの使用 * (b) 光照射 * (c) アミンの存在によるヘミアセタール中間体の捕捉 * (d) 高温反応

    解答

    1. (c)
    2. (b)
    3. (b)
    4. (c)


    2025年1月30日木曜日

    Catch Key Points of a Paper ~0228~

    論文のタイトル: Aerobic Ammoxidation of Cyclic Ketones to Dinitrile Products withCopper-Based Catalysts(銅触媒を用いた環状ケトンからジニトリルへの好気的アミノ酸化反応)

    著者: Ziwei Zhao, Zhanrong Zhang,* Qingling Xu,* Shunhan Jia, Ying Wang, Wenli Yuan, Mingyang Liu, Huizhen Liu,* Qinglei Meng, Pei Zhang, Bingfeng Chen, Haijun Yang, and Buxing Han*
    雑誌名: Journal of the American Chemical Society
    巻: Volume147, Issue1, 1155–1161
    出版年: 2024
    DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c14875

    背景

    1: アジポニトリル(ADN)とその重要性

    • ナイロン-6,6は、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、化学的安定性などの優れた特性を持つため、様々な産業で広く使用されています。
    • アジポニトリル (ADN) は、ナイロン-6,6の重要な前駆体であり、世界的な需要が非常に高い物質です。
    • ADNは、ポリアミドや特殊ポリウレタンの製造にも不可欠な原料です。
    • 2021年には、世界の年間ADN生産能力は約200万トンでした。
    • 世界のADN市場は、2023年から2030年まで年平均成長率8.2%で成長すると予測されています。

    2: 従来のADN合成法の課題

    • 従来のADN合成法は、アジピン酸のアンモニア化によるものでしたが、高温での自己環化反応による低選択性と、装置の腐食という大きな欠点がありました。
    • 1970年代初頭にデュポンが開発したブタジエンを原料とする直接シアン化法が、現在では主流ですが、有毒なシアン化水素 (HCN) の使用が課題です。
    • その他、芳香族基質のC-C結合を選択的に切断する酸化法や、ジメチルアジペートのアンモニア化なども研究されていますが、効率や安全性に課題があります。
    • 環状炭化水素基質を用いた開環反応によるADN合成も試みられていますが、収率は高くありません。

    3: 本研究の目的と成果

    • 本研究では、入手が容易で安価なシクロヘキサノンを原料とし、穏やかな条件下で高収率でADNを合成する新しい方法を開発しました。
    • 銅触媒1,10-フェナントロリン配位子を用い、環境に優しい酸素を酸化剤として、水性アンモニアを窒素源とするアミノ酸化反応により、99%以上の収率でADNを合成することに成功しました。
    • この触媒系は、様々な炭素数の環状ケトンや置換基を持つ環状ケトンにも適用可能で、対応するジニトリルを高収率で得ることができました。
    • 本研究は、ナイロン材料産業の発展に新たな基盤を築くものと期待されます。

    方法

    1実験デザインと触媒スクリーニング

    • シクロヘキサノンをジメチルスルホキシド (DMSO) 中で、水性アンモニアと酸素を用いてアミノ酸化反応を行いました。
    • 様々な銅塩を触媒としてスクリーニングした結果、臭化銅 (CuBr) と1,10-フェナントロリン (phen) の組み合わせが最も効果的であることがわかりました。
    • CuBrとphenの組み合わせは、99%以上の収率でADNを生成しました。
    • 他の銅塩(CuCl, CuI, CuBr2など)や遷移金属触媒は、触媒活性が低いか、反応を触媒しませんでした。

    2: 反応条件の最適化

    • 酸素圧を上げると、ADNの収率も上昇し、5気圧で99%以上になりました。
    • CuBrの量を減らすと、収率は低下しました。
    • CuBrとphenの比率も最適化されました。CuBr:phen = 2:1、1:1、1:1.5で99%以上の収率が得られました。
    • Cu:phen比が過剰になると、Cu-3phen複合体が形成され、反応が阻害されることがわかりました。

    3: 反応機構の解明

    • 反応中間体を調べるために、ヘキサナールとヘキサン酸を反応させました。
    • ヘキサナールは対応するニトリルに変換されましたが、ヘキサン酸は反応しませんでした。
    • これにより、アルデヒドが反応中間体として関与していることが示唆されました。
    • ラジカル捕捉剤を用いた実験から、この反応がラジカル経由で進行することが示されました。

    4: ラジカル機構の確認と基質適用範囲の拡大

    • 電子常磁性共鳴 (EPR) スペクトルにより、反応溶液中にラジカルが存在することが確認されました。
    • 具体的には、OH、O2•-、およびORラジカルの関与が示唆されました。
    • この触媒系を、様々な炭素数の環状ケトンや置換基を持つ環状ケトンに適用した結果、対応するジニトリルを良好な収率で得ることができました。
    • シクロヘプタノンでは99%以上、シクロオクタノンでは約82%の収率が得られました。

    結果

    1触媒スクリーニングの結果

    • CuBrとphenの組み合わせが、最も高い触媒活性を示す。
    • 他の銅塩や遷移金属触媒は、触媒活性が低いか、反応を触媒しない。
    • O2、水性アンモニア、そしてphenが反応に不可欠である。
    • DMSOが最適な溶媒であることが判明。

    2: 反応条件の最適化結果

    • 酸素圧を上げると、ADNの収率も上昇する。
    • CuBrの量を減らすと、収率は低下する。
    • CuBrとphenの最適な比率がある
    • Cu:phen比が過剰になると、反応が阻害される

    3: 基質適用範囲と生成物

    • 様々な環状ケトンから対応するジニトリルが高収率で得られた。
    • シクロヘプタノン、シクロオクタノンなど、異なる炭素数の環状ケトンも反応した。
    • 様々な置換基を持つ環状ケトンも、対応するジニトリルに変換された

    考察

    1主要な発見とその意味

    • CuBrと1,10-フェナントロリンの組み合わせが、シクロヘキサノンからADNへの効率的な触媒であること。
    • **穏やかな条件(80℃、5気圧O2)**で、99%以上の高収率でADNが得られること。
    • 本触媒系は、様々な環状ケトンにも適用できる
    • ラジカル機構によって反応が進行していること。

    2: 反応機構の詳細

    • アンモニアが基質と反応してイミン中間体を形成する。
    • Cu(I)種とO2の存在下で、イミンのβ-炭素から水素が引き抜かれる。
    • シクロヘキシルヒドロペルオキシドが形成され、それがO2-と反応してヒドロキシルラジカルを放出する。
    • C-C結合の切断により5-ホルミルバレロニトリルが生成する。
    • さらにアンモニア化され、最終的にADNとなる。

    3: 先行研究との比較

    • 既存のADN合成法と比較して、本研究の触媒系は、より穏やかな条件で、高収率でADNを得ることができる。
    • 従来のシアン化法と異なり、有毒なシアン化水素を使用しない
    • 他の環状ケトンを原料とする研究と比較して、より広い基質範囲に対応できる。
    • 以前の報告では、環状ケトンからADNへの変換には高い温度や貴金属触媒が必要であったが、本研究ではより実用的な条件で達成された.

    4: 研究の限界

    • 本研究で使用した溶媒はDMSOであるため、より環境に優しい溶媒の探索が必要である。
    • 反応機構については、詳細なステップのさらなる解明が必要である。
    • 今回の実験は主にラボスケールで行われたため、工業的なスケールアップの検討が必要である。
    • 触媒の再利用性や耐久性についても、更なる研究が求められる。

    結論

        • シクロヘキサノンからADNへの新しい合成ルートを確立した。
        • CuBr/phen触媒系が、穏やかな条件下で、高収率でADNを合成できることを示した。
        • この触媒系は、様々な環状ケトンからジニトリルを合成するのに有効である。
        • 本研究は、ADNおよびその他のジニトリル製造のための、コスト効率が高く環境に優しい方法を提供する。

        将来の展望

            • 触媒の最適化や反応機構の詳細解明、スケールアップの検討、触媒リサイクルの研究が期待される。

            用語集

            • アジポニトリル (ADN): ナイロン-6,6の前駆体となるジニトリル化合物。
            • アミノ酸化: アミンと酸素を用いた酸化反応。
            • シクロヘキサノン: 環状ケトンの一種で、本研究の原料。
            • ジニトリル: 分子内に2つのニトリル基を持つ化合物。
            • 1,10-フェナントロリン (phen): 銅触媒の配位子として使用される有機化合物。
            • ラジカル: 不対電子を持つ反応性の高い原子または分子。
            • EPR: 電子常磁性共鳴の略。ラジカルを検出するために用いられる分光法。
            • DMSO: ジメチルスルホキシドの略。本研究で使用した溶媒。

            TAKE HOME QUIZ

            問題1: この研究で用いられた触媒は何ですか?また、その触媒が特に高い活性を示す理由を説明してください.

            問題2: アジポニトリル(ADN)の合成において、従来の製法と比較して、この研究で用いられた触媒を用いた場合の主な利点を3つ挙げてください.

            問題3: この研究で提案された反応機構において重要な役割を果たす3つのラジカル種を挙げてください。また、それぞれのラジカルが反応においてどのように関与するかを説明してください.

            問題4: 反応において、水が果たす重要な役割について説明してください.

            問題5: この研究で使用された触媒系の基質適用性について説明してください。どのような種類の化合物が、この触媒系でジニトリルに変換できるか、具体例を挙げて説明してください.

            問題6: この研究で明らかになった、反応がラジカル機構で進行することを示す実験的証拠を2つ挙げてください.

            解答のヒント

            • 問題1: 触媒は臭化銅(CuBr)と1,10-フェナントロリン(phen)の組み合わせです。CuBrは、シクロヘキサノン過酸化物の生成を抑制し、Cu(I)種を安定に保つため、高い活性を示します.
            • 問題2: 利点としては、高い触媒活性、高い選択性、温和な反応条件などが挙げられます。また、入手容易な原料環境に優しい点も利点です.
            • 問題3: ヒドロキシルラジカル(OH)、スーパーオキシドラジカル(O2•-)、アルコキシルラジカル(OR)が重要です。それぞれが連鎖反応に関与しています.
            • 問題4: 水はアルデヒドのカルボン酸への酸化を抑制し、ニトリルへの変換を促進します.
            • 問題5: この触媒系は、様々な炭素数の環状ケトンや、アルキル鎖を持つ環状ケトンもジニトリルに変換できます。例えば、シクロヘプタノンやシクロオクタノンなどが挙げられます.
            • 問題6: ラジカル捕捉剤による反応の抑制と、EPRスペクトルによるラジカルの検出が、ラジカル機構の証拠です.

            2025年1月29日水曜日

            Catch Key Points of a Paper ~0227~

            論文のタイトル: Reactivity of the phosphaethynolate anion withstabilized carbocations: mechanistic studies andsynthetic applications(安定化カルボカチオンを用いたホスファエチノラートアニオンの反応性:機構研究と合成応用)

            著者: Nguyen, Thi Hong Van; Chelli, Saloua; Mallet-Ladeira, Sonia; Breugst, Martin;* Lakhdar, Sami*
            雑誌名: Chemical Science
            巻: Volume15, 14406-14414
            出版年: 2024
            DOI: https://doi.org/10.1039/d4sc03518f

            背景

            1: 研究の背景

            • 炭素-リン結合形成のための実用的で持続可能な手法の開発は、触媒作用から医薬品化学、材料科学まで幅広い分野で重要である。
            • 有機リン化合物は、多くの分野で重要な役割を果たしている。
            • 従来、PCl3が一般的な出発物質であったが、HCl副生成物の問題があったため、代替となるリン前駆体の開発が求められていた。
            • ホスフィン酸白色リン (P4) がPCl3の代替として注目されている。
            • ホスファエチノラートアニオン ([OCP]) は、シアネートアニオンのリンアナログとして、新たなリン前駆体として登場した。
            2研究の課題と目的
              • [OCP]の合成は以前から報告されていたが、大規模合成の難しさや空気・水分に対する感受性から、その利用は限られていた。
              • 近年、GrützmacherGoicoecheaの研究グループによって、安定なホスファエチノラートアニオンの効率的な合成法が開発された。
              • [OCP] は、リン転送剤としての可能性があり、有機リン分子リンベースの遷移金属錯体の合成に有効であることが示されている。
              • 本研究の目的は、[OCP] の 両性反応性 を理解し、その合成への応用を明らかにすることである。

              3研究の目的と成果

              • Mayrの参照求電子剤を用いて、[OCP]求核性を定量的に評価する。
              • [OCP]と様々な求電子剤との反応機構を解明し、主要な中間体を特定する。
              • [OCP] を用いた、合成的に有用な有機リン化合物の合成方法を開発する。
              • 特に、立体的に嵩高い二級ホスフィンオキシドの合成を達成し、それらを鈴木カップリング反応の配位子として利用する。

              方法

              1研究デザイン

              • UV-可視分光法およびレーザーフラッシュ光分解法を用いて、[OCP] とさまざまな Mayrの参照求電子剤 との反応速度を測定した。
              • 反応速度データと密度汎関数理論 (DFT) 計算を組み合わせ、[OCP] の リン求核性 を定量化した。
              • 反応生成物の分析から、二級および三級ホスフィンの形成を明らかにした。
              • 反応機構を詳細に議論し、主要な中間体を単離・特性評価した。
              2反応条件
              • ナトリウムホスファエチノラートは、ナトリウム赤リンtBuOHエチレンカーボネートから合成された。
              • アセトニトリル溶媒中、20℃で反応を実施。
              • 求電子剤に対して10当量以上の求核剤を使用し、擬一次反応条件で反応を行った。
              • 15-クラウン-5 の存在下で、対イオンの影響を評価した。
              • ジオキサンの反応への影響も調べた。
              3評価項目と測定方法
              • 反応速度定数は、レーザーフラッシュ光分解法またはUV-可視分光法を用いて決定した。
              • カルボカチオンは、対応するホスホニウム塩をレーザー照射により生成させた。
              • 核磁気共鳴 (NMR) 分光法1H, 13C, 31P)を用いて、中間体の構造を決定した。
              • X線結晶構造解析により、一部の生成物の構造を決定した。
              4使用した統計手法
              • 反応速度定数と求電子性の関係を線形回帰で分析。
              • DFT計算を用いて、反応機構と中間体の構造を解析。
              • 遷移状態構造を計算し、反応エネルギーを評価。
              • **RI-DSD-PBEP86-D3(BJ)/def2-QZVPP/SMD(THF)//M06-2X/6-31+G(d,p)/SMD(THF)**レベルの計算を実施。

              結果

              1求核性パラメータ

              • [OCP]求核性パラメータは、N = 19.02、sN = 0.82と決定された。
              • [OCP] の リン原子 は、シアネートアニオンよりも5桁、チオイソシアネートのN末端よりも10倍反応性が高い。
              • [OCP] は、カルボジイミドなどの弱い求電子剤とも反応可能である。
              • 拡散律速により、反応速度が一定の値に制限されていることが判明。
              2中間体の特性評価
              • 低温 (−60 °C) で、[OCP]とカルボカチオンとの反応により、双性イオンが生成することを確認。
              • 双性イオンを加温すると、ホスファケテン付加体が生成することを確認。
              • DFT計算により、反応経路が明らかになった。
              • 双性イオンは、熱力学的に安定な生成物であることが示された。
              3合成応用
              • 双性イオンNHCカルベンで処理すると、アゾリウムホスファエノラートが定量的に生成した。
              • 双性イオンを水で処理すると、二級ホスフィンが生成した。
              • 二級ホスフィンは空気中で酸化されやすく、二級ホスフィンオキシドとして単離した。
              • 様々な安定化カルボカチオンを用いて、二級ホスフィンおよび二級ホスフィンオキシドを合成した。

              考察

              1主要な発見

              • [OCP]のリン原子が、反応性の高い求核中心であることが明らかになった。
              • [OCP] と カルボカチオンとの反応中間体として、双性イオンが確認された。
              • の存在下で、双性イオンから二級ホスフィンが生成することが判明した。
              • 二級ホスフィンオキシドは、鈴木カップリング反応の配位子として有効であることが示された。
              2先行研究との比較
              • Grützmacherらの研究で、ホスファエチノラートアニオンボランとの反応で同様の複合体が形成されることが報告されている。
              • Slootwegらの研究では、[OCP] と異なる求電子剤との反応で、ビス(シクロプロペニル)ジホスフェタンジオンが生成することが報告されている。
              • Goicoecheaらの研究で、アシルホスフィンの合成が報告されている。
              • 本研究では、立体的に嵩高い二級ホスフィンの直接合成を達成した。
              • Mayrらの研究は、さまざまな求核剤の反応性を評価するための基準を提供。
              • HSAB理論が、[OCP] の求核性を説明できないことを示す研究がある。
              • [OCP] の求核性が、シアネートアニオンチオイソシアネートよりも高いことが示された。
              3研究の限界点
              • DFT計算で、双性イオンの安定性を過大評価している可能性がある。
              • 溶媒効果が計算結果に影響を与えている可能性がある。
              • [OCP] の酸化メカニズムについては、さらなる研究が必要である。
              • 二級ホスフィンは不安定であり、取り扱いに注意が必要である。

              結論

                • 本研究では、[OCP]のリン求核性を実験的に定量化した。
                • [OCP] は、動力学的および熱力学的に有利に反応することが示された。
                • 双性イオンなど、反応中間体を特定し、その特性を詳細に評価した。
                • 立体的に嵩高い二級ホスフィンオキシドの合成を達成し、鈴木カップリング反応における配位子としての有効性を示した。

                将来の展望

                  • [OCP] を用いた、新しい有機リン化合物の合成法の開発や、触媒反応への応用が期待される。

                  用語集

                  • ホスファエチノラートアニオン ([OCP]): シアネートアニオンのリンアナログ。リン原子が求核中心となる。
                  • Mayrの参照求電子剤: 求電子性を定量化するための基準となる化合物群。
                  • 密度汎関数理論 (DFT): 量子化学計算手法の一つ。電子構造を計算するために使用される。
                  • 双性イオン: 分子内に正と負の両方の電荷を持つ化合物。
                  • NHCカルベン: N-複素環カルベン。有機触媒として使用される化合物。
                  • 二級ホスフィン: リン原子に2つの炭素原子が結合した化合物。
                  • 二級ホスフィンオキシド: 二級ホスフィンのリン原子が酸化された化合物。
                  • 鈴木カップリング反応: 有機ホウ素化合物とハロゲン化アリールまたはハロゲン化ビニルをパラジウム触媒を用いて結合させる反応。
                  • レーザーフラッシュ光分解法: レーザーを用いて光化学反応を起こさせ、その反応速度を測定する手法。
                  • UV-可視分光法: 紫外・可視領域の光の吸収を測定し、化合物の特性を評価する手法。
                  • 核磁気共鳴 (NMR) 分光法: 原子核の磁気的性質を利用して、化合物の構造を決定する手法。
                  • X線結晶構造解析: X線回折を利用して結晶の構造を決定する手法。
                  • 擬一次反応: 反応物の一方の濃度が過剰で、反応速度が他方の濃度のみに依存する反応。

                  TAKE HOME QUIZ

                  質問1: ホスファエチノラートアニオン([OCP]⁻)の分子構造における求核性中心はどこですか? 

                  * (a) 酸素原子のみ * (b) リン原子のみ * (c) 酸素原子とリン原子の両方 * (d) 炭素原子

                  質問2: [OCP]⁻の求核性パラメータ(NsN)を決定するために使用された実験手法は何ですか? 

                  * (a) NMR分光法のみ * (b) 質量分析法のみ * (c) UV-Vis分光法およびレーザーフラッシュ光分解法 * (d) 赤外分光法

                  質問3: [OCP]⁻と求電子剤との反応において、初期に形成される中間体は何ですか? 

                  * (a) ホスフィンオキシド * (b) 双性イオン * (c) ホスファアルキン * (d) ジアニオン

                  質問4: [OCP]⁻の求核性パラメータは、どの原子の求核性を表していますか? 

                  * (a) 酸素原子 * (b) リン原子 * (c) 炭素原子 * (d) 酸素原子とリン原子の両方

                  質問5: [OCP]⁻のリン原子の求核性は、シアネートアニオンと比較してどの程度ですか? 

                  * (a) 約10倍低い * (b) 同程度 * (c) 5桁以上高い * (d) 約2倍高い

                  質問6: [OCP]⁻と安定化されたカルボカチオンとの反応において、水と反応させることで生成されるのは何ですか? 

                  * (a) ホスファケテン * (b) ホスファアルキン * (c) 第二級ホスフィン * (d) 第三級ホスフィン

                  質問7: [OCP]⁻と高反応性カルボカチオンとの反応において、生成物は何ですか? 

                  * (a) 第二級ホスフィンのみ * (b) 第二級ホスフィンと第三級ホスフィンの混合物 * (c) 第三級ホスフィンのみ * (d) ホスファケテン

                  質問8: [OCP]⁻の反応における律速段階で、反応する求核性中心は変化しますか?

                  • (a) 常に酸素原子が反応する
                  • (b) 常にリン原子が反応する
                  • (c) 変化しない(常に同じ求核性中心が反応する)
                  • (d) 反応条件によって変化する

                  質問9: [OCP]⁻と水との反応で、ホスファンカルボン酸が生成する過程において、DFT計算の結果から、どの段階が最もエネルギー障壁が高いですか? 

                  * (a) 水の攻撃 * (b) OCPHの脱離 * (c) 脱炭酸 * (d) プロトン移動

                  解答:

                  1. (c)
                  2. (c)
                  3. (b)
                  4. (b)
                  5. (c)
                  6. (c)
                  7. (b)
                  8. (c)
                  9. (c)

                  解説:

                  • [OCP]⁻の求核性: [OCP]⁻は、酸素原子とリン原子の両方が求核性中心として機能します。ただし、リン原子の方がより求核性が高いことが実験的に確認されています。
                  • 求核性パラメータの決定: UV-Vis分光法およびレーザーフラッシュ光分解法を用いて、様々な求電子剤との反応速度を測定し、メイアの式を用いて求核性パラメータを算出しました。
                  • 反応機構: [OCP]⁻は、まずカルボカチオンなどの求電子剤と反応して双性イオンを形成し、次に、この中間体が水と反応して第二級ホスフィンを生成します。

                  2025年1月28日火曜日

                  Catch Key Points of a Paper ~0226~

                  論文のタイトル: State-of-the-art local correlation methods enable affordable gold standard quantum chemistry for up to hundreds of atoms(局所相関法LNO-CCSD(T)による大規模分子系の高精度計算)

                  著者: Péter R. Nagy*
                  雑誌名: Chemical Science
                  巻: Volume15, 14556-14584
                  出版年: 2024
                  DOI: https://doi.org/10.1039/d4sc04755a

                  背景

                  1: 研究の背景

                  • 量子化学計算は、化学反応や分子特性の理解に不可欠。
                  • CCSD(T) 法は、高精度な電子相関計算手法として知られる。
                  • しかし、CCSD(T) 法は計算コストが高く、大規模分子系への適用が困難。
                  • 局所相関法は、計算コストを削減しつつ、CCSD(T) 法の精度を維持するための手法。
                  • 特に、LNO-CCSD(T) 法は、効率性と精度を両立する有望な方法。

                  2: 研究の課題と目的

                  • 従来の局所相関法は、計算精度と効率性のバランスに課題があった。
                  • 大規模分子系への適用には、さらなる効率化が必要とされていた。
                  • 本研究の目的は、LNO-CCSD(T) 法の精度と効率性を検証し、大規模分子系への適用を可能にすること。
                  • 特に、系統的な収束性誤差評価複合計算スキームに焦点を当てる。

                  3: 研究の目的と成果

                  • LNO-CCSD(T) 法のデフォルト設定で、多くの化学的に重要な系で十分な精度が得られることを示す。
                  • 系統的な収束性を利用して、CCSD(T)/CBS (完全基底関数系) 極限に近づくための方法を開発。
                  • LNO近似誤差基底関数系誤差を推定するための堅牢な誤差指標を開発。
                  • 複合スキームを適用し、計算コストを削減しつつ、高精度なCCSD(T)/CBS エネルギーを算出。
                  • 大規模系(最大1000原子)へのLNO-CCSD(T) 法の適用可能性を示す。

                  方法

                  1: 局所相関法

                  • LNO-CCSD(T) 法は、局所分子軌道(LMO)基底を用いる。
                  • LMOペアドメイン近似を適用して、計算コストを削減。
                  • 密度フィッティング(DF)法と自然補助関数(NAF)を導入し、計算を加速。
                  • ペア近似により、相互作用の強いLMOペアのみを高精度に計算。
                  • ドメイン近似により、特定のドメイン内の非占有軌道のみを使用。

                  2: 系統的収束

                  • 基底関数系波動関数モデル局所近似の3軸に沿って系統的な収束を目指す。
                  • X-tuple-z 基底関数系(D, T, Q, 5など)を使用。
                  • MP, CI, CC などの波動関数 Ansatz階層を利用。
                  • LNO 法では、Loose, Normal, Tight, veryTight などの設定で局所近似を系統的に改善。
                  • CBS外挿を用いて、基底関数系の収束を加速。

                  3: 誤差推定と複合スキーム

                  • LAF(局所近似フリー)極限への外挿式を開発し、局所近似誤差を推定。
                  • 複合エネルギー式 (例:ECBS(X,X+1),X N-T LNO-CCSD(T)) を利用し、計算コストを削減。
                  • 高レベルの計算(例:N-T LAF LNO-CCSD(T)/X-z)と低レベルの補正(例:Normal LNO-CCSD(T)/DCBS(X,X+1))を組み合わせる。
                  • 誤差指標を用いて、計算結果の信頼性を評価。

                  結果

                  1: 代表的な例

                  • 酢酸二量体の相互作用エネルギー。
                  • オクタメチルシクロブタン(OMCB)の二量化反応エネルギー。
                  • ハロシクロ化反応の遷移状態(TS)の障壁高さ。
                  • マイケル付加反応のTSの障壁高さ。
                  • これらの例で、LNO-CCSD(T) 法がCBS 極限およびLAF 極限に系統的に収束することを実証。

                  2: 系統的収束

                  • LNO-CCSD(T) 法は、基底関数系局所近似の両方で系統的に収束。
                  • LAF外挿により、LNO誤差をさらに低減。
                  • LNO誤差の推定値は、CCSD(T) の結果を適切にカバー。
                  • 複合スキームにより、CCSD(T)/CBS 極限に近い高精度なエネルギーを効率的に算出。

                  3: 統計的分析

                  • 14のテストセットで、約1000のエントリーについてLNO誤差を評価。
                  • LNOエラーは、ほとんどの場合、0.5 kcal/mol 未満であり、DLPNO よりも小さい。
                  • LNO相関エネルギー誤差は、ほとんどの場合、0.02-0.04% の範囲内。
                  • LNO-CCSD(T) は、化学精度の範囲内でCCSD(T) 結果を再現。
                  • デフォルト設定LNO-CCSD(T) は、多くの系で高い精度を実現。

                  考察

                  1: 主要な発見

                  • LNO-CCSD(T) 法は、大規模分子系に対して、高精度かつ効率的な計算が可能。
                  • 系統的な収束性により、CCSD(T)/CBS 極限へのアプローチが実現。
                  • LAF外挿複合スキームにより、計算コストを削減しつつ、精度を向上。

                  2: 精度の評価

                  • デフォルト設定LNO-CCSD(T) は、多くの系で十分な精度を提供。
                  • 複雑な系では、より厳密な設定が必要となる場合がある。
                  • LNOエラーは、DLPNO よりも一般的に小さい。
                  • LNO-CCSD(T) の相関エネルギー誤差は、非常に小さい。

                  3: 先行研究との比較

                  • LNO-CCSD(T) 法は、他の局所相関法と比較して、優れた精度と効率性を両立。
                  • DLPNO-CCSD(T1) と比較して、同等の精度をより低い計算コストで達成。
                  • 既存のベンチマーク研究でも、LNO-CCSD(T) の高い精度が確認されている。

                  4: 研究の限界

                  • 大規模なπ系複雑な相互作用を持つ系では、局所近似誤差が大きくなる可能性がある。
                  • 基底関数系の不完全性も、精度に影響を与える可能性がある。
                  • 一部の系では、多参照性が問題となる可能性がある。
                  • 遷移金属錯体の計算には、注意が必要。
                  • LNO 法は、開殻系への適用において、計算コストがやや増加する。

                  結論

                  • LNO-CCSD(T) 法は、大規模分子系の高精度計算を可能にする強力なツールである。
                  • 系統的な収束性誤差評価複合スキームにより、信頼性の高い結果を効率的に得られる。

                  将来の展望

                  • 多参照系遷移金属錯体への適用をさらに検証する。
                  • LNO-CCSD(T) 法は、触媒反応生化学材料科学など、さまざまな分野での応用が期待される。
                  • LNO-CCSD(T) 法のオープンソース実装は、研究コミュニティへの貢献となる。

                  用語集

                  • CCSD(T): Coupled Cluster Singles and Doubles with perturbative Triples. 電子相関を考慮した高精度な量子化学計算手法。
                  • LNO-CCSD(T): Local Natural Orbital Coupled Cluster Singles and Doubles with perturbative Triples. 局所自然軌道を用いたCCSD(T)法。
                  • CBS: Complete Basis Set. 完全基底関数系。
                  • LAF: Local Approximation Free. 局所近似フリー。
                  • LMO: Localized Molecular Orbital. 局所分子軌道。
                  • MP2: Second-order Møller-Plesset perturbation theory. 2次のメラープレセット摂動法。
                  • DF: Density Fitting. 密度フィッティング法。
                  • NAF: Natural Auxiliary Functions. 自然補助関数。
                  • BSSE: Basis Set Superposition Error. 基底関数系の重ね合わせ誤差。
                  • FCI: Full Configuration Interaction. 完全配置間相互作用。
                  • DFT: Density Functional Theory. 密度汎関数理論。

                  TAKE HOME QUIZ

                  問題1: LNO-CCSD(T)法とは、どのような量子化学計算手法ですか? (a) 密度汎関数理論(DFT)に基づく手法 (b) 局所電子相関法に基づく、 coupled cluster (CC) 法の一種 (c) 分子力学(MM)法に基づく手法 (d) 半経験的分子軌道法

                  解答: (b)

                  解説: LNOは、**Local Natural Orbitals(局所自然軌道)**の略です。この軌道を用いることで、計算の効率化を図っています。LNO-CCSD(T)法は、局所相関の概念を取り入れた電子相関法であり、特にCCSD(T)法を基にしています。これにより、大規模分子系でも高精度な計算が可能となります。LNO-CCSD(T)法の最大の利点は、数百原子規模の分子に対して、化学精度(1 kcal mol−1以下の誤差)で計算できることです。また、従来のCCSD(T)法と比較して、計算コストを大幅に削減できます。

                  問題2: LNO-CCSD(T)法は、どのような近似を用いて計算コストを削減していますか? (a) 波動関数の完全性を制限する (b) 分子軌道空間の局所性を利用する、自然軌道近似、ペア近似、ドメイン近似 (c) 積分計算を完全に省略する (d) 計算結果を実験値で補正する

                  解答: (b)

                  解説: LNO-CCSD(T)法は、局所相関の概念に基づいて、分子軌道空間の局所性を利用し、自然軌道近似 (NO)ペア近似ドメイン近似を導入して計算コストを削減しています。

                  問題3: LNO-CCSD(T)法における系統的収束とは、何を指しますか? (a) 計算時間が短縮されること (b) 常に化学精度の結果が得られること (c) 局所近似、基底関数、およびCC励起レベルのそれぞれで、近似の度合いを徐々に小さくしていくこと (d) 計算結果が実験値に近づくこと

                  解答: (c)

                  解説: 系統的収束とは、局所近似の設定(Loose, Normal, Tightなど)、基底関数(二重ゼータ、三重ゼータなど)、およびCC励起レベル(CCSD, CCSD(T)など)を段階的に改善することで、計算結果をより正確な値に近づけていくことを指します。

                  問題4: LNO-CCSD(T)法の計算結果の信頼性を評価するために、どのような方法が用いられますか? (a) 結果を実験値と比較する (b) 他の計算方法の結果と比較する (c) 局所近似設定を変えて収束性を確認する、基底関数系の系統的な収束、LAF極限への外挿 (d) 計算結果が物理的に妥当か確認する

                  解答: (c)

                  解説: LNO-CCSD(T)法の信頼性評価には、局所近似設定を変化させて結果の収束性を確認したり、基底関数系を系統的に大きくしたりすることが重要です。また、LAF(Local Approximation Free)極限への外挿も信頼性向上に役立ちます。

                  問題5: LNO-CCSD(T)法を用いた大規模計算において、どのようなハードウェアリソースが必要ですか? (a) スーパーコンピュータのみ (b) 一般的な計算機クラスタでも可能、数十~数百GBのメモリと数日間の計算時間 (c) 量子コンピュータのみ (d) 特殊なグラフィックボード

                  解答: (b)

                  解説: LNO-CCSD(T)法は、一般的な計算機クラスタで実行できます。必要なメモリは数十~数百GB、計算時間は数日程度です。これにより、多くの研究者が比較的容易に高精度な計算を実行できるようになりました。

                  問題6: LNO-CCSD(T)法とDLPNO-CCSD(T)法の主な違いは何ですか? (a) LNOはDFT法に基づくが、DLPNOはCC法に基づく (b) LNOは局所軌道に特化した自然軌道(LNO)を、DLPNOは軌道ペアに特化した自然軌道(PNO)を利用する (c) LNOは大規模計算に特化しているが、DLPNOは小規模計算に特化している (d) LNOは常にDLPNOよりも正確である

                  解答: (b)

                  解説: LNO-CCSD(T)法とDLPNO-CCSD(T)法の主な違いは、自然軌道の構築方法にあります。LNO法は、各局所軌道に特化した自然軌道を構築するのに対し、DLPNO法は軌道ペアごとに特化した**ペア自然軌道(PNO)**を構築します。一般的に、LNO-CCSD(T)はDLPNO-CCSD(T)より大規模計算でより高い効率と精度を発揮するとされています。

                  2025年1月27日月曜日

                  Catch Key Points of a Paper ~0225~

                  論文のタイトル: π-Bond Dissociation Energies: C–C, C–N, and C–O(π結合解離エネルギー:C-C、C-N、およびC-O)

                  著者: Steven R. Kass*
                  雑誌名: The Journal of Organic Chemistry 
                  巻: Volume 89, Issue20, 15158–15163
                  出版年: 2024
                  DOI: https://doi.org/10.1021/acs.joc.4c01925

                  背景

                  1: 研究の背景

                  • 単結合、二重結合、三重結合の解離エネルギーは重要な指標である。
                  • 特にσ結合の解離エネルギーは広く研究され、教科書にも記載されている。
                  • しかし、π結合のエネルギーは直接測定が困難であり、学生や研究者はその決定方法や代表的な値に不慣れである。
                  • この論文では、π結合のエネルギーの決定方法を説明し、代表的な値を示すことを目的とする。

                  2: 未解決の問題点と研究の目的

                  • π結合の強度はσ結合より弱いと教わるが、具体的な値や測定方法があまり知られていない。
                  • π結合の解離は分子フラグメントを生成しないため、直接的な測定が困難である。
                  • 本研究の目的は、π結合エネルギーの決定方法を解説し、C-C、C-N、C-O結合の代表的な値を示すことである。
                  • また、水素化熱とπ結合強度との関係についても議論する。

                  3: 研究の具体的な目的と期待される成果

                  • π結合エネルギーの定義を明確化し、回転障壁やBensonの方法を用いた計算方法を示す。
                  • Active Thermochemical Tables (ATcT)データベースや高レベル計算手法(Gaussian-3 (G3)とWeizmann-1 (W1))を用いて、π結合エネルギーを算出する。
                  • C-C, C-N, C-O のπ結合エネルギーの代表的な値を提示することで、読者の理解を深める。
                  • π結合強度と水素化熱の関係を明らかにする。

                  方法

                  1: 研究デザイン

                  • 本研究は、実験データと計算データに基づいてπ結合エネルギーを決定する。
                  • Bensonの定義に基づいて、連続するH-X結合の解離エネルギーの差からπ結合エネルギーを算出する。
                  • 対称化合物だけでなく非対称化合物のπ結合エネルギーも考慮する。

                  2: データ収集方法

                  • ATcTデータベースから熱力学的データ(結合解離エネルギー、生成熱)を取得する。
                  • Gaussian 3 (G3) と Weizmann-1 (W1) 計算手法を用いて、π結合エネルギーを計算する。
                  • G3とW1の計算値は良好な一致を示し、W1の値を主に提示する。

                  3: 評価項目と測定方法

                  • π結合エネルギー (Eπ):二重結合または三重結合におけるπ結合の強度を測定する。
                  • 結合解離エネルギー (BDE):共有結合をホモリシス切断するのに必要なエネルギーを測定する。
                  • 水素化熱 (ΔH°Hd2):水素化反応で放出される熱エネルギーを測定する。

                  結果

                  1: C-C π結合エネルギー

                  • エテンのC=C π結合エネルギーは、回転障壁から約65 kcal mol-1と決定された。
                  • Bensonの方法からも65.2 kcal mol-1が得られ、W1計算値(65.4 kcal mol-1)とも一致する。
                  • エチンのC≡C π結合エネルギーは75.0 kcal mol-1であり、エテンより強い。

                  2: C-N π結合エネルギー

                  • メタンイミンのC=N π結合エネルギーは約62 kcal mol-1であり、エテンよりわずかに弱い。
                  • シアン化水素(HCN)のC≡N π結合エネルギーは70.0 kcal mol-1であり、エチンに類似する。

                  3: C-O π結合エネルギー

                  • カルボニル結合(C=O)のπ結合エネルギーはC-CやC-N結合よりも大幅に強く、ホルムアルデヒド(CH2O)で75.3 kcal mol-1である。
                  • **カルボニル炭素の電荷(qC)**とπ結合エネルギーの間には直線的な相関がある。

                  考察

                  1: 主要な発見

                  • C-CとC-Nのπ結合エネルギーは類似しているが、C-O π結合は大幅に強い
                  • カルボニルのπ結合エネルギーは、置換基の電子効果によって大きく変化する
                  • π結合の強さと水素化熱は必ずしも相関しない
                  • エチンのπ結合はエテンより強いが、水素化熱は大きい。これは、生成するC-H結合の強さの違いによる。
                  • 二重結合のπ結合エネルギーは、二つのπ結合の平均値で決定される
                  • 1,2-プロパジエンのπ結合エネルギーは、共鳴安定化のためにエテンより弱い。

                  2: 先行研究との比較

                  • 以前の研究でも、π結合の強度が議論されており、本研究の結果はそれらを支持する。
                  • 回転障壁を用いた方法とBensonの方法は、同様のπ結合エネルギーを与える。
                  • 分子軌道理論は、1,3-ブタジエンのπ結合が弱いことを説明する。

                  3: 研究の限界点

                  • 本研究で示したπ結合エネルギーは、特定の定義(Bensonの方法)に基づいている
                  • 非対称化合物のπ結合エネルギーの決定には、複数の経路が存在する可能性がある。
                  • 使用した計算手法には一定の誤差が含まれている可能性があり、さらなる検証が必要である。

                  結論

                    • 本研究では、C-C, C-N, C-O π結合エネルギーの代表的な値を提示し、その決定方法を解説した。
                    • π結合の強さと水素化熱は異なる概念であることを強調した。
                    • カルボニルπ結合の強さに対する置換基効果を明らかにした。

                    将来の展望

                            • より複雑な分子系におけるπ結合エネルギーの理解を進めることが重要。

                            用語集

                              • π結合: 原子軌道の側面からの重なりによって形成される化学結合。
                              • σ結合: 原子軌道の正面からの重なりによって形成される化学結合。
                              • 結合解離エネルギー (BDE): 共有結合を切断するために必要なエネルギー。
                              • 水素化熱: 水素化反応で放出される熱エネルギー。
                              • Active Thermochemical Tables (ATcT): 正確で信頼性の高い熱化学データを提供するデータベース。
                              • Gaussian-3 (G3)とWeizmann-1 (W1): 高精度な量子化学計算手法。
                              • Bensonの方法: 連続するH-X結合の解離エネルギーの差からπ結合エネルギーを求める方法。

                              TAKE HOME QUIZ

                              問題1: π結合の解離エネルギーを直接測定することが難しい理由は何ですか?

                              解答: π結合の解離は、分子フラグメントを生成しないため、直接的な測定が困難です。π結合を切断しても、安定したラジカルやイオンが生成せず、非結合性の一重項ビラジカルという概念的な構造になるため、ポテンシャルエネルギー面上では観測可能な種ではありません。

                              問題2: エテン(CH2=CH2)のC=C π結合エネルギーを求めるために、一般的に用いられる2つの方法を説明してください。

                              解答:

                              • 回転障壁法: エテンの二重結合の回転に必要な活性化エネルギーを利用する方法です。シス-トランス異性化の速度を測定し、アレニウスの式を用いることで、π結合エネルギーを算出します。この方法で得られる値は約65 kcal/molです。
                              • Bensonの方法: エタンのC-H結合の解離エネルギー(BDE1)とエチルラジカルのβ炭素上のC-H結合の解離エネルギー(BDE2)の差から、π結合エネルギーを求める方法です。エテンの場合、BDE1 - BDE2 = 101.0 - 35.8 = 65.2 kcal/molとなります。

                              問題3: エチンの(HC≡CH)のC≡C π結合エネルギーを算出するために、Bensonの方法をどのように適用しますか?

                              解答: エチンの場合、エテンのC-H結合の解離エネルギー(BDE1)とビニルラジカルのC-H結合の解離エネルギー(BDE2)の差からπ結合エネルギーを求めます。BDE1 - BDE2 = 110.6 - 35.6 = 75.0 kcal/molとなります。

                              問題4: 1,2-プロパジエン(アレン, CH2=C=CH2)のπ結合エネルギーを決定する際の、Bensonの方法における特別な考慮事項は何ですか?

                              解答: 1,2-プロパジエンのような非対称化合物では、隣接するC-H結合が異なるため、複数の解離経路が存在します。そのため、Bensonの方法では、隣接原子に水素原子またはラジカル中心がある場合のH-X結合強度の差を使用します。具体的には、2つの異なる経路(BDE1-BDE2'とBDE1'-BDE2)の平均値を計算します。これにより、熱力学的量が経路に依存しないようにします。

                              問題5: カルボニル基(C=O)のπ結合エネルギーは、一般的にC=CやC=Nのπ結合エネルギーと比較してどうですか?その理由を説明してください。

                              解答: カルボニル基のπ結合エネルギーは、一般的にC=CやC=Nのπ結合エネルギーよりも強いです。これは、酸素原子が炭素や窒素原子よりも小さく、電気陰性度が高いため、C=O結合の距離が短く、p軌道の重なりが良くなるためです。また、静電的な引力もC=O結合を強くする要因となります。

                              問題6: カルボニル炭素の電荷(qC)とπ結合エネルギー(Eπ)の間にはどのような関係がありますか?

                              解答: カルボニル炭素の電荷(qC)とπ結合エネルギー(Eπ)の間には、直線的な相関があります。カルボニル炭素上の電荷が大きくなるにつれて、π結合エネルギーも増加します。これは、カルボニル基が持つ共鳴構造(共有結合性の二重結合と双極性の構造)によって説明されます。資料中の式では、Eπ (kcal mol−1) = 27.3 × qC + 57.4, r2 = 0.928という関係式で表されます。

                              問題7: π結合エネルギーと水素化熱(ΔH°Hd2)の関係について説明してください。

                              解答: π結合エネルギーと水素化熱は関連していますが、直接的な相関はありません。水素化反応では、π結合の切断に加えて、2つの新しいC-H結合が形成され、水素分子の結合解離エネルギーが失われます。そのため、水素化熱は、π結合の強度だけでなく、形成されるC-H結合の強さなどの要因にも影響されます。

                              問題8: 二重結合を持つ炭素-窒素化合物(例:CH2=NH)のπ結合エネルギーは、対応する炭素-炭素化合物(例:CH2=CH2)と比較して、一般的にどうですか?

                              解答: 二重結合を持つ炭素-窒素化合物(例:CH2=NH)のπ結合エネルギーは、対応する炭素-炭素化合物(例:CH2=CH2)と比較して、わずかに小さいですが、類似しています。具体的には、その差は1.4〜5.0 kcal/mol程度です。ただし、水素化熱は大きく異なります

                              問題9: 三重結合を持つ窒素分子(N≡N)のπ結合エネルギーと、対応する炭素-炭素化合物(HC≡CH)のπ結合エネルギーは、どのように比較できますか?また、それらの水素化熱はどうですか?

                              解答: 三重結合を持つ窒素分子(N≡N)のπ結合エネルギーは、対応する炭素-炭素化合物(HC≡CH)のπ結合エネルギーとほぼ同じです。しかし、水素化熱は大きく異なり、N≡Nは非常に大きな負の値(-47.8 kcal/mol)を示し、HC≡CHは正の値(42.1 kcal/mol)を示します。これは主に、関連するH-X結合の解離エネルギーの違いによるものです。