2015年12月28日月曜日

ベンゾフェノン

 最近、ある目的の合成のモデルケースとして、式1のような計画で原料合成をやってみたのですが、一段階目の反応は室温では、求核攻撃は1当量分のみ進行し、加温すると2当量分の反応が進行し、3当量分の反応は確認されませんでした。本当は、wittig反応の前に、1段階目の反応の高い選択性の時点で思い至るべきだったのでしょうが、wittig反応はリンイリドの調製ができていることのみが確認でき、肝心の反応は進行しませんでした。まんまと落とし穴にハマったわけです。フラスコの妖精は、私の醜態を見てさぞ笑ったことでしょう。

 残念ながら、wittig反応が進行しなかったので、現在は式2のように経路を変更して反応を試みていますが、メチルリチウムの付加反応も加熱しなくては反応が進行しませんでした。なので、反応が進行しなかったのは立体的な要因ではなく、電子的な要因ではないかと推測しています。

勘の鋭い方はお気づきでしょうが、実はwittig反応がうまくいかなかった時点で、この経路はものすごく無駄の多い経路になっているのです。脱離反応でアルケンを作るなら、式3の経路で市販品からワンポットで作れるのです。

なぜ、最初から式3の経路で反応を行わなかったのかと言いますと、実は筆者は生まれてこの方wittig反応をやったことがなかったので、wittig反応をやってみたかったんです。しかしながら、式2の原料を大スケールで持ち上げてしまった今となっては後の祭りです。フラスコの妖精は、私の醜態に笑いが止まらないことでしょう。

最後に一言
エウレカセブンのドミニク君の言葉を引用しておきます。


「私情の何がいけない!?〝俗物〟だと呼んでもらってかまわない!」

2015年9月6日日曜日

有機テキスト化学

こういうのってもうすでに誰かやってらっしゃるんでしょうかね
その場合は、くだらない二番煎じとしておとなしく記事を削除しようかと思います。
文献調査が甘くてすいません。

で、早速なんですが、特にChemdrawが使えなくて必要に迫られたというわけではないのですが

テキストだけでどこまで化学を表現できるのだろうかと思って
とりあえず思いついた分だけ作成してみたので、
ご査収のほど、よろしくお願いします。

- エタン(ethane) /\ プロパン(propane) /\/ ブタン(butane) /\/\ ペンタン(pentane)
\/\/\ ヘキサン(hexane) /\/\/\ ヘプタン(heptane) \/\/\/\ オクタン(octane)
/\/\/\/\ ノナン(nonane) \/\/\/\/\ デカン(decane)
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\ C20H42 イコサン(icosane) \/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\ C30H62 トリアコンタン(triacontane)
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\ C100H202 ヘクタン(hectane)

= エテン(ethene) or エチレン(ethylene) H―H エチン(ethyne) or アセチレン(acetylene)

△ シクロプロパン(cyclopropane) □ シクロブタン(cyclobutane)
<二> シクロヘキサン(cyclohexane)
Me―<二> メチルシクロヘキサン(methylcyclohexane)
Me―<二>―Me 1,4-ジメチルシクロヘキサン(1,4-dimethylcyclohexane)
HO―<二> シクロヘキサノール(cyclohexanol)
HS―<二> シクロヘキサンチオール(cyclohexanethiol)
<二>―<二> ビシクロヘキシル(bicyclohexyl)
>=< 2,3-ジメチル-2-ブテン(2,3-Dimethyl-2-butene)

O=< ケトン(ketone)
O=<二> シクロヘキサノン(cyclohexanone)


2015年3月26日木曜日

TCIのTシャツ当たりました

第95回日本化学会年会にて
TCIブースにて一等賞のTシャツを頂きました

おい!再結晶やったか?

正直、当選する気しかしなかったですね

まず第一に、
私が所属する大学で
TCIで試薬を一番多く注文しているのが
おそらく私だということ
次に、
私の後輩に対する口癖が
まさにこのフレーズであると言うこと
最後に、
おそらく誰が見ても
私に似合っていると言うであろうということ

これはもう
運命の出会い
と言っても過言ではないかもしれません

最後になりましたが
TCI様の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます

2015年2月22日日曜日

手作りSPhos

Buchwald-Hartwig Cross Couplingの配位子として
有名なSPhosですが、構造の割に結構値段が高いんですよね。

んで、自分で安く作れないものかなと画策していましたら
意外と鍵となる前駆体が簡単に作れそうな論文がありました。

A straightforward anionic coupling for the synthesis of ortho-bromobiaryls (doi:10.1016/j.tet.2004.06.010

肝心のAldrich社のSPhosの価格
(http://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/638072)
ですが、
1 gで13,200円
5 gで44,000円
25 gで104,500円となっております。



このルート案外ワンポットでいけるのでは?と思っているのですが、
もしかしたら実際の合成ルートもこのようなものかもしれません。
心配な点があるとすれば、
三塩化リンを作用させるときに低温であれば反応しないはずですが
アリールリチウムが複数りリンに攻撃するかももしれない点ですね
有機合成の落とし穴はいたるところにありますから。。。

ところで、先に挙げた論文でもっと面白いことができないだろうかと思いまして
今回他のマルチブロモベンゼンと反応させてみましたので
その報告だけしようと思います。

まだあまりしっかりと追試と検討を行ったわけではないのですが、
筆者がヘキサブロモベンゼンで同様の反応を行ってみたところ、
1-ブロモ-2,6-ジメトキシベンゼンが得られましたヽ(`Д´#)ノ。
おそらくヘキサブロモベンゼンの方はベンザインが出たものと思われます。
副生成物を完全に解析したわけではないので、
ヘキサブロモベンゼンの行く末は続報をお待ちください。

一方、1,2,4,5-テトラブロモベンゼンで検討を行ってみたところ、
相変わらず1-ブロモ-2,6-ジメトキシベンゼンが取れましたが、
反応混合物をGCMSにより分析しましたところ、
今回は論文で報告されている反応と同様の反応が進行した
と思われるマススペクトルが得られましたε-(´∀`*)ホッ。

ヘキサブロモベンゼンとテトラブロモベンゼンともに
リチウム-ハロゲン交換反応が進行する結果となってしまいましたが、
ヘキサブロモベンゼンは溶解度があまり良くないので、
論文のProcedureと異なる方法で添加しましたのでその影響かもしれません。

それでは。

非対称オルト‐ターアリールの合成

皆さんはターアリール骨格を作れと言われたらどのような手法を考えますか?

やはり一番最初に浮かぶのはカップリング反応による合成でしょうか
異なる周期のハロゲン(例えば塩素とヨウ素)を有するベンゼンを基質として用いることで、
一段回目は弱い条件で酸化的付加が可能な位置でカップリングを行い、
二段回目は強い条件で酸化的付加が進行する位置でカップリングを行えば
非対称ターアリールを合成することができますね(式1)。



あるいは、学術領域での合成ならベンザインを利用する方法もありますね(式2)。
他にも、最近ではC-Hアリール化を用いる方法もありますね。
僕なりに思うC-H活性化型反応のすごい点はまた後日語ろうと思うので、
今日は割愛します。

さて、タイトルに述べた非対称オルト‐ターアリールの合成ですがけっこう難しいんですね。
この非対称オルト‐ターアリールを作れると、
これまでよりもっと多様なトリフェニレンの合成と
トリフェニレンを起点とする分子の合成が可能になり、
さらにはトリフェニレンを置換基として利用できるようになりますね。



2015年1月25日日曜日

【有機単結晶の作り方】〜その1〜

皆さんはどのようにして分子を見ていますか?

筆者は、有機合成を専門にしていますが、
X線結晶構造解析で分子構造を見るのが非常に好きです。
普段はNMRなどの情報から頭の中で分子構造を
想像しています。
また、近年では計算で孤立系における
分子構造を見ることができます。

それはそれで楽しいのですが、
X線結晶構造解析では単なる1つの分子の構造だけでなく、
固相における分子の美しい規則的な並びを見ることができます。
自然界の冷酷なるエントロピー増大の法則に反して
分子間の弱い力の相互作用によって集合した分子が見せる
良い意味で不自然なほどの整列、
その美しさたるや筆舌に尽くし難いものがあります。

しかし、X線結晶構造解析は容易ではありません。
X線結晶構造解析で分子構造を見るためには
単結晶なるものが必要です。
慣れればそれほど労することなく、
好きになれば
筆者のように意欲的に単結晶を作るようになります。


今回はその単結晶の作り方についての話です。
結晶作成は減圧濃縮や13C NMRの待ち時間に少しの手間でできるので
筆者にとって忙しい毎日の息抜きでもあります。

有機単結晶というタイトルにしたのは、
無機分野の方には無機分野の方のノウハウがあると思ったからであります。
あくまで有機分野におけるノウハウとして
参考にしていただければ幸いです。
また、X線結晶構造解析の結果の有無によって
研究室内での議論のみならず、
学会発表などの場においても、
議論が深まります。

手間暇かけて合成して高い純度まで精製した(愛着のある)目的化合物、
その生写真をあなたの手で撮ってみませんか?

それでは長い前振りもここまでで
さっそく簡易版単結晶の作り方を紹介しようと思います。

流れとしては、
1. 試料を精製する

2.溶解度試験を行う

3. 単結晶作製のための検討
と言った感じです。
簡単でしょう?(慣れればSTEP2の溶解度試験は省略しても良いかと思います。)


1. 試料を精製する
化学的には精製されている試料からほこりを除く作業です。

・シリンジフィルターを用いたろ過
お手軽です。時間が惜しければこちらがおすすめ。
ろ過する容器のほこりにご注意下さい。
http://www.monotaro.com/s/c-85732/?sort=price

・熱時濾過
金銭面が惜しければこちらでやるしかないでしょうね。
運が良ければろ液からそのまま単結晶が出ることもあるので
急がば回れかもしれません。

※せっかくの幸運を逃さにために漏斗と受けるフラスコには極力ほこりがないようにする

2. 溶解度試験を行う
数mgの試料でバイアルなどを用いて大まかに
よく溶ける・加熱すれば溶ける・加熱しても溶けない
程度で十分です。

先程も述べましたが、予めある程度溶解度が分かってたり、
以前に類似の構造のものを扱った事があれば、
省略しても良いです。

非極性溶媒
プロトン性極性溶媒
非プロトン性極性溶媒
ベンゼン類(非極性・極性)
※溶解度試験に用いたサンプルを用いて、
そのまま単一溶媒系での単結晶の作成を試みることで、
結晶が出やすい溶媒か出にくい溶媒か、
またどういう形の結晶が出る溶媒なのか
大まかな傾向を知ることができるもあります。


3. 単結晶作製のための検討
いよいよ単結晶の作製です。
基本的に一度の検討で使用する試料は1 mg前後で十分です。
溶解性の悪い試料でも少しでも溶けるのならば可能性は十分にあります。
容器はマイクロチューブや小さなバイアルを使用します。

・簡易析出
お手軽です。
(1)溶解度試験のサンプルに薬包紙等で作った簡易のフタをかぶせ穴を開ける

(2)静置

・過飽和の溶液からの析出
お手軽です。
(1)溶解度試験の結果を参考に、試料が完全に溶けきらない程度に溶媒を加える。

(2)加温して試料を溶かしきる。

(3)放冷(バス等に漬けたまま放冷できるならそれも試してみると良いです)。

・貧溶媒による析出
少し手間ですがいろいろな検討が可能です。
(1)溶解度試験の結果を参考に良溶媒にサンプルを溶かす

(2)マイクロチューブや小さなバイアルに、溶液を小分けする(容積の1/4以下が望ましい))

(3)マイクロチューブや小さなバイアルを入れて、蓋を閉めて密閉できる大きなバイアルをいくつか用意し、それぞれに異なる貧溶媒を入れる

(4)大きなバイアルに先のマイクロチューブや小さなバイアルを入れて蓋を閉めて密閉する(言うまでもなく中の容器にはフタをしないでくださいね。うっかりしてるとよくやります笑)

以上、無駄話のほうが長い【有機単結晶の作り方】の紹介でした。
普段から、単結晶作製を行っている方からすれば
「何を今更・・・」というような内容だったかもしれませんが、
その2では、自分なりのノウハウや特殊なやり方を紹介しようと思います。

それではまた