2024年5月11日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0024~

論文のタイトル: Significant Enhancement of Absorption and Luminescence Dissymmetry Factors in the Far-Red Region: A Zinc(II) Homoleptic Helicate Formed by a Pair of Achiral Dipyrromethene Ligands

著者: Hiroaki Ito, Hayato Sakai, Yoshinori Okayasu, Junpei Yuasa, Tadashi Mori, Taku Hasobe

雑誌: Chemistry - A European Journal 

巻: 24号頁1-7

出版年: 2018


背景

1:  研究の背景

キラル分子の円二色性(CD)と円偏光発光(CPL)特性が注目されている

しかしレアアース金属や貴金属フリーの小分子ではこれらの値が小さい


2: 未解決の問題

ヘリセンなどの既存のキラル分子は吸収・発光波長が可視域に限られる

遠赤外領域での高い異方性因子を示す分子は希少


3: 研究の目的

アキラルなベンゾ[a]フェナントレン-ジピロメテン配位子を用いた新規キラル亜鉛(II)ヘリケートの開発

遠赤外領域での高い吸収・発光異方性因子の実現


方法

1: 合成と単結晶構造解析

ベンゾ[a]フェナントレン-ジピロメテン配位子の合成

亜鉛(II)イオンとの配位により新規キラルヘリケートを合成

単結晶X線構造解析によるヘリカル構造の確認  


2: 分光学的測定

UV-Vis吸収、円二色性(CD)、蛍光、円偏光発光(CPL)の測定

吸収と発光の異方性因子(gabs、glum)の算出


3: 理論計算 

時間依存密度汎関数理論(TD-DFT)による電子遷移の解析

電気および磁気遷移双極子モーメントの導出

大きな異方性因子の起源の理論的考察


結果

1: 吸収およびCD特性

ヘリケートは522nmの吸収極大に加え、548、615nmにエキシトン結合由来の吸収ピークを示す

CDスペクトルで500-650nm領域に大きなコットン効果(|gabs| = 0.20@615nm)


2: 発光およびCPL特性  

ヘリケートは700-850nmの遠赤外領域で強い発光を示す(ΦFL = 0.23)

CPLスペクトルでは660nmに強い正負の発光が観測される(|glum| = 0.022)


3: 理論計算結果 

励起状態では配位子間の重なりが増大し、励起子構造が形成される

電気および磁気双極子モーメント間の小さい角度が大きな異方性因子の要因


考察  

1: 吸収異方性の向上

配位子の二量化とエキシトン結合が大きなコットン効果をもたらす

アキラルな配位子のヘリカル配列が重要である


2: 発光異方性の向上 

遠赤外発光は配位子の拡張π共役系に由来

発光のエキシトン結合が遠赤外CPLの起源


3: 既存研究との比較

本研究のglumは貴金属錯体に匹敵する高い値

レアアース金属・貴金属フリーの分子としては最大級


4: 限界点

キラル安定性が低く、溶液中で徐々にラセミ化する

合成効率が低く、収率の改善が必要


結論

キラル亜鉛ヘリケートにおいて世界最高レベルの吸収・発光異方性因子を実現

アキラル配位子の適切な配列がその鍵となる新規設計指針を提案


今後の展望

さらなる長波長化と高効率発光が今後の課題

今後の改良により生物・化学センサーなどへの応用が期待される

2024年5月10日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0023~

論文のタイトル: New Solids Based on B12N12 Fullerenes

著者: J. M. Matxain, L. A. Eriksson, J. M. Mercero, X. Lopez, M. Piris, J. M. Ugalde, J. Poater, E. Matito, M. Solà

雑誌: Journal of Physical Chemistry C

巻: 第111巻, 第36号

出版年: 2007年


背景

1: 研究の背景

フラーレン発見後、同様の構造をもつBN化合物への関心が高まった

理論計算により安定なBN fullereneクラスターが予測された

実験的にもBN fullereneの合成が報告されている


2: 研究の目的 

B12N12 fullereneを基にした新規固体の理論的探索

B12N12一分子を単位とする固体構造の特性解明


3: 期待される成果

B12N12 fullereneを基にした新規ナノ多孔性固体の発見

この固体の電子構造、エネルギー的安定性、物性の予測


方法

1: 計算手法

密度汎関数理論 (DFT) を用いた第一原理計算

B12N12 fullerene二量体の構造と相互作用エネルギーを計算


2: 計算レベル

B3LYP、MPW1PW91の交換相関汎関数を使用  

原子軌道基底関数、有効内核疑ポテンシャルを適用


3: 固体状態計算

SIESTAコードを用いた周期的境界条件下での最適化計算

PBE汎関数、ノルム保存擬ポテンシャル使用


4: 解析手法  

構造最適化、結合エネルギー、電子構造、IR スペクトルを解析


結果

1: 二量体の安定構造

正方形同士が向かい合う構造 (S-S) が最安定

共有結合性二量体 (Cov) と van der Waals 性二量体 (VW) が存在


2: 二量体の相互作用エネルギー

CovS-S が最も安定 (B3LYP: -1.50 eV, MPW1PW91: -2.07 eV)  

VWS-S と VWH-H はそれより不安定

共有結合性二量体と分子間力で結合した二量体が共存 


3: 固体構造 

Cov 固体はナノ多孔質構造を形成、VW 固体は密な構造

Cov 固体の方が 12 eV 程度安定

共有結合性多孔質固体が最も安定


考察  

1: 二量体の安定性

N原子の非共有電子対とB原子の空軌道との相互作用が重要

正方形面どうしの方が六員環面よりも立体反発が小さい


2: 共有結合性二量体の形成

B-N結合距離の伸長により、モノマー構造を維持しつつ共有結合可能  

先行研究との一致: Batsanovらの実験により観測されたE-BN相の発見


3: ナノ多孔質固体の特徴  

表面積が大きく、分子吸着や触媒への応用が期待される

フラーレン固体と同様の構造を有する可能性


4: 固体の電子構造

Cov固体、VW固体ともに絶縁体的性質を示す

モノマーに比べバンドギャップは小さくなる  


5: 限界点

実験的合成の指針は得られていない

より大きな系への展開が必要


結論

B12N12 fullereneから新しいナノ多孔質固体が理論的に提案された

BNナノ構造体の合理設計につながる重要な知見が得られた


今後の展望

エネルギー的に安定で、分子吸着や触媒への応用が期待される

実験的検証と、さらなる大規模系への展開が今後の課題

2024年5月9日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0022~

論文のタイトル: A Homogeneous Method for the Conveniently Scalable Palladium- and Nickel-Catalyzed Cyanation of Aryl Halides

著者: Finn Burg, Julian Egger, Johannes Deutsch, and Nicolas Guimond

雑誌: Organic Process Research & Development

巻: 20, 1540-1545

出版年: 2016年


背景

1: 研究の背景

ベンゾニトリルは化学工業で広く使われる重要な中間体

アリールハロゲン化物からの触媒的ベンゾニトリル合成が主流になりつつある


2: 従来法の問題点

従来法では不均一系や2相系の反応が多く、再現性とスケールアップの課題があった

既存の均一系法では、条件の最適化や配位子設計が十分でなかった  


3: 研究の目的 

広範なアリールクロリドおよびブロミドに適用できる均一系条件を開発

反応を容易にスケールアップ可能にすること


方法

1: 研究デザイン

モデル基質を用いた種々の条件検討

最適条件の同定と反応スコープの探索


2: 反応条件

触媒: [Pd(cinnamyl)Cl]2、(TMEDA)NiCl(o-tolyl)

配位子: XPhos、dppf、t-BuXPhosなど  

溶媒: i-PrOH、n-BuOH

塩基: DIPEA


3: 評価項目  

反応時間、温度、収率への影響を評価

各種置換基の影響を検討

ヘテロ環式化合物の適用性を調査


4: 実験手順

小スケール条件を確立後、400gスケールでの実験を実施

反応条件のモニタリング(pH測定など)

単離、精製方法の最適化


結果

1: ハロゲン化アリールの反応性

電子求引性、電子供与性置換基に対して高い反応性

立体障害が大きい基質にも適用可能

アルコール、アミン、カルボン酸の官能基が許容される


2: ヘテロ環化合物への適用  

ピリジン、キノリン、インドール、チオフェンなどが良好な収率で変換された

Ni触媒でも単純なベンゾニトリル合成に有効


3: 大規模反応結果

400gスケールで97%収率で目的物を単離

反応液からの析出結晶化が可能で、高純度品が得られた


考察  

1: 均一系の利点

不均一粒子の影響が排除され、再現性が向上  

スケールアップが容易になり、基質溶解性の影響が軽減


2: 反応機構

アセトンシアノヒドリンを触媒回転率よりも遅い速度で反応混合物にゆっくりと加えることが重要

pHモニタリングから反応初期の添加速度制御が鍵


3: 既存研究との比較  

Beller法に比べ、より汎用的で高収率

溶媒選択で単離工程が簡便化された 

還元剤を使用した Ni(0) の事前生成の必要がない

配位子のスクリーニングが簡単に実行可能

低コスト


4: 適用範囲

広範なアリール基質に有効


5: 限界点と将来の展望

一部の塩化アリールや電子豊富なアリール化合物では低収率

配位子および反応条件のさらなる最適化が望まれる


結論

ハロゲン化アリールのベンゾニトリルへの変換に対して、広範囲に適用可能な均一系パラジウムおよびニッケル触媒系を開発

均一系反応では再現性が向上し、スケールアップが容易になった

アルコール溶媒の使用により単離工程が簡略化された


今後の展望

さらなる条件検討による適用範囲の拡大

医薬品や材料製造分野などのベンゾニトリルの需要が高い産業におけるプロセス設計

2024年5月8日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0021~

論文のタイトル: Stereoinversion of tertiary alcohols to tertiary-alkyl isonitriles and amines (第三級アルコールのイソニトリルおよびアミンへの立体反転)

著者: Sergey V. Pronin, Christopher A. Reiher, Ryan A. Shenvi

雑誌: Nature

巻: 501, 195–199

出版年: 2013年


背景

1: 研究の背景

天然に存在する窒素含有マリンテルペノイドは、不安定なカルボカチオンを経由し、無機シアン化物から生合成される

これらの化合物の合成は困難で、立体化学の制御が課題だった


2: 従来法の課題

第三級アルコールは従来のSN2反応が進行しにくく、立体反転を伴う変換が限られていた

新しい立体選択的な第三級アルコールの活性化法が必要とされていた  


3: 研究の目的

ルイス酸を用いた第三級アルコールの立体反転的イソニトリル化反応を開発

マリンテルペノイドなどの複雑な窒素含有天然物の効率的合成


方法

1: 研究デザイン

第三級アルコールをトリフルオロ酢酸エステルに変換 

スカンジウム(III)トリフラートとTMSCNの存在下で反応


2: 評価手法

生成物の構造と立体化学をNMR、X線結晶構造解析で決定

各種誘導体への変換を検討


結果

1: 反応結果

第三級トリフルオロ酢酸エステルが高い立体選択性でイソニトリルに変換された

第一級および第二級アルコールは反応しない高い化学選択性を示した  


2: 基質による差 

直鎖アルコールでは脱離基に長鎖ペルフルオロカルボン酸を用いた際に高い立体反転選択性が得られた

環状アルコールの場合は立体構造的に柔軟性に依存した選択性の違いがあった


3: 反応の応用性

得られたイソニトリルはアミン、アミド、イソチオシアナートなどに誘導化可能

マリンテルペノイドの合成に有用であることが示された


考察  

1: 主要な知見

本反応は第三級アルコールの新規な立体反転変換法である

これまで困難だったマリンテルペノイドなどの合成が可能になった


2: 反応機構

カチオン中間体とTMSCNの攻撃過程が提唱されているが詳細は不明

基質の構造と反応条件が立体選択性に影響を与えていると考えられる


3: 発見の意義

第三級アルコールの新たな活性化法を提供した点にある

カルボカチオン化学の進展と新たな合成変換の開拓


4: 限界点

適用範囲が制限されていることが課題

条件の一般性が高くない  


結論

第三級アルコールのイソニトリル化による立体反転的変換法を開発した

マリンテルペノイド合成などの複雑な分子構築に有用である

カルボカチオン化学の新たな可能性を拓いた発見である


今後の展望

より一般性の高い反応条件の検討などが今後の課題となる

2024年5月6日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0020~

論文のタイトル: One-Step Continuous Flow Synthesis of Antifungal WHO Essential Medicine Flucytosine Using Fluorine

著者: Antal Harsanyi, Annelyse Conte, Laurent Pichon, Alain Rabion, Sandrine Grenier, and Graham Sandford

雑誌: Organic Process Research & Development

出版年: 2017, 21, 273-276


背景 

1: 研究背景

クリプトコッカス髄膜炎は、HIV/エイズ患者に多く見られる真菌感染症

年間62万5000人が死亡しており、サハラ以南のアフリカで髄膜炎の主要原因

世界保健機関(WHO)は、この感染症の第一選択治療薬としてアムホテリシンBとフルシトシンの併用を推奨


2: 従来の問題点

フルシトシンはアフリカのどの国でも使用登録されていない

製造コストが高く、ジェネリック医薬品メーカーが少ない  

低所得国での入手が困難な状況


3: 研究の目的   

フルシトシンの低コスト・簡便な製造方法を開発

安価な原料とフッ素ガスを用いた1ステップ連続フロー合成法の確立

WHOのフルシトシン供給要求に応える低コスト製造プロセス


方法  

1: 研究デザイン

化学反応の最適化と製造プロセスの確立


2: 原料と試薬

原料: シトシン

試薬: フッ素ガス、ギ酸  


3: 連続フロー反応装置

ステンレス鋼製チューブ反応器 (1.4 mm ID x 1 m)

ケイ素炭化物製パイロットスケールフロー反応器 (16 m 長、61 mL 容量)


4: 分析

生成物の同定: NMR、MS など

純度分析: HPLC


結果

1: バッチ法との比較

バッチ法では不純物が多く生じ、収率が38%  

連続フロー法で選択性が向上し、収率が63%に改善


2: ラボスケール連続フロー合成

ステンレスチューブ反応器で100%転化率

フルシトシン収率63%  


3: パイロットスケール連続フロー合成  

ケイ素炭化物製フロー反応器を用いた製造プロセス

1時間で純度99.8%のフルシトシン58 gを合成(収率83%)


考察

1: フッ素化反応の改善  

連続フロー法で反応時間とフッ素量の最適化が可能に

望ましい生成物への選択性が大幅に向上  


2: 従来法との比較

従来の4ステップ合成に比べてプロセスが大幅に簡略化

初期設備投資が低コストで済む


3: WHO必須医薬品リストへの対応

WHOがフルシトシンをHIV/エイズ治療の必須医薬品に指定  

本製造法で低所得国への供給が可能に


結論

フッ素ガスとシトシンから、1ステップの連続フロー合成でフルシトシンを製造

従来法に比べて大幅に簡便なプロセス

WHOの要求に応えられる低コスト製造が可能に  

HIV/エイズ治療薬アクセス向上に貢献する重要な製造技術


将来の展望

製造コストの詳細な分析が必要  

ジェネリック製薬会社との連携による実用化

他の医薬品合成への応用可能性の検討