著者: Hiroaki Ito, Hayato Sakai, Yoshinori Okayasu, Junpei Yuasa, Tadashi Mori, Taku Hasobe
雑誌: Chemistry - A European Journal
巻: 24号頁1-7
出版年: 2018
背景
1: 研究の背景
キラル分子の円二色性(CD)と円偏光発光(CPL)特性が注目されている
しかしレアアース金属や貴金属フリーの小分子ではこれらの値が小さい
2: 未解決の問題
ヘリセンなどの既存のキラル分子は吸収・発光波長が可視域に限られる
遠赤外領域での高い異方性因子を示す分子は希少
3: 研究の目的
アキラルなベンゾ[a]フェナントレン-ジピロメテン配位子を用いた新規キラル亜鉛(II)ヘリケートの開発
遠赤外領域での高い吸収・発光異方性因子の実現
方法
1: 合成と単結晶構造解析
ベンゾ[a]フェナントレン-ジピロメテン配位子の合成
亜鉛(II)イオンとの配位により新規キラルヘリケートを合成
単結晶X線構造解析によるヘリカル構造の確認
2: 分光学的測定
UV-Vis吸収、円二色性(CD)、蛍光、円偏光発光(CPL)の測定
吸収と発光の異方性因子(gabs、glum)の算出
3: 理論計算
時間依存密度汎関数理論(TD-DFT)による電子遷移の解析
電気および磁気遷移双極子モーメントの導出
大きな異方性因子の起源の理論的考察
結果
1: 吸収およびCD特性
ヘリケートは522nmの吸収極大に加え、548、615nmにエキシトン結合由来の吸収ピークを示す
CDスペクトルで500-650nm領域に大きなコットン効果(|gabs| = 0.20@615nm)
2: 発光およびCPL特性
ヘリケートは700-850nmの遠赤外領域で強い発光を示す(ΦFL = 0.23)
CPLスペクトルでは660nmに強い正負の発光が観測される(|glum| = 0.022)
3: 理論計算結果
励起状態では配位子間の重なりが増大し、励起子構造が形成される
電気および磁気双極子モーメント間の小さい角度が大きな異方性因子の要因
考察
1: 吸収異方性の向上
配位子の二量化とエキシトン結合が大きなコットン効果をもたらす
アキラルな配位子のヘリカル配列が重要である
2: 発光異方性の向上
遠赤外発光は配位子の拡張π共役系に由来
発光のエキシトン結合が遠赤外CPLの起源
3: 既存研究との比較
本研究のglumは貴金属錯体に匹敵する高い値
レアアース金属・貴金属フリーの分子としては最大級
4: 限界点
キラル安定性が低く、溶液中で徐々にラセミ化する
合成効率が低く、収率の改善が必要
結論
キラル亜鉛ヘリケートにおいて世界最高レベルの吸収・発光異方性因子を実現
アキラル配位子の適切な配列がその鍵となる新規設計指針を提案
今後の展望
さらなる長波長化と高効率発光が今後の課題
今後の改良により生物・化学センサーなどへの応用が期待される
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