論文のタイトル: Tritiation of aryl thianthrenium salts with a molecular palladium catalyst
著者: Da Zhao, Roland Petzold, Jiyao Yan, Dieter Muri, Tobias Ritter
雑誌: Nature
巻: Vol. 600, 16 December
出版年: 2021
背景
1: 研究の背景
放射性同位体トリチウム(3H)ラベル化は医薬品の体内動態研究に重要
これまでは不均一系触媒を用いた水素化的ハロゲン脱離が主流
反応性と選択性に課題があった
2: 未解決の問題点
従来法では医薬品に存在する官能基が還元されてしまう問題があった
均一系遷移金属触媒は官能基耐性に優れるが、水素活性化が難しい
3: 研究の目的
新規なチアントレニウム塩を前駆体として用いる均一系パラジウム触媒による水素活性化反応を開発
医薬品の3Hラベル化への応用が期待される
方法
1: 研究デザイン
アリールチアントレニウム塩を基質とした均一系パラジウム触媒存在下での3H2による水素化的3Hラベル化反応
2: 反応条件の最適化
置換基や官能基の許容性評価
3: 反応機構の考察
反応速度解析
速度論的重水素同位体効果の測定
4: 放射性同位体(RI)を用いるトレーサー実験
3Hラベル化収率
位置選択性の評価
結果
1: 反応結果
ビフェニル誘導体のチアントレニウム塩が高収率で目的の3H体を与えた
ハロゲン化アリールやトリフラートでは反応が進行しない
2: 基質一般性
電子豊富および電子不足のチアントレニウム塩が良好な基質となった
ヘテロ環、アミド、エステル、ニトロ基などの官能基を許容
3: 選択性
3Hラベル化収率が高く、位置選択性に優れていた
既存の水素同位体交換法と比較して単一生成物が得られた
考察
1: 水素化
チアントレニウム基はパラジウム(II)への配位が弱く、水素分子との反応が可能に
触媒的に生成するパラジウム水素化種がキー中間体と考えられる
2: 反応機構
速度論的重水素同位体効果から、H2分子の酸化的付加が反応の律速段階である可能性が高い
ハロゲン化物や擬ハロゲン化物では反応しないことから新規な活性化機構が示唆された
3: 本手法の優位性
均一系触媒の化学選択性の高さにより、不均一系触媒では問題となる官能基の還元が抑えられる
トリフラートのような弱く配位するアニオンによる活性触媒の被毒が観察されたことから、チアントレニウム塩の溶解度調節が重要な因子である可能性が示された
本反応は空気や水分存在下でも実施可能であり、ラベル化合成に実用的
4: 限界点
一方で一級アミンへの適用が困難な点が今後の課題
小分子医薬品の複雑な構造への適用に制限がある点が本反応の限界
結論
チアントレニウム塩を出発物質とする分子内パラジウム触媒による新規な均一系3Hラベル化反応が開発された
官能基耐性と位置選択性に優れており、医薬品の放射性トレーサー合成に有用
将来の展望
反応機構の解明と条件検討により、さらなる適用範囲の拡大が期待される
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