2024年5月18日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0031~

論文のタイトル: Comparative study of TDDFT and TDDFT-based STEOM-DLPNO-CCSD calculations for predicting the excited-state properties of MR-TADF 

著者: Sunwoo Kang、Taekyung Kim 

出版: HELIYON

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

多重共鳴性熱活性化遅延蛍光(MR-TADF)材料は有望な次世代発光材料

短距離分子内電荷移動と二重励起特性を併せ持つ

高い外部量子効率、狭い発光スペクトルなどの特長がある


2: 未解決の問題点

実験的・理論的にMR-TADF材料の設計や励起状態の解明が進められている

計算による励起状態の正確な記述は課題であった

従来の密度汎関数理論(DFT)では不十分

MR-TADF材料の励起状態には電子相関効果が重要


3: 研究の目的

本研究の目的は励起状態特性の定量的予測に適した理論手法を見出すこと

密度汎関数理論(TDDFT)と相関効果を取り入れたSTEOM-DLPNO-CCSD法を比較

MR-TADF材料の設計と励起状態の正確な理解に貢献


方法

1: 研究デザイン

10種のMR-TADF分子を対象に以下の計算を実施

最低一重項励起状態(S1)、最低三重項励起状態(T1)、S1-T1エネルギー差(ΔEst)を計算


2: 計算手法

TDDFT計算:

- 汎関数: B3LYP、M06、LC-ωHPBE 

- 基底関数: 6-311G**

TDDFT計算で最適化した構造を用いて以下の計算を実施 

STEOM-DLPNO-CCSD計算: 

- 基底関数: def2-TZVP 


3: 評価指標

実験値と比較し、各手法の定量的予測能力を評価

S1、T1、ΔEstそれぞれの二乗平均平方根誤差(RMSE)を算出

最も実験値に近い手法を同定する


結果

1: TDDFTの結果

TDDFTのみではS1、T1、ΔEstの定量的予測は困難

- B3LYP、M06、LC-ωHPBEいずれの汎関数も大きな誤差


1: TDDFT/STEOM-DLPNO-CCSDの結果

TDDFT/STEOM-DLPNO-CCSDではS1、T1、ΔEstの定量的予測が可能

- TD-LC-ωHPBE/STEOM-DLPNO-CCSDが最も精度が高い


3: RMSE値

TD-LC-ωHPBE/STEOM-DLPNO-CCSD計算のRMSE

  - S1: 0.097 eV、T1: 0.084 eV、ΔEst: 0.058 eV

TD-B3LYP/STEOM-DLPNO-CCSD

    - S1: 0.149 eV、T1: 0.106 eV、ΔEst: 0.089 eV

TD-M06/STEOM-DLPNO-CCSD 

    - S1: 0.157 eV、T1: 0.116 eV、ΔEst: 0.145 eV  


考察

1: 相関効果の重要性

MR-TADF材料の励起状態には電子相関効果が重要

TDDFT単体では十分な記述ができない

STEOM-DLPNO-CCSD法によって相関効果を取り入れることで定量的予測が可能


2: 長距離補正の効果

長距離補正を含むTD-LC-ωHPBEがTDDFTとして最適

短距離の交換相互作用と長距離の動的相関効果のバランスが重要

スピン反転励起をよく記述できる


3: M06汎関数の課題

一部の分子でTD-M06/STEOM-DLPNO-CCSDが異常値を示す

M06汎関数の局所密度の取り扱いが影響している可能性がある  

原因解明にはさらなる検討が必要


4: TDDFT/STEOMの有用性

TD-M06/STEOM-DLPNO-CCSDの問題はあるもののTDDFT/STEOM法の有用性は明らか

手法の特性を考慮すれば高精度な励起状態予測が可能


結論

MR-TADF材料の励起状態特性の定量的予測にはTDDFT/STEOM-DLPNO-CCSD法が有効

特にTD-LC-ωHPBE/STEOM-DLPNO-CCSDが最も高い予測精度

本研究で確立した手法はMR-TADF材料の理解と新規設計に大きく貢献する


将来の展望

将来的にはM06汎関数の問題点の解明と改良、さらなる高精度化が期待される

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