2024年5月4日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0016~

論文のタイトル: Inorganic Triphenylphosphine

著者: Adam D. Gorman, Jonathan A. Bailey, Natalie Fey, Tom A. Young, Hazel A. Sparkes, Paul G. Pringle

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

巻: 57 巻

出版年: 2018


背景

1:  研究の背景

炭素-炭素 (CC) 結合と窒素-ホウ素 (BN) 結合は等電子的

BN化合物はCC化合物と類似した構造を持つが、一般的に反応性が高い

ボラジン (B3N3H6) は「無機ベンゼン」と呼ばれる代表的なBN化合物


2: 未解決の問題 

ボラジン誘導体の化学は未だ十分に解明されていない

リン原子を含むボラジン化合物は合成例がない  


3: 研究の目的

リン原子を含む最初の高分子量ボラジン化合物 tris(2-borazinyl)phosphine (PBaz3) の合成

PBaz3の構造と性質をトリフェニルホスフィン(PPh3) と比較


方法

1: 研究デザイン 

合成実験と物性解析


2: 合成方法

クロロボラジンと P(SiMe3)3 からPBaz3 を合成 

単離収率最大 97%


3: 分析手法  

NMR分光法 (31P, 11B, 1H)

X線結晶構造解析

理論計算 (DFT, DLPNO-CCSD(T))  


4: 物性評価

ルイス塩基性 (BH3との反応)  

酸化反応性 (H2O, ONMe3との反応)


結果

1: PBaz3とPPh3の構造比較

分子構造は類似しているが、P-B結合距離がP-C結合より長い

立体配座が大きく異なる


2: ルイス塩基性 

PBaz3とPPh3のルイス塩基性はほぼ同等

BH3との平衡定数から判断


3: 反応性の違い

PBaz3は水と定量的に反応してPH3を生成するが、PPh3は不活性

PBaz3はONMe3と反応してP(OBaz)3を与えるが、PPh3はそうならない


考察  

1: PBaz3とPPh3の構造の違い 

P-B結合はP-C結合よりも極性が高く、P周りの立体配座が変化する

計算化学的にP原子のlone pairの性質が異なることが示唆される


2: ルイス塩基性について

PBaz3とPPh3のlone pairのエネルギー準位は類似しているため、ルイス塩基性も同等  


3: 反応性の違いの起源

P-B結合は比較的強いが、生成物中のB-O結合がさらに強力であるため、反応が進行する


4: 先行研究との関係  

ボラジン誘導体の置換反応は付加-脱離機構で進行することが知られている

本研究結果はBN/CC化合物の反応性の違いを裏付ける


5: 限界点

PBaz3は極めて不安定で実用化は困難

より安定な単一ボラジニル置換体の開発が必要


結論

トリフェニルホスフィンの「無機版」PBaz3を初めて合成し、その構造と性質を解明した

PBaz3はPPh3とルイス塩基性は類似するが、酸化的付加反応性が顕著に異なる 

その差異は、強力なB-O結合の生成によるものと示唆された

本研究はBN/CC化合物の特性と反応性の違いを例証している


今後の展望

PBaz3よりも安定な類縁体の開発が望まれる

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