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2024年7月17日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0072~

論文のタイトル: Tunably strained metallacycles enable modular differentiation of aza-arene C–H bonds

著者: Longlong Xi, Minyan Wang, Yong Liang, Yue Zhao, Zhuangzhi Shi

雑誌: Nature Communications

巻: 14:3986

出版年: 2023


背景

1: C-H活性化の課題

C-H結合の活性化は有機分子の機能化に重要

複数のC-H結合の中から特定の位置を選択することが課題

従来は立体的・電子的効果や配向基を利用

5-7員環の中間体を経由する方法が主流


2: ひずみのある金属環状中間体

3-4員環のような高度にひずんだ中間体の生成は困難

脂肪族アミンのC-H活性化では小さな金属環状中間体が報告済み

ベンゼン環が融合した類似体の形成はさらに困難

アザアレーンのC-H結合を区別する新しい戦略が必要


3: 本研究の目的

アザアレーンのC-H活性化における位置選択性の制御

3員環または4員環の金属環状中間体の形成

配位子の調整による反応位置の切り替え

キノリンなどの複素環化合物への適用


方法

1: 反応条件の最適化

3-メチルキノリンと(ブロモエチニル)トリイソプロピルシランの反応

[Rh(cod)Cl]2を触媒として使用

NaOtBuを塩基として使用

トルエン溶媒中、120°Cで反応


2: 配位子の影響

dtbpy (4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジン)を使用:C2位選択性

IMes・HCl (NHC配位子)を使用:C8位選択性

触媒前駆体の構造をX線結晶構造解析で確認


3: 基質適用範囲の検討

様々な置換基を持つキノリン類の反応

ベンゾ[f]キノリン、フェナントリジンなどの複素環化合物への適用

アルキニル臭化物の構造変更による影響の調査


結果

1: キノリン誘導体の位置選択的アルキニル化

C2位選択的アルキニル化:収率84%、C2/C8 = 99/1

C8位選択的アルキニル化:収率85%、C8/C2 = 92/8

電子供与基、ハロゲン、CF3基などの置換基に対応


2: 他のアザアレーンへの適用

ベンゾ[f]キノリン:C3位とC5位で選択的反応

フェナントリジン:C6位とC4位で選択的反応

4,7-フェナントロリン:モノおよびジ置換体を生成


3: 反応の一般性

グラムスケールでの反応にも適用可能

生成物の官能基変換による多様な誘導体合成

医薬品中間体や機能性材料の合成への応用


考察

1: 反応機構の考察

DFT計算による反応経路の解析

C-Br結合の酸化的付加が律速段階

配位子によるC-H活性化位置の制御


2: 位置選択性の起源

キノリンのC2位とC8位の電子密度の違い

配位子の立体効果と電子効果の影響

3員環vs 4員環中間体の安定性の差


3: 本手法の利点

配位子による簡便な位置選択性の制御

複素環化合物の直接的な官能基化

従来法では困難だった位置での反応が可能


4: 研究の限界点

一部の基質で反応性が低下

末端アルキンの反応性が低い

配位子の選択肢がまだ限られている


結論

3員環・4員環の金属環状中間体を経由するC-H活性化を実現

配位子による位置選択性の制御が可能に

アザアレーンの新しい官能基化法を開発


将来の展望

医薬品・機能性材料合成への応用が期待される

さらなる配位子設計による適用範囲の拡大が今後の課題

2024年7月5日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0061~

論文のタイトル: Mechanistic Investigation of Ni-Catalyzed Reductive Cross-Coupling of Alkenyl and Benzyl Electrophiles(メカニズム調査:アルケニルおよびベンジル求電子剤のNi触媒還元的クロスカップリング)

著者: Raymond F. Turro, Julie L.H. Wahlman, Z. Jaron Tong, Xiahe Chen, Miao Yang, Emily P. Chen, Xin Hong, Ryan G. Hadt, K. N. Houk, Yun-Fang Yang*, and Sarah E. Reisman*

雑誌: J. Am. Chem. Soc. 

巻: 145, 14705−14715

出版年: 2023年


背景

1: 研究の背景

Ni触媒還元的クロスカップリング(RCC)はC(sp2)−C(sp3)結合形成に有用

有機求電子剤から直接クロスカップリング生成物を得られる

金属粉末や有機電子供与体が還元剤として使用される

電気化学的にも駆動可能


2: 未解決の課題

クロスカップリング生成物の選択性が課題

各求電子剤を順次酸化的付加する触媒が必要

または各カップリングパートナーを別々に活性化する触媒系が必要

高選択性を示すNi触媒系がいくつか開発されている


3: 研究目的

2つのキラルビス(オキサゾリン)類 L1·Ni触媒非対称還元的アルケニル化(ARA)反応のメカニズム調査

均一系TDAE駆動反応の速度論的駆動力とresting stateの決定

L1·NiIIX2前駆体触媒の酸化還元特性調査

求電子剤活性化メカニズムの解明

計算化学による立体選択性決定段階の理解


方法

1: 実験手法

サイクリックボルタンメトリー(CV)による還元電位測定

電子常磁性共鳴(EPR)分光法による還元種の分析

19F NMRによる反応モニタリング

速度論的実験(異なる過剰濃度実験、 variable time normalization analysis(VTNA)分析)


2: 計算化学

密度汎関数理論(DFT)計算(Gaussian 16、B3LYP-D3、Ni: LANL2DZ、その他の原子: 6-31G(d)

正しい波動関数が得られたことを確認するために、キーワード「stable = opt」を使用

一点エネルギーは、M06/6-311+G(d,p)-SDD レベルで計算

SMD 溶媒和モデル (solvent = DMA) を使用

計算された構造は、CYLview を使用して視覚化

遷移状態の構造と相対Gibbs自由エネルギーの計算

ラジカル捕捉のエナンチオ決定段階の解析


3: 反応条件

TDAE駆動ARA反応:NHP エステル + アルケニルブロミド

Mn駆動ARA反応:ベンジルクロリド + アルケニルブロミド

L1·NiBr2触媒、DMA溶媒、NaI添加剤使用


結果

1: TDAE駆動反応の速度論

NHPエステルに対して1次の速度依存性

アルケニルブロミドに対して0次または逆分数次の依存性

触媒濃度に対して0次の依存性(標準条件下)


2: 触媒の酸化還元特性

L1·NiIICl2L1·NiIIBr2は非可逆的な還元波を示す

TDAE還元によりL1·NiIBr種が生成

L1·NiIClはアルケニルブロミドと速やかに反応


3: 触媒休止状態と求電子剤活性化

NiII酸化的付加錯体が触媒resting stateと推定

NHPエステルはNiではなくTDAEにより還元

TMSBrがLewis酸としてNHPエステル還元を促進


考察

1: 反応機構の違い

TDAE駆動反応:NHPエステルの還元がTDAEにより行われる

Mn駆動反応:ベンジルクロリドの活性化がNiIにより行われる

両反応ともNiI/III触媒サイクルを経由


2: NHPエステル活性化の新しい知見

Lewis酸によりNHPエステルの還元電位が低下

Lewis酸の選択により還元速度を制御可能

従来の(bpy)Ni触媒系とは異なるメカニズム


3: 立体選択性の起源

ラジカル捕捉段階がエナンチオ決定段階

遷移状態の立体障害がエナンチオ選択性を決定

リガンドL1の嵩高い部分が重要な役割を果たす


4: 研究の限界

均一系TDAE反応と不均一系金属粉末反応で異なる挙動

一部の反応中間体の単離・同定が困難

計算結果は実験値を若干過大評価


結論

2つのARA反応で異なる求電子剤活性化メカニズムを解明

NHPエステル還元はLewis酸により制御可能

触媒resting stateとしてNiII-アルケニル錯体を同定

本研究はNi触媒RCC反応の最適化に指針を提供


将来の展望

反応中間体の単離と詳細な構造解析

2024年6月26日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0053~

論文のタイトル: C–heteroatom coupling with electron-rich aryls enabled by nickel catalysis and light

著者: Shengyang Ni, Riya Halder, Dilgam Ahmadli, Edward J. Reijerse, Josep Cornella & Tobias Ritter

雑誌: Nature Catalysis

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

ニッケル光レドックス触媒による炭素-ヘテロ原子結合形成が発展

光エネルギーを利用し、熱化学では困難な酸化状態を実現

アニリンやアリールエーテルの合成に応用されている


2: 未解決の問題

電子豊富なアリール求電子剤は多くの変換の範囲外

単純なニッケル系での酸化的付加が遅い

特殊な電子豊富配位子がない場合、触媒分解が起こる


3: 研究の目的

電子豊富なアリール求電子剤の問題に概念的解決策を提供

アリールチアントレニウム塩を用いたC-ヘテロ原子結合形成反応の開発

アミノ化、酸素化、硫黄化、ハロゲン化反応への応用


方法

1: 反応設計

アリールチアントレニウム塩の酸化還元特性を利用

チアントレニウム部位が主にSET反応性を決定

単純なNiCl2を光照射下で使用


2: 実験手順

アリールチアントレニウム塩と求核剤を反応容器に導入

NiCl2・6H2O触媒をDMA溶媒中で使用

青色LED(456 nm)照射下、25℃で反応


3: 分析方法

1H NMRによる収率測定

フラッシュカラムクロマトグラフィーまたは分取TLCによる精製

電子常磁性共鳴(EPR)分光法によるNi(I)種の観測


結果

1: アミノ化反応の最適化

NiCl2・6H2O (2 mol%)、ピペリジン (2当量)、DMA溶媒で最高収率

光照射が必須、暗所では反応進行せず

電子豊富・中性アリールチアントレニウム塩で50-93%収率


2: 基質適用範囲

様々な官能基(スルホンアミド、アミド、シクロプロピル等)に適用可能

複雑な医薬品様分子(フルルビプロフェン、ネフィラセタム等)にも適用

パラ位、メタ位置換基を持つ基質で反応進行


3: C-O、C-S、C-ハロゲン結合形成

メタノールを求核剤としたメトキシ化反応が可能

アルコール、フェノール、チオールも反応に参加

ヨウ素化、臭素化、塩素化反応も同じ触媒系で実現


考察

1: 主要な発見

電子豊富アリール求電子剤のC-ヘテロ原子カップリングを実現

単純なニッケル塩と光照射のみで反応が進行

幅広い基質適用範囲と高い官能基許容性を示す


2: 反応機構の考察

Ni(I)種の生成が光照射により促進される

アリールチアントレニウム塩へのSETが酸化的付加の鍵

Ni(I)/Ni(III)サイクルが反応の駆動力となる


3: 既存手法との比較

従来のPd触媒系では困難だった電子豊富基質に適用可能

配位子不要で室温反応が可能

合成後期での誘導体化に適した穏和な条件


4: 研究の限界点

オルト置換基質は反応範囲外

電子不足基質では副反応(脱官能基化)が競合

フッ素化反応への拡張は未達成


結論

電子豊富アリール基質のC-ヘテロ原子カップリング法を開発

単純なNi(I)/Ni(III)レドックスサイクルとアリールチアントレニウム塩の組み合わせが鍵


将来の展望

医薬品合成や材料科学への応用が期待される

今後の課題:反応機構の詳細解明と基質適用範囲の更なる拡大

2024年6月18日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0045~

論文のタイトル: Ni-Catalyzed Electro-Reductive Cross-Electrophile Couplings of Alkyl Amine-Derived Radical

著者: Lars J. Wesenberg, Alessandra Sivo, Gianvito Vilé, Timothy Noël

雑誌: The Journal of Organic Chemistry

出版年: 2023


背景

1: 研究の背景

従来の金属触媒クロスカップリング反応は、主に平面的な化合物の合成に重点が置かれていた

近年、立体的な医薬品候補化合物の開発ニーズから、sp3を豊富に有する化合物の合成法開発が重要視される 


2: 未解決の問題点と研究目的  

交差求電子剤カップリング反応は当量の末端還元剤を必要とする

特に、アルキルピリジニウム塩(Katritzky塩)とハロゲン化アリールの直接的なクロスカップリングが未解決


3: 期待される成果

アミン由来のラジカル前駆体とアリールヨウ化物のニッケル触媒電気化学的カップリング反応の開発

持続可能で廃棄物の少ない新規合成手法の構築


方法

1: 研究デザイン

最適化実験を通じた反応条件の検討 

基質スコープの評価

シクロヘキシルアミン誘導体とアリールヨウ化物の組み合わせ


2: 基質一般性の検討

様々なアリールヨウ化物の評価

種々の二級アルキルアミン誘導体の検証  


3: 分析手法

NMR、単離収率

統計的手法によるデータ解析


結果

1: 代表的な基質の反応

シクロヘキシルアミン誘導体から様々な置換基をもつアリールベンゾエート誘導体が合成可能

電子求引性、電子供与性、ヘテロ環状置換基が許容される

種々の二級アルキルアミン誘導体(線状、分岐状、環状)からカップリング生成物が得られる


2: 応用的な反応例

保護されたアミノ酸や医薬品骨格の導入も可能

反応は非保護のアルコール基の存在下でも進行

メントールとエストラジオールのそれぞれから誘導された複雑な分子骨格への適用も可能


考察

1: 電気化学的手法の利点

廃棄物削減、持続可能性

ニッケル触媒系と電極の最適化による反応効率の向上


2: 先行研究との比較

従来法に比べ、有毒な還元剤が不要なグリーンな手法

フローケミストリーへの展開により、連続的な製造が可能に


3: 反応機構の考察

カトリツキー塩の一電子還元によりアミンラジカルカチオン種が発生

ラジカルカチオンがニッケル触媒に酸化的付加し、ニッケル(III)中間体を形成

ニッケル(III)中間体がアリールヨウ化物と酸化的付加してニッケル(III)中間体となる

高原子価ニッケル種から還元的除去が進行し、目的生成物と再酸化されたNi(I)種を与える

生成したNi(I)種が電極で還元されてNi(0)種に戻る

このNi(0)種がさらにカトリツキー塩を還元してサイクルが継続する

適切な配位子選択がラジカル捕捉の効率化に重要


4: 本手法の限界点

一級アミン誘導体への適用

ラジカルカチオン捕捉が遅い場合、アミンラジカルの二量化副反応が競合


結論

アミン由来ラジカルとアリールハロゲン化物の新規クロスカップリング反応の確立

持続可能な合成手法への貢献


将来の展望

医薬品や材料合成への応用が期待される

他の基質クラス(ケトン、アルデヒドなど)への適用拡大の可能性

本手法の工業的応用に向けたスケールアップ研究の必要性

フロー電気化学的手法の検討によるさらなる効率化が期待される


2024年5月21日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0034~

論文のタイトル: Tritiation of aryl thianthrenium salts with a molecular palladium catalyst

著者: Da Zhao, Roland Petzold, Jiyao Yan, Dieter Muri, Tobias Ritter

雑誌: Nature

巻: Vol. 600, 16 December

出版年: 2021


背景

1: 研究の背景

放射性同位体トリチウム(3H)ラベル化は医薬品の体内動態研究に重要

これまでは不均一系触媒を用いた水素化的ハロゲン脱離が主流

反応性と選択性に課題があった


2: 未解決の問題点

従来法では医薬品に存在する官能基が還元されてしまう問題があった

均一系遷移金属触媒は官能基耐性に優れるが、水素活性化が難しい


3: 研究の目的

新規なチアントレニウム塩を前駆体として用いる均一系パラジウム触媒による水素活性化反応を開発

医薬品の3Hラベル化への応用が期待される


方法

1: 研究デザイン

アリールチアントレニウム塩を基質とした均一系パラジウム触媒存在下での3H2による水素化的3Hラベル化反応


2: 反応条件の最適化

置換基や官能基の許容性評価


3: 反応機構の考察

反応速度解析 

速度論的重水素同位体効果の測定


4: 放射性同位体(RI)を用いるトレーサー実験

3Hラベル化収率

位置選択性の評価


結果

1: 反応結果

ビフェニル誘導体のチアントレニウム塩が高収率で目的の3H体を与えた

ハロゲン化アリールやトリフラートでは反応が進行しない


2: 基質一般性 

電子豊富および電子不足のチアントレニウム塩が良好な基質となった

ヘテロ環、アミド、エステル、ニトロ基などの官能基を許容


3: 選択性 

3Hラベル化収率が高く、位置選択性に優れていた

既存の水素同位体交換法と比較して単一生成物が得られた


考察  

1: 水素化

チアントレニウム基はパラジウム(II)への配位が弱く、水素分子との反応が可能に

触媒的に生成するパラジウム水素化種がキー中間体と考えられる


2: 反応機構

速度論的重水素同位体効果から、H2分子の酸化的付加が反応の律速段階である可能性が高い

ハロゲン化物や擬ハロゲン化物では反応しないことから新規な活性化機構が示唆された


3: 本手法の優位性   

均一系触媒の化学選択性の高さにより、不均一系触媒では問題となる官能基の還元が抑えられる

トリフラートのような弱く配位するアニオンによる活性触媒の被毒が観察されたことから、チアントレニウム塩の溶解度調節が重要な因子である可能性が示された  

本反応は空気や水分存在下でも実施可能であり、ラベル化合成に実用的


4: 限界点

一方で一級アミンへの適用が困難な点が今後の課題

小分子医薬品の複雑な構造への適用に制限がある点が本反応の限界


結論

チアントレニウム塩を出発物質とする分子内パラジウム触媒による新規な均一系3Hラベル化反応が開発された

官能基耐性と位置選択性に優れており、医薬品の放射性トレーサー合成に有用


将来の展望

反応機構の解明と条件検討により、さらなる適用範囲の拡大が期待される

2024年5月19日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0032~

論文のタイトル: Deciphering the dichotomy exerted by Zn(II) in the catalytic sp2 C–O bond functionalization of aryl esters at the molecular level

著者: Craig S. Day, Rosie J. Somerville, Ruben Martin

雑誌: Nature Catalysis

出版年: 2021


背景

1: 研究の背景

ニッケル触媒によるC-O結合の活性化と新規C-C結合形成反応

簡便な前駆体から分子の複雑性を迅速に構築できる有用な手法

パラジウムや白金とは異なる単一電子経路が可能

通常の芳香族ハロゲン化物に代えてフェノール由来の基質が利用可能


2: 未解決の問題

ニッケル触媒によるアリールエステルのC-O結合活性化の機構は不明

単座配位子ニッケル錯体の酸化的付加中間体の同定が未解明

添加剤の役割(特にZn(II))が不明確


3: 研究の目的 

アリールエステルのニッケル酸化的付加中間体の同定と反応性評価

単座配位子ニッケル錯体におけるZn(II)の役割を解明

触媒サイクルにおける非生産的経路の特定


方法

1: 実験手法

ニッケル(0)錯体とアリールエステルの反応によるモノ核酸化的付加錯体の合成

X線結晶構造解析による酸化的付加中間体の同定  

種々の分光学的手法(NMR等)を用いた反応性評価


2: 触媒と基質  

モノデンテートリシクロヘキシルホスフィン配位子を有するニッケル錯体

非πひずみアリールエステル基質


3: 主要評価項目

酸化的付加中間体の同定と構造決定

中間体の反応性(転位反応、脱離反応等)

Zn(II)存在下での反応経路の変化


4: 評価法

NMRスペクトル

X線結晶構造解析データの詳細な解析

反応条件と生成物分布から反応経路の推定


結果

1: κ1-O結合モード酸化的付加錯体の単離と構造決定


2: κ2-O結合モード酸化的付加錯体の単離と同定  


3: Ni(I)カルボキシラート錯体の単離と分解経路の解明


考察

1: モノデンテート配位子下でのκ2-O結合モード酸化的付加中間体の同定

従来のκ1-O結合モードとは異なる配位形態  

より反応性が高いと予想される


2: Zn(II)の二面的役割

生産的な金属交換反応が進行する一方で

配位子の脱離、ニッケル-亜鉛クラスターの生成による非生産的経路も併存


3: 先行研究との比較

単座配位子系での酸化的付加中間体の同定は初例  

ニッケル-亜鉛クラスターの単離と構造決定に成功


4: 研究の限界

モデル反応を用いた基礎研究

実際の触媒反応条件下での挙動は不明確


5: 溶媒効果の解明  

配位溶媒の添加によりZn(II)との非生産的経路が抑制されることを発見

触媒活性の向上が期待される


結論

ニッケル触媒によるアリールエステルのC-O結合活性化反応の機構解明に成功

モノデンテート配位子下での酸化的付加中間体の同定に世界で初めて成功

Zn(II)が生産的・非生産的の両経路を制御する二面的役割を明らかに

配位溶媒の添加が非生産的経路を抑制し、触媒活性向上が期待される


将来の展望

これらの知見は、より効率的な新規C-C結合形成反応の開発に貢献する

2024年5月6日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0019~

 論文のタイトル: Interpreting Oxidative Addition of Ph−X (X = CH3, F, Cl, and Br) to Monoligated Pd(0) Catalysts Using Molecular Electrostatic Potential

著者: Bai Amutha Anjali, Cherumuttathu H. Suresh

雑誌: ACS Omega 

巻: 2, 4196-4206

出版年: 2017年


背景

1: 研究の背景

パラジウム触媒は有機合成において非常に重要

酸化的付加反応が触媒サイクルの開始段階で決定的

配位子選択が酸化的付加の活性化エネルギーに影響


2: 未解決の問題点

酸化的付加における配位子効果の定量的評価が困難

効率的な触媒設計のための電子的指標がない  


3: 研究の目的

分子静電ポテンシャル(MESP)を用いて金属中心の電子密度を評価

MESPと配位子効果・酸化的付加の活性化エネルギーの相関を確立

MESPに基づく合理的な触媒設計手法を提案


方法

1: 計算手法

B3LYP/BS1レベルの密度汎関数理論

50種の配位子(リン、NHC、アルキン、アルケン)

Ph-X (X = Br, Cl, F, Me)の酸化的付加反応の計算


2: 解析手法 

配位子単独の分子静電ポテンシャル(MESP)最小値(Vmin)を計算  

金属中心のMESP値(VPd)を算出

VPdと配位子効果、活性化エネルギーの相関解析


3: 計算システム

Pd(L)2および単核Pd(L)種

配位子置換基効果の検討

酸化的付加の経路と活性化エネルギーの算出


結果

1: 配位子のMESP(Vmin)解析結果

リン置換基: Cy3 > tBu3 >  alkyl > (SiMe3)3 > aryl > 電子求引性置換基

NHC: NMe2H2 > NH2H2 > NMe2(COOMe)2 > NMe2X2 (X = 電子求引性置換基)

アルキン・アルケン: アミノ > アルキル > フェニル > 水素 > ハロゲン


2: 金属中心のMESP(VPd)解析結果

電子供与性配位子でVPdが負に大きい

VPdと配位子解離エネルギーの相関性は低い


3: 酸化的付加の活性化エネルギー比較結果

Ph-F, Ph-Meが最も高いEact 

Ph-Brが最も低いEact

電子供与性配位子でEactが小さい


考察  

1: 配位子効果の分子静電ポテンシャル(MESP)解釈

Vminが負に大きいほど配位子は電子供与性

VPdが負に大きいほど金属は電子過剰

電子過剰金属種は酸化的付加を受けやすい


2: VPdとEactの相関

VPdとEactに強い直線相関

配位子の電子供与能がEactを決定  

VPdからEactの定量的予測が可能


3: 指標の有用性

VPdは酸化的付加の反応性指標として有用

配位子設計によりVPdを制御可能

効率的な酸化的付加触媒の分子設計に応用できる


4: 限界点

アニオン性Pdや3配位Pd種など他の系への適用


結論

分子静電ポテンシャル(MESP)で金属中心の電子状態を定量評価できる

VPdと活性化エネルギーに強い相関

配位子設計によるVPd制御が望ましい触媒を提供

効率的な酸化的付加触媒の合理設計法を確立


今後の展望

実験的検証

他の反応や物性予測への拡張が期待される

2024年5月4日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0016~

論文のタイトル: Inorganic Triphenylphosphine

著者: Adam D. Gorman, Jonathan A. Bailey, Natalie Fey, Tom A. Young, Hazel A. Sparkes, Paul G. Pringle

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

巻: 57 巻

出版年: 2018


背景

1:  研究の背景

炭素-炭素 (CC) 結合と窒素-ホウ素 (BN) 結合は等電子的

BN化合物はCC化合物と類似した構造を持つが、一般的に反応性が高い

ボラジン (B3N3H6) は「無機ベンゼン」と呼ばれる代表的なBN化合物


2: 未解決の問題 

ボラジン誘導体の化学は未だ十分に解明されていない

リン原子を含むボラジン化合物は合成例がない  


3: 研究の目的

リン原子を含む最初の高分子量ボラジン化合物 tris(2-borazinyl)phosphine (PBaz3) の合成

PBaz3の構造と性質をトリフェニルホスフィン(PPh3) と比較


方法

1: 研究デザイン 

合成実験と物性解析


2: 合成方法

クロロボラジンと P(SiMe3)3 からPBaz3 を合成 

単離収率最大 97%


3: 分析手法  

NMR分光法 (31P, 11B, 1H)

X線結晶構造解析

理論計算 (DFT, DLPNO-CCSD(T))  


4: 物性評価

ルイス塩基性 (BH3との反応)  

酸化反応性 (H2O, ONMe3との反応)


結果

1: PBaz3とPPh3の構造比較

分子構造は類似しているが、P-B結合距離がP-C結合より長い

立体配座が大きく異なる


2: ルイス塩基性 

PBaz3とPPh3のルイス塩基性はほぼ同等

BH3との平衡定数から判断


3: 反応性の違い

PBaz3は水と定量的に反応してPH3を生成するが、PPh3は不活性

PBaz3はONMe3と反応してP(OBaz)3を与えるが、PPh3はそうならない


考察  

1: PBaz3とPPh3の構造の違い 

P-B結合はP-C結合よりも極性が高く、P周りの立体配座が変化する

計算化学的にP原子のlone pairの性質が異なることが示唆される


2: ルイス塩基性について

PBaz3とPPh3のlone pairのエネルギー準位は類似しているため、ルイス塩基性も同等  


3: 反応性の違いの起源

P-B結合は比較的強いが、生成物中のB-O結合がさらに強力であるため、反応が進行する


4: 先行研究との関係  

ボラジン誘導体の置換反応は付加-脱離機構で進行することが知られている

本研究結果はBN/CC化合物の反応性の違いを裏付ける


5: 限界点

PBaz3は極めて不安定で実用化は困難

より安定な単一ボラジニル置換体の開発が必要


結論

トリフェニルホスフィンの「無機版」PBaz3を初めて合成し、その構造と性質を解明した

PBaz3はPPh3とルイス塩基性は類似するが、酸化的付加反応性が顕著に異なる 

その差異は、強力なB-O結合の生成によるものと示唆された

本研究はBN/CC化合物の特性と反応性の違いを例証している


今後の展望

PBaz3よりも安定な類縁体の開発が望まれる

2024年4月29日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0009~

論文のタイトル: Stereodivergent, Kinetically Controlled Isomerization of Terminal Alkenes via Nickel Catalysis

著者: Camille Z. Rubel, Anne K. Ravn, Hang Chi Ho, Shenghua Yang, Zi-Qi Li, Keary M. Engle, Julien C. Vantourout

雑誌: Angewandte Chemie International Edition 

出版年: 2024


背景 

1: 研究の背景

アルケンは合成化学で重要な中間体

内部アルケンの合成は末端アルケンよりも困難

従来の金属触媒的アルケン異性化は一般性や機能性に乏しい


2: 未解決の問題点

アルケン異性化による立体選択的内部アルケン合成は難しい

E/Zの立体選択性を実現する手法がほとんどない  


3: 研究の目的

ニッケル触媒による末端アルケンのE/Z選択的一炭素転位を実現

簡便な条件下で様々な基質に適用可能


方法

1: 研究デザイン

ニッケル触媒を用いた末端アルケンの立体選択的異性化反応


2: 基質と条件

各種末端アルケン

室温、市販の試薬を使用


3: 評価項目  

生成物収率

Z/E選択性

基質一般性


結果

1: Z選択的反応条件

ニッケル前駆体Ni(COD)2、ジホスフィンリガンドdppf、ヨウ化アリールを使用


2: E選択的反応条件

ニッケル前駆体Ni(COD)2、モノホスフィンリガンドCy3PのHBF4塩を使用  


3: 基質適用範囲

多様な官能基を有する基質に対し高収率と選択性

活性化/非活性化アルケン、ヘテロ原子α位のアルケンなど


考察  

1: 主要な知見

両プロトコルはNi-H体を経る挿入/脱離機構

Z選択的ではNiII-H、E選択的ではNiIカチオン種が活性種


2: Z選択性の知見

ヨウ化アリールの酸化的付加が重要

嵩高いNi種が生じZ選択的に


3: E選択性の知見

HBF4塩の役割が鍵

中程度のリガンド嵩高さで過剰異性化を抑制


4: 先行研究との比較

既存手法より広い適用範囲と高い選択性

条件の簡便性が本手法の利点


5: 限界点

いくつかの基質で反応性が低い

スケールアップ研究が必要


結論

新規なニッケル触媒によるアルケン異性化プラットフォームを開発

室温で様々な基質に対しE/Z選択的に適用可能  

リガンド設計により立体選択性を制御


今後の展望

精密合成や創薬などへの応用が期待される

2017年12月17日日曜日

oxidative addition(酸化的付加)について~その1~

酸化的付加と聞くと有機化学の人なら、真っ先にアリールハライドの遷移金属への酸化的付加を思い浮かべるでしょうか。
あるいは最近ですと、C―Hの酸化的付加でしょうか。
なにはともあれ、今日は酸化的付加について考えたことを、つらつらと書き連ねようと思う次第です。

酸化的付加って、現象としてイメージがわきにくいと思うんですけど、例えばオレフィンのシクロプロパン化って、実際には反応の前後で酸化還元は起きていないわけですが、視点を変えれば、現象として酸化的付加に近いと思うんですよね。
すなわち、ジクロロカルベンの炭素を金属、塩素を配位子とみなせば、オレフィンの金属への酸化的付加と考えることができるかと思います。
(厳密に言えば、何から何まで全く違うのですが、あくまでイメージとして統一的な解釈を目指す上での話ですのでご容赦ください)

一方で、酸化的付加を熱力学の視点で考えると、酸化的付加の前後では2分子→1分子なので、エントロピーは減少していることになります。
しかしながら、1つの結合を切断する代わりに2つの結合ができるので、そこでエンタルピーの有利さがあれば、酸化的付加は進行すると考えられますね。
あるいは、あらかじめ金属に配位子が(あるいは配位性の溶媒が)ついていれば、その配位子が解離することでエントロピーの不利さを解消していることもありますね。

まぁ、年末を前にしてそんな感じで久しぶりに少し空き時間ができたので更新してみた次第です。

2015年2月22日日曜日

非対称オルト‐ターアリールの合成

皆さんはターアリール骨格を作れと言われたらどのような手法を考えますか?

やはり一番最初に浮かぶのはカップリング反応による合成でしょうか
異なる周期のハロゲン(例えば塩素とヨウ素)を有するベンゼンを基質として用いることで、
一段回目は弱い条件で酸化的付加が可能な位置でカップリングを行い、
二段回目は強い条件で酸化的付加が進行する位置でカップリングを行えば
非対称ターアリールを合成することができますね(式1)。



あるいは、学術領域での合成ならベンザインを利用する方法もありますね(式2)。
他にも、最近ではC-Hアリール化を用いる方法もありますね。
僕なりに思うC-H活性化型反応のすごい点はまた後日語ろうと思うので、
今日は割愛します。

さて、タイトルに述べた非対称オルト‐ターアリールの合成ですがけっこう難しいんですね。
この非対称オルト‐ターアリールを作れると、
これまでよりもっと多様なトリフェニレンの合成と
トリフェニレンを起点とする分子の合成が可能になり、
さらにはトリフェニレンを置換基として利用できるようになりますね。