2024年7月5日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0061~

論文のタイトル: Mechanistic Investigation of Ni-Catalyzed Reductive Cross-Coupling of Alkenyl and Benzyl Electrophiles(メカニズム調査:アルケニルおよびベンジル求電子剤のNi触媒還元的クロスカップリング)

著者: Raymond F. Turro, Julie L.H. Wahlman, Z. Jaron Tong, Xiahe Chen, Miao Yang, Emily P. Chen, Xin Hong, Ryan G. Hadt, K. N. Houk, Yun-Fang Yang*, and Sarah E. Reisman*

雑誌: J. Am. Chem. Soc. 

巻: 145, 14705−14715

出版年: 2023年


背景

1: 研究の背景

Ni触媒還元的クロスカップリング(RCC)はC(sp2)−C(sp3)結合形成に有用

有機求電子剤から直接クロスカップリング生成物を得られる

金属粉末や有機電子供与体が還元剤として使用される

電気化学的にも駆動可能


2: 未解決の課題

クロスカップリング生成物の選択性が課題

各求電子剤を順次酸化的付加する触媒が必要

または各カップリングパートナーを別々に活性化する触媒系が必要

高選択性を示すNi触媒系がいくつか開発されている


3: 研究目的

2つのキラルビス(オキサゾリン)類 L1·Ni触媒非対称還元的アルケニル化(ARA)反応のメカニズム調査

均一系TDAE駆動反応の速度論的駆動力とresting stateの決定

L1·NiIIX2前駆体触媒の酸化還元特性調査

求電子剤活性化メカニズムの解明

計算化学による立体選択性決定段階の理解


方法

1: 実験手法

サイクリックボルタンメトリー(CV)による還元電位測定

電子常磁性共鳴(EPR)分光法による還元種の分析

19F NMRによる反応モニタリング

速度論的実験(異なる過剰濃度実験、 variable time normalization analysis(VTNA)分析)


2: 計算化学

密度汎関数理論(DFT)計算(Gaussian 16、B3LYP-D3、Ni: LANL2DZ、その他の原子: 6-31G(d)

正しい波動関数が得られたことを確認するために、キーワード「stable = opt」を使用

一点エネルギーは、M06/6-311+G(d,p)-SDD レベルで計算

SMD 溶媒和モデル (solvent = DMA) を使用

計算された構造は、CYLview を使用して視覚化

遷移状態の構造と相対Gibbs自由エネルギーの計算

ラジカル捕捉のエナンチオ決定段階の解析


3: 反応条件

TDAE駆動ARA反応:NHP エステル + アルケニルブロミド

Mn駆動ARA反応:ベンジルクロリド + アルケニルブロミド

L1·NiBr2触媒、DMA溶媒、NaI添加剤使用


結果

1: TDAE駆動反応の速度論

NHPエステルに対して1次の速度依存性

アルケニルブロミドに対して0次または逆分数次の依存性

触媒濃度に対して0次の依存性(標準条件下)


2: 触媒の酸化還元特性

L1·NiIICl2L1·NiIIBr2は非可逆的な還元波を示す

TDAE還元によりL1·NiIBr種が生成

L1·NiIClはアルケニルブロミドと速やかに反応


3: 触媒休止状態と求電子剤活性化

NiII酸化的付加錯体が触媒resting stateと推定

NHPエステルはNiではなくTDAEにより還元

TMSBrがLewis酸としてNHPエステル還元を促進


考察

1: 反応機構の違い

TDAE駆動反応:NHPエステルの還元がTDAEにより行われる

Mn駆動反応:ベンジルクロリドの活性化がNiIにより行われる

両反応ともNiI/III触媒サイクルを経由


2: NHPエステル活性化の新しい知見

Lewis酸によりNHPエステルの還元電位が低下

Lewis酸の選択により還元速度を制御可能

従来の(bpy)Ni触媒系とは異なるメカニズム


3: 立体選択性の起源

ラジカル捕捉段階がエナンチオ決定段階

遷移状態の立体障害がエナンチオ選択性を決定

リガンドL1の嵩高い部分が重要な役割を果たす


4: 研究の限界

均一系TDAE反応と不均一系金属粉末反応で異なる挙動

一部の反応中間体の単離・同定が困難

計算結果は実験値を若干過大評価


結論

2つのARA反応で異なる求電子剤活性化メカニズムを解明

NHPエステル還元はLewis酸により制御可能

触媒resting stateとしてNiII-アルケニル錯体を同定

本研究はNi触媒RCC反応の最適化に指針を提供


将来の展望

反応中間体の単離と詳細な構造解析

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