論文のタイトル: Mechanistic Investigation of Ni-Catalyzed Reductive Cross-Coupling of Alkenyl and Benzyl Electrophiles(メカニズム調査:アルケニルおよびベンジル求電子剤のNi触媒還元的クロスカップリング)
著者: Raymond F. Turro, Julie L.H. Wahlman, Z. Jaron Tong, Xiahe Chen, Miao Yang, Emily P. Chen, Xin Hong, Ryan G. Hadt, K. N. Houk, Yun-Fang Yang*, and Sarah E. Reisman*
雑誌: J. Am. Chem. Soc.
巻: 145, 14705−14715
出版年: 2023年
背景
1: 研究の背景
Ni触媒還元的クロスカップリング(RCC)はC(sp2)−C(sp3)結合形成に有用
有機求電子剤から直接クロスカップリング生成物を得られる
金属粉末や有機電子供与体が還元剤として使用される
電気化学的にも駆動可能
2: 未解決の課題
クロスカップリング生成物の選択性が課題
各求電子剤を順次酸化的付加する触媒が必要
または各カップリングパートナーを別々に活性化する触媒系が必要
高選択性を示すNi触媒系がいくつか開発されている
3: 研究目的
2つのキラルビス(オキサゾリン)類 L1·Ni触媒非対称還元的アルケニル化(ARA)反応のメカニズム調査
均一系TDAE駆動反応の速度論的駆動力とresting stateの決定
L1·NiIIX2前駆体触媒の酸化還元特性調査
求電子剤活性化メカニズムの解明
計算化学による立体選択性決定段階の理解
方法
1: 実験手法
サイクリックボルタンメトリー(CV)による還元電位測定
電子常磁性共鳴(EPR)分光法による還元種の分析
19F NMRによる反応モニタリング
速度論的実験(異なる過剰濃度実験、 variable time normalization analysis(VTNA)分析)
2: 計算化学
密度汎関数理論(DFT)計算(Gaussian 16、B3LYP-D3、Ni: LANL2DZ、その他の原子: 6-31G(d)
正しい波動関数が得られたことを確認するために、キーワード「stable = opt」を使用
一点エネルギーは、M06/6-311+G(d,p)-SDD レベルで計算
SMD 溶媒和モデル (solvent = DMA) を使用
計算された構造は、CYLview を使用して視覚化
遷移状態の構造と相対Gibbs自由エネルギーの計算
ラジカル捕捉のエナンチオ決定段階の解析
3: 反応条件
TDAE駆動ARA反応:NHP エステル + アルケニルブロミド
Mn駆動ARA反応:ベンジルクロリド + アルケニルブロミド
L1·NiBr2触媒、DMA溶媒、NaI添加剤使用
結果
1: TDAE駆動反応の速度論
NHPエステルに対して1次の速度依存性
アルケニルブロミドに対して0次または逆分数次の依存性
触媒濃度に対して0次の依存性(標準条件下)
2: 触媒の酸化還元特性
L1·NiIICl2とL1·NiIIBr2は非可逆的な還元波を示す
TDAE還元によりL1·NiIBr種が生成
L1·NiIClはアルケニルブロミドと速やかに反応
3: 触媒休止状態と求電子剤活性化
NiII酸化的付加錯体が触媒resting stateと推定
NHPエステルはNiではなくTDAEにより還元
TMSBrがLewis酸としてNHPエステル還元を促進
考察
1: 反応機構の違い
TDAE駆動反応:NHPエステルの還元がTDAEにより行われる
Mn駆動反応:ベンジルクロリドの活性化がNiIにより行われる
両反応ともNiI/III触媒サイクルを経由
2: NHPエステル活性化の新しい知見
Lewis酸によりNHPエステルの還元電位が低下
Lewis酸の選択により還元速度を制御可能
従来の(bpy)Ni触媒系とは異なるメカニズム
3: 立体選択性の起源
ラジカル捕捉段階がエナンチオ決定段階
遷移状態の立体障害がエナンチオ選択性を決定
リガンドL1の嵩高い部分が重要な役割を果たす
4: 研究の限界
均一系TDAE反応と不均一系金属粉末反応で異なる挙動
一部の反応中間体の単離・同定が困難
計算結果は実験値を若干過大評価
結論
2つのARA反応で異なる求電子剤活性化メカニズムを解明
NHPエステル還元はLewis酸により制御可能
触媒resting stateとしてNiII-アルケニル錯体を同定
本研究はNi触媒RCC反応の最適化に指針を提供
将来の展望
反応中間体の単離と詳細な構造解析
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