論文のタイトル: Polycyclic bis(amido)cyclodiphosphazane complexes of antimony(III) and bismuth(III): syntheses, molecular structures and solution behaviour(ポリサイクリックビス(アミド)シクロジホスファザンのアンチモン(III)およびビスマス(III)錯体:合成、分子構造、溶液挙動)
著者: Daniel F. Moser, Ingo Schranz, Michael C. Gerrety, Lothar Stahl, Richard J. Staples
雑誌: J. Chem. Soc., Dalton Trans.
ページ: 751–757
出版年: 1999年
背景
1: 研究の背景
リン系アミドは良く知られた無機化合物群
重元素(Sb, Bi)のアミド類縁体は少ない
重元素アミド化合物は不安定で応用が限られていた
有機金属化合物や固体材料の前駆体として注目
2: 研究の目的
重元素(Sb, Bi)のアミド錯体の合理的合成法の確立
予測可能な構造を持つ単量体錯体の合成
配位空間を制御した新規錯体の設計
方法
1: 研究のアプローチ
ビス(アミド)置換無機複素環を配位子として使用
アンチモンおよびビスマスの3価錯体を合成
X線結晶構造解析による分子構造の決定
NMR分光法による溶液中の挙動解析
2: 合成方法
SbCl3やBiCl3と[(PNtBu)2(NRLi・THF)2]の反応
得られた塩化物錯体からの置換反応
置換基: N3-, OPh-, N(SiMe3)2-
トルエン溶媒中で結晶化
3: 構造解析
X線単結晶構造解析による分子構造の決定
CCD検出器付きBruker SMART回折計を使用
データ収集温度: 193 K
SHELXS-90およびSHELXL-97プログラムで構造精密化
結果
1: 錯体の分子構造
歪んだCs対称性を持つ多環式かご型構造
平面状シクロジホスファザン環を基部に持つ
重元素(SbまたはBi)が環上方に位置
3配位ピラミッド型構造の重元素中心
2: 結合長の比較
Sb-N結合長: 2.069-2.120 Å (アミド結合)
Sb-N結合長: 2.421-2.656 Å (環窒素からの配位結合)
Sb-Cl結合長: 2.439-2.492 Å
Sb-N3結合長: 2.199 Å
3: 溶液中の挙動
室温NMRでtert-ブチルイミノ基が非等価
加熱により信号がブロード化・融合
ビスマス錯体は室温以下で信号融合
ピラミダル反転による動的挙動を示唆
4: ピラミダル反転の活性化エネルギー
アンチモン錯体: >100 kJ/mol
ビスマス錯体: 53.6 kJ/mol
フェニル置換体: 77.4 kJ/mol
中心元素と配位子の嵩高さに依存
考察
1: 構造的特徴
多環式コア構造が錯体の安定性に寄与
嵩高い置換基が重元素の配位環境を制御
シクロジホスファザン環が配位空間を制限
2: 動的挙動
ピラミダル反転は分子内過程
活性化エネルギーは配位子と中心元素に依存
有機アンチモン・ビスマン化合物と類似の挙動
3: 研究の限界点
ビスマス錯体の合成収率が低い (30-40%)
X線構造解析で一部の錯体に disorder が見られた
溶液中の挙動解析が限られた温度範囲
結論
新規アンチモン・ビスマムアミド錯体の合成に成功
X線構造解析により分子構造を決定
溶液中でのピラミダル反転挙動を確認
重元素アミド化学の新たな可能性を提示
将来の展望
より安定な重元素アミド錯体の設計と合成
錯体の触媒活性や材料特性の探索
非対称なシクロジホスファザン配位子の開発
他の重元素(As, Te)への応用可能性の検討
理論計算による反転機構のさらなる解明
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