2024年7月14日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0070~

論文のタイトル: Ni(2,2':6',2''-terpyridine)2: a high-spin octahedral formal Ni(0) complex

著者: Natalia Cabrera-Lobera, Estefanía del Horno, M. Teresa Quirós, Elena Buñuel, Magali Gimeno, William W. Brennessel, Michael L. Neidig, José Luis Priegoe, Diego J. Cárdenas 

雑誌: Dalton Transactions

出版年: 2024


背景

1: 研究背景

Niの錯体は多様な酸化状態を取り得る

単純な基質の活性化や複雑な有機化合物合成に有用

特にNi(I)誘導体が重要な中間体として注目されている

2,2':6',2''-ターピリジン(tpy)はNi触媒反応で重要なリガンド


2: 未解決の問題

Ni(tpy)2錯体の合成と構造解析が報告されていたが、詳細な分光学データや結晶構造は未解明

先行研究では四面体構造の反磁性錯体と推定されていた

実際の電子構造や磁気的性質は不明確


3: 研究目的  

Ni(0)前駆体とtpyの反応で生成するNi(tpy)2錯体を単離・構造決定

固体状態および溶液中での磁気的性質を解明

DFT計算により電子構造を明らかにする


方法

1: 錯体の合成

Ni(cod)2とtpyをトルエン中で室温反応

ペンタンを蒸気拡散させ、-25°Cで結晶化


2: 構造解析  

X線結晶構造解析

1H NMRスペクトル測定(d8-THF中)

EPRスペクトル測定

Evans法による有効磁気モーメント測定


3: 磁化率測定

固体試料の温度依存磁化率測定(2-298 K)


4: 理論計算

DFT計算(M06-2x/6-31G(d)レベル)

単量体および二量体モデルで異なるスピン多重度を検討


結果

1: 結晶構造

八面体構造のNi(tpy)2錯体を単離

Ni-N結合長:2.127(7) Å (外側), 1.985(4) Å (内側)

ピリジン環間C-C結合長:1.456(12) Å 


2: 磁気的性質

溶液中: μeff = 4.9(2)μB (THF), 5.2(2)μB (トルエン) 

S = 2の基底状態を示唆

固体状態: 磁気モーメントは298 Kで3.8μBから2 Kで1.4μBに減少


3: 理論計算結果

単量体: 五重項状態(S=2)が最安定

二量体: π-スタッキング相互作用を持つ構造が安定

反強磁性的カップリングの可能性を示唆


考察

1: 電子構造の解釈

結晶構造とDFT計算から、Ni(II)中心に2つのラジカルアニオンtpyリガンドが配位した構造

[Ni2+(tpy-•)2]0として記述可能


2: 磁気的性質の考察

溶液中ではS=2の高スピン状態

固体状態では分子間相互作用による反強磁性的カップリングの可能性


3: 他の遷移金属錯体との比較

Ti, Cr, Mo, W錯体は反磁性(S=0)

Fe, Ru錯体はS=1を示す

Niは特異的にS=2を示す


4: 研究の意義

新規な高スピンNi(0)錯体の発見

リガンドによる電子非局在化の重要性を示唆

触媒前駆体としての可能性


5: 研究の限界

反応条件(溶媒、温度)の影響が十分に検討されていない

触媒活性の評価が行われていない


結論

八面体構造の高スピンNi(tpy)2錯体を初めて単離・構造決定

リガンドへの電子移動によりNi(II)中心が生成

固体状態では分子間π-スタッキングによる反強磁性的相互作用の可能性


将来の展望

新規な触媒前駆体や機能性材料への応用が期待される

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