著者: Hiroshi Sampei, Hiromu Akiyama, Koki Saegusa, Masahiro Yamaguchi, Shuhei Ogo, Hiromi Nakai, Tadaharu Ueda, Yasushi Sekine
雑誌: Dalton Transactions
出版年: 2024年
背景
1: 研究背景
ポリオキソメタレート(POM)は原子レベルで精密な構造を持つナノクラスター
POMの性質は部分的な原子置換や異性化によって修飾可能
POMの配位と性質の関係は定量的に解明されていない場合が多い
POMは電子デバイス、触媒、センサーなどへの応用が研究されている
2: 研究の重要性
POMのプロトン化・脱プロトン化は触媒活性に重要
水素化、脱水素化、酸素還元、水素発生などの反応に関与
分子吸着・脱着刺激のモデル材料としても重要
配位環境の制御によるプロトン化特性の調整が応用範囲を広げる可能性
3: 研究の目的
Keggin型POMのα-およびβ-異性体のプロトン化位置とエネルギーを支配する因子の解明
コア構造XO4とシェル構造M12O36の相互作用の影響を調査
実験的に合成・単離が困難なβ-異性体の性質予測方法の確立
方法
1: 計算手法
密度汎関数理論(DFT)計算を実施
Gaussian16 revision C.01を使用
M06汎関数を交換相関汎関数として選択
基底関数セット:SDD(添加金属M)、cc-pVDZ(他の元素)
2: モデル構築
α-およびβ-異性体のKeggin型POM [XM12O40]z- をモデル化
X: B(III), Al(III), Ga(III), Si(IV), Ge(IV), P(V), As(V), S(VI)
M: Mo(VI), W(VI)
溶媒効果:PCM法を用いてアセトニトリルをモデル化(ε = 36.64)
3: 解析手法
自然結合軌道(NBO)解析の実施
分子静電ポテンシャル(MEP)表面の可視化
プロトン化エネルギーの計算と回帰分析
HOMO-LUMOギャップの解析
結果
1: プロトン化サイト
α-異性体:全電荷zの増加に伴いプロトン化サイトが変化
β-異性体:プロトン化サイトの変化は観察されず
O22eサイト:電子的効果によりプロトン化に適している
O12サイト:構造的効果により安定なプロトン化を形成
2: プロトン化エネルギー
POMの全電荷zとヘテロ原子のイオン半径に依存
添加金属種Mの影響は明確ではない
β-XMo12異性体が最も低いプロトン化エネルギーを示す
3: 回帰分析結果
POMの全電荷zと結合原子価の和を用いた回帰分析
α-異性体のデータからβ-異性体のプロトン化エネルギーを高精度で予測可能
R2値 ≥ 0.997 を達成
考察
1: プロトン化サイトの決定要因
添加金属種Mの影響:疑似ヤーンテラー効果とM-O結合の共有結合性
POMの全電荷zの影響:電子密度分布の変化
β-異性体の特徴:O22eの共有結合的プロトン結合とO12の水素結合形成
2: プロトン化エネルギーの支配因子
POMの全電荷z:クラスター全体の電子状態を反映
ヘテロ原子と結合する酸素と金属間Oh-Mの結合長:コア-シェル相互作用の強さを表す
これらの因子はα-異性体からβ-異性体の性質予測に有効
3: HOMO-LUMOギャップへの応用
プロトン化エネルギーを支配する因子がHOMO-LUMOギャップも制御
光化学的・酸化還元反応の特性予測に有用
コア-シェル相互作用の重要性を示唆
4: 研究の限界点
実験値との直接比較が限られている
複数プロトンの吸着に関する検討が不足
他のナノクラスターへの適用可能性の検証が必要
結論
Keggin型POMのプロトン化特性は全電荷とコア-シェル相互作用に支配される
α-異性体のデータからβ-異性体の性質を高精度で予測可能
この知見はPOMの物理化学的性質の制御に貢献
将来の展望
他のコア-シェル構造ナノクラスターへの応用が期待される
複数プロトン吸着や他のナノクラスターへの適用性の検証が今後の課題
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