論文のタイトル: Syntheses and Structures of Two Dimethyl Diselenide–Diiodine Adducts and the First Well Characterized Diorgano Disulfide–Nitrosonium Adduct(ジメチルジセレニド-ジヨウ素付加体の合成と構造、および初めて構造決定されたジオルガノジスルフィド-ニトロソニウム付加体)
著者: Birgit Mueller, Teemu T. Takaluoma, Risto S. Laitinen, Konrad Seppelt
雑誌: European Journal of Inorganic Chemistry
巻: 4970-4977
出版年: 2011年
背景
1: 研究の背景
16族元素(S, Se, Te)を含む有機分子の付加体形成が注目されている
ジヨウ素や二トロソニウムとの付加体に関心が高まっている
生物学、材料科学、産業化学など幅広い分野に応用可能性がある
2: 未解決の課題
ジメチルジセレニド-ジヨウ素付加体の構造が未解明
ジオルガノジスルフィド-ニトロソニウム付加体の特性が不明
これらの付加体形成メカニズムの理解が不十分
3: 研究の目的
新規ジメチルジセレニド-ジヨウ素付加体の合成と構造解析
初のジオルガノジスルフィド-ニトロソニウム付加体の構造解析
付加体形成のメカニズムを理論計算により解明
方法
1: 合成と結晶構造解析
ジメチルジセレニドとジヨウ素の反応による付加体合成
X線結晶構造解析による分子構造の決定
単結晶X線回折装置を使用(Bruker Smart CCD 1000)
2: ニトロソニウム付加体の合成
ジ-ネオペンチルジスルフィドとニトロシルトリフラートの反応
低温(‐80°C)での結晶化と構造解析
溶液中での色変化の観察
3: 理論計算
密度汎関数理論(DFT)計算によるジスルフィド-NO+付加体の安定性評価
M06L/def2-TZVPPレベルでの計算
電子密度分布とNBO解析による結合性の評価
結果
1: ジメチルジセレニド-ジヨウ素付加体の構造
[Me2Se2·2I2]と[Me2Se2·I2]の2種類の付加体を同定
線形Se-I-I配置を持つ中性電荷移動「スポーク」型付加体
I-I結合長の伸長とSe-I間の配位結合の形成を確認
2: ジ-ネオペンチルジスルフィド-ニトロソニウム付加体
[C10H22S2·NO+ TfO‐]の結晶構造を決定
S-S-N-O四員環構造の形成を確認
S-N、S-O間の相互作用を観測(結合長: S-N 2.3Å, S-O 2.9Å)
3: 理論計算結果
ジスルフィド-NO+付加体の安定性を比較評価
電子供与性置換基が付加体形成を有利にする傾向
電荷移動が付加体形成の主要メカニズムであることを確認
考察
1: ジメチルジセレニド-ジヨウ素付加体の特徴
Se-I-I角度がほぼ180°で強い異方性を示す
電荷移動によりI-I結合が弱まり、Se-I間に配位結合が形成
付加体の化学量論比により構造が変化
2: ジスルフィド-ニトロソニウム付加体の性質
ジスルフィドのC-S-S-C二面角が160°に増大
NO+との相互作用により四員環構造を形成
溶液中と固体状態で色変化を示す動的挙動
3: 付加体形成のメカニズム
硫黄のローンペアからNO+のLUMO(π*)への電子移動が主要因
電子供与性置換基が硫黄上の正電荷を安定化
π軌道の重なりにより S-S 結合が短縮
4: 研究の限界点
理論計算は気相中で行われ、溶媒効果が考慮されていない
一部の付加体で結晶化が困難で構造決定ができなかった
動的挙動の詳細なメカニズムは未解明
結論
新規ジメチルジセレニド-ジヨウ素付加体の構造を解明
初のジオルガノジスルフィド-ニトロソニウム付加体を構造解析
電荷移動が付加体形成の主要メカニズムであることを確認
将来の展望
今後は溶媒効果の考慮や動的挙動の解明が課題
これらの知見は新規材料設計や生体内相互作用の理解に貢献
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