2024年7月20日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0075~

論文のタイトル: Organocatalytic desymmetrization provides access to planar chiral [2.2]paracyclophanes(有機触媒による不斉非対称化が面不斉[2.2]パラシクロファンへのアクセスを可能にする)

著者: Vojtěch Dočekal, Filip Koucký, Ivana Císařová & Jan Veselý

雑誌: Nature Communications

巻: 15, 3090

出版年: 2024


背景

1: 面不斉[2.2]パラシクロファンの重要性

[2.2]パラシクロファンは2つのベンゼン環がエチレン架橋で結合した化合物

高い立体配座安定性: 最大200°Cまで保持

不斉合成の配位子や触媒として幅広い応用

材料科学でポリマー、エネルギー材料、色素として利用


2: 既存合成法の限界

光学活性体合成の課題: 分割法や速度論的分割に限定、収率50%以下

ラセミ体の光学分割: 時間とコストがかかる

速度論的分割: 金属触媒や酵素を使用、基質範囲が限定的

効率的な合成法の開発が課題


3: 研究目的

有機触媒による不斉非対称化の開発

プロキラルなジホルミル[2.2]パラシクロファンの不斉非対称化

N-ヘテロ環状カルベン(NHC)触媒を用いた酸化的エステル化

中心不斉から面不斉への効率的な不斉転写

高収率・高選択的な合成法の確立


方法

1: 反応条件の最適化 

基質: 疑似パラ-ジホルミル[2.2]パラシクロファン (1a)および疑似ゲム-ジホルミル[2.2]パラシクロファン (1b)

触媒スクリーニング

酸化剤・塩基・溶媒


2: 基質適用範囲の検討

脂肪族アルコール

芳香族アルコール

天然物・生理活性化合物由来アルコール

チオール


3: 反応機構の検討

重水素ラベル実験

速度論的同位体効果 (KIE)

エナンチオ制御


4: 合成的有用性

グラムスケール合成と誘導体化

二官能性触媒の開発と応用


結果

1: 最適反応条件

触媒: アミノ酸由来のNHC前駆体

酸化剤: 3,3',5,5'-テトラ-tert-ブチルジフェノキノン(DQ)

塩基: 炭酸セシウム

溶媒: ジクロロメタン


2: 触媒スクリーニング結果

疑似パラ体の不斉非対称化:

  - L-バリン由来NHC前駆体 (pre-C1): 51% 収率, 92:8 er

  - L-フェニルアラニン由来NHC前駆体 (pre-C2): 82% 収率, 93:7 er

最終的な最適条件: pre-C1, 収率87%, エナンチオ選択性99:1 er

疑似ゲム体の不斉非対称化:

  - pre-C1(室温より低温で実施): 91% 収率, 99.5:0.5 er

  - ジエステル副生成物の生成なし


3: 反応の基質適用範囲 - 疑似パラ体

脂肪族アルコール: 高収率・高選択性で進行

  - メタノールからラウリルアルコールまで高収率・高選択性

  - 官能基許容性: ハロゲン、メトキシ、アルケニル、アルキニル基

芳香族アルコール: ベンジルアルコール、2-フェニルエタノールで良好

  - 2-(フェロセニル)エタノール: 収率80%, 97:3 er

天然物・生理活性化合物由来アルコール:

  - インドメタシン、プロリン、ビオチン、ケノデオキシコール酸

  - スルフロール、シトロネロール、保護グルコース誘導体

チオール: チオエステル形成可能、収率・選択性はやや低下


4: 反応の基質適用範囲 - 疑似ゲム体

脂肪族アルコール: 高収率・高選択性を維持

芳香族アルコール: 2-フェニルエタノールで94% 収率, 99.5:0.5 er

天然物由来アルコール: コレステロールで84% 収率, 99.5:0.5 er


5: 反応機構の検討結果 - 疑似パラ体 vs 疑似ゲム体

疑似パラ体 (1a): 重水素ラベル実験によりBreslow中間体の可逆的形成を確認

疑似ゲム体 (1b): 重水素取り込みがなかったことからBreslow中間体の不可逆的形成


6: 合成的有用性 - グラムスケール合成と誘導体化

疑似ゲム体 (1b) のグラムスケール合成:

  - 収率88%, エナンチオ選択性99.5:0.5 er

アルデヒド基の変換反応:

  - チオエステル化: NHC触媒による酸化的条件下, 収率93%

  - Wittig反応: オレフィン形成, 収率98%

  - 還元的アミノ化: 2級アミン形成, 収率71%

  - アルコールへの還元: 収率95%

  - Pinnick酸化: カルボン酸形成, 収率92%

光触媒前駆体の合成: 収率76% (3段階)


7: 二官能性触媒の開発結果

Baeyer-Villiger酸化、還元、酸化を経て新規プラナーキラル触媒を合成

カルボン酸を有する二官能性触媒を合成


考察

1: 反応機構の考察

疑似パラ体 (1a): 

  - 速度論的同位体効果 (KIE): 2.8 (プロトン移動が律速段階)

  - エナンチオ制御: 不斉非対称化 (kR/kS = 7.6/1) + 速度論的分割 (s = 4.1)

疑似ゲム体 (1b): 

  - KIE: ~0.5 (カルベンの求核攻撃が律速段階)

  - エナンチオ制御: 不斉非対称化のみ (kR/kS > 400/1)


2: 二官能性触媒の活性

アミナール化反応: 高収率で生成物を得るが、エナンチオ選択性は低い

Henry反応: 高収率で生成物を得るが、エナンチオ選択性は低い


結論

NHC触媒を用いたジホルミル[2.2]パラシクロファンの不斉非対称化法の開発

高収率・高エナンチオ選択性で面不斉化合物を合成 (最高99.5:0.5 er)

幅広い基質適用範囲: 脂肪族、芳香族、天然物由来アルコール

疑似パラ体と疑似ゲム体でのエナンチオ制御メカニズムの違いを明確化

グラムスケール合成の実現

多様な官能基変換の可能性を実証


将来の展望

新規面不斉触媒や配位子合成への応用

有機触媒による不斉合成の新たな可能性の開拓

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