2024年7月6日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0062~

論文のタイトル: Spatial control over catalyst positioning on biodegradable polymeric nanomotors(生分解性高分子ナノモーターの触媒位置制御)

著者: B. Jelle Toebes, F. Cao, Daniela A. Wilson

雑誌: Nature Communications

巻: 10, 5308

出版年: 2019年


背景

1: ナノモーターの現状

生物学的ナノモーターを模倣した人工ナノモーターの研究が進んでいる

生医学応用や環境浄化など様々な分野で利用が期待されている  

サイズ、形状、材料特性の異なるデザインが必要とされている

これまでの人工ナノモーターは比較的単純なデザインに限られていた


2: 多機能ナノモーターの課題

適応性のあるシステムには多角的なデザインが必要

運動性と感知・認識などの機能を組み合わせる必要がある

複数の機能を1つのシステムに実装するのは困難

触媒の位置制御がナノスケールでは難しい


3: 本研究の目的

生分解性高分子を用いた多機能ナノモーターの開発

触媒の位置を制御する手法の確立

酵素の固定化による再現性と効率の向上

開口部サイズに依存しない酵素の固定化法の実現


方法

1: ナノモーター作製の概要

生分解性ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(D,L-ラクチド)(PEG-PDLLA)ブロック共重合体を使用

アジド基を含む高分子を5wt%混合

自己組織化により内方陥没型のストマトサイト構造を形成

トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)ビーズで外側のアジド基のみを還元

内側と外側で異なる官能基を持つ構造を作製


2: 酵素の固定化

カタラーゼとグルコースオキシダーゼを使用

ジベンゾシクロオクチンスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミジル(DBCO-NHS) リンカーで酵素を修飾

ストマトサイト内部のアジド基と反応させて固定化

ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で酵素の固定化を確認


3: ナノモーターの特性評価

クライオ電子顕微鏡で構造を観察

動的光散乱法で粒子径を測定

蛍光ラベル化で外側の官能基を定量

ナノ粒子追跡解析法で運動性を評価


結果

1: ストマトサイト構造の形成

平均サイズ約370 nmのストマトサイト構造を確認

開口部のサイズは約30 nm

アジド基の約45%が外側に存在することを確認


2: 酵素の固定化

SDS-PAGEで酵素-高分子複合体の形成を確認

酵素活性の96%以上が保持されていることを確認


3: ナノモーターの運動性

グルコース存在下で平均二乗変位の増加を確認

燃料濃度の増加に伴い運動速度が上昇

球状ポリマーソームと比較して特徴的な運動を観察


考察

1: 触媒位置制御の意義

内側と外側で異なる官能基を持つ構造の実現

酵素を内部に固定化し、外側に他の分子を結合可能

触媒の位置制御により効率的な推進力生成が可能に


2: 生分解性材料の利点

PEG-PDLLAの使用により生体適合性と分解性を実現

医療応用への可能性が拡大


3: 運動メカニズムの考察

酸素ナノバブルの形成と崩壊による推進力生成の可能性

ストマトサイト構造が気泡形成のテンプレートとして機能


4: 研究の限界点

長期的な安定性や生体内での挙動は未評価

異なる形状や大きさのナノモーターへの応用可能性は不明


結論

生分解性高分子を用いた多機能ナノモーターの開発に成功

触媒の位置を精密に制御する手法を確立

内部に酵素を固定化し、外側に他の分子を結合可能な構造を実現


将来の展望

医療応用や環境浄化などへの応用が期待される

今後は生体内での挙動評価や異なる形状への応用が課題

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