論文のタイトル: Spatial control over catalyst positioning on biodegradable polymeric nanomotors(生分解性高分子ナノモーターの触媒位置制御)
著者: B. Jelle Toebes, F. Cao, Daniela A. Wilson
雑誌: Nature Communications
巻: 10, 5308
出版年: 2019年
背景
1: ナノモーターの現状
生物学的ナノモーターを模倣した人工ナノモーターの研究が進んでいる
生医学応用や環境浄化など様々な分野で利用が期待されている
サイズ、形状、材料特性の異なるデザインが必要とされている
これまでの人工ナノモーターは比較的単純なデザインに限られていた
2: 多機能ナノモーターの課題
適応性のあるシステムには多角的なデザインが必要
運動性と感知・認識などの機能を組み合わせる必要がある
複数の機能を1つのシステムに実装するのは困難
触媒の位置制御がナノスケールでは難しい
3: 本研究の目的
生分解性高分子を用いた多機能ナノモーターの開発
触媒の位置を制御する手法の確立
酵素の固定化による再現性と効率の向上
開口部サイズに依存しない酵素の固定化法の実現
方法
1: ナノモーター作製の概要
生分解性ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(D,L-ラクチド)(PEG-PDLLA)ブロック共重合体を使用
アジド基を含む高分子を5wt%混合
自己組織化により内方陥没型のストマトサイト構造を形成
トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)ビーズで外側のアジド基のみを還元
内側と外側で異なる官能基を持つ構造を作製
2: 酵素の固定化
カタラーゼとグルコースオキシダーゼを使用
ジベンゾシクロオクチンスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミジル(DBCO-NHS) リンカーで酵素を修飾
ストマトサイト内部のアジド基と反応させて固定化
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で酵素の固定化を確認
3: ナノモーターの特性評価
クライオ電子顕微鏡で構造を観察
動的光散乱法で粒子径を測定
蛍光ラベル化で外側の官能基を定量
ナノ粒子追跡解析法で運動性を評価
結果
1: ストマトサイト構造の形成
平均サイズ約370 nmのストマトサイト構造を確認
開口部のサイズは約30 nm
アジド基の約45%が外側に存在することを確認
2: 酵素の固定化
SDS-PAGEで酵素-高分子複合体の形成を確認
酵素活性の96%以上が保持されていることを確認
3: ナノモーターの運動性
グルコース存在下で平均二乗変位の増加を確認
燃料濃度の増加に伴い運動速度が上昇
球状ポリマーソームと比較して特徴的な運動を観察
考察
1: 触媒位置制御の意義
内側と外側で異なる官能基を持つ構造の実現
酵素を内部に固定化し、外側に他の分子を結合可能
触媒の位置制御により効率的な推進力生成が可能に
2: 生分解性材料の利点
PEG-PDLLAの使用により生体適合性と分解性を実現
医療応用への可能性が拡大
3: 運動メカニズムの考察
酸素ナノバブルの形成と崩壊による推進力生成の可能性
ストマトサイト構造が気泡形成のテンプレートとして機能
4: 研究の限界点
長期的な安定性や生体内での挙動は未評価
異なる形状や大きさのナノモーターへの応用可能性は不明
結論
生分解性高分子を用いた多機能ナノモーターの開発に成功
触媒の位置を精密に制御する手法を確立
内部に酵素を固定化し、外側に他の分子を結合可能な構造を実現
将来の展望
医療応用や環境浄化などへの応用が期待される
今後は生体内での挙動評価や異なる形状への応用が課題
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