2024年7月22日月曜日

有機典型元素化学〜その4〜:pKaと脱離能

 そのにて概説した求核性に影響を与える多数の要因と比較して、脱離基の有効性ははるかに簡単に予測可能です。このご時世ですから、『ブレンステッド塩基が弱いほど、より良い脱離基が形成される。』と覚えておけば、あとは調べればなんとかなるでしょう。具体的な手順としては、単純に、脱離基の共役酸のpKaを調べるだけで、その脱離能力を正確に把握できます。一般的な反応の多くを考える範囲では、以下のpKaの表はその目的のために十分によく役立ちます。


最良の脱離基は最も強い酸の共役塩基であることを覚えておきましょう。すなわち、ヨウ化物と臭化物は有機化学において優れたよく利用される脱離基です。最悪の脱離基は、アミド、水素化物、アルキルアニオンなどの非常に強い塩基です。水酸化物およびアルコキシド (RO) も有機化学では貧弱な脱離基です。好例なのは、ウィリアムソン エーテル合成でしょう。
CH3O + CH3I -> CH3OCH3 + I
すべての素反応と同様、この反応は原則として可逆的ですが、その逆反応(IによるCH3Oの置換)は、あらゆる条件で起こることはありません。
有機化学に特に言及して、さらにいくつかの反応を見ていきましょう。
フッ化物とシアン化物は、pKaの値で示唆されるよりもはるかに悪い脱離基です。教科書的には、これは C-F および C-CN 結合の強さを反映していると説明されることがありますが、この辺りの話はまた別途記事を作成できればと思います。
スルホネート類は、スルホン酸のpKa値で示唆されるよりも優れた脱離基です。アレーンスルホン酸塩 (ArSO3)、 特にp-トルエンスルホン酸塩(トシレート: TsO)、トシル酸アルキルは対応するアルコール類から容易に調製できるため、有機化学では一般的な脱離基です。さらに優れたスルホネートベースの脱離基として、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(トリフレート: TfO)が開発され、今日では多くの反応で利用されています。

多くの学生が有機化学を初めて学ぶ際に苦労するのは、ヨウ化物イオンが優れた求核剤であると同時に優れた脱離基であるという事実だと思います。対照的に、アルコキシドイオン(RO) は優れた求核剤ですが、脱離基としては不十分です。

この違いは何に起因するのでしょうか?その理由を探っていきます。

この難題に対する解決策は、求核試薬と脱離基は両方ともルイス塩基であるにもかかわらず、それらの有効性を制御する非常に異なる要因があるということです。
ヨウ化物の求核性は主にその分極率またはHSAB則でいうところの柔らかいことに起因します。アルコキシドイオンの求核性は、OとCδ+間の硬いもの同士の相互作用と、その結果生じるC-O結合の強さによるところが大きいです。
一方、脱離基の有効性とそのブレンステッド塩基性の間には明らかな逆相関があります。したがって、ヨウ化物は非常に弱い塩基であるため、優れた脱離基になります。アルコキシドアニオンは強塩基であるため、脱離基としては優れていません。
プロトン化は脱離基の有効性を大幅に高めます。例えば、臭化物アニオン自体は、例えばNaBrの形で、アルコール(有機化学では脱離基として悪名高いOH)とは反応しません。
Br + RCOH -X-> RCBr + HO
その一方で、濃 HBr による OH 基のプロトン化により、以下に示すように、はるかに優れた脱離基である水の脱離が可能になります。 
Br + RCOH2+ -> RCBr + H2O
したがって、濃HBrは、単純なアルコールを対応する臭化アルキルに変換するのに適した試薬です(※分子内に酸を受け取る他のブレンステッド塩基として働く官能基が存在しないと仮定する場合に限る)。

以上の脱離基についての概念は、かなり「有機中心」の見解を提示しているという点に注意してください。現在、そこに触れる別の記事を作成中ですが、注意点として、求電子中心が炭素でない場合には、他のさまざまな要因が作用して一筋縄でいかなくなる点でしょう。逆に、そこが有機典型元素化学の醍醐味であり、今後、普遍的なルールを探求する価値のあるところとも感じています。
求電子中心が炭素でない場合に影響を及ぼす要因の中で最も重要なのは、電気陰性元素間の単結合は通常弱く、容易に切断されるという事実です。有機化学とは異なり、水酸化物アニオンは ROOH 形式の基質にとって適切な脱離基です。同様に、チオレート (RS) は、有機化学では絶望的に貧弱な脱離基ですが、二価の硫黄原子の環は求核試薬によって容易に分解され、中間体として脱離基 (S) を残します。

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