2024年7月31日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0086~

論文のタイトル: Light-Induced 1H NMR Hyperpolarization in Solids at 9.4 and 21.1 T

著者: Federico De Biasi, Ganesan Karthikeyan, Máté Visegrádi, Marcel Levien, Michael A. Hope, Paige J. Brown, Michael R. Wasielewski, Olivier Ouari, Lyndon Emsley*

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024年


背景

1: NMRの感度向上の重要性

核磁気共鳴(NMR)分光法は固体の構造と動態の有力な分析手法

NMRの本質的な低感度が応用の障害となっている

核スピン超偏極法が感度向上に重要

マイクロ波誘起動的核偏極(DNP)が固体で最も一般的な手法


2: 光誘起超偏極法の可能性

光学的手法も固体で超偏極を生成可能

光化学的動的核偏極(photo-CIDNP)は光照射のみで超偏極を生成

固体状態でのphoto-CIDNPは主にタンパク質系で観察されてきた

13Cと15Nの超偏極が中心で、バルクへの偏極移動は限定的


3: 本研究の目的

合成分子を用いた1H photo-CIDNPの高磁場での実現

バルクへの1H超偏極の伝搬の実証

色素増感固体NMRへの応用可能性の探索


方法

1: 実験デザイン

PhotoPol-Sという新規ドナー-クロモフォア-アクセプター分子の設計

高磁場(9.4 Tと21.1 T)での1H NMR測定

マジック角回転(MAS)条件下での測定

100 Kの低温条件での実験


2: サンプル調製

PhotoPol-Sを1.5 mMの濃度でo-テルフェニル-d14に溶解

サンプルを3.2 mmサファイアローターに充填

酸素除去のために凍結脱気法で脱気


3: 測定条件

400 MHzと900 MHz NMR分光計を使用

3.2 mm MAS DNPプローブを使用

450 nmの青色レーザーで連続光照射

レーザー出力: 1.2-1.3 W

8 kHz MASと70秒の繰り返し時間で測定


結果

1: 1H NMRシグナル増強

900 MHzで106倍、400 MHzで88倍のシグナル増強を観測

超偏極したOTPマトリックスの残留1Hシグナルを検出

PhotoPol-S分子からバルクへの1H-1Hスピン拡散を確認


2: 偏極ビルドアップ

光照射下での偏極ビルドアップがT1緩和より速い

偏極遅延時間の増加とともに増強度が減少

スピン拡散長が>200 nmと推定され、均一な偏極を示唆


3: マトリックスプロトン化の影響

OTPのプロトン化度を5%に増加させると増強度が約60%に低下

バルク核間のスピン拡散が律速段階でないことを示唆


考察

1: 超偏極メカニズム

Three-spin mixing (TSM)メカニズムが主要な超偏極生成過程

PhotoPol-Sの大きな電子-電子カップリングがTSMを可能に

1H Larmor周波数と完全には一致しないが、十分な効率を実現


2: 高磁場での1H photo-CIDNP実現の意義

初めての高磁場(9.4 Tと21.1 T)での固体1H photo-CIDNP

合成分子を用いたバルクへの超偏極伝搬の実証

色素増感固体NMRへの応用可能性を示唆


3: 超偏極効率の考察

長い超偏極ビルドアップ時間が観測される

PhotoPol-S分子内での1H超偏極生成が律速段階の可能性

偏極剤の構造最適化による効率向上の余地


4: 研究の限界点

単一の偏極剤分子のみを検討

限られた磁場強度での実験

温度依存性や他のマトリックスでの挙動は未検討


結論

高磁場での光誘起1H NMR超偏極を実現

約100倍のシグナル増強を達成


将来の展望

色素増感高磁場固体NMRの更なる開拓

偏極剤の最適化による更なる性能向上の可能性

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