2025年1月30日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0228~

論文のタイトル: Aerobic Ammoxidation of Cyclic Ketones to Dinitrile Products withCopper-Based Catalysts(銅触媒を用いた環状ケトンからジニトリルへの好気的アミノ酸化反応)

著者: Ziwei Zhao, Zhanrong Zhang,* Qingling Xu,* Shunhan Jia, Ying Wang, Wenli Yuan, Mingyang Liu, Huizhen Liu,* Qinglei Meng, Pei Zhang, Bingfeng Chen, Haijun Yang, and Buxing Han*
雑誌名: Journal of the American Chemical Society
巻: Volume147, Issue1, 1155–1161
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c14875

背景

1: アジポニトリル(ADN)とその重要性

  • ナイロン-6,6は、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、化学的安定性などの優れた特性を持つため、様々な産業で広く使用されています。
  • アジポニトリル (ADN) は、ナイロン-6,6の重要な前駆体であり、世界的な需要が非常に高い物質です。
  • ADNは、ポリアミドや特殊ポリウレタンの製造にも不可欠な原料です。
  • 2021年には、世界の年間ADN生産能力は約200万トンでした。
  • 世界のADN市場は、2023年から2030年まで年平均成長率8.2%で成長すると予測されています。

2: 従来のADN合成法の課題

  • 従来のADN合成法は、アジピン酸のアンモニア化によるものでしたが、高温での自己環化反応による低選択性と、装置の腐食という大きな欠点がありました。
  • 1970年代初頭にデュポンが開発したブタジエンを原料とする直接シアン化法が、現在では主流ですが、有毒なシアン化水素 (HCN) の使用が課題です。
  • その他、芳香族基質のC-C結合を選択的に切断する酸化法や、ジメチルアジペートのアンモニア化なども研究されていますが、効率や安全性に課題があります。
  • 環状炭化水素基質を用いた開環反応によるADN合成も試みられていますが、収率は高くありません。

3: 本研究の目的と成果

  • 本研究では、入手が容易で安価なシクロヘキサノンを原料とし、穏やかな条件下で高収率でADNを合成する新しい方法を開発しました。
  • 銅触媒1,10-フェナントロリン配位子を用い、環境に優しい酸素を酸化剤として、水性アンモニアを窒素源とするアミノ酸化反応により、99%以上の収率でADNを合成することに成功しました。
  • この触媒系は、様々な炭素数の環状ケトンや置換基を持つ環状ケトンにも適用可能で、対応するジニトリルを高収率で得ることができました。
  • 本研究は、ナイロン材料産業の発展に新たな基盤を築くものと期待されます。

方法

1実験デザインと触媒スクリーニング

  • シクロヘキサノンをジメチルスルホキシド (DMSO) 中で、水性アンモニアと酸素を用いてアミノ酸化反応を行いました。
  • 様々な銅塩を触媒としてスクリーニングした結果、臭化銅 (CuBr) と1,10-フェナントロリン (phen) の組み合わせが最も効果的であることがわかりました。
  • CuBrとphenの組み合わせは、99%以上の収率でADNを生成しました。
  • 他の銅塩(CuCl, CuI, CuBr2など)や遷移金属触媒は、触媒活性が低いか、反応を触媒しませんでした。

2: 反応条件の最適化

  • 酸素圧を上げると、ADNの収率も上昇し、5気圧で99%以上になりました。
  • CuBrの量を減らすと、収率は低下しました。
  • CuBrとphenの比率も最適化されました。CuBr:phen = 2:1、1:1、1:1.5で99%以上の収率が得られました。
  • Cu:phen比が過剰になると、Cu-3phen複合体が形成され、反応が阻害されることがわかりました。

3: 反応機構の解明

  • 反応中間体を調べるために、ヘキサナールとヘキサン酸を反応させました。
  • ヘキサナールは対応するニトリルに変換されましたが、ヘキサン酸は反応しませんでした。
  • これにより、アルデヒドが反応中間体として関与していることが示唆されました。
  • ラジカル捕捉剤を用いた実験から、この反応がラジカル経由で進行することが示されました。

4: ラジカル機構の確認と基質適用範囲の拡大

  • 電子常磁性共鳴 (EPR) スペクトルにより、反応溶液中にラジカルが存在することが確認されました。
  • 具体的には、OH、O2•-、およびORラジカルの関与が示唆されました。
  • この触媒系を、様々な炭素数の環状ケトンや置換基を持つ環状ケトンに適用した結果、対応するジニトリルを良好な収率で得ることができました。
  • シクロヘプタノンでは99%以上、シクロオクタノンでは約82%の収率が得られました。

結果

1触媒スクリーニングの結果

  • CuBrとphenの組み合わせが、最も高い触媒活性を示す。
  • 他の銅塩や遷移金属触媒は、触媒活性が低いか、反応を触媒しない。
  • O2、水性アンモニア、そしてphenが反応に不可欠である。
  • DMSOが最適な溶媒であることが判明。

2: 反応条件の最適化結果

  • 酸素圧を上げると、ADNの収率も上昇する。
  • CuBrの量を減らすと、収率は低下する。
  • CuBrとphenの最適な比率がある
  • Cu:phen比が過剰になると、反応が阻害される

3: 基質適用範囲と生成物

  • 様々な環状ケトンから対応するジニトリルが高収率で得られた。
  • シクロヘプタノン、シクロオクタノンなど、異なる炭素数の環状ケトンも反応した。
  • 様々な置換基を持つ環状ケトンも、対応するジニトリルに変換された

考察

1主要な発見とその意味

  • CuBrと1,10-フェナントロリンの組み合わせが、シクロヘキサノンからADNへの効率的な触媒であること。
  • **穏やかな条件(80℃、5気圧O2)**で、99%以上の高収率でADNが得られること。
  • 本触媒系は、様々な環状ケトンにも適用できる
  • ラジカル機構によって反応が進行していること。

2: 反応機構の詳細

  • アンモニアが基質と反応してイミン中間体を形成する。
  • Cu(I)種とO2の存在下で、イミンのβ-炭素から水素が引き抜かれる。
  • シクロヘキシルヒドロペルオキシドが形成され、それがO2-と反応してヒドロキシルラジカルを放出する。
  • C-C結合の切断により5-ホルミルバレロニトリルが生成する。
  • さらにアンモニア化され、最終的にADNとなる。

3: 先行研究との比較

  • 既存のADN合成法と比較して、本研究の触媒系は、より穏やかな条件で、高収率でADNを得ることができる。
  • 従来のシアン化法と異なり、有毒なシアン化水素を使用しない
  • 他の環状ケトンを原料とする研究と比較して、より広い基質範囲に対応できる。
  • 以前の報告では、環状ケトンからADNへの変換には高い温度や貴金属触媒が必要であったが、本研究ではより実用的な条件で達成された.

4: 研究の限界

  • 本研究で使用した溶媒はDMSOであるため、より環境に優しい溶媒の探索が必要である。
  • 反応機構については、詳細なステップのさらなる解明が必要である。
  • 今回の実験は主にラボスケールで行われたため、工業的なスケールアップの検討が必要である。
  • 触媒の再利用性や耐久性についても、更なる研究が求められる。

結論

      • シクロヘキサノンからADNへの新しい合成ルートを確立した。
      • CuBr/phen触媒系が、穏やかな条件下で、高収率でADNを合成できることを示した。
      • この触媒系は、様々な環状ケトンからジニトリルを合成するのに有効である。
      • 本研究は、ADNおよびその他のジニトリル製造のための、コスト効率が高く環境に優しい方法を提供する。

      将来の展望

          • 触媒の最適化や反応機構の詳細解明、スケールアップの検討、触媒リサイクルの研究が期待される。

          用語集

          • アジポニトリル (ADN): ナイロン-6,6の前駆体となるジニトリル化合物。
          • アミノ酸化: アミンと酸素を用いた酸化反応。
          • シクロヘキサノン: 環状ケトンの一種で、本研究の原料。
          • ジニトリル: 分子内に2つのニトリル基を持つ化合物。
          • 1,10-フェナントロリン (phen): 銅触媒の配位子として使用される有機化合物。
          • ラジカル: 不対電子を持つ反応性の高い原子または分子。
          • EPR: 電子常磁性共鳴の略。ラジカルを検出するために用いられる分光法。
          • DMSO: ジメチルスルホキシドの略。本研究で使用した溶媒。

          TAKE HOME QUIZ

          問題1: この研究で用いられた触媒は何ですか?また、その触媒が特に高い活性を示す理由を説明してください.

          問題2: アジポニトリル(ADN)の合成において、従来の製法と比較して、この研究で用いられた触媒を用いた場合の主な利点を3つ挙げてください.

          問題3: この研究で提案された反応機構において重要な役割を果たす3つのラジカル種を挙げてください。また、それぞれのラジカルが反応においてどのように関与するかを説明してください.

          問題4: 反応において、水が果たす重要な役割について説明してください.

          問題5: この研究で使用された触媒系の基質適用性について説明してください。どのような種類の化合物が、この触媒系でジニトリルに変換できるか、具体例を挙げて説明してください.

          問題6: この研究で明らかになった、反応がラジカル機構で進行することを示す実験的証拠を2つ挙げてください.

          解答のヒント

          • 問題1: 触媒は臭化銅(CuBr)と1,10-フェナントロリン(phen)の組み合わせです。CuBrは、シクロヘキサノン過酸化物の生成を抑制し、Cu(I)種を安定に保つため、高い活性を示します.
          • 問題2: 利点としては、高い触媒活性、高い選択性、温和な反応条件などが挙げられます。また、入手容易な原料環境に優しい点も利点です.
          • 問題3: ヒドロキシルラジカル(OH)、スーパーオキシドラジカル(O2•-)、アルコキシルラジカル(OR)が重要です。それぞれが連鎖反応に関与しています.
          • 問題4: 水はアルデヒドのカルボン酸への酸化を抑制し、ニトリルへの変換を促進します.
          • 問題5: この触媒系は、様々な炭素数の環状ケトンや、アルキル鎖を持つ環状ケトンもジニトリルに変換できます。例えば、シクロヘプタノンやシクロオクタノンなどが挙げられます.
          • 問題6: ラジカル捕捉剤による反応の抑制と、EPRスペクトルによるラジカルの検出が、ラジカル機構の証拠です.

          0 件のコメント:

          コメントを投稿