2025年1月29日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0227~

論文のタイトル: Reactivity of the phosphaethynolate anion withstabilized carbocations: mechanistic studies andsynthetic applications(安定化カルボカチオンを用いたホスファエチノラートアニオンの反応性:機構研究と合成応用)

著者: Nguyen, Thi Hong Van; Chelli, Saloua; Mallet-Ladeira, Sonia; Breugst, Martin;* Lakhdar, Sami*
雑誌名: Chemical Science
巻: Volume15, 14406-14414
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1039/d4sc03518f

背景

1: 研究の背景

  • 炭素-リン結合形成のための実用的で持続可能な手法の開発は、触媒作用から医薬品化学、材料科学まで幅広い分野で重要である。
  • 有機リン化合物は、多くの分野で重要な役割を果たしている。
  • 従来、PCl3が一般的な出発物質であったが、HCl副生成物の問題があったため、代替となるリン前駆体の開発が求められていた。
  • ホスフィン酸白色リン (P4) がPCl3の代替として注目されている。
  • ホスファエチノラートアニオン ([OCP]) は、シアネートアニオンのリンアナログとして、新たなリン前駆体として登場した。
2研究の課題と目的
    • [OCP]の合成は以前から報告されていたが、大規模合成の難しさや空気・水分に対する感受性から、その利用は限られていた。
    • 近年、GrützmacherGoicoecheaの研究グループによって、安定なホスファエチノラートアニオンの効率的な合成法が開発された。
    • [OCP] は、リン転送剤としての可能性があり、有機リン分子リンベースの遷移金属錯体の合成に有効であることが示されている。
    • 本研究の目的は、[OCP] の 両性反応性 を理解し、その合成への応用を明らかにすることである。

    3研究の目的と成果

    • Mayrの参照求電子剤を用いて、[OCP]求核性を定量的に評価する。
    • [OCP]と様々な求電子剤との反応機構を解明し、主要な中間体を特定する。
    • [OCP] を用いた、合成的に有用な有機リン化合物の合成方法を開発する。
    • 特に、立体的に嵩高い二級ホスフィンオキシドの合成を達成し、それらを鈴木カップリング反応の配位子として利用する。

    方法

    1研究デザイン

    • UV-可視分光法およびレーザーフラッシュ光分解法を用いて、[OCP] とさまざまな Mayrの参照求電子剤 との反応速度を測定した。
    • 反応速度データと密度汎関数理論 (DFT) 計算を組み合わせ、[OCP] の リン求核性 を定量化した。
    • 反応生成物の分析から、二級および三級ホスフィンの形成を明らかにした。
    • 反応機構を詳細に議論し、主要な中間体を単離・特性評価した。
    2反応条件
    • ナトリウムホスファエチノラートは、ナトリウム赤リンtBuOHエチレンカーボネートから合成された。
    • アセトニトリル溶媒中、20℃で反応を実施。
    • 求電子剤に対して10当量以上の求核剤を使用し、擬一次反応条件で反応を行った。
    • 15-クラウン-5 の存在下で、対イオンの影響を評価した。
    • ジオキサンの反応への影響も調べた。
    3評価項目と測定方法
    • 反応速度定数は、レーザーフラッシュ光分解法またはUV-可視分光法を用いて決定した。
    • カルボカチオンは、対応するホスホニウム塩をレーザー照射により生成させた。
    • 核磁気共鳴 (NMR) 分光法1H, 13C, 31P)を用いて、中間体の構造を決定した。
    • X線結晶構造解析により、一部の生成物の構造を決定した。
    4使用した統計手法
    • 反応速度定数と求電子性の関係を線形回帰で分析。
    • DFT計算を用いて、反応機構と中間体の構造を解析。
    • 遷移状態構造を計算し、反応エネルギーを評価。
    • **RI-DSD-PBEP86-D3(BJ)/def2-QZVPP/SMD(THF)//M06-2X/6-31+G(d,p)/SMD(THF)**レベルの計算を実施。

    結果

    1求核性パラメータ

    • [OCP]求核性パラメータは、N = 19.02、sN = 0.82と決定された。
    • [OCP] の リン原子 は、シアネートアニオンよりも5桁、チオイソシアネートのN末端よりも10倍反応性が高い。
    • [OCP] は、カルボジイミドなどの弱い求電子剤とも反応可能である。
    • 拡散律速により、反応速度が一定の値に制限されていることが判明。
    2中間体の特性評価
    • 低温 (−60 °C) で、[OCP]とカルボカチオンとの反応により、双性イオンが生成することを確認。
    • 双性イオンを加温すると、ホスファケテン付加体が生成することを確認。
    • DFT計算により、反応経路が明らかになった。
    • 双性イオンは、熱力学的に安定な生成物であることが示された。
    3合成応用
    • 双性イオンNHCカルベンで処理すると、アゾリウムホスファエノラートが定量的に生成した。
    • 双性イオンを水で処理すると、二級ホスフィンが生成した。
    • 二級ホスフィンは空気中で酸化されやすく、二級ホスフィンオキシドとして単離した。
    • 様々な安定化カルボカチオンを用いて、二級ホスフィンおよび二級ホスフィンオキシドを合成した。

    考察

    1主要な発見

    • [OCP]のリン原子が、反応性の高い求核中心であることが明らかになった。
    • [OCP] と カルボカチオンとの反応中間体として、双性イオンが確認された。
    • の存在下で、双性イオンから二級ホスフィンが生成することが判明した。
    • 二級ホスフィンオキシドは、鈴木カップリング反応の配位子として有効であることが示された。
    2先行研究との比較
    • Grützmacherらの研究で、ホスファエチノラートアニオンボランとの反応で同様の複合体が形成されることが報告されている。
    • Slootwegらの研究では、[OCP] と異なる求電子剤との反応で、ビス(シクロプロペニル)ジホスフェタンジオンが生成することが報告されている。
    • Goicoecheaらの研究で、アシルホスフィンの合成が報告されている。
    • 本研究では、立体的に嵩高い二級ホスフィンの直接合成を達成した。
    • Mayrらの研究は、さまざまな求核剤の反応性を評価するための基準を提供。
    • HSAB理論が、[OCP] の求核性を説明できないことを示す研究がある。
    • [OCP] の求核性が、シアネートアニオンチオイソシアネートよりも高いことが示された。
    3研究の限界点
    • DFT計算で、双性イオンの安定性を過大評価している可能性がある。
    • 溶媒効果が計算結果に影響を与えている可能性がある。
    • [OCP] の酸化メカニズムについては、さらなる研究が必要である。
    • 二級ホスフィンは不安定であり、取り扱いに注意が必要である。

    結論

      • 本研究では、[OCP]のリン求核性を実験的に定量化した。
      • [OCP] は、動力学的および熱力学的に有利に反応することが示された。
      • 双性イオンなど、反応中間体を特定し、その特性を詳細に評価した。
      • 立体的に嵩高い二級ホスフィンオキシドの合成を達成し、鈴木カップリング反応における配位子としての有効性を示した。

      将来の展望

        • [OCP] を用いた、新しい有機リン化合物の合成法の開発や、触媒反応への応用が期待される。

        用語集

        • ホスファエチノラートアニオン ([OCP]): シアネートアニオンのリンアナログ。リン原子が求核中心となる。
        • Mayrの参照求電子剤: 求電子性を定量化するための基準となる化合物群。
        • 密度汎関数理論 (DFT): 量子化学計算手法の一つ。電子構造を計算するために使用される。
        • 双性イオン: 分子内に正と負の両方の電荷を持つ化合物。
        • NHCカルベン: N-複素環カルベン。有機触媒として使用される化合物。
        • 二級ホスフィン: リン原子に2つの炭素原子が結合した化合物。
        • 二級ホスフィンオキシド: 二級ホスフィンのリン原子が酸化された化合物。
        • 鈴木カップリング反応: 有機ホウ素化合物とハロゲン化アリールまたはハロゲン化ビニルをパラジウム触媒を用いて結合させる反応。
        • レーザーフラッシュ光分解法: レーザーを用いて光化学反応を起こさせ、その反応速度を測定する手法。
        • UV-可視分光法: 紫外・可視領域の光の吸収を測定し、化合物の特性を評価する手法。
        • 核磁気共鳴 (NMR) 分光法: 原子核の磁気的性質を利用して、化合物の構造を決定する手法。
        • X線結晶構造解析: X線回折を利用して結晶の構造を決定する手法。
        • 擬一次反応: 反応物の一方の濃度が過剰で、反応速度が他方の濃度のみに依存する反応。

        TAKE HOME QUIZ

        質問1: ホスファエチノラートアニオン([OCP]⁻)の分子構造における求核性中心はどこですか? 

        * (a) 酸素原子のみ * (b) リン原子のみ * (c) 酸素原子とリン原子の両方 * (d) 炭素原子

        質問2: [OCP]⁻の求核性パラメータ(NsN)を決定するために使用された実験手法は何ですか? 

        * (a) NMR分光法のみ * (b) 質量分析法のみ * (c) UV-Vis分光法およびレーザーフラッシュ光分解法 * (d) 赤外分光法

        質問3: [OCP]⁻と求電子剤との反応において、初期に形成される中間体は何ですか? 

        * (a) ホスフィンオキシド * (b) 双性イオン * (c) ホスファアルキン * (d) ジアニオン

        質問4: [OCP]⁻の求核性パラメータは、どの原子の求核性を表していますか? 

        * (a) 酸素原子 * (b) リン原子 * (c) 炭素原子 * (d) 酸素原子とリン原子の両方

        質問5: [OCP]⁻のリン原子の求核性は、シアネートアニオンと比較してどの程度ですか? 

        * (a) 約10倍低い * (b) 同程度 * (c) 5桁以上高い * (d) 約2倍高い

        質問6: [OCP]⁻と安定化されたカルボカチオンとの反応において、水と反応させることで生成されるのは何ですか? 

        * (a) ホスファケテン * (b) ホスファアルキン * (c) 第二級ホスフィン * (d) 第三級ホスフィン

        質問7: [OCP]⁻と高反応性カルボカチオンとの反応において、生成物は何ですか? 

        * (a) 第二級ホスフィンのみ * (b) 第二級ホスフィンと第三級ホスフィンの混合物 * (c) 第三級ホスフィンのみ * (d) ホスファケテン

        質問8: [OCP]⁻の反応における律速段階で、反応する求核性中心は変化しますか?

        • (a) 常に酸素原子が反応する
        • (b) 常にリン原子が反応する
        • (c) 変化しない(常に同じ求核性中心が反応する)
        • (d) 反応条件によって変化する

        質問9: [OCP]⁻と水との反応で、ホスファンカルボン酸が生成する過程において、DFT計算の結果から、どの段階が最もエネルギー障壁が高いですか? 

        * (a) 水の攻撃 * (b) OCPHの脱離 * (c) 脱炭酸 * (d) プロトン移動

        解答:

        1. (c)
        2. (c)
        3. (b)
        4. (b)
        5. (c)
        6. (c)
        7. (b)
        8. (c)
        9. (c)

        解説:

        • [OCP]⁻の求核性: [OCP]⁻は、酸素原子とリン原子の両方が求核性中心として機能します。ただし、リン原子の方がより求核性が高いことが実験的に確認されています。
        • 求核性パラメータの決定: UV-Vis分光法およびレーザーフラッシュ光分解法を用いて、様々な求電子剤との反応速度を測定し、メイアの式を用いて求核性パラメータを算出しました。
        • 反応機構: [OCP]⁻は、まずカルボカチオンなどの求電子剤と反応して双性イオンを形成し、次に、この中間体が水と反応して第二級ホスフィンを生成します。

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