2018年11月22日木曜日

金属の酸化数を変えない配位子(redox non-innocent ligand)の話

より詳しく解説した続編執筆してあります。

ご無沙汰しております。

人生には色々なことがあります。
心中お察しください。

タイトルにも書きましたとおり、
金属の酸化数を変えない配位子の話をします。
遷移金属触媒を用いたカップリング反応といえば、
主に遷移金属の酸化数が0価→2価→0価と変化するサイクルの中で、
炭素-炭素結合が形成されるわけですが、
今回の主役であるredox non-innocent ligandは、
金属が酸化還元されないように配位子側が酸化還元を代わりに受けるように働きます。

そんな配位子がなんの役に立つんだと思った方がいるかもしれませんが、
触媒やケミカルバイオロジー、一方で材料科学分野でも
応用が期待されているそうです。
それこそ、磁性の分野では中心金属の酸化数が変わらないというのは、
安定性の面から非常にいいのではと思ったり。。。

上っ面の話だけで申し訳ありませんが、
また時間ができれば続きを書こうと思います。

それではまた。

2017年12月17日日曜日

oxidative addition(酸化的付加)について~その1~

酸化的付加と聞くと有機化学の人なら、真っ先にアリールハライドの遷移金属への酸化的付加を思い浮かべるでしょうか。
あるいは最近ですと、C―Hの酸化的付加でしょうか。
なにはともあれ、今日は酸化的付加について考えたことを、つらつらと書き連ねようと思う次第です。

酸化的付加って、現象としてイメージがわきにくいと思うんですけど、例えばオレフィンのシクロプロパン化って、実際には反応の前後で酸化還元は起きていないわけですが、視点を変えれば、現象として酸化的付加に近いと思うんですよね。
すなわち、ジクロロカルベンの炭素を金属、塩素を配位子とみなせば、オレフィンの金属への酸化的付加と考えることができるかと思います。
(厳密に言えば、何から何まで全く違うのですが、あくまでイメージとして統一的な解釈を目指す上での話ですのでご容赦ください)

一方で、酸化的付加を熱力学の視点で考えると、酸化的付加の前後では2分子→1分子なので、エントロピーは減少していることになります。
しかしながら、1つの結合を切断する代わりに2つの結合ができるので、そこでエンタルピーの有利さがあれば、酸化的付加は進行すると考えられますね。
あるいは、あらかじめ金属に配位子が(あるいは配位性の溶媒が)ついていれば、その配位子が解離することでエントロピーの不利さを解消していることもありますね。

まぁ、年末を前にしてそんな感じで久しぶりに少し空き時間ができたので更新してみた次第です。

2017年2月6日月曜日

有機典型元素化学〜その3〜:HSAB則


 その2で述べた求核性に影響を及ぼすいくつかの要因は、ルイス酸と塩基の硬さと軟らかさの概念(HSAB則)に簡潔にまとめられています。 HSABのコンセプトは、50年以上前にRalph Pearsonによって導入され、続いてPearsonとParrらによって確固たる理論的基礎が確立されました。硬い酸および塩基は、比較的非極性であり、正または負の比較的高い表面電荷密度を有します。軟らかい酸および塩基は、比較的分極性であり、正または負の低い表面電荷密度を有します。言うまでもなく、どっちつかずの場合がたくさんあります。高い表面電荷密度(硬さ)は、高い形式電荷(FC)、正または負、および小さい原子/イオンサイズから一般的に決まり、逆は、低い表面電荷密度(軟わらかさ)に当てはまります。硬いおよび軟わらかい酸および塩基の例を以下に示します。



 硬さと軟らかさの概念の有用性は、軟らかい塩基が軟らかい酸とより速く反応してより強い結合を形成し、硬い塩基が硬い酸とより速く反応してより強い結合を形成するというHSABの原理から分かります。この原理により、膨大な量の化学を合理化することができます。
 HSABの概念は、求核性の理解を容易にします。より軟らかい塩基は、より良い求核剤になることが多い。 例えば、ホスフィンは、より硬いその類縁体であるアミンよりも一般的に良い求核剤であり、一方、硫黄化合物は、それらの酸素類似体よりも良い求核剤である。
 HSAB則の最良の例のいくつかは、いわゆる配位子交換反応やメタセシス反応です。すなわち、メタセシス反応がどの方向に進行するかどうかが分かります。
具体的には、

SeCl2 + 2(CH3)3SiBr → SeBr2 +2(CH3)3SiCl

上式では、SeはSiはよりも軟らかいルイス酸であり、臭素アニオンは塩素アニオンよりも軟らかいルイス塩基であるので、SeとBrが結合し、SiとClが結合していなければなりません。

PCl3 + AsF3 → PF3 + AsCl3

第2の例では、AsはPよりも軟らかいルイス酸中心であり、塩素アニオンはフッ素アニオンより軟らかいルイス塩基になります。すなわち、これらの配位子交換反応はHSAB則と一致しています。








2017年1月21日土曜日

有機典型元素化学〜その2〜:求核性と求電子性

 天然に存在する有機化合物の多くは,炭素,水素,酸素,窒素を含むにすぎません。硫黄やハロゲンなどを含むものがありますが,これらは周期表全体からみると,ごく一部の元素にすぎません。一方,人類が取り扱うことのできる元素には遷移元素を除いても多数の典型元素があり,これらの多くは人工的に有機化合物に構成元素として導入することができます。典型元素は種類が多く,かつ多様な原子価をとりますが,反応機構を考える際には,有機合成化学のように電子対(不対電子)の動きを示す波状の矢印を使ってもうまく機能します。なので,有機化学の教科書のように求核剤や求電子剤といった概念を典型元素に当てはめて考えていきたいと思います。


 求核性および求電子性は、それぞれルイス塩基性およびルイス酸性に密接に関係しています。すなわち,求核剤はルイス塩基(電子対供与体)であり、求電子剤はルイス酸(電子対受容体)です。

 ここで注意すべき点は,あくまで『ルイス』塩基性と密接に関係しているということです。求核性は求核攻撃の速度で測定されるので、速度論的概念です。 一方、塩基性は、プロトン化(またはルイス酸との会合)の平衡定数の観点から測定されるため、熱力学的概念です。もう一つの違いは、ブレンステッド塩基性はプロトンの熱力学的性質を指しますが、有機化学における求核性は、典型的には炭素中心への攻撃速度を指すことです。




 ここからは,具体例を挙げながら説明していきます。まず,求核剤の傾向について箇条書きで述べます。

・アニオンは、関連する中性分子よりも良好な求核剤である。
RO > ROH; RS > R2S; NH2 > NH3

・類似の化学種においては,周期表の右側ヘ行くほど求核性は減少する。
これは,より電気的に陰性の元素は電子を強く引きつけるためです。
NH3 > H2O; R3P > R2S

・同族元素内では下の元素ほど求核性が増加する。
これは,より大きい原子は電気陰性度がより低く、それらから誘導されたアニオンはより分極しているためです。
PR3 > NR3; PhSe > PhS > PhO


電気陰性度と大きさ(原子半径)の2つが求核性の重要な決定要因であることを覚えておけば,2つの原子の性質が周期表の左右でどのように異なるかを考えるために有用です。以下にポーリングの電気陰性度と,sブロックとpブロックの原子半径を示しています。当然のことですが,電気陰性度は、周期表の周期(Period)内で左から右へ行くほど増加し、族(group)内で下ヘ行くほど減少します。 原子半径は、周期表の周期(Period)内で左から右に縮小し、族(group)内で下ヘ行くほど大きくなります。


 このような背景に反して、ハライドアニオンの相対的求核性は幾分謎めいています。溶媒としてメタノールを用いるSwain–Scottの求核性での順序は次のとおりです。
I– >Br– >Cl– >F– 
他のプロトン性溶媒でも同じ順序が見られます。 これは、分極率に基づいて予想される順序でもあり,より大きな分極率のアニオンは最も求核性が高いはずです。 非プロトン性極性溶媒(例えば、DMSO、DMF、THFなど)では、相対速度は完全に逆転します。
F– Cl– >Br– >I    
この顕著な逆転は、水素結合または非プロトン性溶媒中での水素結合の有無によるものです。
 強力な水素結合受容体として、フルオライドはプロトン性溶媒中では弱い求核剤であることは明らかである。 最悪の水素結合受容体としてのヨウ化物は、プロトン性溶媒中ではるかに活性な求核剤である。 すなわち,溶媒との水素結合相互作用がない場合(脱水非プロトン性極性溶媒の場合である、フルオライドは最も強い求核剤である。重要な点として、「裸の」フッ化物イオンの高い求核性は、C-F結合の強さに起因している可能性があることです。 SN2遷移状態は、入ってくる求核剤と炭素との間の結合形成を含むので、その結合の強さは求核性の重要な決定因子です。



2017年1月15日日曜日

有機典型元素化学〜その1〜

有機典型元素化学では,有機分子と典型元素を組み合わせた化合物や反応を扱う分野です。この有機典型元素化学について解説するにあたり,主に使用する教科書は「Arrow Pushing in Inorganic Chemistry: A Logical Approach to the Chemistry of the Main-Group Elements」です。

有機化学は炭素の化学であり,典型元素化学で核となるのは無機化学であるという印象を持たれている方も多いかもしれません。確かに,無機化学は膨大な数の分子と化学反応で構成されており,その全てを網羅することはかなり難しいでしょう。おそらく,その膨大な情報量と不連続性により,無機化学は暗記の学問であると思われてしまいがちです。しかし,本書では典型元素化学に足して機械的アプローチ、具体的には有機的な矢印の押し込みによってこの状態を変える試みを行っています具体的には、ルイス構造の中心原子が価電子帯に8個以上の電子を持つ高原子価の化合物でも、矢印の押し込みがうまく機能することが分かります。これまでの無機化学の教科書は教科書というよりも辞典に近いものであるというのが率直な印象でした。一方,有機化学の教科書の多くは,本質的にあらゆる反応に対して利用可能な「求核剤」と「求電子剤」という概念に基づいて,あらゆる反応を反応メカニズムに立ち返って説明しています。このような有機化学において普遍的に用いられる概念を典型元素化学に適用して解説しているのが本書です。

本題に入るにあたり,高原子価についての混乱を避けるために前置きとして以下の左右の構造について解説します。それぞれ,右の多重結合構造が一般的ですが,右の多重結合構造を有機化学的に考えてしまうと,酸素原子と結合している高原子価の原子が電荷的に等価だと誤解し混乱してしまうかもしれません。そこで,本ブログでも教科書同様に明瞭な感覚的な理解を促すために,非現実的な形式電荷の左側の構造で解説しようと思います。(典型元素ガチ勢の人はよりよい方法があれば教えてください)



また,これからその2で話していく内容は,おそらく大学の学部2年生以上の有機化学の知識を前提としていますのであしからず。