2024年4月30日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0010~

論文のタイトル: Metal‐Free Selective Synthesis of α,β-Unsaturated Aldehydes from Alkenes and Formaldehyde Catalyzed by Dimethylamine

著者: G. Peng, N. Ullah, S. Streiff, K. De Oliveira Vigier, M. Pera-Titus, R. Wischert, F. Jérôme  

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024


背景

1: α,β-不飽和アルデヒドの重要性

α,β-不飽和アルデヒドは重要な化学プラットフォームである

ポリマー、生理活性物質、香料の原料として広く利用される


2: 従来の合成方法の課題  

従来法はWittig反応、アルドール縮合、金属触媒を用いるなど

高価な金属触媒や過酷な反応条件が必要


3: 本研究の目的と意義

アルケンとホルムアルデヒドから金属不使用で選択的に合成する

安価な原料と温和な条件を利用する環境調和型プロセス


方法  

1: 研究デザイン

スチレンをモデル化合物として最適条件を探索

ジメチルアミン、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶媒の利用


2: 反応中間体の同定  

GC-MS、NMR、DFT計算による反応機構の解明 

中間体の単離と反応性評価


3: 反応条件の最適化

ジメチルアミン量の検討(当量比0.1~1.0)

温度(30~50℃)、時間の最適化  


結果

1: スチレン由来α,β-不飽和アルデヒドの合成

最適条件下で2-ベンジルアクロレインを78%収率で合成

副生成物はN-メチル-3-フェニルプロパン-1-アミンのみ


2: 直鎖アルケンからの合成例

1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンから対応アルデヒドを40-44%収率で合成

工業的に重要な化合物へのアクセスが可能に


3: ジメチルアミン量の影響

0.1当量でも反応は進行し、選択性は維持された(80%収率)

理論的に100%アトムエコノミーな触媒的プロセスの実現


考察  

1: 反応機構の解明

DFT計算により、連続的な1,5-水素転位が最も有利であることを示唆

ジメチルアミンは1,3-水素転位を触媒することも確認


2: 本手法の優位性  

金属不使用、温和な条件(30-50℃)、100%原子経済的

スケールアップが容易な安価で豊富な原料利用


3: 工業的インパクト

医薬品中間体や高分子原料となるα,β-不飽和アルデヒド製造が可能に

環境負荷の低減が期待できる


4: 反応条件の最適化の必要性

直鎖アルケンの収率は40-44%と低く、更なる条件検討が必要

工業的には80%以上の収率が求められる  


5: 限界点

ごく一部のアルケンについての結果であり、さらなる基質の検討が必要

実装には工程の最適化とスケールアップ研究が不可欠


結論

ジメチルアミンを触媒として、アルケンとホルムアルデヒドから直接的に、選択的にα,β-不飽和アルデヒドが合成可能なことを実証した

本プロセスは金属不使用、100%原子経済的で、環境に優しい

工業的に重要なα,β-不飽和アルデヒドの供給源となり得る


将来の展望

今後、基質一般性の拡大と工業化に向けた条件最適化が課題

2024年4月29日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0009~

論文のタイトル: Stereodivergent, Kinetically Controlled Isomerization of Terminal Alkenes via Nickel Catalysis

著者: Camille Z. Rubel, Anne K. Ravn, Hang Chi Ho, Shenghua Yang, Zi-Qi Li, Keary M. Engle, Julien C. Vantourout

雑誌: Angewandte Chemie International Edition 

出版年: 2024


背景 

1: 研究の背景

アルケンは合成化学で重要な中間体

内部アルケンの合成は末端アルケンよりも困難

従来の金属触媒的アルケン異性化は一般性や機能性に乏しい


2: 未解決の問題点

アルケン異性化による立体選択的内部アルケン合成は難しい

E/Zの立体選択性を実現する手法がほとんどない  


3: 研究の目的

ニッケル触媒による末端アルケンのE/Z選択的一炭素転位を実現

簡便な条件下で様々な基質に適用可能


方法

1: 研究デザイン

ニッケル触媒を用いた末端アルケンの立体選択的異性化反応


2: 基質と条件

各種末端アルケン

室温、市販の試薬を使用


3: 評価項目  

生成物収率

Z/E選択性

基質一般性


結果

1: Z選択的反応条件

ニッケル前駆体Ni(COD)2、ジホスフィンリガンドdppf、ヨウ化アリールを使用


2: E選択的反応条件

ニッケル前駆体Ni(COD)2、モノホスフィンリガンドCy3PのHBF4塩を使用  


3: 基質適用範囲

多様な官能基を有する基質に対し高収率と選択性

活性化/非活性化アルケン、ヘテロ原子α位のアルケンなど


考察  

1: 主要な知見

両プロトコルはNi-H体を経る挿入/脱離機構

Z選択的ではNiII-H、E選択的ではNiIカチオン種が活性種


2: Z選択性の知見

ヨウ化アリールの酸化的付加が重要

嵩高いNi種が生じZ選択的に


3: E選択性の知見

HBF4塩の役割が鍵

中程度のリガンド嵩高さで過剰異性化を抑制


4: 先行研究との比較

既存手法より広い適用範囲と高い選択性

条件の簡便性が本手法の利点


5: 限界点

いくつかの基質で反応性が低い

スケールアップ研究が必要


結論

新規なニッケル触媒によるアルケン異性化プラットフォームを開発

室温で様々な基質に対しE/Z選択的に適用可能  

リガンド設計により立体選択性を制御


今後の展望

精密合成や創薬などへの応用が期待される

2024年4月28日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0008~

論文のタイトル: A Tamed Intermediate: The Pivotal Role of Cp* in Hypercoordinate Boron Cation Catalysis

著者: Hsi-Ching Tseng, Po-Han Chen, Yi-Hung Liu, Zhen Hua Li, Ching-Wen Chiu

雑誌: Organometallics

出版年: 2024年


背景 

1: 研究の背景

ボレニウムイオンは高い反応性を示すが、分解しやすい

二配位のボリニウムイオンの合成的応用は制限されている  

著者らは以前、[Cp*B-Mes]+がマスクされたボリニウムイオンとして機能することを示した


2: 未解決の問題 

[Cp*B-Mes]+のような超配位ホウ素カチオンの触媒作用のメカニズムは不明

触媒中間体の構造や役割が解明されていない


3: 研究の目的

[Cp*B-Mes]+によるケトンのシアノシリル化反応を調査し、触媒機構を解明

Cp*配位子の役割を明らかにする


方法

1: 研究デザイン 

実験的および計算化学的手法を用いた触媒反応の機構解明

[Cp*B-Mes]+触媒によるケトン/アルデヒドのシアノシリル化反応


2: 評価法

生成物の単離、構造解析(NMR、X線構造解析)

速度論的解析


3: 理論計算

DFT計算による中間体構造と電子状態の解析

自然電荷分布解析による電荷分布の検討


結果

1: 触媒活性

[Cp*B-Mes]+はケトン/アルデヒドのシアノシリル化を高効率に触媒する

TMSCNと反応して四配位ホウ素イオン[Cp*BMes(TMSCN)2]+を生成


2: 中間体の単離と構造解析  

[Cp*BMes(TMSCN)2]+の単結晶X線構造解析に成功

TMSCN配位により五員環からη2配位のCp*配位子に変化


3: 反応速度論

速度は基質とTMSCNの濃度に関して1次

実測の活性化エンタルピーは19.9 kcal/mol 


考察

1: Cp*配位子の役割

中間体[Cp*BMes(TMSCN)]+におけるCp*のη2配位が重要

Cp*配位により中間体の正電荷が減少し、分解を抑制


2: 先行研究との比較  

[Mes2B]+はTMSCNと反応してB-C結合が切断される

Cp*配位子が強い正電荷の局在化を防ぐ


3: 計算化学的解析

[Cp*BMes(TMSCN)]+と[Mes2BMes(TMSCN)]+の電荷分布を比較

Cp*配位子がB-C結合の極性を低下させる


4: 反応機構

実験結果と計算から、協奏的機構が示唆される

[Cp*BMes(TMSCN)]+がカチオン種の実際の触媒


5: 限界点

他の塩基やリン配位子の効果は検討されていない

他の反応への適用範囲は不明


結論

超配位ホウ素カチオン[Cp*B-Mes]+はケトン/アルデヒドのシアノシリル化反応の前駆触媒

Cp*配位子はボレニウムイオン中間体を安定化し、触媒活性を向上 

新規高活性ホウ素カチオン触媒開発への指針を提供


今後の課題

他の反応への応用と一般性の評価

より実用的な配位子設計指針の確立

2024年4月27日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0007~

論文のタイトル: Intramolecular Diels-Alder Reaction of a Biphenyl Group in a Strained meta-Quaterphenylene Acetylene

著者: Komal Mittal, Ashley V. Pham, Amanda G. Davis, Abigail D. Richardson, Clement De Hoe, Ryan T. Dean, Vi Baird, Ashley Ringer McDonald, and Derik K. Frantz

雑誌: Journal of Organic Chemistry

出版年: 2023


背景

1: 研究の背景

ペリレンなどの大きなπ系化合物の湾曲領域は、高温でジエノフィルと Diels-Alder 付加環化反応を起こす

この反応は、より大きなπ系の形成に有用である

しかし、この反応性はペリレンなどの特殊な化合物に限られていた


2: 未解決の問題点

二環式のビフェニル誘導体においては、同様の Diels-Alder 反応性が観測されていない

ビフェニルの反応は、より高い活性化エネルギーを必要とすると予測されている  


3: 研究の目的

歪んだメタ-クォーターフェニルアセチレン環式化合物のビフェニル部位が、高温で分子内 Diels-Alder 反応を起こすことを実証する

この反応の熱力学的および速度論的な特性を調べる


方法

1: 研究デザイン

有機合成と分光分析による実験的研究


2: 生成物

歪んだメタ-クォーターフェニルアセチレン環式化合物(6)およびその誘導体 6-Me


3: 反応性の評価  

化合物 66-Me を高温溶媒中で加熱し、生成物を分析

1H NMR を用いた反応経路の追跡


4: 理論計算

DFT計算により、反応機構と活性化自由エネルギーを算出し、実験結果と比較


結果

1: 化合物 6 の反応

化合物 6 を高温で加熱すると、ベンズ[e]インデノ[1,2,3-hi]アセフェナントリレン 7 が生成

1H NMR で反応の追跡と生成物の同定が可能


2: 化合物 6-Me の反応速度論

220°C で 6-Me から 7-Me への反応を追跡 

一次反応速度定数 k = ∼ 1 × 10-5 s-1

活性化ギブズ自由エネルギー ΔG‡ ≈ 40-41 kcal/mol


3: 理論計算の結果

協奏的な [4+2] 環化付加-脱 H2 機構が最も妥当

計算された活性化自由エネルギーは実験値と良い一致を示す


考察

1: Diels-Alder 反応の発見

初めてビフェニル誘導体で湾曲領域の Diels-Alder 反応性を実証した

ペリレンなど大きなπ系と同様の反応性を示す  


2: 反応の駆動力

高い歪みエネルギーが反応の駆動力となっている

生成物は非常に安定であり、大きな生成熱を伴う


3: 理論との比較

計算結果は実験値をよく再現しており、提案した機構を支持


4: 先行研究との比較 

ビフェニル誘導体の Diels-Alder 反応は初の報告例

大きなπ系への拡張に向けた新たな方法論となる可能性


5: 限界点

高温条件が必要で、基質の適用範囲が限定される

生成物の利用法については未検討


結論

歪んだメタ-クォーターフェニルアセチレン環式化合物のビフェニル部位が、分子内 Diels-Alder 反応により環拡大化合物を与えることを実証  

反応は高温条件で進行し、計算化学的にも支持された[4+2]環化付加-脱離機構が妥当

この反応は、ビフェニル誘導体に対する新たなπ系拡張手法を提供


将来の展望

より温和な条件での反応や、生成物の有用性の検討が、今後の課題

2024年4月26日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0006~

論文のタイトル: Suppressing Cis/Trans 'Ring-Flipping' in Organoaluminium(III)-2-Pyridyl Dimers – Design Strategies Towards Lewis Acid Catalysts for Alkene Oligomerisation

著者: Dipanjana Choudhury, Ching Ching Lam, Nadia L. Farag, Jonathan Slaughter, Andrew D. Bond, Jonathan M. Goodman, Dominic S. Wright

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

遷移金属は合成と触媒分野で中心的な役割を果たしてきた

しかし、貴金属は希少で高価、環境にも優しくない

典型元素の活性を利用すれば、よりサステナブルな触媒が期待できる


2: 未解決の問題点 

Al(III)はLewis酸性が高く、酸化状態の可逆的変化が可能

しかし、Al(III)を用いた酸化還元触媒の報告例は少ない


3: 研究の目的

2-ピリジル基を有する新規二核Al(III)錯体の合成と構造決定

脱アルキル化によりカチオン種を発生させ、オレフィン重合触媒への応用を目指す

立体選択的重合のため、2-ピリジル環上の置換基の影響を検討


方法

1: 研究デザイン

5種類の新規二核Al(III)錯体[R2Al(2-py')]2 (R = Me, iBu; py' = 置換ピリジル基) を合成

1H NMR、X線構造解析により立体異性体の割合を決定

理論計算によりシス-トランス異性化機構とエネルギー的安定性を解析


2: 評価法

2-ピリジル環の6-位置換基の影響評価

トランス体の生成を促進する置換基パターンを探索

二量体の脱メチル化による活性カチオン種の発生


結果

1: 6-位置換基の影響評価結果

6-位置換基の導入によりシス体生成が抑制された

特に6-MeO置換体ではシス体がほとんど観測されなかった


2: 理論計算結果 

トランス体がよりエネルギー的に安定であることを示唆

異性化機構はconcerted型ではなく、2段階の"スイング機構"が有利

Al-N結合の一時的解離とピリジル環の回転を経る

6-位置換基の導入によりこの異性化の活性化エネルギーが増大


3: カチオン種発生の検討結果

脱メチル化によるモデルカチオン種[{MeAl(2-py')}2(μ-Me)]+の発生が理論的に示された

実験的にも6-MeO置換体の脱メチル化が進行することを確認


考察

1: 新規二核Al(III)錯体の合成

2-ピリジル環6-位への置換基導入がトランス選択性の向上に有効であった

立体効果によりシス体生成が抑制され、トランス体が熱力学的に安定化される

C2対称性のあるトランス体が重合触媒前駆体として望ましい


2: 異性化機構の考察

理論計算から2段階のスイング機構が示唆された

この機構では活性化エネルギーが置換基効果を受ける

6-位置換基はトランス選択性向上に加え、異性化を抑制する効果も持つ  


3: カチオン種の考察

脱メチル化によるカチオン種発生が計算と実験で裏付けられた

トランス配置のカチオンがエネルギー的に有利であり、望ましい構造

立体選択的オレフィン重合活性は今後の課題


4: 限界点

固体構造とNMR解析に留まる

実際の重合活性は未検証

異性化の速度論的解析が不十分


結論

2-ピリジル基を含むAl(III)ダイマーの合成と構造解析に成功

置換基導入によりトランス選択性が向上し、望ましい配置が得られた

脱アルキル化によるカチオン種発生が実証された


将来の展望

今後、これらカチオン種のオレフィン重合活性と立体選択性を検証する必要がある

2024年4月25日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0005~

論文のタイトル: Development of the Squaramide Scaffold for High Potential and Multielectron Catholytes for Use in Redox Flow Batteries 

著者: Jacob S. Tracy, Conor H. Broderick, and F. Dean Toste

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

再生可能エネルギーの普及に伴い、エネルギー貯蔵技術の重要性が高まっている

非水系有機レドックスフロー電池(N-ORFB)は、広い電気化学的安定性窓を有するが、高電位陰極(電解)液材料の設計が課題となっている


2: 未解決の問題点

既存の陰極(電解)液分子では、0.6 V vs Fc/Fc+以下の酸化電位に限られている

高電位 (0.8 V vs Fc/Fc+以上) の陰極(電解)液材料はほとんど報告されていない  


3: 研究の目的

本研究ではスクアラミド骨格に着目し、高電位・多電子陰極(電解)液の開発を目指した

スクアラミド骨格の酸化還元挙動は1977年に報告されたが、エネルギー貯蔵への応用は未開拓

機構解析と分子設計により、スクアラミド骨格を最適化し、N-ORFBに適用可能な陰極(電解)液材料を開発する


方法

1: 研究デザイン

スクアリン酸キノキサリン(SQX)およびスクアリン酸アミド(SQA)骨格を合成

サイクリックボルタンメトリー、NMR、HRMS等の分析手法を用いて酸化還元挙動と分解機構を解明

静止状態でのH型セル充放電実験により電気化学的安定性を評価


2: 試料

分子設計指針に基づき、SQX、SQAライブラリを構築  

フロー電池に適した高溶解性、高酸化電位、長期サイクル安定性を示す分子を選定


3: 評価法

選定した陰極(電解)液分子を用いて、実験室スケールのフロー電池を構築し性能を評価


結果

SQX-1の性能

• SQX-1は0.51 V vs Fc/Fc+の高い酸化電位と99%の残存容量(102サイクル後)を示した  

• SQX-1(100 mM)とピリジニウムアノライト(100 mM)を用いたN-ORFBは1.58 Vを発生

• 102サイクル後に99%のピーク容量を維持し、70%の最大利用率を達成


SQA-1,2の性能

• SQA-1(50 mM)とビオロゲン陽極(電解)液(50 mM)を用いたN-ORFBは1.63 Vを発生し、陰極(電解)液の分解は認められなかった

• SQA-1は0.81 V vs Fc/Fc+の極めて高い酸化電位を有し、110サイクル後も分解は認められなかった

• SQA-2は0.48 V、0.85 Vの2段階酸化を示し、0.56%/時間の容量低下率を実現


考察

1: 新たな知見 

スクアラミド骨格は、合理的な分子設計により高電位化と電気化学的安定性の両立が可能

ラジカルカチオンの非局在化と分子内環化反応の抑制が、高い酸化電位と安定性をもたらした

新規高電位・多電子陰極(電解)液分子の開発に成功し、N-ORFBの高エネルギー密度化に貢献


2: 先行研究との比較

本研究で得られた知見は、Sanfordらの高電位シクロプロペニウム陰極(電解)液と同等の性能  


3: 限界点

機構解析の一部が不明確で、合理的な設計指針構築にはさらなる理解が必要

比較的少数のスクアラミド分子を対象としており、さらなる探索の余地あり

フロー電池実験はモデルシステムに留まり、実機条件下での長期安定性は未検証

陽極(電解)液分子との適合性、セパレーター材料等の課題も残されている


結論

本研究では、スクアラミド骨格を活用した高電位・多電子陰極(電解)液材料の開発に成功した

機構解析と分子設計の組み合わせにより、従来より200 mV以上高い酸化電位と優れた安定性を実現

得られた知見は、高エネルギー密度N-ORFBの実現に向けた重要な一歩となる


将来の展望

実用化に向けてはさらなる分子最適化による安定性の向上と溶解度の最適化が必要

加えて電池システム全体の改善が必要不可欠である

2024年4月24日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0004~

論文のタイトル: Nickel-catalyzed C(sp2)–C(sp3) coupling via photoactive electron donor–acceptor complexes

著者: Salman Alsharif, Chen Zhu, Xiushan Liu, Shao-Chi Lee, Huifeng Yue, Magnus Rueping

雑誌: Chemical Communications

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応は有機合成化学の基盤反応

C(sp2)-C(sp3)結合形成は化合物の複雑性を高める上で重要

従来法は金属還元剤の過剰使用や廃棄物の発生が課題


2: 研究の目的 

貴金属触媒を必要とせず、より汎用的な新規手法の開発

電子供与体-電子受容体(EDA)複合体を活用したC(sp2)-C(sp3)カップリング反応の確立


3: 期待される成果

EDA複合体駆動型の新規カップリング手法の開拓

温和な反応条件による広範な基質適用可能性

貴金属触媒を必要としない環境調和型プロセス


方法 

1: 反応条件の最適化

モデル基質: 4-ブロモ-1,1'-ビフェニル、シクロヘキシルヨージド

種々の Ni触媒/配位子、溶媒、添加剤、光源を検討

Cy2NH/HE/NiBr2・4,4'-ジメトキシ-2,2'-ビピリジン/DMF/390 nm光が最適


2: 基質適用範囲の検討  

多様なアリールブロミド、アルキルヨウ化物の適用範囲を検証

各種官能基の許容性や立体障害の影響を評価


3: 分光学的解析

UV-Vis分光法によりEDA複合体の形成を確認  

機構的知見を得るためにHE/アミン/アルキルヨウ化物/Ni触媒の吸収スペクトルを測定


4: 統計解析

ガスクロマトグラフ内標準法による生成物収率の算出

反応条件の最適化にはOne-way ANOVA(一元配置分散分析)を使用


結果

1: アリールブロミドの適用範囲

電子求引性/電子供与性置換基を有するアリール基が適用可能

ケトン、シアノ、トリフルオロメトキシ、フッ素など多様な官能基を許容

ヘテロ環式アリールブロミドも良好な収率


2: アルキルヨウ化物の適用範囲 

環状および直鎖状のアルキルヨウ化物が反応可能

一級および二級アルキルヨウ化物に対して適用可能

シリル基やエーテル結合などの官能基も許容される


3: 天然物誘導体への応用

コレスタノール、プロベネシドなどの複雑な分子への適用に成功

実用的な変換プロセスとしての有用性を実証


考察  

1: 主要な知見

EDA複合体を介した新規C(sp2)-C(sp3) カップリング反応の開発に成功

貴金属触媒を必要とせず、温和な条件下で進行

広範なアリール/アルキル基質に適用可能な汎用性の高い手法


2: 先行研究との比較

従来のニッケル/光還元体系に比べ、より簡便なプロトコル  

Molander らの類似手法と比較して基質適用範囲が広い


3: 反応機構の考察

UV-Vis測定からEDA複合体の形成と光誘起電子移動が示唆される

アルキルラジカル種の発生、ニッケル触媒サイクルを経る機構が提案されている  


4: 今後の課題

より高い原子経済性と選択性を目指した最適化

スケールアップ時の課題の検討

他の結合形成反応への適用拡大の可能性


結論

EDA複合体駆動によるC(sp2)-C(sp3)カップリング反応の開発に成功

貴金属触媒を必要とせず、温和な条件で広範な基質に適用可能

よりグリーンで実用的なカップリングプロトコルとなる可能性


将来の展望

他の結合形成反応への応用展開が期待される新概念反応

2024年4月23日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0003~

論文のタイトル: 7Li NMR Spectroscopy: a Tool for Determining DimerizationConstants and Averaged Dimerization Constants of theMonomer/Dimer Equilibrium of Hierarchical Helicates

著者: Tobias Krückel, Steffen Schauerte, Jinbo Ke, Marcel Schlottmann, Sandra Bausch, Xiaofei Chen, Christoph Räuber, Igor d’Anciães Almeida Silva, Thomas Wiegand, Markus Albrecht

雑誌:  Chemistry—A European Journal

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

階層的自己組織化は、複雑な機能構造を単純な構成ブロックから形成する重要な過程

チタン(IV)ベースの階層的ヘリケート (Li[Li3L6Ti2])は、溶液中で単量体/二量体平衡を示す  

この平衡の熱力学を研究することで、溶媒効果や分散相互作用を解明できる


2: 未解決の問題点

既存研究では1H NMRによるモノマー/二量体比の決定が一般的

1H NMRでは配位子混合物から生じる統計的ヘリケート混合物の評価が困難

7Li NMRはヘリケート内部と外部のリチウムイオンを区別できるため、上記問題解決のための有力なツール


3: 研究の目的 

7Li NMRによる二量体化定数および平均二量体化定数の決定

固体NMRによるリチウムイオン環境の解析  

可逆的圧縮/伸長ヘリケートの7Li NMRによる評価


方法

1: 研究デザイン

様々な置換基を有するカテコール配位子からヘリケートを合成

溶液および固体NMRを用いてリチウムイオン環境を評価


2: 試料

Li[Li3L6Ti2], Li[Li3L'3Ti2] (L'=ブリッジ型ジカテコール配位子)


3: 評価法

7Li NMRによる二量体化定数決定  

•結合リチウム(低磁場)と溶媒和リチウム(高磁場)のシグナル強度比からモノマー/二量体比を決定

•既知濃度からモノマー/二量体比を算出し、二量体化定数(Kdim)を算出  


固体NMRおよび可逆ヘリケート評価

•7Li 固体高分解能NMR(SATRAS実験)によりリチウムイオン四重極相互作用を調べた

•リチウム周辺の構造情報を得る

•ジカテコール配位子を用いて圧縮型と伸長型ヘリケートを評価


結果

7Li溶液NMR  

•溶液中で内部リチウムと外部リチウムのシグナルが明確に分離

•シグナル分離(Δδ)は溶媒と置換基に依存

    ex1. アルキルエステル < ベンジルエステル

    ex2. 電子密度の増加に伴いΔδも増加


二量体化定数(Kdim)

•シグナル強度比からKdimを決定

•1H NMRとの良好な一致   

•配位子混合物でも平均Kdimが算出可能


固体NMR

•固体NMRでも内部リチウムと外部リチウムの化学シフトが明確に区別可能

•四重極相互作用から結合の強さや動的挙動が推定可能


圧縮/伸長ヘリケート

•16員環ブリッジ配位子を用いると、圧縮型と伸長型ヘリケートが共存  

•7Li NMRで両種のシグナル強度比から、圧縮/伸長平衡が評価可能  


考察

1: 7Li NMRの有効性

7Li NMRは階層的ヘリケートのモノマー/二量体平衡を簡便に評価できる

配位子混合物に対する平均Kdimの決定も可能

内部/外部リチウム環境の詳細が固体NMRから得られる  

可逆的圧縮/伸長ヘリケートの動的平衡も追跡可能


2: 新たな知見 

ヘリケート内リチウムイオン環境の違いが化学シフトに反映

二量体化定数は配位子置換基や溶媒に大きく依存  

配位子混合物中で最も不安定な配位子がKdimを低下させる


3: 限界点

NMR測定には高濃度試料が必要

混合物のシグナル重なりが解析を困難にする可能性  

圧縮/伸長ヘリケートの動的平衡の解析は定性的


結論

7Li NMRはヘリケートの単量体/二量体平衡を定量的に評価するのに優れた手法

配位子混合物からの平均二量体化定数決定も可能

リチウム周辺の詳細な構造情報が得られる  

動的ヘリケートシステムの評価にも有用


将来の展望

今後、より複雑な系への応用が期待される

Catch Key Points of a Paper ~0002~

論文のタイトル: Late-Stage Saturation of Drug Molecules

著者: De-Hai Liu, Philipp M. Pflüger, Andrew Outlaw, Lukas Lückemeier, Fuhao Zhang, Clinton Regan, Hamid Rashidi Nodeh, Tim Cernak, Jiajia Ma, Frank Glorius

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

医薬品の多くはベンゼンやピリジンなどの芳香環を含む平面構造を有する

これらの平面構造は合成が容易だが、医薬品としての性質が劣る

立体的な飽和構造の方が溶解性や選択性、代謝安定性に優れている


2: 未解決の問題点

従来の合成法では、芳香環を有する化合物の製造が中心

医薬品開発では芳香環を飽和させた立体構造への変換が望まれている

しかし、複雑な構造を有する既存の医薬品を飽和化する手法がなかった  


3: 研究の目的

既存の医薬品の芳香環を穏和な条件で飽和させる新規手法の開発

多様な医薬品への適用が可能で、製品化された医薬品の性質改善が期待される


方法  

1: 研究デザイン

ロジウム錯体とホウ素還元剤による芳香環の水素化反応


2: 生成物

PubChemデータベースに登録された2.1M種の医薬品様化合物


3: 評価法

生成物の収率、立体選択性、反応の汎用性

核磁気共鳴分光法、質量分析による測定


4: 統計解析

線形回帰分析、化学物性値予測


結果  

1: 反応結果

ベンゼン環やピリジン環を有する多様な医薬品が穏和な条件で飽和化可能

収率は概して良好で、高い官能基許容性と立体選択性を示した

  

2: 実用性の検証結果

プロパノロールやミドスタウリンなど複雑な薬剤の飽和化に成功

環の種類によって適した反応条件が異なることが判明


3:  基質一般性の検証結果

768種の医薬品ライブラリに対して、96穴プレートを用いた反応アレイを実施

平均42.9%の基質が飽和体に変換された驚異的な反応性を示した


考察

1: 今後の応用展開

医薬品の芳香環をsp3富化した飽和構造に変換することが可能に

低分子医薬品の3次元化による薬理活性や物性の改善が期待される


2: 他分野への貢献

計算化学的解析により、飽和化によるログPなど化合物性質の変化を予測

マイクロソーム安定性試験では、一部化合物で代謝安定性の向上を確認


3: 先行研究との比較

既存の全合成ルートに比べ、本手法は段階的に構築された複雑骨格を修飾可能

汎用的な後期飽和化手法として、創薬プロセスに資する可能性が示唆された


4: 限界点

一方で、一部の基質では反応性や選択性に課題が残る

さらなる条件最適化と反応機構解明が、応用範囲拡大に向けて重要


結論

本研究では、既存の医薬品の芳香環を穏和な条件で飽和化する新規手法を確立した

本手法は、創薬プロセスにおける新たな化合物最適化戦略として極めて有用である


将来の展望

得られた飽和医薬品は、従来よりも優れた物性や活性を示す可能性が高い  

反応条件の最適化と適用範囲の拡大により、創薬への更なる貢献が期待される

2024年4月22日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0001~

論文のタイトル: Lewis Acid Decorated Hexacyanodiborane(6) Dianion

著者: Ludwig Zapf and Maik Finze

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

巻: e202401681号

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

Diborane(4)化合物は既によく研究されているが、Diborane(6)ジアニオンについての報告例は少ない


2: 未解決の問題点

Hexacyanodiborane(6)ジアニオン[B2(CN)6]2-は空気安定性があるが、その反応性は詳しく調べられていない

[B2(CN)6]2-は弱配位性アニオンとしての応用が期待されている


3: 研究の目的

Hexacyanodiborane(6)ジアニオンに Lewis 酸を導入し、新規弱配位性ジアニオンを合成

生成物の物性や反応性を明らかにする


方法

1: 研究デザイン

Hexacyanodiborane(6)ジアニオン[B2(CN)6]2-にtris(pentafluorophenyl)boraneを作用させる


2: 生成物

[B2{CNB(C6F5)3}6]2- (1)のカリウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、酸化物オニウム塩 {H(OEt2)2}2・1、トリチルカチオン塩 [Ph3C]2・1


3: 物性評価法

単結晶X線構造解析

NMR、IR、ラマン分光分析

熱分析(DSC)

電気化学測定(CV)


4: 計算化学的検討

密度汎関数法(DFT)による電子構造、結合特性の解析


結果

1: X線構造解析結果

ジアニオン1の構造決定

C≡N結合の短縮化が確認された


2: 分光学的性質

IR、ラマン分光によりC≡N伸縮振動数の大幅な増加を確認

ジアニオン1のトリ-n-オクチルアンモニウム塩のNHプロトン酸性度は、[B(C6F5)4]-を用いた場合と同程度


3: 熱的・電気化学的安定性

1の塩の多くは200℃以下では安定

酸化電位が[B2(CN)6]2-より大幅に正電位側にシフト


考察

1: 弱配位性アニオンの合成

ジアニオン1は分子容積が2000 Å3を超える極めて大きな弱配位性アニオン

電荷が非局在化し、分極率が小さいためにカチオンとの相互作用が弱い


2: C≡N結合の短縮と安定化

Lewis酸であるBCFがC≡N結合に作用し、結合が短縮・強化された

これが酸化電位の正シフトにつながり、より安定化された


3: 反応性の向上

[Ph3C]2・1とEt3SiHの反応により、ジアニオン1から中性のビス(シリル化)体2が生成

[B2(CN)6]2-に比べ反応性が大幅に向上した


4: 限界点

ジアニオン1の溶解性が低い

Et3Si+基の導入は2つまでしか進行せず、完全置換体は得られなかった


5: 先行研究との比較

[closo-B12X12]2- (X=ハロゲン)に比べ大きな弱配位性ジアニオンが得られた

BCF付加体では類例があるが、Diborane(6)化合物への応用は初めて


結論

Hexacyanodiborane(6)ジアニオンに Lewis 酸を導入することで、新規極大型弱配位性ジアニオン1が合成できた

1は熱的・酸化的に非常に安定であり、カチオンの安定化剤として有用

さらに1から新規中性 Diborane(6)化合物2への変換も可能

Diborane(6)化合物の新たな反応場の開拓につながる成果


将来の展望

溶解性の改善による新たな応用展開

他のLewis酸による修飾による物性制御

反応性の詳細な解明と新規変換反応の探索