著者: Jacob S. Tracy, Conor H. Broderick, and F. Dean Toste
雑誌: Journal of the American Chemical Society
出版年: 2024
背景
1: 研究の背景
再生可能エネルギーの普及に伴い、エネルギー貯蔵技術の重要性が高まっている
非水系有機レドックスフロー電池(N-ORFB)は、広い電気化学的安定性窓を有するが、高電位陰極(電解)液材料の設計が課題となっている
2: 未解決の問題点
既存の陰極(電解)液分子では、0.6 V vs Fc/Fc+以下の酸化電位に限られている
高電位 (0.8 V vs Fc/Fc+以上) の陰極(電解)液材料はほとんど報告されていない
3: 研究の目的
本研究ではスクアラミド骨格に着目し、高電位・多電子陰極(電解)液の開発を目指した
スクアラミド骨格の酸化還元挙動は1977年に報告されたが、エネルギー貯蔵への応用は未開拓
機構解析と分子設計により、スクアラミド骨格を最適化し、N-ORFBに適用可能な陰極(電解)液材料を開発する
方法
1: 研究デザイン
スクアリン酸キノキサリン(SQX)およびスクアリン酸アミド(SQA)骨格を合成
サイクリックボルタンメトリー、NMR、HRMS等の分析手法を用いて酸化還元挙動と分解機構を解明
静止状態でのH型セル充放電実験により電気化学的安定性を評価
2: 試料
分子設計指針に基づき、SQX、SQAライブラリを構築
フロー電池に適した高溶解性、高酸化電位、長期サイクル安定性を示す分子を選定
3: 評価法
選定した陰極(電解)液分子を用いて、実験室スケールのフロー電池を構築し性能を評価
結果
SQX-1の性能
• SQX-1は0.51 V vs Fc/Fc+の高い酸化電位と99%の残存容量(102サイクル後)を示した
• SQX-1(100 mM)とピリジニウムアノライト(100 mM)を用いたN-ORFBは1.58 Vを発生
• 102サイクル後に99%のピーク容量を維持し、70%の最大利用率を達成
SQA-1,2の性能
• SQA-1(50 mM)とビオロゲン陽極(電解)液(50 mM)を用いたN-ORFBは1.63 Vを発生し、陰極(電解)液の分解は認められなかった
• SQA-1は0.81 V vs Fc/Fc+の極めて高い酸化電位を有し、110サイクル後も分解は認められなかった
• SQA-2は0.48 V、0.85 Vの2段階酸化を示し、0.56%/時間の容量低下率を実現
考察
1: 新たな知見
スクアラミド骨格は、合理的な分子設計により高電位化と電気化学的安定性の両立が可能
ラジカルカチオンの非局在化と分子内環化反応の抑制が、高い酸化電位と安定性をもたらした
新規高電位・多電子陰極(電解)液分子の開発に成功し、N-ORFBの高エネルギー密度化に貢献
2: 先行研究との比較
本研究で得られた知見は、Sanfordらの高電位シクロプロペニウム陰極(電解)液と同等の性能
3: 限界点
機構解析の一部が不明確で、合理的な設計指針構築にはさらなる理解が必要
比較的少数のスクアラミド分子を対象としており、さらなる探索の余地あり
フロー電池実験はモデルシステムに留まり、実機条件下での長期安定性は未検証
陽極(電解)液分子との適合性、セパレーター材料等の課題も残されている
結論
本研究では、スクアラミド骨格を活用した高電位・多電子陰極(電解)液材料の開発に成功した
機構解析と分子設計の組み合わせにより、従来より200 mV以上高い酸化電位と優れた安定性を実現
得られた知見は、高エネルギー密度N-ORFBの実現に向けた重要な一歩となる
将来の展望
実用化に向けてはさらなる分子最適化による安定性の向上と溶解度の最適化が必要
加えて電池システム全体の改善が必要不可欠である
0 件のコメント:
コメントを投稿