著者: Dipanjana Choudhury, Ching Ching Lam, Nadia L. Farag, Jonathan Slaughter, Andrew D. Bond, Jonathan M. Goodman, Dominic S. Wright
雑誌: Chemistry - A European Journal
出版年: 2024
背景
1: 研究の背景
遷移金属は合成と触媒分野で中心的な役割を果たしてきた
しかし、貴金属は希少で高価、環境にも優しくない
典型元素の活性を利用すれば、よりサステナブルな触媒が期待できる
2: 未解決の問題点
Al(III)はLewis酸性が高く、酸化状態の可逆的変化が可能
しかし、Al(III)を用いた酸化還元触媒の報告例は少ない
3: 研究の目的
2-ピリジル基を有する新規二核Al(III)錯体の合成と構造決定
脱アルキル化によりカチオン種を発生させ、オレフィン重合触媒への応用を目指す
立体選択的重合のため、2-ピリジル環上の置換基の影響を検討
方法
1: 研究デザイン
5種類の新規二核Al(III)錯体[R2Al(2-py')]2 (R = Me, iBu; py' = 置換ピリジル基) を合成
1H NMR、X線構造解析により立体異性体の割合を決定
理論計算によりシス-トランス異性化機構とエネルギー的安定性を解析
2: 評価法
2-ピリジル環の6-位置換基の影響評価
トランス体の生成を促進する置換基パターンを探索
二量体の脱メチル化による活性カチオン種の発生
結果
1: 6-位置換基の影響評価結果
6-位置換基の導入によりシス体生成が抑制された
特に6-MeO置換体ではシス体がほとんど観測されなかった
2: 理論計算結果
トランス体がよりエネルギー的に安定であることを示唆
異性化機構はconcerted型ではなく、2段階の"スイング機構"が有利
Al-N結合の一時的解離とピリジル環の回転を経る
6-位置換基の導入によりこの異性化の活性化エネルギーが増大
3: カチオン種発生の検討結果
脱メチル化によるモデルカチオン種[{MeAl(2-py')}2(μ-Me)]+の発生が理論的に示された
実験的にも6-MeO置換体の脱メチル化が進行することを確認
考察
1: 新規二核Al(III)錯体の合成
2-ピリジル環6-位への置換基導入がトランス選択性の向上に有効であった
立体効果によりシス体生成が抑制され、トランス体が熱力学的に安定化される
C2対称性のあるトランス体が重合触媒前駆体として望ましい
2: 異性化機構の考察
理論計算から2段階のスイング機構が示唆された
この機構では活性化エネルギーが置換基効果を受ける
6-位置換基はトランス選択性向上に加え、異性化を抑制する効果も持つ
3: カチオン種の考察
脱メチル化によるカチオン種発生が計算と実験で裏付けられた
トランス配置のカチオンがエネルギー的に有利であり、望ましい構造
立体選択的オレフィン重合活性は今後の課題
4: 限界点
固体構造とNMR解析に留まる
実際の重合活性は未検証
異性化の速度論的解析が不十分
結論
2-ピリジル基を含むAl(III)ダイマーの合成と構造解析に成功
置換基導入によりトランス選択性が向上し、望ましい配置が得られた
脱アルキル化によるカチオン種発生が実証された
将来の展望
今後、これらカチオン種のオレフィン重合活性と立体選択性を検証する必要がある
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