論文のタイトル: Lewis Acid Decorated Hexacyanodiborane(6) Dianion
著者: Ludwig Zapf and Maik Finze
雑誌: Angewandte Chemie International Edition
巻: e202401681号
出版年: 2024年
背景
1: 研究の背景
Diborane(4)化合物は既によく研究されているが、Diborane(6)ジアニオンについての報告例は少ない
2: 未解決の問題点
Hexacyanodiborane(6)ジアニオン[B2(CN)6]2-は空気安定性があるが、その反応性は詳しく調べられていない
[B2(CN)6]2-は弱配位性アニオンとしての応用が期待されている
3: 研究の目的
Hexacyanodiborane(6)ジアニオンに Lewis 酸を導入し、新規弱配位性ジアニオンを合成
生成物の物性や反応性を明らかにする
方法
1: 研究デザイン
Hexacyanodiborane(6)ジアニオン[B2(CN)6]2-にtris(pentafluorophenyl)boraneを作用させる
2: 生成物
[B2{CNB(C6F5)3}6]2- (1)のカリウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、酸化物オニウム塩 {H(OEt2)2}2・1、トリチルカチオン塩 [Ph3C]2・1
3: 物性評価法
単結晶X線構造解析
NMR、IR、ラマン分光分析
熱分析(DSC)
電気化学測定(CV)
4: 計算化学的検討
密度汎関数法(DFT)による電子構造、結合特性の解析
結果
1: X線構造解析結果
ジアニオン1の構造決定
C≡N結合の短縮化が確認された
2: 分光学的性質
IR、ラマン分光によりC≡N伸縮振動数の大幅な増加を確認
ジアニオン1のトリ-n-オクチルアンモニウム塩のNHプロトン酸性度は、[B(C6F5)4]-を用いた場合と同程度
3: 熱的・電気化学的安定性
1の塩の多くは200℃以下では安定
酸化電位が[B2(CN)6]2-より大幅に正電位側にシフト
考察
1: 弱配位性アニオンの合成
ジアニオン1は分子容積が2000 Å3を超える極めて大きな弱配位性アニオン
電荷が非局在化し、分極率が小さいためにカチオンとの相互作用が弱い
2: C≡N結合の短縮と安定化
Lewis酸であるBCFがC≡N結合に作用し、結合が短縮・強化された
これが酸化電位の正シフトにつながり、より安定化された
3: 反応性の向上
[Ph3C]2・1とEt3SiHの反応により、ジアニオン1から中性のビス(シリル化)体2が生成
[B2(CN)6]2-に比べ反応性が大幅に向上した
4: 限界点
ジアニオン1の溶解性が低い
Et3Si+基の導入は2つまでしか進行せず、完全置換体は得られなかった
5: 先行研究との比較
[closo-B12X12]2- (X=ハロゲン)に比べ大きな弱配位性ジアニオンが得られた
BCF付加体では類例があるが、Diborane(6)化合物への応用は初めて
結論
Hexacyanodiborane(6)ジアニオンに Lewis 酸を導入することで、新規極大型弱配位性ジアニオン1が合成できた
1は熱的・酸化的に非常に安定であり、カチオンの安定化剤として有用
さらに1から新規中性 Diborane(6)化合物2への変換も可能
Diborane(6)化合物の新たな反応場の開拓につながる成果
将来の展望
溶解性の改善による新たな応用展開
他のLewis酸による修飾による物性制御
反応性の詳細な解明と新規変換反応の探索
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