2024年6月20日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0047~

論文のタイトル: Extended Reichardt's Dye–Synthesis and Solvatochromic Properties

著者: Stephen Franzese, Nicolau Saker Neto, Wallace W. H. Wong

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024年


背景

1: ソルバトクロミズムとは

化合物の電子吸収スペクトルが溶媒の極性によって変化する現象

正のソルバトクロミズム: 極性の高い溶媒で長波長側にシフト  

負のソルバトクロミズム: 極性の低い溶媒で長波長側にシフト


2: Reichardt's Dye (Betaine 30)

1963年にReichardtらによって合成された

強い負のソルバトクロミズム性を示す代表的な色素

非極性溶媒で881 nm、極性溶媒で438 nmに吸収

ET(30)溶媒極性スケールの基準色素


3: 研究の目的  

Betaine 30に類似した新規π共役拡張ピリジニウム-フェノレート色素を合成

置換基とπ共役鎖長の影響を調べる

ソルバトクロミズムに対する影響を評価


方法

1: 色素の合成

Betaine 30に類似した3種の新規色素 (2B, 2C, 2D) を合成

フェニレン基を導入してドナー-アクセプター距離を延長

化合物2C, 2Dはフェノール部位にCl, Br置換基を導入


2: UV-Vis吸収スペクトル測定

20種類の極性の異なる溶媒中で測定

最長波長吸収帯の極大値波長を決定

溶媒極性指標ET(30)値との相関を検討  


3: Betaine 21 (2A) の合成

1963年Reichardtらによって報告された π共役拡張体

当初、ソルバトクロミズムが小さいと報告されていた

本研究で再評価を試みた


結果

1: 新規色素のソルバトクロミズム

化合物2B, 2C, 2Dはすべて顕著な負のソルバトクロミズムを示した  

Betaine 30に匹敵する大きな吸収シフトが観測された


2: Betaine 21 (2A) の挙動

さまざまな溶媒中で測定したところ、当初の報告よりも著しく大きなソルバトクロミズムを示した

しかし、特定の溶媒中で分解が起こることが判明


3: 新規色素の不安定性  

化合物2B, 2C, 2D, 2Aはある種の溶媒中で分解し、黄色に変色した

質量分析ではこの分解物に酸素の付加が示唆された


考察

1: ドナー-アクセプター距離の影響

フェニレン基の導入によりドナー-アクセプター間距離が延長

しかしソルバトクロミズムの顕著な増大は見られなかった

ねじれによる共役の低下が一因と考えられる


2: 置換基効果

化合物2C, 2D2Bより短波長側に吸収帯があった

フェノール部分の電子密度が低下したためと推測


3: 溶媒との相互作用

水素結合ドナー性溶媒とその他の溶媒で挙動が異なる

フェノール部位の立体障害の影響が示唆された  


4: 研究の限界点

色素の合成スケールが小さく、さらなる評価が難しい

分解機構の詳細が不明

より高次の共役系を導入した色素の調査が必要


結論

フェニレン基を導入したπ共役拡張ピリジニウム-フェノレート色素を新規合成

強い負のソルバトクロミズム性が確認された  

しかし当初期待したほどの感度向上は見られなかった

一方、Betaine 21の溶媒クロミズムが過小評価されていたことが判明


将来の展望

ドナー-アクセプター距離の最適化が今後の課題

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