論文のタイトル: Extended Reichardt's Dye–Synthesis and Solvatochromic Properties
著者: Stephen Franzese, Nicolau Saker Neto, Wallace W. H. Wong
雑誌: Chemistry - A European Journal
背景
1: ソルバトクロミズムとは
化合物の電子吸収スペクトルが溶媒の極性によって変化する現象
正のソルバトクロミズム: 極性の高い溶媒で長波長側にシフト
負のソルバトクロミズム: 極性の低い溶媒で長波長側にシフト
2: Reichardt's Dye (Betaine 30)
1963年にReichardtらによって合成された
強い負のソルバトクロミズム性を示す代表的な色素
非極性溶媒で881 nm、極性溶媒で438 nmに吸収
ET(30)溶媒極性スケールの基準色素
3: 研究の目的
Betaine 30に類似した新規π共役拡張ピリジニウム-フェノレート色素を合成
置換基とπ共役鎖長の影響を調べる
ソルバトクロミズムに対する影響を評価
方法
1: 色素の合成
Betaine 30に類似した3種の新規色素 (2B, 2C, 2D) を合成
フェニレン基を導入してドナー-アクセプター距離を延長
化合物2C, 2Dはフェノール部位にCl, Br置換基を導入
2: UV-Vis吸収スペクトル測定
20種類の極性の異なる溶媒中で測定
最長波長吸収帯の極大値波長を決定
溶媒極性指標ET(30)値との相関を検討
3: Betaine 21 (2A) の合成
1963年Reichardtらによって報告された π共役拡張体
当初、ソルバトクロミズムが小さいと報告されていた
本研究で再評価を試みた
結果
1: 新規色素のソルバトクロミズム
化合物2B, 2C, 2Dはすべて顕著な負のソルバトクロミズムを示した
Betaine 30に匹敵する大きな吸収シフトが観測された
2: Betaine 21 (2A) の挙動
さまざまな溶媒中で測定したところ、当初の報告よりも著しく大きなソルバトクロミズムを示した
しかし、特定の溶媒中で分解が起こることが判明
3: 新規色素の不安定性
化合物2B, 2C, 2D, 2Aはある種の溶媒中で分解し、黄色に変色した
質量分析ではこの分解物に酸素の付加が示唆された
考察
1: ドナー-アクセプター距離の影響
フェニレン基の導入によりドナー-アクセプター間距離が延長
しかしソルバトクロミズムの顕著な増大は見られなかった
ねじれによる共役の低下が一因と考えられる
2: 置換基効果
化合物2C, 2Dは2Bより短波長側に吸収帯があった
フェノール部分の電子密度が低下したためと推測
3: 溶媒との相互作用
水素結合ドナー性溶媒とその他の溶媒で挙動が異なる
フェノール部位の立体障害の影響が示唆された
4: 研究の限界点
色素の合成スケールが小さく、さらなる評価が難しい
分解機構の詳細が不明
より高次の共役系を導入した色素の調査が必要
結論
フェニレン基を導入したπ共役拡張ピリジニウム-フェノレート色素を新規合成
強い負のソルバトクロミズム性が確認された
しかし当初期待したほどの感度向上は見られなかった
一方、Betaine 21の溶媒クロミズムが過小評価されていたことが判明
将来の展望
ドナー-アクセプター距離の最適化が今後の課題
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