著者: Lei Hu, Sayandip Chakraborty, Nikolay Tumanov, Johan Wouters, Raphaël Robiette, Guillaume Berionni
雑誌: Chemical Communications
出版年: 2024年
背景
1: イミノホスホランの背景
イミノホスホランは、アザ-Wittig反応におけるリンイリドの窒素類縁体
遷移金属や典型元素のピンサー型配位子として使用増加
有機触媒や Staudinger連結反応への応用
2: イミノホスホランの反応性
窒素原子の高い塩基性により、超塩基の設計に広く使用
かさ高いホウ素ルイス酸と組み合わせてフラストレートルイス対(FLP)を形成
FLPはCO2やH2などの小分子と反応
3: 研究の目的
幾何学的に拘束されたイミノホスホランの構造-反応性関係を調査
新しいフラストレートルイスペアの設計を可能にする
トリプチセン三環式骨格に埋め込まれたホスホニウム中心の特異な性質を解明
方法
1: 合成と特性評価
9-ホスファトリプチセンと様々なアジドR-N3のStaudinger反応により合成
31P NMR、1H NMR、11B NMRスペクトル分析による特性評価
単結晶X線回折分析による構造決定
2: 量子化学計算
NBOを用いた結合分析
プロトン親和性(PA)、メチルカチオン親和性(MCA)の計算
フッ化物イオン親和性(FIA)の計算
3: 反応性研究
トリフリルイミドHNTf2およびBF3·OEt2との反応
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(B(C6F5)3)との相互作用の調査
トリチリウムイオンとの反応
結果
1: 構造的特徴
9-ホスファトリプチセン誘導体はPh3P誘導体より大きな錐体化角αを示す
フェニルイミノホスホラン13のP-N結合長: 1.560(2) Å
HNTf2およびBF3との反応後、P-N結合長が増加:それぞれ15で1.615(1) Å、16で1.611(2) Å
2: スペクトル特性
9-ホスファトリプチセン誘導体の31P NMR化学シフトはPh3P誘導体より遮蔽
化合物13とB(C6F5)3の混合物では31P NMRシグナルのわずかな非遮蔽化のみ観察
11B NMRシグナルは変化なし(60.0 ppm)
3: 計算結果
イミノホスホラン類の塩基性はPh3P=NPhと比較して最大8 kcal/mol低下
リン原子のルイス酸性は4 kcal/mol向上
幾何学的拘束により、三方両錐形構造への歪みエネルギーが4.6 kcal/mol低下
考察
1: 幾何学的拘束の影響
トリプチセン骨格による幾何学的拘束がP=N結合の反応性を調整
窒素の塩基性低下とリンのルイス酸性向上を同時に実現
P=N結合の部分的なUmpolung型反応性をもたらす
2: 非共有結合性相互作用
化合物16でF···P非共有結合性相互作用を観察 (2.8433(14) Å)
Bocイミノホスホラン10でO···P相互作用を観察 (2.717(3) Å)
これらの短い接触は幾何学的拘束に起因
3: フラストレートルイスペア(FLP)の形成
化合物13とB(C6F5)3の組み合わせで弱い相互作用のみ観察
外圏錯体またはFLPの形成を示唆
FLP溶液の長期保存によりC6F5環のパラ位への化合物13の窒素原子による芳香族求核置換SNAr反応が進行した分解生成物18を確認
4: 研究の限界点
合成された化合物の長期安定性に関するデータ不足
FLPの触媒活性に関する詳細な研究が未実施
計算結果と実験データの直接的な比較が限定的
結論
幾何学的拘束がP=N結合の反応性を調整することを実証
新規ケージ型ホスファトリプチセン窒素イリドの合成に成功
FLP触媒としての応用可能性を示唆
将来の展望
トリプチセン骨格の窒素中心型誘導基による電子親和性ホウ素化の研究が進行中
遷移金属を用いない新規合成法の開発に貢献する可能性