論文のタイトル: Blue-to-UVB Upconversion, Solvent Sensitization and Challenging Bond Activation Enabled by a Benzene-Based Annihilator(青色光からUVBへのアップコンバージョン、溶媒の励起、およびベンゼンベースのアニヒレーターによる挑戦的な結合の活性化)
著者: Till J. B. Zähringer, Julian A. Moghtader, Maria-Sophie Bertrams, Dr. Bibhisan Roy, Masanori Uji, Prof. Dr. Nobuhiro Yanai, Prof. Dr. Christoph Kerzig
雑誌名: Angewandte Chemie International Edition
巻: Volume62, Issue8, e202215340
出版年: 2023
DOI: https://doi.org/10.1002/anie.202215340
背景
1: UVB光を用いた光化学反応の現状
- UVB領域 (280–315 nm) の高エネルギー光子は、多くの有用な光化学反応の開始に必要とされている
- しかし、UVB光源には、太陽光に含まれない、寿命が短い、エネルギー変換効率が低いなどの問題点がある
- これらの問題点を解決するために、可視光をUVB光に変換する技術が求められている
2: 三重項-三重項消滅アップコンバージョン (TTA-UC)
- TTA-UCは、2つの低エネルギー光子を1つの高エネルギー光子に変換する機構
- 可視光を用いたTTA-UCにより、高エネルギー光源の代替手段
- これまで、可視光からUVA光への変換は報告されていたが、UVB光への変換は実現されていなかった。
3: 本研究の目的
- 青色光を用いたTTA-UCにより、UVB領域の光子を生成するシステムを開発する
- 開発したシステムを用いて、UVB光を必要とするエネルギー要求の高い光化学反応を駆動する
方法
1: 材料の選択
- アニヒレーター:ベンゼン誘導体 (bTIPS-Bz) を新たに合成
- 感光剤:既知のカルバゾイルジシアノベンゼン系TADF発光体 (4CzIPN) を使用
- 溶媒:シクロヘキサンとトルエンの混合溶媒を使用
2: 分光学的測定
- 吸収スペクトルおよび発光スペクトル測定により、各化合物の光学特性を評価
- レーザーフラッシュフォトリシス (LFP) を用いた過渡吸収 (TA) および発光分光法により、アップコンバージョンシステムの詳細なメカニズムを調査
- 355 nmレーザーと、447 nmおよび445 nmの青色ダイオードレーザーを用いて励起
3: アップコンバージョン効率の評価
- 青色光励起下でのアップコンバージョン発光スペクトルを測定し、その強度依存性を評価
- アップコンバージョン量子収率 (ΦUC) を算出
4: UC-FRET反応シーケンスの評価
- bTIPS-Bzの発光と、UVB吸収性を持つカルボニル化合物(ピナコロンとアセトン)の吸収のスペクトル重なりを評価
- NMRおよびLFP実験により、UC-FRETシーケンスをモニター
結果
1: 新規アニヒレーターの特性
- bTIPS-Bzは、309 nmにピークを持つUVB領域での発光を示し、その約半分はUVB範囲にある
- bTIPS-Bzの一重項励起状態エネルギーは4.15 eVと高く、これは299 nmの光子エネルギーに相当する
- bTIPS-Bzは、ベンゼンと比較して、高い蛍光量子収率 (ΦFI = 0.48) と短い蛍光寿命 (3.2 ns) を示す
2: 青色光駆動アップコンバージョンの実現
- 4CzIPNとbTIPS-Bzの組み合わせにより、青色光励起下でUVB発光が観測された
- 時間分解発光測定により、三重項-三重項消滅による遅延発光が確認された
- 447 nmおよび445 nmの青色光励起下で、約1%のアップコンバージョン量子収率が達成された
3: UC-FRETによる基質活性化
- 1bTIPS-Bz* からカルボニル化合物への効率的なFRETが確認された
- UC-FRETにより、ピナコロンのNorrish I型開裂反応が進行し、イソブチレンが生成された
- 同様の戦略を用いて、ジベンジルケトンのNorrish開裂とそれに続くC-C結合形成も確認された
考察
1: 高効率なUVBアップコンバージョン
- ベンゼン誘導体であるbTIPS-Bzは、高い一重項励起状態エネルギーと蛍光量子収率を持ち、UVB領域での発光を実現した
- 4CzIPNを用いた青色光励起による効率的な三重項エネルギー移動と、それに続くTTAにより、UVB光子が生成された
2: UC-FRETによる高エネルギー光化学
- bTIPS-BzのUVB発光と、カルボニル化合物の吸収のスペクトル重なりにより、効率的なFRETが可能となった
- UC-FRETは、従来UVB光源を必要とした高エネルギー光化学反応を、可視光を用いて駆動する新しい戦略を提供
3: 本研究の限界点
- 現状では、アップコンバージョン量子収率は1%程度にとどまっており、さらなる向上が必要
- 使用したアニヒレーターの光安定性については、詳細な検討が必要
- 高濃度のアニヒレーターによるフィルター効果の影響を低減する必要がある
結論
- 青色光励起によるUVBアップコンバージョンシステムを初めて実現
- 開発したシステムは、UVB光を必要とするエネルギー要求の高い光化学反応を駆動できることを実証
- 持続可能な光化学反応の開発に大きく貢献する成果
将来の展望
- アニヒレーターのさらなる開発により、アップコンバージョン量子収率の向上や、より短波長のUV光生成が期待される
- 固体またはゲル状環境への組み込みにより、大規模な応用が可能になる
- 将来的には、UVA-UVCアップコンバージョンシステムの開発により、水銀ランプを完全に置き換えることも期待される
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