2024年12月2日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0204~

 論文のタイトル: Blue-to-UVB Upconversion, Solvent Sensitization and Challenging Bond Activation Enabled by a Benzene-Based Annihilator(青色光からUVBへのアップコンバージョン、溶媒の励起、およびベンゼンベースのアニヒレーターによる挑戦的な結合の活性化)

著者: Till J. B. Zähringer, Julian A. Moghtader, Maria-Sophie Bertrams, Dr. Bibhisan Roy, Masanori Uji, Prof. Dr. Nobuhiro Yanai, Prof. Dr. Christoph Kerzig

雑誌名: Angewandte Chemie International Edition

巻: Volume62, Issue8, e202215340

出版年: 2023

DOI: https://doi.org/10.1002/anie.202215340


背景

1: UVB光を用いた光化学反応の現状

  • UVB領域 (280–315 nm) の高エネルギー光子は、多くの有用な光化学反応の開始に必要とされている
  • しかし、UVB光源には、太陽光に含まれない、寿命が短い、エネルギー変換効率が低いなどの問題点がある
  • これらの問題点を解決するために、可視光をUVB光に変換する技術が求められている

2: 三重項-三重項消滅アップコンバージョン (TTA-UC)

  • TTA-UCは、2つの低エネルギー光子を1つの高エネルギー光子に変換する機構
  • 可視光を用いたTTA-UCにより、高エネルギー光源の代替手段
  • これまで、可視光からUVA光への変換は報告されていたが、UVB光への変換は実現されていなかった。

3: 本研究の目的

  • 青色光を用いたTTA-UCにより、UVB領域の光子を生成するシステムを開発する
  • 開発したシステムを用いて、UVB光を必要とするエネルギー要求の高い光化学反応を駆動する

方法

1: 材料の選択

  • アニヒレーター:ベンゼン誘導体 (bTIPS-Bz) を新たに合成
  • 感光剤:既知のカルバゾイルジシアノベンゼン系TADF発光体 (4CzIPN) を使用
  • 溶媒:シクロヘキサンとトルエンの混合溶媒を使用

2: 分光学的測定

  • 吸収スペクトルおよび発光スペクトル測定により、各化合物の光学特性を評価
  • レーザーフラッシュフォトリシス (LFP) を用いた過渡吸収 (TA) および発光分光法により、アップコンバージョンシステムの詳細なメカニズムを調査
  • 355 nmレーザーと、447 nmおよび445 nmの青色ダイオードレーザーを用いて励起

3: アップコンバージョン効率の評価

  • 青色光励起下でのアップコンバージョン発光スペクトルを測定し、その強度依存性を評価
  • アップコンバージョン量子収率 (ΦUC) を算出

4: UC-FRET反応シーケンスの評価

  • bTIPS-Bzの発光と、UVB吸収性を持つカルボニル化合物(ピナコロンとアセトン)の吸収のスペクトル重なりを評価
  • NMRおよびLFP実験により、UC-FRETシーケンスをモニター

結果

1: 新規アニヒレーターの特性

  • bTIPS-Bzは、309 nmにピークを持つUVB領域での発光を示し、その約半分はUVB範囲にある
  • bTIPS-Bzの一重項励起状態エネルギーは4.15 eVと高く、これは299 nmの光子エネルギーに相当する
  • bTIPS-Bzは、ベンゼンと比較して、高い蛍光量子収率 (ΦFI = 0.48) と短い蛍光寿命 (3.2 ns) を示す

2: 青色光駆動アップコンバージョンの実現

  • 4CzIPNbTIPS-Bzの組み合わせにより、青色光励起下でUVB発光が観測された
  • 時間分解発光測定により、三重項-三重項消滅による遅延発光が確認された
  • 447 nmおよび445 nmの青色光励起下で、約1%のアップコンバージョン量子収率が達成された

3: UC-FRETによる基質活性化

  • 1bTIPS-Bz* からカルボニル化合物への効率的なFRETが確認された
  • UC-FRETにより、ピナコロンのNorrish I型開裂反応が進行し、イソブチレンが生成された
  • 同様の戦略を用いて、ジベンジルケトンのNorrish開裂とそれに続くC-C結合形成も確認された

考察

1: 高効率なUVBアップコンバージョン

  • ベンゼン誘導体であるbTIPS-Bzは、高い一重項励起状態エネルギーと蛍光量子収率を持ち、UVB領域での発光を実現した
  • 4CzIPNを用いた青色光励起による効率的な三重項エネルギー移動と、それに続くTTAにより、UVB光子が生成された

2: UC-FRETによる高エネルギー光化学

  • bTIPS-BzのUVB発光と、カルボニル化合物の吸収のスペクトル重なりにより、効率的なFRETが可能となった
  • UC-FRETは、従来UVB光源を必要とした高エネルギー光化学反応を、可視光を用いて駆動する新しい戦略を提供

3: 本研究の限界点

  • 現状では、アップコンバージョン量子収率は1%程度にとどまっており、さらなる向上が必要
  • 使用したアニヒレーターの光安定性については、詳細な検討が必要
  • 高濃度のアニヒレーターによるフィルター効果の影響を低減する必要がある

結論

  • 青色光励起によるUVBアップコンバージョンシステムを初めて実現
  • 開発したシステムは、UVB光を必要とするエネルギー要求の高い光化学反応を駆動できることを実証
  • 持続可能な光化学反応の開発に大きく貢献する成果


将来の展望

  • アニヒレーターのさらなる開発により、アップコンバージョン量子収率の向上や、より短波長のUV光生成が期待される
  • 固体またはゲル状環境への組み込みにより、大規模な応用が可能になる
  • 将来的には、UVA-UVCアップコンバージョンシステムの開発により、水銀ランプを完全に置き換えることも期待される

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