2024年12月14日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0216~

論文のタイトル: Aziridine Group Transfer via Transient N-Aziridinyl Radicals(アジリジン基転移を経由した一過性N-アジリジニルラジカル)
著者: Promita Biswas, Asim Maity, Matthew T. Figgins, David C. Powers*
雑誌名: Journal of the American Chemical Society
巻: Volume 146, Issue 45, 30796–30801
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c14169

背景

1: アジリジンの重要性

  • アジリジンは、最も小さい含窒素複素環であり、医薬品や天然物によく見られる
  • 従来のアジリジン合成法は、[2 + 1] 環化付加または分子内置換化学に基づいている。
  • これらの方法では、アジリジンを非環状前駆体から構築する
  • アジリジンは重要な合成構成要素であり、さまざまな有機小分子治療薬や天然物において求電子性薬物動態を示す

2: 既存合成法の限界

  • 既存の方法では、無修飾基質へのアジリジン転移は困難である
  • 多くの場合、C–N結合開裂を伴う
  • 例えば、N-アルキル化や金属触媒によるC-Nクロスカップリング反応では、生成物として1,2-アミノ官能基化生成物が得られることが多い
  • C-H結合やオレフィンなどの比較的官能基化されていない基質に、そのままアジリジンを転移させる方法は現在存在しない

3: 本研究の目的

  • 本研究では、アジリジンフラグメントをそのまま転移させる新しい手法を開発することを目指す
  • そのために、N-アジリジニルラジカルを反応中間体として用いる
  • N-アジリジニルラジカルは、N-ピリジニウムアジリジンの還元的活性化によって生成されると考えられる
  • これにより、オレフィンへのアジリジン転移を可能にする新しい合成手法の開発が期待される

方法

1: アジリジニルラジカルの生成

  • N-ピリジニウムアジリジンを前駆体として用いる
  • 光触媒としてIr(ppy)3、還元剤としてトリエチルアミンを用いる
  • 青色LED照射下、アセトニトリル溶液中で反応を行う
  • これらの条件下で、N-ピリジニウムアジリジンのN-N結合が還元的に活性化され、N-アジリジニルラジカルが生成される

2: オレフィンへのアジリジン転移

  • 生成したN-アジリジニルラジカルを、オレフィンと反応させる
  • 酸素雰囲気下で反応を行うことで、1,2-ヒドロキシアジリジン化生成物が得られる
  • 添加剤として臭化リチウムを用いることで収率が向上する
  • 様々な置換基を持つスチレン誘導体に対して、アジリジン転移反応が進行することを確認する

結果

1: 様々なオレフィンを用いた反応

  • 電子供与基を持つスチレン誘導体(4-メチル、4-メトキシ)は、中程度の収率で1,2-ヒドロキシアジリジン化生成物を与えた
  • 電子求引基を持つスチレン誘導体(4-ニトロ)は、高収率で1,2-ヒドロキシアジリジン化生成物を与えた
  • 複素環を含むスチレン誘導体(4-ビニルピリジン)も、アジリジン転移反応に適応可能であることがわかった

2: 様々なアジリジン前駆体を用いた反応

  • 電子求引基を持つN-ピリジニウムアジリジンは、高収率でアジリジン転移生成物を与えた
  • 電子供与基を持つN-ピリジニウムアジリジンは、中程度の収率でアジリジン転移生成物を与えた
  • 医薬品骨格から誘導されたN-ピリジニウムアジリジンも、アジリジン転移反応に利用できることがわかった

3: 脂肪族オレフィンを用いた反応

  • シクロヘキセンから誘導されたN-ピリジニウムアジリジンを用いた場合、収率は中程度であった
  • エチレンから誘導されたN-ピリジニウムアジリジンを用いた場合、収率は低かった

考察

1: N-アジリジニルラジカルの特性

  • DFT計算により、N-アジリジニルラジカルは平面構造をとり、不対電子はp軌道上に存在することが示唆された
  • ラジカル捕捉実験により、N-アジリジニルラジカルが実際に反応中間体として生成していることが確認された
  • これらの結果は、N-アジリジニルラジカルが求電子的な反応性を示すことを支持している

2: 反応機構

  • 光触媒からN-ピリジニウムアジリジンへの一電子移動により、N-アジリジニルラジカルが生成される
  • N-アジリジニルラジカルはスチレンと反応し、ベンジルラジカルを生成する
  • ベンジルラジカルは酸素と反応し、1,2-ヒドロキシアジリジン化生成物を与える

3: 先行研究との関連

  • 従来のアジリジン合成法とは異なり、本手法はアジリジン環の開環を伴わない
  • N-中心ラジカルのオレフィンへの付加反応に関する既存の研究と一致する結果が得られた
  • N-アジリジニルラジカルが合成化学における新しい反応中間体であることを示した

4: 研究の限界点

  • 脂肪族オレフィンを用いた場合の収率は、スチレン誘導体と比較して低い
  • 反応条件の最適化により、更なる収率の向上が期待される
  • 反応機構の更なる詳細な解明が必要である

結論

  • N-アジリジニルラジカルを用いた新しいアジリジン転移反応を開発した
  • 本手法は、様々な置換基を持つオレフィンに対してアジリジンを導入することを可能にする

将来の展望

  • 今後、触媒系の改良や反応条件の最適化により、更なる収率の向上と基質適用範囲の拡大が期待される
  • 本研究の成果は、アジリジンを含む機能性有機分子の合成に新たな可能性をもたらす

用語集

  • アジリジン: 含窒素三員環化合物
  • N-アジリジニルラジカル: アジリジンの窒素原子上に不対電子を持つラジカル種
  • 光触媒: 光エネルギーを吸収して化学反応を促進する触媒
  • DFT計算: 分子の電子状態を計算する理論化学的手法
  • ラジカル捕捉実験: ラジカル種を捕捉剤と反応させて検出する実験

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