著者: Deniz F. Bekiş, ‡ Lewis R. Thomas-Hargreaves,‡ Sergei I. Ivlev and Magnus R. Buchner *
雑誌名: Dalton Transactions
巻: Volume 53, 15551-15564
出版年: 2024
DOI: 10.1039/d4dt02269f
背景
1: ベリリウム化学の現状
- 低原子価のsブロックおよび初期pブロック金属の化学は、過去20年間で多くの注目を集めてきた
- これらの低原子価化合物のほとんどは、N電子供与性配位子を利用して単離された
- しかし、これは最軽量の第2族金属であるベリリウムには当てはまらない
- 低原子価化合物は、1つの例外を除いて、C電子供与性配位子でのみ実現されている
2: N電子供与性ベリリウム錯体の還元
- N電子供与性錯体のベリリウムの還元に関する報告はほとんどなく、ベリリウム塩の形成をもたらしたのみ
- 近年発表されたN電子供与性配位子を持つベリリウム錯体の膨大な数を考えると、これらの系の一部で還元が試みられたが、明確な化合物が得られなかったと推測できる
3: 研究の目的
- 低原子価ベリリウムを得るための一般的に適用可能な還元剤はまだ見つかっておらず、各配位子系には特別な還元条件が必要
- したがって、ベリリウム化合物の特性については、配位子と還元剤を合理的に選択するには、あまりにも知られていないことが明らか
- このため、単純なベリリウムハロゲン化物錯体と有機ベリリウム化合物を広範囲に研究した
方法
1: 研究対象の化合物
- 選択したアミドおよびイミド配位子を持つベリリウム化合物を調製し、それらの電子および立体効果が誘導錯体の構造と分光学的特性に与える影響を調査
- 具体的には、以下のベリリウムアミドおよびイミド錯体を合成および特性評価
- [Be(HNMes)2]3 (1)
- [(py)2Be(HNMes)2] (2)
- [Be(HNDipp)2]2 (3)
- [Be(NPh2)(μ2-HNDipp)]2 (4)
- [Be(NCPh2)2]3 (5)
2: 合成手法
- 目的のベリリウムアミドの合成には、有機ベリリウム化合物によるアミンの直接脱プロトン化を選択
- ベリリウムイミド錯体(5)は、ジイソブチルベリリウムとジフェニルメタンイミンを反応させて合成
- すべての反応は、J. Young NMRチューブまたはPTFEシールされたシュレンクチューブで実施
- すべてのガラス器具は、参考文献( F. Kraus, S. Schulz et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 10562.)の手順に従ってシリル化する
3: 特性評価手法
- NMR分光法:Bruker Avance Neo 300およびAvance III 500 NMR分光計で1H、9Be、13C NMRスペクトルを記録
- IR分光法:アルゴン充填グローブボックス内のダイヤモンドATRユニットを備えたBruker alpha FTIR分光計でIRスペクトルを記録
- 単結晶X線回折:事前に乾燥させたアルゴン流中で単結晶を選択し、周囲温度でMiTeGen MicroLoopシステムを使用してマウント
- 計算の詳細:すべての密度汎関数理論(DFT)計算は、プログラムスイートTURBOMOLE 7.7で、PBE0ハイブリッド密度汎関数法(DFT-PBE0)と、1組の分極関数を備えたカールスルーエトリプルζ価基底関数系(def2-TZVP)を使用して実施
結果
1: 構造特性
- すべての化合物は、単結晶X線回折分析によって構造的に特性評価された
- 化合物1、3、4は、2つのベリリウム原子をμ2架橋するアミド窒素原子を含む二核構造
- 化合物1と5は、中心の四配位ベリリウム原子と、2つの末端三配位ベリリウム原子を持つ三核線状構造
- 化合物2は、2つのアミド配位子と2つのピリジン配位子によって配位された擬似四面体配位圏を持つ単核ベリリウム錯体
2: 結合解析
- 局在化分子軌道(LMO)および固有原子軌道(IAO)原子電荷分析を実施して、結合状況を調査した
- IAO原子電荷分析により、多核化合物または単核ピリジン付加物2の電荷分布に有意な差がないことが明らかになった
- LMO分析は、末端アミド配位子へのBe-N相互作用が主に共有結合性のσBe-N結合で構成されているのに対し、μ2-N架橋相互作用は2電子-3中心σ結合であることを示した
3: 電子および立体効果の影響
- ベリリウム原子における電子の不足は、窒素原子における孤立電子対からベリリウム原子への追加の供与によって部分的に補償
- これにより、末端Be-N結合の部分的な二重結合特性が生じ、末端窒素原子が平面化する
- 架橋窒素原子の場合、窒素の孤立電子対は主に窒素原子に位置し、1つまたは2つのベリリウム原子にわずかに供与
考察
1: 末端配位子の影響
- 末端アミド配位子の電子的性質の変化は、結合状況にほとんど影響を与えない
- むしろ、配位子の立体的な要求がベリリウム化合物の構造を決定する可能性が高く、これは空間充填モデルによって示される
2: 架橋相互作用
- 2電子-3中心σ結合が関与するベリリウム原子間で均等に分布している場合、この多中心結合が有利になる
- 分子構造が許せば、末端Be-N-C結合と架橋Be2-N-C結合にわたってπ非局在化が可能であり、N=C二重結合を含むイミド配位子を導入することによって強制することが可能
3: 電荷分布
- しかし、このπ非局在化は、ベリリウム原子と窒素原子における部分電荷分布に大きな影響を与えない
- 結論として、N電子供与性配位子の電子的性質の変化は、結合状況にほとんど影響を与えない
4: 立体障害の影響
- 空間充填モデルからわかるように、配位子の立体障害がベリリウム化合物の構造を決定する
- より嵩高い配位子は、より大きく、より開いた構造の形成につながる
5: 研究の限界点
- 限られた数のベリリウムアミドおよびイミド錯体を調査した
- これらの化合物の反応性と触媒作用を調査するためにさらなる研究が必要
結論
- 一連の密接に関連するベリリウムアミドおよびイミド錯体を合成および特性評価
- これらの化合物はすべて芳香族溶媒によく溶け、これは多くの関連する有機ベリリウム錯体とは対照的
- 化合物1と2を除いて、溶液中の動的挙動の証拠は見られなかった
- 末端アミド配位子へのBe-N相互作用が主に共有結合性のσBe-N結合で構成されているのに対し、μ2-N架橋相互作用は2電子-3中心σ結合である
- ベリリウム原子における電子の不足は、窒素原子における孤立電子対からベリリウム原子への追加の供与によって部分的に補償される
将来の展望
- より広範囲のN電子供与性配位子を探求し、これらの錯体の反応性と触媒用途を調査する必要がある
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