論文のタイトル: Stereoselective Synthesis of Chiral C2-Symmetric 1,3- and 1,5-Bis-Sulfoxides Guided by the Horeau Principle: Understanding the Influence of the Carbon Chain Nature in Its Ability for Metal Coordination(キラルC2対称1,3-および1,5-ビススルホキシドの立体選択的合成:金属配位能における炭素鎖の性質の影響の理解)
著者: Nazaret Moreno-Rodríguez, L. Alberto Prieto, Victoria Valdivia, Rocío Recio,* and Inmaculada Fernández*
雑誌名: The Journal of Organic Chemistry
巻: Volume 89, Issue 20, 15048–15061
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1021/acs.joc.4c01729
背景
1: キラルなビス-スルホキシドの重要性
- キラリティは医薬品や農薬などの開発において非常に重要であるため、キラル化合物の合成は有機化学の重要な分野
- キラルビススルホキシドは、不斉触媒反応において重要な役割を果たす、価値のあるキラル配位子として認識されている
- これらの化合物の重要性は、それらが持つ独特の構造的特徴、特にスルフィニル基のキラリティーに起因しており、これが様々な不斉変換において優れたエナンチオ選択性を示す鍵となる
- さらに、合成の容易さ、官能基化の可能性の広さ、安定性により、不斉合成における用途がさらに広がる
2: 既存の合成法の課題
- キラルなビス-スルホキシドの伝統的な合成法は、しばしば、複数のステップ、厳しい反応条件、低い収率を伴う
- これらの課題を克服し、これらの貴重な化合物を効率的かつ立体選択的に合成するための新しい方法の開発が求められている
- Horeauの法則は、キラルなスルフィニル基を導入するための強力なツールであり、立体選択的制御を達成するための実用的なアプローチを提供
- 特に、1,5-ビス(スルフィニル)誘導体は、炭素鎖にスルフェニル基またはスルフィニル基が追加で存在するため、三座キラル配位子の新しいファミリーを構成
3: 研究の目的
- Horeauの法則を利用して、2つの異なるタイプのC2対称キラルビススルホキシド、1,3-および1,5-ビス(スルフィニル)誘導体の立体選択的合成を実現
- 2つの配位子ファミリー(1,3-および1,5-ビススルホキシド)のそれぞれに1つの合成経路を系統的に開発および最適化し、エナンチオ選択性を高めるためのHoreauの法則の戦略的利用を強調する
- さらに、合成したビススルホキシドから誘導されたパラジウム(Pd)およびルテニウム(Ru)錯体を調製し、分光分析によってそれらの構造を解明する
方法
1: 研究デザインの概要
- Horeauの法則に基づく、2つの異なるタイプのC2対称キラルビススルホキシドの立体選択的合成のための2つの明確な合成経路の開発と最適化に焦点を当てる
- 最初の経路では、立体発散動的速度論的光学分割を介したキラルなプロパン-1,3-ビス(スルフィネート)の合成が含まれ、その後、対応するC2対称エナンチオピュア1,3-ビス(スルフィニル)プロパンに変換される
- 2番目の経路は、エナンチオピュアビニルスルホキシドの二量化に依存しており、C2対称エナンチオピュア1,5-ビス(スルフィニル)-3-チオ誘導体が生成される
2: 試薬と条件
- すべての反応は、乾燥アルゴン雰囲気下で、オーブン乾燥したガラス器具と乾燥溶媒を使用して実施
- MeOH、トルエン、THF、DMF、CH2Cl2、ジエチルエーテルはモレキュラーシーブを使用して乾燥させて使用
- 化学物質は市販品を追加の精製せずに使用
- TLCはシリカゲルGF254(Merck)で実施し、化合物はリンモリブデン酸/ EtOHで炭化させて検出
- フラッシュクロマトグラフィーには、Merck230〜400メッシュシリカゲルを使用
3: 1,3-ビス-スルホキシドの合成
- 1,3-ビス(スルフィニル)プロパン誘導体は、対応するプロパン-1,3-ビス(スルフィネート)から、求核置換反応によって合成
- 光学活性なプロパン-1,3-ビス(スルフィネート)は、プロパン-1,3-ビス(スルフィニル)クロリドの立体発散動的速度論的光学分割によって得る
- このプロセスでは、キラルな補助剤としてDCG(1,2:5,6-ジ-O-シクロヘキシリデン-α-D-グルコフラノース)を使用し、Horeauの原理に基づいてジアステレオマー比を制御
4: 1,5-ビス-スルホキシドの合成
- 1,5-ビス(スルフィニル)誘導体は、エナンチオマー的に純粋なビニルスルホキシドの二量化によって合成
- ビニルスルホキシドは、対応するスルフィネートエステルとビニルマグネシウムブロミドとの反応によって調製
- 再び、Horeauの原理を適用して、二量化ステップにおけるジアステレオ選択性を制御
5: 金属錯体の調製
- 1,3-および1,5-ビス-スルホキシド配位子を、パラジウム(II)およびルテニウム(II)前駆体と反応させて、対応する金属錯体を調製
- パラジウム錯体は、1,3-ビス-スルホキシド配位子とPd(TFA)2を反応させることで得る
- 一方、ルテニウム錯体は、1,3-および1,5-ビス-スルホキシド配位子をRuCl3・3H2Oと反応させることで合成
- 1H NMRおよび19F NMR分光法により錯体中の配位子の配位モードと立体化学を決定する
結果
1: 1,3-ビス-スルホキシドの立体選択的合成
- プロパン-1,3-ビス(スルフィニル)クロリドの立体発散動的速度論的光学分割によって、プロパン-1,3-ビス(スルフィネート)を首尾よく合成した
- Horeauの原理を適用することにより、高収率で優れたジアステレオ選択性で、様々なキラルな1,3-ビス(スルフィネート)エステルを合成できた
- モノスルフィネート、特にDCGプロパンスルフィネートの形成における観察されたS/R比からビススルフィネートのジアステレオマー比を外挿することによって得られた理論計算と一致した
- これらのビススルホキシドを有機触媒として使用して不斉アリル化反応を実施し、その効率を評価した
2: 1,5-ビス(スルフィニル)-3-チオ誘導体の合成
- エナンチオ純粋ビニルスルホキシドの二量化は、Na2Sの存在下で高収率かつ優れたジアステレオ選択性で進行した
- 対応するC2対称エナンチオ純粋(R、R)-および(S、S)-1,5-ビス(スルフィニル)-3-チオ誘導体を良好な収率で得た
- この反応は、Horeau効果によって影響を受け、所望のジアステレオマーの増幅が可能になった
- 生成物のジアステレオマー比は、Horeauの原理に基づいて計算された値とよく一致し、この原理がこれらの系の立体化学的結果を予測するための有効なツールであることを示している
3: パラジウム(II)およびルテニウム(II)錯体の特徴
- 1,3-ビス-スルホキシド配位子を含むパラジウム(II)錯体の単離は、補助配位子としてトリフルオロアセテートを用いた場合にのみ達成された
- ルテニウム(II)錯体の場合、1,3-ビス-スルホキシドではトランス配置が決定された
- 1,5-ビス(スルフィニル)誘導体中の配位元素として第三の硫黄原子を導入すると、2つの異なる三配位ルテニウム(II)錯体が形成された
- これらの錯体の構造は、鎖の中央の硫黄がチオエーテルとしてかスルホキシドとしてか、採用された酸化状態によって複雑に影響される
考察
1: Horeauの原理の合成への応用
- 異なる種類のC2対称キラルなビス-スルホキシドの立体選択的合成におけるHoreauの原理の有用性を明確に示している
- この原理を合成戦略に組み込むことで、動的速度論的光学分割プロセスにおけるジアステレオ選択性を正確に予測および制御し、望ましい立体異性体を高収率で得ることが可能になる
2: 立体選択性への洞察
- 1,3-および1,5-ビス(スルフィニル)誘導体の両方に対する異なる合成経路の開発と最適化により、このタイプの化合物の立体化学的結果を制御する要因についての洞察が得られた
- Horeauの法則の適用は、所望のジアステレオマーを選択的に増幅するための実用的なアプローチである
3: ビス-スルホキシド配位子の金属配位能への影響
- 合成したビススルホキシドから誘導されたパラジウム(Pd)およびルテニウム(Ru)錯体の調製と特性評価により、これらの配位子の金属配位能に関するさらなる理解が得られた
- 金属錯体の形成におけるスルホキシド基の性質と炭素鎖の長さの重要性を浮き彫りにした
- 1,3-ビススルホキシドを含むPd(II)錯体の単離は、補助配位子としてトリフルオロアセテートを使用することによってのみ達成される
- 1,3-ビス-スルホキシドは、パラジウム(II)錯体を形成するために補助配位子を必要とするが、かさ高い置換基は錯体形成を妨げる
- Ru(II)錯体の場合は、1,3-ビススルホキシドのトランス幾何構造を決定することができた
- 1,5-ビス-スルホキシド中の追加の配位硫黄原子は、ルテニウム(II)との錯化を促進し、さまざまな配位モードを可能にする
4: 構造と反応性に関するさらなる考察
- 配位要素として3番目の硫黄原子を1,5-ビス(スルフィニル)誘導体に導入すると、2つの異なる三配位Ru(II)錯体の形成が容易になる
- これらの錯体の構造は、鎖の中央の硫黄が採用する酸化状態(チオエーテルかスルホキシドか)によって複雑に影響を受ける
- 一方、合成されたキラルなビス-スルホキシド配位子は、不斉触媒において大きな可能性を秘めている
- それらの独特の構造と金属配位特性により、様々な不斉変換においてエナンチオ選択性を誘導することができる
5: 研究の限界点
- 限られた数のビス-スルホキシド配位子と金属錯体の調査に留まっている
- より幅広い基質と反応条件を探索するさらなる研究は、これらの配位子の触媒用途における完全な可能性を明らかにするために必要
結論
- Horeauの法則に基づく、2つの異なるタイプのC2対称キラルビススルホキシド、1,3-および1,5-ビス(スルフィニル)誘導体の効率的かつ立体選択的な合成を実証
- Horeauの原理を適用することで、ジアステレオマー比を効果的に制御することができた
- 動的速度論的光学分割とエナンチオ純粋ビニルスルホキシドの二量化を伴うこれらの化合物の調製のための2つの異なる戦略的経路を首尾よく開発および最適化した
- 合成されたビス-スルホキシドから誘導されたパラジウム(II)およびルテニウム(II)錯体を調製し、特徴付けた
- 合成された錯体の特性評価により、それらの配位化学と錯体形成挙動についての洞察が得られた
- これらの知見は、不斉合成とキラル触媒の分野に貴重な貢献をもたらす
将来の展望
- これらの新規なキラルビススルホキシド配位子の不斉触媒における用途を探求する
- さまざまな不斉変換におけるそれらの有効性を評価する
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