論文のタイトル: Controlling the Helical Pitch of Foldamers through Terminal Functionality: A Solid State Study(末端官能基によるフォルダマーのらせんピッチの制御:固体状態の研究)
著者: Alexander R. Davis, Sena Ozturk, Colin C. Seaton, Louise Male, and Sarah J. Pike*
雑誌名: Chemistry - A European Journal
巻: e202402892
出版年: 2024
DOI: https://doi.org/10.1002/chem.202402892
背景
1: フォルダマーとらせん構造の重要性
- らせん構造は自然界に広く存在し、生体分子が機能を発揮するために不可欠
- フォルダマーと呼ばれる合成らせんオリゴマーは、自然界のらせん構造を模倣することが可能
- フォルダマーはセンサー、触媒、材料化学など、幅広い分野で応用されている
- フォルダマーの二次構造は、その活性と機能に影響を与えるため、らせん構造のサイズと形状を制御する新しい方法の開発が重要
2: フォルダマーのらせんピッチ制御の現状
- フォルダマーのらせんピッチを制御する体系的な研究は不足している
- 従来の方法は、自己組織化を利用して二重らせん構造を形成することで、らせんピッチを調整していた
- 自己組織化は設計が難しく、すべての用途に適しているわけではない
3: 研究の目的
- 末端官能基を系統的に変化させることで、フォルダマーのらせんピッチを制御できることを実証する
- 単一鎖フォルダマーを用いることで、自己組織化に頼らずにらせんピッチを制御する
- 末端官能基がフォルダマーの固体状態の挙動に与える影響を、結晶学的解析を用いて明らかにする
方法
1: 研究デザイン
- オルト-アゾベンゼン/2,6-ピリジンジカルボキサミドフォルダマーのライブラリを用いて研究を行う
- 末端官能基として、カルボキシベンジル (Cbz)、ジフェニルカルバミル (N(Ph)2)、フェロセン (Fc)、tert-ブチルオキシカルボニル (Boc) を選択
- これらの官能基は、π-πスタッキング、C-H⋯O、C-H⋯π水素結合などの超分子相互作用を形成する傾向が異なる
2: フォルダマーの合成
- フォルダマー 1–10 は、多段階手順で合成
- まず、o-フェニレンジアミン 11 をジ-tert-ブチルジカルボネート ((Boc)2O) で処理してモノ-Boc 保護を行い、12 を得た
- 化合物 12 のアミノ基を、CH2Cl2/H2O の二相系反応混合物中でオキソン存在下でニトロソ基に変換し、13 を得た
- 化合物 11 と 13 を酢酸存在下で反応させて、非対称アゾベンゼン 14 を得た
- 化合物 14 をピリジン-2,6-ジカルボニルクロリドおよびピリジンと 48 時間反応させて、目的のジ Boc 末端フォルダマー10 を得た
- 化合物 8 は、14 をトリフルオロ酢酸で処理することで得た非対称の Fc/NH2基を持つアゾベンゼン 15 を同様にピリジン-2,6-ジカルボニルクロリドおよびピリジンと反応させて得た
3: 結晶構造解析
- 合成したフォルダマーの単結晶 X 線回折分析を行う
- らせんピッチは、各末端基のカルボニルの C 原子から C 原子までを測定
- 超分子相互作用を特定し、それらが固体状態の挙動に与える影響を評価
結果
1: フォルダマーの固体状態挙動
- すべてのフォルダマー (1–10) は、固体状態で安定ならせん構造をとることが確認された
- らせん構造は、中心の 2,6-ピリジンジカルボキサミドユニットの周りの折り畳みを促進する syn-syn コンフォメーションと、アゾベンゼンユニットのらせんを拡張する E-配座によって安定化
- ほとんどのフォルダマー (1–5、7–10) は、単位格子内に M-らせんと P-らせんを同量含んでいる
- フォルダマー 6 は P-らせんのみを示した
2: Cbz 末端フォルダマーのらせんピッチ
- 少なくとも 1 つの末端 Cbz 基を持つフォルダマー (1–4) のらせんピッチは 3.4–3.7 Å
- これらのフォルダマーは、密ならせん構造をとった
- Cbz 基は、π-πスタッキング相互作用や C-H⋯O 水素結合などのさまざまな分子間相互作用に関与していた
3: N(Ph)2、Fc、Boc 末端フォルダマーのらせんピッチ
- N(Ph)2 末端フォルダマー (5–7) のらせんピッチは 3.9–5.7 Å で、Cbz 末端フォルダマーよりも大きくなった
- Fc/Boc 末端フォルダマー (8–10) は、5.6 Å (8)、6.3 Å (9)、7.3 Å (10) と、さらに大きならせんピッチを示した
- これらのフォルダマーでは、末端官能基が関与する超分子相互作用が、より緩く、より広がったらせん構造の形成に寄与していた
考察
1: 末端官能基がフォルダマーのらせんピッチに与える影響
- 末端官能基は、フォルダマーの固体状態のらせんピッチに大きな影響を与える
- Cbz 基は、密ならせん構造の形成を促進
- N(Ph)2 基は、Cbz 基よりも柔軟性が低いため、らせんピッチはやや大きくなる
- Fc 基と Boc 基は、かさ高い性質と超分子相互作用のために、最も大きならせんピッチをもたらす
2: らせんピッチと超分子相互作用の関係
- Cbz 末端フォルダマーでは、Cbz 基の柔軟性により、らせん構造を崩すことなく、さまざまな超分子相互作用を形成することができる
- N(Ph)2 末端フォルダマーでは、N(Ph)2 基の剛性と立体障害が、結晶充填とらせんピッチに影響を与える
- Fc 末端フォルダマーと Boc 末端フォルダマーでは、末端官能基が関与する π-πスタッキング相互作用や C-H⋯O 水素結合が、より緩く、より広がったらせん構造の形成に寄与している
3: らせんピッチ制御の重要性
- フォルダマーのらせんピッチを制御することで、特定の形状とサイズを持つフォルダマーを設計することが可能
- これは、固体状態での用途において特に重要
4: 研究の限界点
- 結晶充填を予測することは困難であり、すべてのフォルダマーでらせんピッチを正確に予測することはできない
- 単一回転フォルダマーに焦点を当てており、複数回転フォルダマーへの適用可能性はさらに調査する必要がある
結論
- 末端官能基がオルト-アゾベンゼン/2,6-ピリジンジカルボキサミドフォルダマーのらせんピッチに大きな影響を与えることを実証
- 単純な末端基の変更により、幅広いらせんピッチ (3.4–7.3 Å) を持つフォルダマーを合成することができた
- この知見は、特定の形状とサイズを持つ機能性フォルダマーの設計に役立つ
将来の展望
- 複数回転フォルダマーにおける末端官能基の影響を調査し、らせんピッチ制御の一般性をさらに高める
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