2024年12月5日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0207~

論文のタイトル: Synthetic and Mechanistic Studies into the Reductive Functionalization of Nitro Compounds Catalyzed by an Iron(salen) Complex(鉄(salen)錯体を触媒としたニトロ化合物の還元的官能基化に関する合成および機構的研究)

著者: Emily Pocock, Martin Diefenbach, Thomas M. Hood, Michael Nunn, Emma Richards, Vera Krewald, and Ruth L. Webster

雑誌名: Journal of the American Chemical Society

巻: Volume 146, Issue 29, 19839–19851

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c02797


背景

1: ニトロ化合物還元の重要性

  • ニトロ基からアミンへの変換は、医薬品や材料科学において重要な反応
  • 従来の還元法は、高温や強酸などの過酷な条件が必要
  • より穏やかな条件下でニトロ化合物を還元できる触媒の開発が求められている

2: 鉄触媒を用いたニトロ化合物還元の現状

  • 単純な鉄塩や配位鉄錯体を触媒とした、より穏やかな条件下での還元法が開発されている
  • しかし、これらの反応はしばしば強力な反応条件を必要とする
  • 鉄触媒を用いたニトロ化合物の還元反応の機構解明は、触媒設計の進展に不可欠

3: 研究の目的

  • 安定で、スケーラブルな合成が可能な鉄(salen)錯体を触媒としたニトロ化合物還元法を開発する
  • 反応機構を詳細に研究し、触媒反応の理解を深める
  • 得られた知見を基に、ヒドロアミノ化反応への応用を検討する

方法

1: 研究デザイン

  • 本研究では、鉄(salen)-μ-oxo錯体(1a)を前触媒として用いる
  • ピナコールボラン(HBpin)またはフェニルシラン(H3SiPh)を還元剤として使用
  • 反応は、室温または50℃でアセトニトリル溶媒中で行う

2: 基質の選択

  • 様々な置換基を持つニトロ芳香族化合物および脂肪族化合物を基質として用いる
  • カルボニル基を持つ基質も使用し、還元剤による化学選択性について検討

スライド3: 分析方法

  • 反応生成物は、核磁気共鳴分光法(NMR)および質量分析法(MS)を用いて同定する
  • 反応機構の解明には、電子常磁性共鳴(EPR)、速度論解析、密度汎関数理論(DFT)計算などを用う

結果

1: ニトロ化合物還元の基質適用範囲

  • 鉄(salen)錯体1aとHBpinを用いた還元反応は、様々なニトロ芳香族化合物に対して高い収率で進行した
  • 電子求引基および電子供与基を持つ基質の両方で良好な収率で反応が進行した
  • チオフェノールやフェノールなどの官能基も許容され、高い官能基許容性を示した
  • その他、広範なニトロ化合物が還元された

2: 脂肪族ニトロ化合物の還元

  • 脂肪族ニトロ化合物に対しても、本触媒系を用いることで効率的に還元反応が進行した
  • ニトロメタンも還元され、無水メチルアミンの簡便な合成法として利用できる

3: 化学選択的なニトロ基還元

  • アルデヒド基を持つニトロ化合物をHBpinで還元すると、アルデヒド基も同時に還元された
  • 還元剤をH3SiPhに変更することで、ニトロ基を選択的に還元し、アルデヒド基を残すことができた

考察

1: 反応機構に関する考察

  • 種々の分光法や速度論解析の結果から、ニトロソ中間体が生成し、鉄ヒドリド錯体が触媒サイクルに関与していることが示唆された
  • 速度論解析の結果は、単核鉄ヒドリド種が触媒活性種であることを支持

2: 計算化学による反応機構の解析

  • DFT計算により、鉄ヒドリド錯体1cからニトロ化合物へのヒドリド移動が律速段階であることが示唆された
  • 計算で得られた活性化エネルギーは、実験的に得られたEyring解析の結果とよく一致した

3: ヒドロアミノ化反応への応用

  • ニトロソ中間体の捕捉を利用したヒドロアミノ化反応を検討した
  • HBpinは還元力が強すぎるため、H3SiPhを用いることでヒドロアミノ化生成物を得ることができた

4: アルケンLUMOエネルギーと反応性の相関

  • DFT計算を用いて、様々なアルケンのLUMOエネルギーを算出した
  • アルケンのLUMOエネルギーが低いほど、ヒドロアミノ化反応が進行しやすい傾向が見られた

5: 研究の限界点

  • 触媒活性種である鉄ヒドリド錯体1cの単離には至っていない
  • ヒドロアミノ化反応の収率は、基質によって大きく異なり、改善の余地がある

結論

  • 安定で取り扱いが容易な鉄(salen)錯体を触媒とした、ニトロ化合物の効率的な還元法を開発
  • 詳細な反応機構研究により、ニトロソ中間体と鉄ヒドリド錯体が関与する触媒サイクルを提案
  • アルケンのLUMOエネルギーを指標とした、ヒドロアミノ化反応の予測が可能になった

将来の展望

    • 触媒のさらなる改良と、ヒドロアミノ化反応の基質適用範囲の拡大

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