2024年7月1日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0057~

論文のタイトル: Synthesis and Structure of the Small Superelectrophile [C2(OH)2Me2]2+(小さな超求電子剤 [C2(OH)2Me2]2+ の合成と構造)

著者: Alan Virmani, Christoph Jessen, Andreas J. Kornath*

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024年


背景

1: 研究背景

炭素中心の超求電子剤は長年研究対象

置換基が構造や電荷分布に与える影響に注目

超酸性媒体で安定化が可能


2: 未解決の課題

小さな炭素中心超求電子剤の構造解析が困難

従来の超酸では安定化できない化合物の存在

理論計算と実験結果の不一致


3: 研究目的

[C2(OH)2Me2]2+の合成と構造解析

SO2を溶媒として用いた新しい合成法の開発

量子化学計算による電子状態の解明


方法

1: 合成方法

2,3-ブタンジオンの二重プロトン化

SO2を溶媒として使用

SbF5とHFを用いた超酸性条件


2: 分析手法

ラマン分光法による構造解析

単結晶X線回折による結晶構造決定

-196°Cでの低温測定


3: 理論計算

B3LYP/aug-cc-pVTZレベルでの量子化学計算

自然結合軌道(NBO)解析

分子静電ポテンシャル(MEP)計算


結果

1: 結晶構造

[C2(OH)2Me2]2+C2h対称性を持つ

C-C結合長: 1.549(4) Å

C-O結合長: 1.250(4) Å


2: 分子間相互作用

強い水素結合: O1···F3 (2.476(3) Å)

C···F相互作用: C1···F2ii (2.520(3) Å)

SO2分子との共結晶化


3: 電子状態

πホールの静電ポテンシャル: 1082.4 kJ·mol-1

NBO解析によるドナー-アクセプター相互作用

π(C-C)軌道へのフッ素原子からの電子供与


考察

1: 構造の特徴

平面構造(C2h)は分子間相互作用により安定化

C-C結合長は未プロトン化体と変わらず

高い電子不足性を示す


2: 溶媒効果

SO2の使用が超求電子剤の安定化に重要

従来の超酸では副反応が進行


3: 理論と実験の比較

気相計算ではC2対称性を予測

結晶中ではC2h対称性を観測

分子間相互作用が構造に大きく影響


4: 研究の限界

溶液中での挙動は未解明

より大きな置換基を持つ類縁体との比較が必要

反応性に関する研究が今後の課題


結論

[C2(OH)2Me2]2+の初めての単離に成功

SO2溶媒中での安定化が鍵

分子間相互作用が構造と安定性に重要

超求電子剤の設計と合成に新しい指針を提供


将来の展望

今後、反応性や触媒能の研究に展開可能

2024年6月30日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0056~

論文のタイトル: Regulating iminophosphorane P=N bond reactivity through geometric constraints with cage-shaped triarylphosphines

著者: Lei Hu, Sayandip Chakraborty, Nikolay Tumanov, Johan Wouters, Raphaël Robiette, Guillaume Berionni

雑誌: Chemical Communications

出版年: 2024年


背景

1: イミノホスホランの背景

イミノホスホランは、アザ-Wittig反応におけるリンイリドの窒素類縁体

遷移金属や典型元素のピンサー型配位子として使用増加

有機触媒や Staudinger連結反応への応用


2: イミノホスホランの反応性

窒素原子の高い塩基性により、超塩基の設計に広く使用

かさ高いホウ素ルイス酸と組み合わせてフラストレートルイス対(FLP)を形成

FLPはCO2やH2などの小分子と反応


3: 研究の目的

幾何学的に拘束されたイミノホスホランの構造-反応性関係を調査

新しいフラストレートルイスペアの設計を可能にする

トリプチセン三環式骨格に埋め込まれたホスホニウム中心の特異な性質を解明


方法

1: 合成と特性評価

9-ホスファトリプチセンと様々なアジドR-N3のStaudinger反応により合成

31P NMR、1H NMR、11B NMRスペクトル分析による特性評価

単結晶X線回折分析による構造決定


2: 量子化学計算

NBOを用いた結合分析

プロトン親和性(PA)、メチルカチオン親和性(MCA)の計算

フッ化物イオン親和性(FIA)の計算


3: 反応性研究

トリフリルイミドHNTf2およびBF3·OEt2との反応

トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(B(C6F5)3)との相互作用の調査

トリチリウムイオンとの反応


結果

1: 構造的特徴

9-ホスファトリプチセン誘導体はPh3P誘導体より大きな錐体化角αを示す

フェニルイミノホスホラン13のP-N結合長: 1.560(2) Å

HNTf2およびBF3との反応後、P-N結合長が増加:それぞれ15で1.615(1) Å、16で1.611(2) Å


2: スペクトル特性

9-ホスファトリプチセン誘導体の31P NMR化学シフトはPh3P誘導体より遮蔽

化合物13とB(C6F5)3の混合物では31P NMRシグナルのわずかな非遮蔽化のみ観察

11B NMRシグナルは変化なし(60.0 ppm)


3: 計算結果

イミノホスホラン類の塩基性はPh3P=NPhと比較して最大8 kcal/mol低下

リン原子のルイス酸性は4 kcal/mol向上

幾何学的拘束により、三方両錐形構造への歪みエネルギーが4.6 kcal/mol低下


考察

1: 幾何学的拘束の影響

トリプチセン骨格による幾何学的拘束がP=N結合の反応性を調整

窒素の塩基性低下とリンのルイス酸性向上を同時に実現

P=N結合の部分的なUmpolung型反応性をもたらす


2: 非共有結合性相互作用

化合物16でF···P非共有結合性相互作用を観察 (2.8433(14) Å)

Bocイミノホスホラン10でO···P相互作用を観察 (2.717(3) Å)

これらの短い接触は幾何学的拘束に起因


3: フラストレートルイスペア(FLP)の形成

化合物13とB(C6F5)3の組み合わせで弱い相互作用のみ観察

外圏錯体またはFLPの形成を示唆

FLP溶液の長期保存によりC6F5環のパラ位への化合物13の窒素原子による芳香族求核置換SNAr反応が進行した分解生成物18を確認


4: 研究の限界点

合成された化合物の長期安定性に関するデータ不足

FLPの触媒活性に関する詳細な研究が未実施

計算結果と実験データの直接的な比較が限定的


結論

幾何学的拘束がP=N結合の反応性を調整することを実証

新規ケージ型ホスファトリプチセン窒素イリドの合成に成功

FLP触媒としての応用可能性を示唆


将来の展望

トリプチセン骨格の窒素中心型誘導基による電子親和性ホウ素化の研究が進行中

遷移金属を用いない新規合成法の開発に貢献する可能性

2024年6月28日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0055~

論文のタイトル: Alkene 1,3-Difluorination via Transient Oxonium Intermediates(過渡的オキソニウム中間体を経由するアルケンの1,3-ジフルオロ化)

著者: Alice C. Dean, E. Harvey Randle, Andrew J. D. Lacey, Guilherme A. Marczak Giorio, Sayad Doobary, Benjamin D. Cons, Alastair J. J. Lennox

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

出版年: 2024年


背景

1: アルケンの二重官能基化の重要性

アルケンの二重官能基化は分子の複雑性を急速に高める効率的な方法

 アルケンは一般的で安価な原料であり、有機合成の重要な構成要素

1,2-二重官能基化は広く研究、多くの有用な変換が報告されている

1,3-二重官能基化は未開拓の変換であり、興味深い官能基を生成


2: 1,3-二重官能基化の課題

1,3-二重官能基化は通常、金属触媒や官能基移動を必要とする

既存の方法は限られており、化学空間へのアクセスが制限されている

新しい反応性モードの開発が求められている

フッ素化された部分は生物活性化合物に有用な薬理学的効果をもたらす


3: 研究の目的

非活性化アルケンの1,3-二重フッ素化反応の開発

金属触媒や官能基移動に依存しない新しい反応性モードの探索

1,3-ジフルオロ-4-オキシアルカンという未報告の分子群の合成

スケールアップ可能で、様々な官能基と置換基を許容する反応の確立


方法

1: 反応の偶然の発見

アリルアリールエーテルのフルオロアリール化研究中に発見

ホモアリルエーテルを用いた際に予期せぬ生成物を観察

6員環生成物、7員環生成物、1,3-ジフルオロ化生成物を同定


2: 反応条件の最適化

HF:アミン比、HF当量、溶媒、温度を最適化

様々な超原子価ヨウ素/酸化剤システムを評価

PIFA (ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード)ベンゼンが最適な試薬

反応のグリーン度とコストを考慮して選択


結果

1: 反応条件の最適化結果

電気化学的に生成したp-Tol-IF2を用いて62%の収率を達成

商業的に入手可能なPIFAが最も高い収率(68%)を示した

反応のグリーン度(E-factor)とコストを考慮して最適条件を選択

酸化剤、超原子価ヨウ素種、[HF]がすべて反応に必要であることを確認


2: 基質適用範囲の探索結果

電子求引基を持つアレーン基質で良好な収率

ケトン、エステル、N-ヘテロ環などの官能基を許容

置換アルケンや二級アルキル(アリール)エーテルも適用可能

電子豊富な環を持つ基質では環化反応が優先


3: 立体選択性と反応のスケールアップ

置換アルケンでは優れた立体選択性を観察

アリル位のメチル基が立体選択性を向上させる

光学活性な出発物質を用いた場合、キラル情報が完全に保持される

反応は3 mmolスケールでも同等の収率で進行することを確認


考察

1: 反応機構の考察

オキソニウム中間体の形成が鍵となる段階

フッ化物イオンによるオキソニウムの開環が1,3-ジフルオロ化を引き起こす

DFT計算により、gauche配座のオキソニウム中間体が有利であることを示唆

軌道制御による選択的な1,3-ジフルオロ化が進行


2: 生成物の特性と安定性

1,3-ジフルオロ-4-オキシ化合物は新規な官能基として興味深い性質を示す

固体状態でフッ素原子がgauche-gauche配座をとる

双極子モーメントの最小化が配座制御に寄与

生成物は水、加熱、強塩基、強酸などの条件下で安定


結論

非活性化アルケンの1,3-二重フッ素化反応の開発に成功

過渡的オキソニウム中間体を経由する独自の反応機構を提案

未報告の1,3-ジフルオロ-4-オキシ官能基の合成を実現

スケールアップ可能で、様々な官能基と置換基を許容する反応を確立


将来の展望

生物活性分子や機能性材料への応用が期待される

2024年6月27日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0054~

論文のタイトル: Steric Control of Luminescence in Phenyl-Substituted Trityl Radicals(フェニル置換トリチルラジカルにおける発光の立体制御)

著者: Petri Murto, Biwen Li, Yao Fu, Lucy E. Walker, Laura Brown, Andrew D. Bond, Weixuan Zeng, Rituparno Chowdhury, Hwan-Hee Cho, Craig P. Yu, Clare P. Grey, Richard H. Friend*, and Hugo Bronstein*

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024年


背景

1: 研究背景

トリフェニルメチル(トリチル)ラジカルは有機フォトニクスや発光素子応用に潜在性を示す

従来の設計は供与体/ラジカル電荷移動系に限定されていた

交互炭化水素の対称性禁制遷移により、発光効率が低かった


2: 未解決の課題

交互炭化水素の対称性禁制遷移を回避する必要がある

発光効率の高いトリチルラジカル構造の設計が求められている

立体効果が発光特性に与える影響の理解が不足している


3: 研究の目的

フェニル置換TTM (トリス(2,4,6-トリクロロフェニル)メチル) ラジカルの系統的な合成

励起状態の対称性を破ることによる発光効率向上の実証

立体制御による光学特性の調整メカニズムの解明


方法

1: 合成方法

Suzuki-Miyaura (S-M)カップリング反応を使用

αHTTMとアリールボロン酸を穏和な無水条件下で反応

ラジカル変換は脱プロトン化と一電子酸化により実施


2: 分析手法

UV-可視分光法による吸収スペクトル測定

蛍光分光法による発光スペクトル・量子収率測定

時間分解単一光子計数法による発光寿命測定

密度汎関数理論(DFT)計算による電子構造解析


3: 構造解析

X線結晶構造解析による分子構造の決定

電子常磁性共鳴(EPR)分光法によるラジカル特性評価

サイクリックボルタンメトリーによる酸化還元特性評価


結果

1: 光学特性

フェニル置換により、TTMの発光量子収率が1%から29%に向上

オルト位メチル基導入(2-T3TTM)で最高65%の量子収率を達成

発光波長は置換基により568-643 nmの範囲で制御可能


2: 構造-特性相関

オルト位メチル基による立体障害が発光効率向上に寄与

パラ位メチル基は電荷移動性を増強し、発光を赤色シフト

過度の立体障害(2,6-X3TTM)は発光を抑制


3: 固体状態特性

結晶状態の2-T3TTMで25%の量子収率を実現(波長706 nm)

他の誘導体では結晶状態で発光が大幅に抑制される

PMMA中では溶液状態に近い発光特性を維持


考察

1: 発光メカニズム

励起状態での対称性の崩れが発光効率向上の鍵

フェニル基とラジカル中心の共役が重要な役割を果たす

適度な立体障害が励起状態の構造変化を抑制


2: 電子構造の影響

オルト位メチル基は軌道の重なりを最適化

パラ位メチル基は電荷移動性を向上

過度の立体障害は軌道の重なりを阻害


3: 固体状態での挙動

2-T3TTMの高い結晶状態量子収率はエキシマー形成による

他の誘導体では分子間相互作用が発光を抑制

PMMA中では分子間相互作用が抑制され、高効率を維持


4: 研究の限界

合成収率の低さ(特に立体障害の大きい誘導体)

固体状態での詳細な発光メカニズムの解明が不十分

実デバイスでの性能評価が未実施


結論

フェニル置換TTMラジカルの立体制御による高効率発光を実証

励起状態対称性を破るコンセプトを確立

有機ラジカル発光材料設計への新たな指針を提供


将来の展望

今後、デバイス応用や長寿命化研究への展開が期待される

2024年6月26日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0053~

論文のタイトル: C–heteroatom coupling with electron-rich aryls enabled by nickel catalysis and light

著者: Shengyang Ni, Riya Halder, Dilgam Ahmadli, Edward J. Reijerse, Josep Cornella & Tobias Ritter

雑誌: Nature Catalysis

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

ニッケル光レドックス触媒による炭素-ヘテロ原子結合形成が発展

光エネルギーを利用し、熱化学では困難な酸化状態を実現

アニリンやアリールエーテルの合成に応用されている


2: 未解決の問題

電子豊富なアリール求電子剤は多くの変換の範囲外

単純なニッケル系での酸化的付加が遅い

特殊な電子豊富配位子がない場合、触媒分解が起こる


3: 研究の目的

電子豊富なアリール求電子剤の問題に概念的解決策を提供

アリールチアントレニウム塩を用いたC-ヘテロ原子結合形成反応の開発

アミノ化、酸素化、硫黄化、ハロゲン化反応への応用


方法

1: 反応設計

アリールチアントレニウム塩の酸化還元特性を利用

チアントレニウム部位が主にSET反応性を決定

単純なNiCl2を光照射下で使用


2: 実験手順

アリールチアントレニウム塩と求核剤を反応容器に導入

NiCl2・6H2O触媒をDMA溶媒中で使用

青色LED(456 nm)照射下、25℃で反応


3: 分析方法

1H NMRによる収率測定

フラッシュカラムクロマトグラフィーまたは分取TLCによる精製

電子常磁性共鳴(EPR)分光法によるNi(I)種の観測


結果

1: アミノ化反応の最適化

NiCl2・6H2O (2 mol%)、ピペリジン (2当量)、DMA溶媒で最高収率

光照射が必須、暗所では反応進行せず

電子豊富・中性アリールチアントレニウム塩で50-93%収率


2: 基質適用範囲

様々な官能基(スルホンアミド、アミド、シクロプロピル等)に適用可能

複雑な医薬品様分子(フルルビプロフェン、ネフィラセタム等)にも適用

パラ位、メタ位置換基を持つ基質で反応進行


3: C-O、C-S、C-ハロゲン結合形成

メタノールを求核剤としたメトキシ化反応が可能

アルコール、フェノール、チオールも反応に参加

ヨウ素化、臭素化、塩素化反応も同じ触媒系で実現


考察

1: 主要な発見

電子豊富アリール求電子剤のC-ヘテロ原子カップリングを実現

単純なニッケル塩と光照射のみで反応が進行

幅広い基質適用範囲と高い官能基許容性を示す


2: 反応機構の考察

Ni(I)種の生成が光照射により促進される

アリールチアントレニウム塩へのSETが酸化的付加の鍵

Ni(I)/Ni(III)サイクルが反応の駆動力となる


3: 既存手法との比較

従来のPd触媒系では困難だった電子豊富基質に適用可能

配位子不要で室温反応が可能

合成後期での誘導体化に適した穏和な条件


4: 研究の限界点

オルト置換基質は反応範囲外

電子不足基質では副反応(脱官能基化)が競合

フッ素化反応への拡張は未達成


結論

電子豊富アリール基質のC-ヘテロ原子カップリング法を開発

単純なNi(I)/Ni(III)レドックスサイクルとアリールチアントレニウム塩の組み合わせが鍵


将来の展望

医薬品合成や材料科学への応用が期待される

今後の課題:反応機構の詳細解明と基質適用範囲の更なる拡大

2024年6月25日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0052~

論文のタイトル: Extended Quinolizinium-Fused Corannulene Derivatives: Synthesis and Properties

著者: Lin Huang, Qing Wang, Peng Fu, Yuzhu Sun, Jun Xu, Duncan L. Browne, Jianhui Huang

雑誌: JACS Au

巻: 4巻 p. 1623–1631

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

湾曲した芳香族炭化水素の研究が活発

コランニュレンは特徵的な曲がった構造を持つ

独自の物理化学的性質が期待される


2: 未解決の問題点

従来のコランニュレン誘導体は電子受容性に乏しい

窒素ドープによる性質変調の可能性が指摘されていた  


3: 研究の目的

新規のカチオン性窒素縮環コランニュレン誘導体の合成

新規化合物の構造と光電子物性の評価


方法

1: 合成戦略

2段階のキノリン合成とロジウム触媒C-H活性化環化反応


2: 構造解析

単結晶X線構造解析


3: 光物性評価  

UV-Vis

蛍光

量子化学計算


4: 電気化学測定

サイクリック・ボルタンメトリー

微分パルスボルタンメトリー


結果

1: 主要な結果

新規カチオン性窒素縮環コランヌレン誘導体の合成に成功

単離収率30-53% (モノキノリジニウム塩)、39-42% (ビスキノリジニウム塩) 


2: 結晶構造

ボウル深さ1.28-1.50 Å 

特徴的な"風車型"パッキング  


3: 光物性

可視発光(520-561 nm)、大きいストークスシフト

蛍光量子収率9-13%と向上


考察

1: カチオン性窒素ドープ効果

低い光学バンドギャップ(2.43-2.61 eV)

高い電子受容性


2: 湾曲構造と窒素ドープの相乗効果

π電子共役系の拡張による発光波長の赤色シフト

新規材料開発への可能性


3: 発光特性向上の要因

カチオン性窒素の導入による分子内電荷移動遷移

ドナー性置換基の影響


4: 結晶パッキングの影響

カチオンーアニオン相互作用による"風車型"構造  

新規な分子集積体構築の可能性


結論

新規のカチオン性窒素縮環コランニュレン誘導体を合成・構造解析し、発光特性や電子受容性が向上することを実証した。

湾曲した芳香族系へのカチオン性窒素ドープは新奇な光電子特性を生み出す有効な手段であり、先駆的な成果が得られた。


将来の展望

今後は発光効率のさらなる向上や実用的な材料開発が期待される。

2024年6月24日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0051~

論文のタイトル: Lewis Acid-Driven Inverse Hydride Shuttle Catalysis

著者: Benjamin T. Jones and Nuno Maulide

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

逆水素化物シャトル触媒は、高効率で立体選択的なアルカロイド骨格合成を可能にする


2: 未解決の問題点

従来の方法では、強い電子求引基を持つアクセプターが必要

この制限により、アザビシクロ化合物の合成範囲が限られていた

アルカロイド天然物合成への応用が困難


3: 研究の目的

より幅広い電子アクセプターを使用可能にする手法の開発

ルイス酸を戦略的に導入し、反応の制約を解消する

不斉合成を簡略化するキラル補助基の利用

複雑なアザビシクロ化合物の効率的な一段階合成を実現する


4: 期待される成果

従来法では合成困難だった化合物の合成を可能にする

アルカロイド合成への応用範囲を拡大する

(−)-タシロミンのような天然物の簡便な全合成を実現する


方法

1: 反応の基本戦略

戦略A: 休止状態中間体の開環を促進するルイス酸の使用

戦略B: 困難なマイケル付加を促進するルイス酸の使用

TMSOTfやLiOTfなどのルイス酸を反応系に添加


2: アクリレートの環化反応

TMSOTfを用いてアクリレートの環化を促進

エナミンとアクリレートから複雑なアザビシクロ化合物を一段階で合成

様々な置換基を持つアクリレートとエナミンの組み合わせを検討


3: エノンの環化反応

LiOTfを用いてエノンの環化を促進

脂肪族エノン、芳香族エノン、ヘテロ環を含むエノンの反応を検討

置換エノンにはTMSOTfを使用し、より強力なルイス酸効果を利用


結果

1: アクリレートの環化結果

メチルアクリレートから86%収率でインドリジジンを合成

電子求引基を持つアリルアクリレートも高効率で反応

置換アクリレートと単置換エナミンの組み合わせも可能

様々な環状・非環状アミン由来のエナミンが適用可能


2: エノンの環化結果

脂肪族エノンから中程度〜良好な収率でアザビシクロ化合物を合成 

芳香族エノンは高効率で反応 

ヘテロ環を含むエノンも適用可能

置換エノンからは三置換インドリジジンを立体選択的に合成


3: 不斉合成への応用

キラルオキサゾリジノン補助基を用いた不斉合成を実現

tert-ブチル置換オキサゾリジノンで単一の光学活性ジアステレオマーを生成

様々な窒素含有化合物由来のエナミンに適用可能


考察

1: 主要な発見

ルイス酸の添加により、従来法では困難だった基質の環化が可能に

TMSOTfとLiOTfの使い分けにより、幅広い基質に対応

一段階反応で複雑なアザビシクロ骨格を高立体選択的に構築


2: 反応の特徴

キラル補助基を用いた簡便な不斉合成法の確立

従来法では合成困難だった多置換アザビシクロ化合物の合成を実現

反応機構の理解に基づく戦略的なルイス酸の選択と使用


3: 先行研究との比較

従来の逆水素化物シャトル触媒法の制限を克服

より幅広い電子アクセプターの使用が可能に

キラル補助基を用いた新しい不斉合成アプローチを提案


4: 研究の限界点

一部の基質で反応効率の低下が見られる

エナミンの反応性によっては特別な手順が必要

キラル補助基の選択が立体選択性に大きく影響


結論

ルイス酸駆動型逆水素化物シャトル触媒法の確立

複雑なアザビシクル化合物の効率的かつ立体選択的合成を実現

(−)-タシロミンの簡便な全合成への応用


将来の展望

今後、様々なアルカロイド天然物合成への応用が期待される

新しい触媒系や不斉合成法の更なる開発の可能性

2024年6月23日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0050~

論文のタイトル: The inverted singlet–triplet gap: a vanishing myth?(シングレット-トリプレット gap の逆転: 消え去る神話か?)

著者: Andreas Dreuw* and Marvin Hoffmann

雑誌: Frontiers in Chemistry

巻: Vol. 11

出版年: 2023年


背景

1: 研究の背景

励起一重項状態と三重項状態間のエネルギー差をシングレット-トリプレットギャップ(STG)と呼ぶ

STGは光化学や発光ダイオードにおいて重要な役割を果たす

ヘプタジンなどの有機分子では逆転したSTG(一重項<三重項)が報告されている 


2: 未解決の問題点

従来のフント則は三重項状態のエネルギーが低いことを示唆

逆転したSTGはフント則に反する

その原因として二重励起配置の影響が示唆されている


3: 研究の目的

本研究は高精度な量子化学計算により逆転STGの起源を解明することを目的とする

正確なSTGの予測は有機ELの性能向上に役立つ


方法

1: 研究デザイン

ヘプタジン、シクル[3.3.3]アジン、シクル[3.3.3]ボランを対象分子


2: 理論計算研究

基底状態の構造最適化: RI-MP2/cc-pVTZ

励起状態計算: ADC(2)、ADC(3)、EOM-CCSD、CCSD(T)


3: 解析手法

励起状態解析: 自然遷移軌道(NTO)、励起子解析 

各種基底関数も使用(cc-pVnZ、aug-cc-pVnZ、n=D,T,Q)


結果

1: 主要な結果

全ての対象分子でADC(2)レベルでは一重項<三重項(逆転STG)

ADC(3)レベルでは逆転STGが小さくなる傾向


2: CCSD計算結果

EOM-CCSD: 逆転STG

CCSD(T): 正常のSTG (一重項>三重項)


3: 解析結果

電子相関を高精度に計算するほど、逆転STGは小さくなる

基底関数を大きくするほど、同様の傾向


考察

1: 電子構造の類似性

励起一重項S1と三重項T1の電子構造はほぼ同一

両状態とも主にHOMO→LUMO遷移で記述される

差密度分布も一重項と三重項でほぼ同じ

励起子サイズは分子によって異なるが、S1とT1で類似


2: 電子相関の影響

ADC(2)では全ての分子で逆転STGが観測される

ADC(3)やCCSD(T)など高次の電子相関を含めると逆転STGは減少

三重項状態がより安定化される傾向

二重励起配置の寄与は予想より小さい


3: 計算レベルと基底関数の影響

計算レベルを上げるほど(ADC(2)→ADC(3)→CCSD(T))、逆転STGは消失

基底関数を拡張するほど(cc-pVDZ→aug-cc-pVDZ→cc-pVTZ)、同様の傾向

CCSD(T)/aug-cc-pVTZで最も信頼性の高い結果を得られる

高精度計算ほど正常なSTG(T1<S1)に近づく


4: 実験結果との不一致

一部の実験では逆転STGが報告されている

計算で用いた分子モデルの制限が原因の可能性

溶媒効果など環境の影響を考慮していない

振動効果やスピン軌道相互作用も無視している


5: 研究の限界と今後の課題

より大きな置換ヘプタジン誘導体への適用が必要

環境効果(溶媒など)の影響を明らかにする必要がある

振動効果や動的過程の考慮が重要

計算コストと精度のバランスを取る方法の開発が課題


結論

逆転STGは計算レベルを上げるにつれ小さくなり、最終的に正常のSTGに変わる

二重励起よりも高次の電子相関効果が重要であることが示唆された


将来の展望

実験結果との不一致は計算系の制限による可能性があり、さらなる検討が必要

STGの正確な予測には、より高精度な理論計算が不可欠

2024年6月22日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0049~

論文のタイトル: Computed NMR Shielding Effects over Fused Aromatic/Antiaromatic Hydrocarbons

著者: Ned H. Martin、Mathew R. Teague、Katherine H. Mills

雑誌: Symmetry

巻: 2巻, p. 418-436

出版年: 2010年


背景

1: 研究の背景

芳香族性と反芳香族性は分子の構造的、エネルギー的、磁気的性質に関係している

核独立化学シフト(NICS)は芳香族性を評価する有用な指標である


2: 未解決の問題点

多環式芳香族/反芳香族炭化水素における芳香族性の程度を調べる必要がある

分子プローブを用いた遮蔽効果の測定は、芳香族性を評価する新しい手法である  


3: 研究の目的

多環式芳香族/反芳香族炭化水素上の遮蔽効果を計算する

結合長の変化、π電子の非局在化、電荷分布との関係を調べる


方法

1: 研究デザイン

量子化学計算(Gaussian 03)を用いた理論研究

GIAO HF/6-31G(d,p)レベルでの等方遮蔽値計算


2: 計算モデル 

ベンゼンとシクロブタジエンが縮合した多環式化合物

ベンゼンとイオン性の芳香族環が縮合した化合物  


3: 解析手法

分子プローブ(H2)を環平面上2.5Å に配置

等方遮蔽増分(Δσ)をプローブ位置で計算

3次元等方遮蔽増分曲面を作成


4: その他の解析

NICS(1)値の計算

結合長と自然電荷の解析


結果

1: 主要な結果

ベンゼン縮環体において、シクロブタジエン部分で大きな遮蔽効果

芳香環ベンゼン部分の遮蔽効果は小さい

シクロブタジエン縮環数が増えると、ベンゼン環の芳香族性は低下

イオン性の環が縮環すると、大きな遮蔽効果が見られる


2: 解析結果

Δσ値とNICS(1)値は良い相関を示した

結合長と電荷分布から芳香族性を支持する結果が得られた


考察

1: シクロブタジエン縮環の効果

ベンゼンとシクロブタジエンが縮環すると、ベンゼン環の芳香族性が低下する

これは環電流とπ電子の非局在化の減少による


2: イオン性の芳香環の縮環の効果

イオン性の芳香環の縮環は大きな遮蔽効果をもたらす 

正電荷は分子プローブの水素を引き寄せ、遮蔽を増大させる


3: 先行研究との比較

Fowlerらの環電流密度計算結果と一致している

Schleyerらの研究と同様に、π電子の非局在化が重要である


4: 研究の限界点

基底関数の制限による電子相関の無視

分散力の無視

溶媒効果を考慮していない


結論

多環式芳香族/反芳香族炭化水素の芳香族性を評価した

分子プローブ法はNICSと相関が良く、有用な手法である

結合長や電荷分布から芳香族性を理解できる


将来の展望

今後、より高水準の理論計算による検証が期待される

2024年6月21日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0048~

論文のタイトル: Copper-catalysed perarylation of cyclopentadiene: synthesis of hexaarylcyclopentadienes(銅触媒による環状ペンタジエンの多置換アリール化: ヘキサアリールシクロペンタジエンの合成)

著者: Yohan Gisbert, Pablo Simón Marqués, Caterina Baccini, Seifallah Abid, Nathalie Saffon-Merceron, Gwénaël Rapenne, Claire Kammerer

雑誌: Chemical Science

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

シロール誘導体は光電子デバイスに広く使用されている

ヘキサフェニルシロールは凝集誘起発光(AIE)の代表例

一方、ヘキサフェニルシクロペンタジエンは等価な炭化水素だがほとんど研究されていない


2: 未解決の問題

現在のヘキサフェニルシクロペンタジエンの合成法は複雑で官能基許容性に乏しい

直接的な多置換アリール化反応が望まれる


3: 研究の目的

銅触媒を用いたシクロペンタジエンの一段階六重アリール化の開発

新規ヘキサアリールシクロペンタジエン類の合成と性質評価


方法

1: 銅触媒を用いたアリール化反応 

マイクロ波加熱の利用


2: 基質

シクロペンタジエンまたはジルコノセンジクロリド

種々の置換基を有するアリールヨウ化物


3: 主要な評価項目

反応評価(NMR、X線結晶構造解析)

光学特性評価(UV-Vis、蛍光スペクトル)

収率


結果

1: 反応結果

最適条件下での反応例 (収率88%)

単結晶X線構造


2: 基質スコープ 

収率27-61%

電子効果と立体効果の影響がそれぞれ確認された


3: 光学特性評価結果

凝集誘起発光(AIE)の確認

発光波長の制御可能性


考察

1: 主要な発見

6回の新規C-C結合形成が一段階で進行

平均収率92%/結合は高い分子複雑度形成能を示唆


2: 電子効果と立体効果の影響

電子求引性基の存在下では反応が進行しにくい

立体障害も許容範囲を超えると反応が阻害される


3: AIE性能

AIE活性な新規ヘキサアリールシクロペンタジエン類の創出

置換基制御で発光波長が調節可能


4: 反応機構

分子内フェニル基の[1,5]シグマトロピック移動が確認された

位置選択的多置換化が困難


5: 研究の限界点

高い基質許容性と官能基耐性が今後の課題

合成スケールアップ性の改善の必要性


結論

ヘキサアリールシクロペンタジエン類の革新的な一段階合成法の開発に成功

新規AIE活性化合物の創製と発光波長制御が可能に  


将来の展望

拡張π共役系構築への応用が期待される

今後は反応の一般化と実用化に向けた検討が重要

2024年6月20日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0047~

論文のタイトル: Extended Reichardt's Dye–Synthesis and Solvatochromic Properties

著者: Stephen Franzese, Nicolau Saker Neto, Wallace W. H. Wong

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024年


背景

1: ソルバトクロミズムとは

化合物の電子吸収スペクトルが溶媒の極性によって変化する現象

正のソルバトクロミズム: 極性の高い溶媒で長波長側にシフト  

負のソルバトクロミズム: 極性の低い溶媒で長波長側にシフト


2: Reichardt's Dye (Betaine 30)

1963年にReichardtらによって合成された

強い負のソルバトクロミズム性を示す代表的な色素

非極性溶媒で881 nm、極性溶媒で438 nmに吸収

ET(30)溶媒極性スケールの基準色素


3: 研究の目的  

Betaine 30に類似した新規π共役拡張ピリジニウム-フェノレート色素を合成

置換基とπ共役鎖長の影響を調べる

ソルバトクロミズムに対する影響を評価


方法

1: 色素の合成

Betaine 30に類似した3種の新規色素 (2B, 2C, 2D) を合成

フェニレン基を導入してドナー-アクセプター距離を延長

化合物2C, 2Dはフェノール部位にCl, Br置換基を導入


2: UV-Vis吸収スペクトル測定

20種類の極性の異なる溶媒中で測定

最長波長吸収帯の極大値波長を決定

溶媒極性指標ET(30)値との相関を検討  


3: Betaine 21 (2A) の合成

1963年Reichardtらによって報告された π共役拡張体

当初、ソルバトクロミズムが小さいと報告されていた

本研究で再評価を試みた


結果

1: 新規色素のソルバトクロミズム

化合物2B, 2C, 2Dはすべて顕著な負のソルバトクロミズムを示した  

Betaine 30に匹敵する大きな吸収シフトが観測された


2: Betaine 21 (2A) の挙動

さまざまな溶媒中で測定したところ、当初の報告よりも著しく大きなソルバトクロミズムを示した

しかし、特定の溶媒中で分解が起こることが判明


3: 新規色素の不安定性  

化合物2B, 2C, 2D, 2Aはある種の溶媒中で分解し、黄色に変色した

質量分析ではこの分解物に酸素の付加が示唆された


考察

1: ドナー-アクセプター距離の影響

フェニレン基の導入によりドナー-アクセプター間距離が延長

しかしソルバトクロミズムの顕著な増大は見られなかった

ねじれによる共役の低下が一因と考えられる


2: 置換基効果

化合物2C, 2D2Bより短波長側に吸収帯があった

フェノール部分の電子密度が低下したためと推測


3: 溶媒との相互作用

水素結合ドナー性溶媒とその他の溶媒で挙動が異なる

フェノール部位の立体障害の影響が示唆された  


4: 研究の限界点

色素の合成スケールが小さく、さらなる評価が難しい

分解機構の詳細が不明

より高次の共役系を導入した色素の調査が必要


結論

フェニレン基を導入したπ共役拡張ピリジニウム-フェノレート色素を新規合成

強い負のソルバトクロミズム性が確認された  

しかし当初期待したほどの感度向上は見られなかった

一方、Betaine 21の溶媒クロミズムが過小評価されていたことが判明


将来の展望

ドナー-アクセプター距離の最適化が今後の課題

2024年6月19日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0046~

論文のタイトル: Triple Nucleophilic Head-to-Tail Cascade Polycyclization ofDiazodienals via Combination Catalysis: Direct Access toCyclopentane Fused Aza-Polycycles with Six-ContiguousStereocenters(新規(2E,4E)-ジアゾヘキサ-2,4-ジエナールを用いたカスケード環化反応による多環式化合物の直接的合成)

著者: Haribabu Chennamsetti, Kuldeep Singh Rathore, Saikat Chatterjee, Pratap Kumar Mandal, Sreenivas Katukojvala

雑誌: JACS Au

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

天然に存在するアザトリシクロ[6.2.1.04,11]ウンデカン骨格を有する多環式アルカロイドは、様々な生理活性を示す

これらの構造的複雑さから、効率的な全合成手法の開発が求められていた


2: 未解決の問題

単純な前駆体から直接的にアザトリシクロ[6.2.1.04,11]ウンデカン骨格を構築する一般的な方法がなかった

従来の環化反応では、連続する多段階が必要であった


3: 研究の目的

新規ビルディングブロック"ジアゾジエナール"の開発

ジアゾジエナールのカスケード環化反応による高効率的合成法の確立


方法

1: 研究デザイン

新規化合物の合成と反応性の評価


2: 基質の調製

ソルビン酸からジアゾジエナール前駆体の合成

さまざまなアルジミンおよびアリールアミンの調製  


3: 主要な評価項目

ロジウム/ブレンステッド酸協奏触媒によるジアゾジエナールのカスケード環化反応

生成物の構造決定(NMR、X線結晶構造解析)


4: 解析手法

NMR、質量分析、X線結晶構造解析による生成物の同定

実験的および理論的手法による反応機構の解明


結果

1: ジアゾジエナールの合成と単離

多様なアルキルエステル体の調製に成功

安定な結晶として単離可能


2: カスケード環化反応

ロジウム/酸触媒によりジアゾジエナール、アルジミン、アリールアミンから単一の環化体が生成

6つの新規結合、3つの環、6つの連続する不斉中心が形成


3: 生成物の構造

X線結晶構造解析により、アザトリシクロ[6.2.1.04,11]ウンデカン骨格を確認

各種官能基化された多環式化合物が得られた


考察

1: 主要な発見

ジアゾジエナールがカスケード環化の良い基質となる点

ロジウム/Brønsted酸協奏触媒が鍵となる役割を果たした

複雑な環状構造を一段階で構築できる画期的な反応

高い原子経済性と位置・立体選択性が達成された


2: ジアゾジエナールの特徴

ジアゾ基とエナール部位の高い共役性が重要

独立した触媒反応では達成できない新規反応性


3: 反応機構

実験的・理論的検討から反応機構を提案

ジアゾジエナールの共役系と二次的π-π相互作用が、この複雑なカスケード環化反応を可能にしている

- 反応の開始

    ロジウム触媒によりジアゾジエナールからロジウムカルベノイドが生成

    カルベノイドがアルジミンと反応し、金属配位したジエニルアゾメチンイリド(DAY)を形成

- DAYの生成

    ロジウムから放出されたDAYは電荷の非局在化によりトリエノレートへの異性化が競争的に進行

    Brønsted酸存在下、DAYがアリールアミンと速やかに反応しアザトリエニルアゾメチンイリド(ATAY)を生成

- 6π電子環状反応

    ATAYの立体特異的な6π電子環状反応によりトランス体ジヒドロピロールが生じる

    この際、アリールとオレフィン間のπ-π相互作用が反応を促進

- アザマイケル付加とアザDiels-Alder反応

    Brønsted酸によりイミニウムイオンが生成

    アリールアミンのアザマイケル付加により中間体を与える

    カチオン-πおよびπ-π相互作用によりコンホメーション変化を経て、aza Diels-Alder反応が進行しシクロペンタ縮環4環式化合物(CPAT)を与える

- 最終生成物への変換
    CPATからの酸化的な芳香環化により、最終生成物が得られる
    生成物の構造中にもπ-π相互作用が確認された


4: 研究の限界点

基質の一般性と置換基の適用範囲に制限がある

大規模生産への展開が課題


結論

ジアゾジエナールがカスケード環化反応の新たな基質となることを実証

協奏触媒によりアザトリシクロ[6.2.1.04,11]ウンデカン骨格を直接的に構築可能

立体制御された6連続不斉中心を有する多環式化合物を効率的に合成


将来の展望

ジアゾジエナールの応用拡大が期待される分野での貢献が期待される

2024年6月18日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0045~

論文のタイトル: Ni-Catalyzed Electro-Reductive Cross-Electrophile Couplings of Alkyl Amine-Derived Radical

著者: Lars J. Wesenberg, Alessandra Sivo, Gianvito Vilé, Timothy Noël

雑誌: The Journal of Organic Chemistry

出版年: 2023


背景

1: 研究の背景

従来の金属触媒クロスカップリング反応は、主に平面的な化合物の合成に重点が置かれていた

近年、立体的な医薬品候補化合物の開発ニーズから、sp3を豊富に有する化合物の合成法開発が重要視される 


2: 未解決の問題点と研究目的  

交差求電子剤カップリング反応は当量の末端還元剤を必要とする

特に、アルキルピリジニウム塩(Katritzky塩)とハロゲン化アリールの直接的なクロスカップリングが未解決


3: 期待される成果

アミン由来のラジカル前駆体とアリールヨウ化物のニッケル触媒電気化学的カップリング反応の開発

持続可能で廃棄物の少ない新規合成手法の構築


方法

1: 研究デザイン

最適化実験を通じた反応条件の検討 

基質スコープの評価

シクロヘキシルアミン誘導体とアリールヨウ化物の組み合わせ


2: 基質一般性の検討

様々なアリールヨウ化物の評価

種々の二級アルキルアミン誘導体の検証  


3: 分析手法

NMR、単離収率

統計的手法によるデータ解析


結果

1: 代表的な基質の反応

シクロヘキシルアミン誘導体から様々な置換基をもつアリールベンゾエート誘導体が合成可能

電子求引性、電子供与性、ヘテロ環状置換基が許容される

種々の二級アルキルアミン誘導体(線状、分岐状、環状)からカップリング生成物が得られる


2: 応用的な反応例

保護されたアミノ酸や医薬品骨格の導入も可能

反応は非保護のアルコール基の存在下でも進行

メントールとエストラジオールのそれぞれから誘導された複雑な分子骨格への適用も可能


考察

1: 電気化学的手法の利点

廃棄物削減、持続可能性

ニッケル触媒系と電極の最適化による反応効率の向上


2: 先行研究との比較

従来法に比べ、有毒な還元剤が不要なグリーンな手法

フローケミストリーへの展開により、連続的な製造が可能に


3: 反応機構の考察

カトリツキー塩の一電子還元によりアミンラジカルカチオン種が発生

ラジカルカチオンがニッケル触媒に酸化的付加し、ニッケル(III)中間体を形成

ニッケル(III)中間体がアリールヨウ化物と酸化的付加してニッケル(III)中間体となる

高原子価ニッケル種から還元的除去が進行し、目的生成物と再酸化されたNi(I)種を与える

生成したNi(I)種が電極で還元されてNi(0)種に戻る

このNi(0)種がさらにカトリツキー塩を還元してサイクルが継続する

適切な配位子選択がラジカル捕捉の効率化に重要


4: 本手法の限界点

一級アミン誘導体への適用

ラジカルカチオン捕捉が遅い場合、アミンラジカルの二量化副反応が競合


結論

アミン由来ラジカルとアリールハロゲン化物の新規クロスカップリング反応の確立

持続可能な合成手法への貢献


将来の展望

医薬品や材料合成への応用が期待される

他の基質クラス(ケトン、アルデヒドなど)への適用拡大の可能性

本手法の工業的応用に向けたスケールアップ研究の必要性

フロー電気化学的手法の検討によるさらなる効率化が期待される


2024年6月17日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0044~

論文のタイトル: A π-extended β-diketiminate ligand via a templated Scholl approach

著者: Lars Killian, Martin Lutz, Arnaud Thevenon

雑誌: Chem. Commun.

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

多環芳香族化合物(PAH)は有機光電子材料分野で重要な役割を果たす

独自の電子的・光学的性質と自己組織化能力を有する

配位化学分野でも関心が高まっている(スーパーベンゼン型配位子など)


2: 未解決の問題点と研究目的

均一系触媒分野では、PAHを配位子に組み込むと電子貯蔵能が期待できる

しかし、そのような配位子の合成が困難であり、発展が妨げられていた

本研究では新規β-ジケチミネート(BDI)配位子の開発を目指す  


3: 期待される成果

BDIにπ共役系を導入し、金属中心への電子供与能を付与することが目的

π共役系としてベンゾ[f,g]テトラセン骨格を選択

配位化学的性質と酸化還元挙動の評価を行う


方法

1: 研究デザイン

有機合成を用いた新規BDIリガンド合成


2: 前駆体合成

出発原料: tert-ブチル置換ベンゾイン  

4段階の反応でBDI前駆体配位子を合成


3: 目的生成物の合成

ボロン配位子を利用したテンプレート効果によるScholl酸化

ベンゾ[f,g]テトラセン骨格の構築 


4: 分析手法

紫外可視、サイクリックボルタンメトリーによる分光学的・電気化学的評価

単結晶X線構造解析


結果

1: Scholl酸化でベンゾ[f,g]テトラセンBDIリガンド(BT-BDI)の合成に成功  


2: 副生成物としてクロロ置換体(ClBT-BDI)も単離 


3: BT-BDIは亜鉛に配位可能であり、可視領域に強い吸収を示した


考察

1: ボロンテンプレートがScholl環化に有効に作用した初例である  


2: 配位子骨格の拡張により、長波長シフトと酸化還元活性の向上が見られた


3: 先行研究との比較から、本配位子は高い電子貯蔵・供与能が期待できる


4: テトラセン骨格の追加酸化が可能であり、さらなる骨格拡張も視野に入る    


5: 反応効率や溶媒などに改善の余地あり


結論

ボロンテンプレートによるScholl酸化が、新規π共役BDIリガンド合成に有効であった

本配位子は金属中心への電子供与能と酸化還元活性を併せ持つ


将来の展望

均一系触媒や光電子材料分野への応用が期待できる

さらなる骨格拡張による機能向上も可能と考えられる

2024年6月16日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0043~

論文のタイトル: Reactive Magnesium Nanoparticles to Perform Reactions in

Suspension(反応性マグネシウムナノ粒子を懸濁液中で反応に利用する)

著者: Christian Ritschel, Carsten Donsbach, Claus Feldmann

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024


背景

1: マグネシウムの反応性

マグネシウムは非常に高い還元力を持つ(-2.34 V vs 標準水素電極)

しかしながら、バルクマグネシウムはMgO被膜で覆われており不活性化される


2: 従来の活性化手法の限界  

グリニャール反応のためのヨウ素処理

ジブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物の使用

マイクロメートルサイズの"Rieke マグネシウム"


3: ナノマグネシウムの利点

ナノサイズ化によりマグネシウムの反応性が向上する可能性

液相合成による清浄なマグネシウムナノ粒子の調製

新規配位子化合物合成への応用が期待される


方法

1: 研究デザイン

液相法によるマグネシウムナノ粒子合成

MgBr2を出発原料とする

強力な還元剤としてリチウムナフタレニド/ビフェニルを使用


2: 合成条件  

溶媒にTHFを使用

均一溶液から直接ナノ粒子を生成するLaMer機構


3: 特性評価

透過電子顕微鏡によるサイズ・形態観察  

X線回折による結晶構造解析

FT-IR、元素分析による表面状態解析


4: マグネシウムナノ粒子の反応性評価

立体的にかさ高い有機ハロゲン化物との反応

酸性プロトンを有するアミン化合物との反応


結果

1: 合成されたマグネシウムナノ粒子

粒子径10.3 ± 1.7 nm (LiBP還元)、28.5 ± 4 nm (LiNaph還元)  

単結晶構造 (d101 = 245±5 pm) 

表面にTHFが吸着


2: ハロゲン化物との反応

1,1'-ビアダマンタンの生成 (収率80%)

[MgCl2(thf)2]・Ph6Si2 (収率70%) の生成


3: 酸性プロトンを有するアミン化合物との反応 

9H-カルバゾール (Hcbz)、7-アザインドール (Hai)、1,8-ジアミノナフタレン (H4nda)、N,N’-ビス(α-ピリジル)-2,6-ジアミノピリジン (H2tpda)から、それぞれ[Mg(cbz)2(thf)3] 、[Mg4O(ai)6]・1.5C7H8、[Mg4(H2nda)4(thf)4]、[Mg3(tpda)3]を単結晶として得た


考察

1: マグネシウムナノ粒子の高い反応性

空気・水との激しい反応から高反応性が示唆される

立体的に混雑した基質への適用が可能


2: 液体懸濁系の利点

常温〜120℃の温和な条件下で反応が進行  

収率40-80%と比較的高い収率


3: 既存手法との比較

グリニャール反応に比べ温和な条件

活性マグネシウムに比べ清浄な粒子が得られる


4: 新規配位子化合物の合成

多核錯体や希少な配位構造をもつ化合物が得られる

立体的にかさ高い配位子の導入が可能


5: 本手法の限界点

厳密な不活性条件下での取り扱いが必要

大量合成が困難

ナノサイズ効果の詳細は不明


結論

マグネシウムナノ粒子は、温和な条件下で立体的にかさ高い基質と反応できる

新規配位子化合物の液相合成ルートとして有用


将来の展望

サイズ制御などによる更なる反応性向上が期待される

実用化に向けた大量合成プロセス開発が必要

2024年6月15日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0042~

論文のタイトル: Simple and Green Preparation of Tetraalkoxydiborons and Diboron Diolates from Tetrahydroxydiboron

著者: Ryan M. Fornwald, Anshu Yadav, Jose R. Montero Bastidas, Milton R. Smith III, Robert E. Maleczka Jr.

雑誌: Journal of Organic Chemistry

巻: Vol 89, Issue 9 p. 6048–6052

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

ジボロンジオレートは合成化学で幅広く利用されている

これまでの合成法は複雑で時間がかかる


2: 未解決の問題点

テトラキス(ジアルキルアミノ)ジボロンからの調製は低温、塩の除去、蒸留または昇華が必要

テトラヒドロキシジボロンとジオールの混合物からの調製には24時間の反応が必要


3: 研究の目的

簡便で環境に優しいジボロンジオレートとテトラアルコキシジボロンの新規合成法の開発


方法

1: 研究デザイン

テトラヒドロキシジボロンと酢酸クロリド存在下でトリアルコキシメタンとの反応  


2: 実験条件

様々なジオールやフェノールとの反応

反応の経時的追跡

生成物の単離


3: 分析手法

生成物の構造同定(NMR、質量分析など)

キラル化合物の立体化学の解析  


結果

1: 反応結果

数分でテトラメトキシジボロンが生成

ジオールを加えるとジボロンジオレートが高収率で得られた  

種々のジボロンジオレートが効率的に合成可能


2: 立体化学の解析結果 

ジボロンジオレートの立体異性体の生成比が解析された


考察

1: 単純なプロセス

従来法に比べ迅速

副生成物の除去のみで目的物が得られる


2: 汎用性

多様な置換基を有するジボロンジオレートが調製可能  

立体選択的に単一ジボロンジオレート異性体を得ることができる

酢酸クロリドなど安価な試薬を使用できる利点がある  


結論

テトラヒドロキシジボロンから短時間でジボロンジオレートやテトラアルコキシジボロンを高収率で合成できる新規グリーン手法を開発 

本手法は多様性に富み、スケールアップ可能で実用的価値が高い

ジボロン化学の発展に寄与する成果


将来の展望

本手法はスケールアップが可能で工業的な利用期待される

2024年6月12日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0041~

論文のタイトル: A DFT studies on a potential anode compound for Li-ion batteries: Hexa-catahexabenzocoronene nanographene (DFT計算によるリチウムイオン電池の有望な負極材料としてのヘキサ-cata-ヘキサベンゾコロネンの研究)

著者: Behlol Hashemzadeh, Ladan Edjlali, Parvaneh Delir Kheirollahi-Nezhad, Esmail Vessally

雑誌: Chemical Review Letters

巻: Vol 4, Issue 4 p. 232-238

出版年: 2021


背景

1: リチウムイオン電池の需要と重要性

ポータブル電子機器、電気自動車での広範な用途

エネルギー貯蔵能力の向上が課題


2: ナノ材料の可能性

特異な構造から新規の特性が期待される

ナノグラフェンは新しい次世代ナノ材料


3: 研究の目的

ヘキサ-cata-ヘキサベンゾコロネンをLIB負極材料として検討

高容量・高イオン移動度を実現する新規負極設計


方法

1:  理論計算手法

密度汎関数理論(DFT)

B3LYP-gCP-D3/6-31G*レベル


2: モデリングと構造最適化  

HCORナノグラフェンおよびLi/Li+吸着構造の最適化

吸着エネルギー、電荷移動、構造変形の評価


3: イオン移動度と電池特性評価

Li+移動の活性化エネルギー障壁と拡散係数の算出

理論セル電圧と比容量の見積もり  


結果

1: Li+吸着挙動

HCORの六員環上へのLi+強吸着(-200 kcal/mol)

六員環間のLi+移動障壁は7.5 kcal/mol 


2: Li原子吸着挙動

弱い物理吸着(-4.7 kcal/mol)

最大9原子が吸着可能で容量589 mAh/gに相当


3: 電子構造と電池特性  

Li+吸着によるHOMO-LUMO間隔の大幅低下

理論セル電圧4.23 V


考察

1: 高容量・高セル電圧の理由

ナノグラフェンの電子豊富な構造とLi+の強い相互作用

適度なLi+移動障壁によるイオン伝導性の確保


2: 先行研究との比較

他の負極材料より高い理論容量と電圧

DFTによる系統的な挙動解明が重要


3: 実用化に向けた課題

合成プロセスの確立と実験的検証

電解液との安定性や充放電サイクル劣化の評価  


4: 限界点

モデルの単純化、溶媒効果や不純物の無視

実験データとの直接比較が困難


結論

HCORナノグラフェンはLIB負極材料として高い潜在能力

高容量(589 mAh/g)、高電圧(4.23 V)、良好なイオン伝導性


将来の展望

理論と実験の両面からさらなる検討が望まれる

次世代エネルギー貯蔵デバイスへの応用が期待される

2024年5月27日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0040~

 論文のタイトル: Janus Face All-cis 1,2,4,5-tetrakis(trifluoromethyl)- and All-cis 1,2,3,4,5,6-hexakis(trifluoromethyl)- Cyclohexanes

著者: Cihang Yu, Agnes Kütt, Gerd-Volker Röschenthaler, Tomas Lebl, David B. Cordes, Alexandra M. Z. Slawin, Michael Bühl, David O'Hagan

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

巻: Volume 59, Issue 45 p. 19905-19909

出版年: 2020


背景

1: 研究の背景

シクロヘキサン環は有機化学の発展に大きな役割を果たしてきた

これまでに全シス体の6置換シクロヘキサン化合物がいくつか合成されている  

しかし、最も立体障害の大きい全シス-1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサンは未だ合成されていない


2: 未解決の問題点と研究目的  

立体障害が大きい化合物ほど合成が困難

トリフルオロメチル基の導入により新規Janus面環状化合物が期待できる

全シス-1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサンと全シス-1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサンの直接水素化による合成を試みた


3: 期待される成果

最も立体障害の大きい全シス六置換シクロヘキサン化合物の合成

環反転のエネルギー障壁の解明  

Janus面環状化合物の性質の解明


方法

1: 研究デザイン

1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン15と1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)ベンゼン16の直接水素化反応

ロジウム触媒を用いた高圧水素化反応  


2: 反応条件と生成物の単離

1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼンの水素化: 50 bar水素圧, 25℃, 2日間で目的生成物を60%収率で得た

ヘキサキス(トリフルオロメチル)ベンゼンの水素化: 60 bar水素圧, 50℃, 14日間で目的生成物を13%収率で得た 

生成物の単離にはシリカゲルクロマトグラフィーを用いた


3: 分析手法

単結晶X線構造解析

温度可変NMR測定による環反転障壁の解析

密度汎関数理論(DFT)計算による立体構造と安定性の評価


結果

1: X線構造解析

新規Janus面環状化合物はいずれも椅子形構造をとる

全シス-1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサン 13のCF3基間の1,3-ジアキシアル角は107.5°と大きく歪んでいる

全シス-1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサン 14の3つのCF3基間の平均スプレイ角は110.8°と非常に大きい


2: 環反転障壁 

化合物13の環反転障壁はΔG‡ = 10.3 kcal/mol 

化合物14の環反転障壁は計算値でΔG‡ = 27.1 kcal/molと非常に高い

化合物14は調べた範囲で最も立体障害の大きい全シス六置換シクロヘキサン


3: Janus面環状分子の性質

化合物14の電荷分布は片面に負の領域、反対面に正の領域を持つ

化合物14はアセトン、塩化物イオンと相互作用を示す  

フッ化物イオンによる分解反応が観測された


考察

1: 化合物13の特徴的な構造と反応性

CF3基の立体配置による大きなひずみ

環反転にはねじれ船型の寄与が関与  

立体障害の増大に伴い反応性が低下する可能性


2: 化合物14の特有の性質

最も立体障害の大きい全シスヘキサ置換シクロヘキサン

フッ素面と水素面の極性が環反転を抑制する要因か  

塩化物イオン親和性はJanus面構造に由来


3: 限界点と将来の課題

収率の改善が必要

化合物14の結晶構造の更なる解析が望まれる

他のJanus面環状化合物の合成と性質評価


結論

最も立体障害の大きい全シス六置換シクロヘキサン14の合成に成功

化合物14は環反転障壁が非常に高いJanus面環状分子である


将来の展望

新規極性環状分子の開発につながる

Janus面環状化合物の実用化が期待される

2024年5月26日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0039~

論文のタイトル: Eosin, blue LEDs and DIPEA are employed in a simple synthesis of (poly)cyclic O,O- and N,O-acetalsO,O-およびN,O-アセタールの簡単な合成におけるエオシン、青色LEDおよびDIPEAの使用)

著者: Ioannis Papadopoulos, Artemis Bosveli, Tamsyn Montagnon, Ioannis Zachilas, Dimitris Kalaitzakis, Georgios Vassilikogiannakis 

雑誌: Chemical Communications

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

剛直な(ポリ)環状構造は医薬品開発で有利

sp3炭素が多く、適切に配置されたヘテロ原子を含む

タンパク質との結合が強く、膜透過能が高い


2: 未解決の問題

基質の複雑な前駆体合成が必要

金属や有毒な試薬の使用

高エネルギーUV光の使用


3: 研究の目的  

単純な条件で(ポリ)環状O,O-およびN,O-アセタールを合成する新規一段階手法の開発

可視光線、エオシン光触媒、グリーン溶媒の使用


方法

1: 研究デザイン

新規光触媒反応の開発と最適化


2: 基質と試薬

エノールエーテル、N-アシルエナミン、Boc保護エナミンを基質

エオシン光増感剤、DIPEA、青色LEDを使用


3: 反応検討

モデル基質で反応条件を確立  

各基質での反応性を検討


4: 生成物の同定・収率測定

1H NMR、質量分析などで生成物を同定

生成物の単離収率を決定


結果

1: エノールエーテルの反応結果

モデル基質からのO,O-アセタール生成 (75%収率)

様々なエノールエーテル由来のO,O-アセタール合成(65-80%収率)


2: N-アシルエナミンの反応結果 

N-アシルエナミン由来のN,O-アセタール合成 (63-76%収率) 


3: Boc保護エナミンの反応結果

Boc保護エナミン由来のN,O-アセタール合成 (42-65%収率)

一段階手法による(ポリ)環状アセタールの簡便合成


考察  

1: 主要な発見

可視光線/エオシン/DIPEA条件でStork-Ueno型環化が進行

これまで困難だった(ポリ)環状アセタールが簡便に合成可能

エノールエーテル、N-アシルエナミン、Boc保護エナミンに適用可能


2: 先行研究との比較

従来法に比べ、基質の前合成が簡単

金属や有毒試薬を使用せず、環境負荷が小さい


3: 反応機構の考察

DIPEAの多機能的な役割が重要

光増感剤の励起状態を失活、ラジカル中間体の発生


4: 限界点

ステップ数が2段階に限られる

ラジカル反応のため、一部の基質では適用が困難


結論

可視光線/エオシン/DIPEA条件で(ポリ)環状O,O-およびN,O-アセタールが簡便に合成可能

基質の幅が広く、環境負荷が小さい新規一段階手法


将来の展望

今後は反応の適用範囲拡大や連続的な反応開発が期待される

医薬品開発など幅広い分野への波及効果が見込まれる

2024年5月25日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0038~

論文のタイトル: From Criegee to Breslow: How π-Donors Steer the Route of Olefin Ozonolysis

著者: Serhii Medvedko, J. Philipp Wagner 

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024


背景

1: オレフィンのオゾン付加反応

通常は1,3-双極子環化付加反応が進行し、Criegee中間体が生成

しかし、一部のオレフィンでは部分的オゾン化が起こる

反応経路の違いは、置換基の電子供与性に起因すると考えられている


2: 研究の課題  

π電子供与性置換基を持つオレフィンの反応性は不明

強い電子供与性でCriegee中間体以外の生成物が得られるか?


3: 研究の目的

異なるπ電子供与性置換基を持つモデル化合物の反応を調査

電荷移動の影響と生成物の変化を理論計算から解析


方法

1: 計算手法 

密度汎関数理論(DFT)を用いた反応経路計算

B3LYP-D3/def2-TZVPP レベルで最適化と振動解析

溶媒効果は連続体モデル(CPCM)で考慮


2: モデル化合物

5員環オレフィンに種々のヘテロ原子(C, N, S)を導入

電子供与能の異なる一連のモデル化合物を設定


3: 解析項目

反応熱と活性化自由エネルギー 

遷移状態の非同期性

固有反応座標(IRC)解析による生成物予測


結果

1: 反応熱と生成物選択性

強いπ電子供与基を持つ場合、酸素原子移動生成物が安定化

極性溶媒中ではさらに酸素原子移動が有利に


2: 遷移状態構造

π電子供与基が強いほど遷移状態の非同期性が増大

酸素原子受入れ構造の寄与が大きくなる


3: 反応経路

π電子供与性の低いオレフィンはCriegee機構で進行

強い電子供与性では酸素原子移動経路に遷移


考察

1: 新規反応経路の意義 

Breslow中間体の新たな合成経路

従来のCriegee機構とは異なる選択性


2: 先行研究との整合性

部分的オゾン化の実験例と一致

電荷移動錯体の関与が示唆される  


3: 理論計算の限界

オゾンやシングレット酸素の記述が不十分

動力学計算による実験値との比較が必要


4: 今後の展望

ドナー置換オレフィンのオゾン化実験

Breslow中間体の実証と新規反応開発


結論

π電子供与性置換基がオレフィンに酸素原子移動経路を付与

電荷移動の程度で反応選択性が変化することを理論的に明らかに


将来の展望

有機合成での新たなアプローチとなりうる反応経路の提案

2024年5月24日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0037~

論文のタイトル: Synthesis of Stereodefined Polysubstituted Bicyclo[1.1.0]butanes

著者: Rahul Suresh, Noam Orbach, and Ilan Marek*

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

Bicyclo[1.1.0]butane (BCB)は高い歪みエネルギーを持つ最小のカルボサイクル

BCBsは独特の化学反応性を示し、様々な分子骨格の合成に役立つ

これまでにBCBsの合成法が報告されているが、立体選択性の制御が困難


2: 問題点 

置換基を導入するとさらに立体選択性の制御が難しくなる

特に四級不斉炭素を含むBCBsの合成が大きな課題


3: 研究の目的

四級不斉炭素を含む多置換BCBsの立体選択的合成法を確立する

置換基の種類と導入パターンを自在に変えられる汎用的な手法を開発する


方法

1: 研究デザイン 

合成反応の探索と最適化


2: 基質合成

シクロプロペニルカルビノールから出発

銅触媒を用いたカーボメタル化と続くヨウ素化を経て主要中間体を合成


3: 主反応

リチウム-ハロゲン交換によりシクロプロピルリチオ種を発生

求核的環化反応によりBCB骨格を構築  


4: 生成物の構造解析

NMR、X線結晶構造解析などで立体化学を決定


結果

1: 四置換BCBsの合成

3つの連続する四級不斉中心を有するBCBsを立体選択的に合成

立体化学は置換基の組み合わせで自在に制御可能


2: BCBsの多様性 

アルキル基、アリール基、官能基など、様々な置換基を導入可能

ビニル基やケイ素含有置換基も許容される


3: 難易度の高いBCBs

5置換のBCBの立体選択的合成に成功

光学活性なBCBも合成可能


考察

1: 本手法の特長

電子求引基を必要としない

四級不斉炭素の導入が容易

広い置換基の適用範囲


2: 反応機構

カルボメタル化の立体選択性が生成物の立体化学を支配

環化の位置選択性と立体選択性について考察


3: 先行研究との比較

EWG不要な点で本手法が優れている

他の手法では四級中心の導入が困難


4: 反応の限界

高度に置換されたBCBsは反応性が低下する可能性

一部の置換基パターンでは選択性が低下する可能性


結論

四級不斉中心を含む多置換BCBsの立体選択的合成法を開発

広い構造多様性を有する高歪みBCBsが調製可能に


将来の展望

BCBsの化学と生物活性の研究が加速される見込み  

本手法を活用した複雑な構造構築の開拓が期待される

2024年5月23日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0036~

論文のタイトル: One-Pot Synthesis of Bis(arylamino)pentiptycenes by TiCl4-DABCO Assisted Reductive Amination of Pentiptycene Quinone(ペンチプチセンキノンの還元的アミノ化によるビス(アリールアミノ)ペンチプチセンのワンポット合成)

著者: Zhe-Jie Zhang, Ying-Feng Hsu, Chia-Chien Kao, Jye-Shane Yang

雑誌: Organic Letters

出版年: 2024


背景

1: ペンチプチセン骨格の重要性

ペンチプチセンは剛直な形状のため、蛍光センサー、分子デバイス、ホスト・ゲスト化合物などの応用が期待されている

ペンチプチセンキノン(1)は置換基導入の出発原料として有用


2: 従来法の課題  

ビス(4-ニトロフェニルアミノ)ペンチプチセン(2g)の合成には8段階を要し、全収率は15%と低い

化合物1から一挙に二重アミノ化したジオキシム体が得られないため、迂回合成が必要


3: 研究の目的

TiCl4-DABCOを用いて1のアニリンとの一段階還元的二重アミノ化を達成

ビス(アリールアミノ)ペンチプチセン(2)の簡便合成法の開発


方法

1: 反応条件の最適化

基質比、Lewis酸(TiCl4など)、塩基(DABCOなど)、溶媒、温度、反応時間を検討


2: 基質の適用範囲の検討  

種々の置換アニリンを用いて反応を行い、生成物2の収率を比較


3: 生成物2の誘導体化

ヘック反応、薗頭反応、鈴木反応によりπ共役系を伸長

SNAr反応により三級アリールアミン(4)への変換


4: 分析手法

1H NMR、13C NMR、IR、HRMS等で生成物の構造解析


結果

1: 最適反応条件

10当量アニリン、6当量TiCl4、6当量DABCO、140℃、2日間

無置換体(2a)の単離収率91%


2: 置換アニリンの適用範囲  

ほとんどの置換アニリンで中〜良収率(18〜90%)で2が得られる

立体障害の大きいアニリンや強い電子供与基を有するアニリンでは収率低下


3: π系の伸長反応

4-ブロモアニリン置換体(2c)をヘック反応、ソノガシラ反応、鈴木反応で誘導体化し、良収率(76〜95%)で対応する誘導体が得られる  

化合物 2cとフルオロニトロベンゼンのSNAr反応により三級アミン4が生成


考察

1: 過剰量のアニリンの必要性

5当量のアニリンでは二重アミノ化が進行せず 

アニリンが求核剤のみならず、ジイミン中間体の還元剤としても作用


2: 電子求引基の効果

CN基やNO2基を有する2f2gでは二段階法に比べ一段階法の収率が低下

電子求引基がジイミン中間体の還元を阻害するため  


3: 還元的二重アミノ化の駆動力

Mills-Nixon効果により、ペンチプチセンジイミンはひずみのため芳香族化を受けやすい

これにより求核付加後の還元が起こりやすくなる  


4: モノオキシムの生成阻害要因  

モノオキシムのベンゼノイド化とニトロソ互変異性体の生成がジオキシム形成を阻害

トリプチセンキノンではこの影響が小さくジオキシムが得られる


5: 限界点

電子供与性の置換基を持つアニリンでは収率が低下

求核性の低下と芳香族化の促進が原因と考えられる


結論

TiCl4-DABCOを用いることで、ペンチプチセンキノンからアニリンとの一段階還元的二量化が可能に

従来8ステップを要したビス(4-ニトロフェニルアミノ)ペンチプチセン(2g)が一段階で調製可能に 

本手法で得られる2は、カップリング反応やSNAr反応によりπ系拡張が可能

ペンチプチセン系の特異な化学反応性が明らかになった


将来の展望

有機エレクトロニクス材料への応用が期待される

2024年5月22日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0035~

論文のタイトル: Drying of Organic Solvents: Quantitative Evaluation of the Efficiency of Several Desiccants

著者: D. Bradley G. Williams and Michelle Lawton 

雑誌: Journal of Organic Chemistry

巻: 75, 24, 8351–8354

出版年: 2010


背景

1: 研究の背景

有機合成では乾燥(脱水)した溶媒が必要

しかし、一般的な乾燥方法の効率は定量的に評価されていない

活性金属や水素化物を使う方法は危険性がある


2: 問題点

文献に掲載されている乾燥方法には矛盾がある  

乾燥剤の効率が十分検証されていない

安全で効率的な乾燥方法の確立が必要


3: 研究の目的

一般的な有機溶媒に対する各種乾燥剤の効率を定量的に評価

安全で実用的な溶媒乾燥方法を提案


方法

1: 研究デザイン

各溶媒に一定量の三重水を添加

様々な乾燥剤で処理後、残留水分量を測定


2: 測定対象 

テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、メタノール、エタノール

乾燥剤: 分子ふるい、アルミナ、シリカゲル、酸化カルシウム、水素化リチウムアルミニウムなど


3: 評価項目

電量カールフィッシャー滴定による残留水分量測定


4: 統計解析

3回繰り返し乾燥、各試料6回測定(n=18)

平均値と標準偏差を算出


結果

1: テトラヒドロフラン

ナトリウム/ベンゾフェノン: 43 ppm残留

3A˚ モレキュラーシーブス(20% m/v): 48時間で6 ppm

中性アルミナ: 単に通すだけで5.9 ppm 


2: トルエン 

ナトリウム/ベンゾフェノン: 31 ppm残留

3A˚ モレキュラーシーブス(10% m/v): 24時間で0.9 ppm

シリカゲル: 単に通すだけで2.1 ppm


3: その他の溶媒

ジクロロメタン: 3A˚ モレキュラーシーブス/シリカゲルで0.1〜1.3 ppm

アセトニトリル: リン酸で5 ppm、3A˚ モレキュラーシーブスで27 ppm  

メタノール/エタノール: 3A˚ モレキュラーシーブス(20% m/v)で10 ppm以下


考察  

1: 主な発見

3A˚ モレキュラーシーブス、中性アルミナ、シリカゲルが優れた乾燥剤

溶媒の種類によって最適な乾燥剤が異なる

反応性金属は不要、危険も伴う


2: 先行研究との比較

Burfieldらの結果と一部一致

溶媒の極性や水分含量によって乾燥効率が変化


3: 基礎乾燥方法の有用性

水酸化カリウムやリン酸は基礎乾燥に有用

3A˚ モレキュラーシーブスによる後処理で超乾燥溶媒が得られる  


4: 安全性の向上

本研究で提案する方法は活性金属を使わず安全

実験室で簡便に行え、溶媒の質を向上できる


5: 限界点

過酸化物の除去は評価していない

一部の溶媒で同位体交換が起こる可能性


結論

各種溶媒に対する様々な乾燥剤の効率を初めて定量的に評価

3A˚ モレキュラーシーブス、中性アルミナ、シリカゲルが有効な乾燥剤であることを実証

提案する安全で実用的な乾燥方法により、高品質の乾燥溶媒を簡便に調製可能

活性金属を使わないため、安全性が飛躍的に向上


将来の展望

溶媒乾燥の最適化に貢献し、合成研究の効率化が期待される

2024年5月21日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0034~

論文のタイトル: Tritiation of aryl thianthrenium salts with a molecular palladium catalyst

著者: Da Zhao, Roland Petzold, Jiyao Yan, Dieter Muri, Tobias Ritter

雑誌: Nature

巻: Vol. 600, 16 December

出版年: 2021


背景

1: 研究の背景

放射性同位体トリチウム(3H)ラベル化は医薬品の体内動態研究に重要

これまでは不均一系触媒を用いた水素化的ハロゲン脱離が主流

反応性と選択性に課題があった


2: 未解決の問題点

従来法では医薬品に存在する官能基が還元されてしまう問題があった

均一系遷移金属触媒は官能基耐性に優れるが、水素活性化が難しい


3: 研究の目的

新規なチアントレニウム塩を前駆体として用いる均一系パラジウム触媒による水素活性化反応を開発

医薬品の3Hラベル化への応用が期待される


方法

1: 研究デザイン

アリールチアントレニウム塩を基質とした均一系パラジウム触媒存在下での3H2による水素化的3Hラベル化反応


2: 反応条件の最適化

置換基や官能基の許容性評価


3: 反応機構の考察

反応速度解析 

速度論的重水素同位体効果の測定


4: 放射性同位体(RI)を用いるトレーサー実験

3Hラベル化収率

位置選択性の評価


結果

1: 反応結果

ビフェニル誘導体のチアントレニウム塩が高収率で目的の3H体を与えた

ハロゲン化アリールやトリフラートでは反応が進行しない


2: 基質一般性 

電子豊富および電子不足のチアントレニウム塩が良好な基質となった

ヘテロ環、アミド、エステル、ニトロ基などの官能基を許容


3: 選択性 

3Hラベル化収率が高く、位置選択性に優れていた

既存の水素同位体交換法と比較して単一生成物が得られた


考察  

1: 水素化

チアントレニウム基はパラジウム(II)への配位が弱く、水素分子との反応が可能に

触媒的に生成するパラジウム水素化種がキー中間体と考えられる


2: 反応機構

速度論的重水素同位体効果から、H2分子の酸化的付加が反応の律速段階である可能性が高い

ハロゲン化物や擬ハロゲン化物では反応しないことから新規な活性化機構が示唆された


3: 本手法の優位性   

均一系触媒の化学選択性の高さにより、不均一系触媒では問題となる官能基の還元が抑えられる

トリフラートのような弱く配位するアニオンによる活性触媒の被毒が観察されたことから、チアントレニウム塩の溶解度調節が重要な因子である可能性が示された  

本反応は空気や水分存在下でも実施可能であり、ラベル化合成に実用的


4: 限界点

一方で一級アミンへの適用が困難な点が今後の課題

小分子医薬品の複雑な構造への適用に制限がある点が本反応の限界


結論

チアントレニウム塩を出発物質とする分子内パラジウム触媒による新規な均一系3Hラベル化反応が開発された

官能基耐性と位置選択性に優れており、医薬品の放射性トレーサー合成に有用


将来の展望

反応機構の解明と条件検討により、さらなる適用範囲の拡大が期待される

2024年5月20日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0033~

論文のタイトル: Sustainable Production of Reduced Phosphorus Compounds: Mechanochemical Hydride Phosphorylation Using Condensed Phosphates as a Route to Phosphite(持続可能な低還元リン化合物の生産: 高縮合リン酸塩を用いる機械化学的ヒドリドリン酸化によるリン酸塩からのリン酸の合成)

著者: Feng Zhai, Tiansi Xin, Michael B. Geeson, Christopher C. Cummins

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2022  


背景

1: 研究の背景

リン酸塩の持続可能な利用の必要性

リン酸塩排出による富栄養化が環境問題

排水処理で回収されるリン酸塩の有効活用が課題


2: リン化合物製造の従来法の問題点  

従来の熱的製造プロセスは白リン(P4)を経由

高温、環境負荷の大きいプロセス


3: 研究の目的

リン酸塩からリン酸(+3価)を直接合成する新規ルートの開発

安全で持続可能な製造プロセスの確立


方法

1: 機械化学的手法の採用

ボールミルによる固体反応

溶媒を使わず、効率的な混合と反応が可能  


2: 出発原料と条件検討

各種高縮合リン酸塩を出発原料に検討

水素化物源および反応条件を最適化


3: 生成物の分析

31P NMRによる生成物の同定と定量

生成機構の解析


4: バイオ由来ポリリン酸塩の利用

パン酵母から単離したポリリン酸塩を原料に適用

前処理条件の最適化


結果

1: 各種リン酸塩からのリン酸生成

リン3量体から58%、ピロリン酸塩から44%の収率

環状リン酸塩から過還元生成物も確認


2: 最適条件下でのリン酸生成  

ピロリン酸塩とKHの組み合わせが最適

ピロリン酸塩からの44%の収率は反応性のリンユニットの88%に相当


3: バイオ由来ポリリン酸塩の利用

未処理ではリン酸収率28%と低い

真空焼成処理で収率が42%に向上


考察

1: リン酸への選択的還元の鍵

直鎖状リン酸塩が良好なリン酸前駆体

環状構造は過還元を招く


2: 過還元の経路 

生成したリン酸がさらに還元されて低原子価リン化合物に

ポリリン酸塩の存在が過還元を促進


3: バイオ由来原料の有用性

ポリリン酸塩は潜在的な原料源

不純物の除去が収率向上に重要


4: 本手法の意義

白リンを経由しない直接的なリン酸製造プロセス 

持続可能で環境調和型のプロセス


5: 課題と展望

スケールアップと連続化に向けた検討が必要

バイオ由来ポリリン酸の利用拡大へ向けた最適化


結論

持続可能なリン資源循環への一里塚

リン酸塩からリン酸への直接変換に成功

安全で環境調和な製造プロセスを実証


将来の展望  

リン資源の有効利用とリン循環の促進が期待される

バイオリン酸塩の利用拡大に向けた更なる研究が必要

2024年5月19日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0032~

論文のタイトル: Deciphering the dichotomy exerted by Zn(II) in the catalytic sp2 C–O bond functionalization of aryl esters at the molecular level

著者: Craig S. Day, Rosie J. Somerville, Ruben Martin

雑誌: Nature Catalysis

出版年: 2021


背景

1: 研究の背景

ニッケル触媒によるC-O結合の活性化と新規C-C結合形成反応

簡便な前駆体から分子の複雑性を迅速に構築できる有用な手法

パラジウムや白金とは異なる単一電子経路が可能

通常の芳香族ハロゲン化物に代えてフェノール由来の基質が利用可能


2: 未解決の問題

ニッケル触媒によるアリールエステルのC-O結合活性化の機構は不明

単座配位子ニッケル錯体の酸化的付加中間体の同定が未解明

添加剤の役割(特にZn(II))が不明確


3: 研究の目的 

アリールエステルのニッケル酸化的付加中間体の同定と反応性評価

単座配位子ニッケル錯体におけるZn(II)の役割を解明

触媒サイクルにおける非生産的経路の特定


方法

1: 実験手法

ニッケル(0)錯体とアリールエステルの反応によるモノ核酸化的付加錯体の合成

X線結晶構造解析による酸化的付加中間体の同定  

種々の分光学的手法(NMR等)を用いた反応性評価


2: 触媒と基質  

モノデンテートリシクロヘキシルホスフィン配位子を有するニッケル錯体

非πひずみアリールエステル基質


3: 主要評価項目

酸化的付加中間体の同定と構造決定

中間体の反応性(転位反応、脱離反応等)

Zn(II)存在下での反応経路の変化


4: 評価法

NMRスペクトル

X線結晶構造解析データの詳細な解析

反応条件と生成物分布から反応経路の推定


結果

1: κ1-O結合モード酸化的付加錯体の単離と構造決定


2: κ2-O結合モード酸化的付加錯体の単離と同定  


3: Ni(I)カルボキシラート錯体の単離と分解経路の解明


考察

1: モノデンテート配位子下でのκ2-O結合モード酸化的付加中間体の同定

従来のκ1-O結合モードとは異なる配位形態  

より反応性が高いと予想される


2: Zn(II)の二面的役割

生産的な金属交換反応が進行する一方で

配位子の脱離、ニッケル-亜鉛クラスターの生成による非生産的経路も併存


3: 先行研究との比較

単座配位子系での酸化的付加中間体の同定は初例  

ニッケル-亜鉛クラスターの単離と構造決定に成功


4: 研究の限界

モデル反応を用いた基礎研究

実際の触媒反応条件下での挙動は不明確


5: 溶媒効果の解明  

配位溶媒の添加によりZn(II)との非生産的経路が抑制されることを発見

触媒活性の向上が期待される


結論

ニッケル触媒によるアリールエステルのC-O結合活性化反応の機構解明に成功

モノデンテート配位子下での酸化的付加中間体の同定に世界で初めて成功

Zn(II)が生産的・非生産的の両経路を制御する二面的役割を明らかに

配位溶媒の添加が非生産的経路を抑制し、触媒活性向上が期待される


将来の展望

これらの知見は、より効率的な新規C-C結合形成反応の開発に貢献する

2024年5月18日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0031~

論文のタイトル: Comparative study of TDDFT and TDDFT-based STEOM-DLPNO-CCSD calculations for predicting the excited-state properties of MR-TADF 

著者: Sunwoo Kang、Taekyung Kim 

出版: HELIYON

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景

多重共鳴性熱活性化遅延蛍光(MR-TADF)材料は有望な次世代発光材料

短距離分子内電荷移動と二重励起特性を併せ持つ

高い外部量子効率、狭い発光スペクトルなどの特長がある


2: 未解決の問題点

実験的・理論的にMR-TADF材料の設計や励起状態の解明が進められている

計算による励起状態の正確な記述は課題であった

従来の密度汎関数理論(DFT)では不十分

MR-TADF材料の励起状態には電子相関効果が重要


3: 研究の目的

本研究の目的は励起状態特性の定量的予測に適した理論手法を見出すこと

密度汎関数理論(TDDFT)と相関効果を取り入れたSTEOM-DLPNO-CCSD法を比較

MR-TADF材料の設計と励起状態の正確な理解に貢献


方法

1: 研究デザイン

10種のMR-TADF分子を対象に以下の計算を実施

最低一重項励起状態(S1)、最低三重項励起状態(T1)、S1-T1エネルギー差(ΔEst)を計算


2: 計算手法

TDDFT計算:

- 汎関数: B3LYP、M06、LC-ωHPBE 

- 基底関数: 6-311G**

TDDFT計算で最適化した構造を用いて以下の計算を実施 

STEOM-DLPNO-CCSD計算: 

- 基底関数: def2-TZVP 


3: 評価指標

実験値と比較し、各手法の定量的予測能力を評価

S1、T1、ΔEstそれぞれの二乗平均平方根誤差(RMSE)を算出

最も実験値に近い手法を同定する


結果

1: TDDFTの結果

TDDFTのみではS1、T1、ΔEstの定量的予測は困難

- B3LYP、M06、LC-ωHPBEいずれの汎関数も大きな誤差


1: TDDFT/STEOM-DLPNO-CCSDの結果

TDDFT/STEOM-DLPNO-CCSDではS1、T1、ΔEstの定量的予測が可能

- TD-LC-ωHPBE/STEOM-DLPNO-CCSDが最も精度が高い


3: RMSE値

TD-LC-ωHPBE/STEOM-DLPNO-CCSD計算のRMSE

  - S1: 0.097 eV、T1: 0.084 eV、ΔEst: 0.058 eV

TD-B3LYP/STEOM-DLPNO-CCSD

    - S1: 0.149 eV、T1: 0.106 eV、ΔEst: 0.089 eV

TD-M06/STEOM-DLPNO-CCSD 

    - S1: 0.157 eV、T1: 0.116 eV、ΔEst: 0.145 eV  


考察

1: 相関効果の重要性

MR-TADF材料の励起状態には電子相関効果が重要

TDDFT単体では十分な記述ができない

STEOM-DLPNO-CCSD法によって相関効果を取り入れることで定量的予測が可能


2: 長距離補正の効果

長距離補正を含むTD-LC-ωHPBEがTDDFTとして最適

短距離の交換相互作用と長距離の動的相関効果のバランスが重要

スピン反転励起をよく記述できる


3: M06汎関数の課題

一部の分子でTD-M06/STEOM-DLPNO-CCSDが異常値を示す

M06汎関数の局所密度の取り扱いが影響している可能性がある  

原因解明にはさらなる検討が必要


4: TDDFT/STEOMの有用性

TD-M06/STEOM-DLPNO-CCSDの問題はあるもののTDDFT/STEOM法の有用性は明らか

手法の特性を考慮すれば高精度な励起状態予測が可能


結論

MR-TADF材料の励起状態特性の定量的予測にはTDDFT/STEOM-DLPNO-CCSD法が有効

特にTD-LC-ωHPBE/STEOM-DLPNO-CCSDが最も高い予測精度

本研究で確立した手法はMR-TADF材料の理解と新規設計に大きく貢献する


将来の展望

将来的にはM06汎関数の問題点の解明と改良、さらなる高精度化が期待される

2024年5月17日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0030~

論文のタイトル: Humilisin E: Strategy for the Synthesis and Access to the Functionalized Bicyclic Core

著者: Prachi Verma, Rajanish R. Pallerla, Aino Rolig, Petri M. Pihko

雑誌: The Journal of Organic Chemistry

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

天然物は複雑な構造と様々な生物活性を有する

医薬品や機能性材料の開発につながる

効率的な合成経路の開発が重要な課題


2: Humilisin E の構造的特徴  

南シナ海産軟らん紅珊瑚から単離された新規ジテルペノイド

環状構造が特徴的 (シクロブタン-シクロペンタン-シクロノネン)

環状エポキシドや水酸基など多数の官能基を含む


3: 研究の目的

Humilisin E の重要な前駆体と考えられる化合物の立体選択的合成

環状化合物の効率的な構築手法の確立

天然物全合成への足掛かり


方法

1: 研究デザイン

有機合成による化合物の合成と構造決定

2つの異なる合成経路を検討

1) Stork のエポキシニトリル環化反応

2) Wolff 転位を鍵反応とする経路  


2: 構造解析

各中間体の立体構造は1H NMR、NOE、X線結晶構造解析で決定

生成物の構造を参照化合物のデータと比較


3: 理論計算

密度汎関数理論(DFT)による構造最適化と反応解析


結果

1: 合成経路1

Stork 法により環状エポキシドを経て目的の二環式骨格を合成

立体選択性と収率の課題が残された  


2: 合成経路2

Wolff 転位を用いる新規合成経路の確立に成功

高い立体選択性と良好な収率で目的の二環式骨格を構築


3: 構造解析結果

生成物の構造を精査し、Humilisin E との構造的類似性を確認

九員環構築への指針を得た


考察  

1: 主要な知見

2つの合成経路の長所と短所を比較検討

環化前駆体の設計が重要であることが分かった


2: 先行研究との比較

Stork 法では立体選択性制御が課題

Wolff 転位は高度な立体選択性が得られる有力な手段  


3: 理論との比較

計算化学的解析によりさらなる反応設計への指針が得られた

合成研究と計算化学の相乗効果が期待できる


4: 今後の課題

今後の全合成研究の方向性を議論

類似天然物合成への展開の可能性  


5: 限界点

合成ステップ数の削減や大量合成への適用など課題が残る


結論

本研究では、Humilisin Eの重要な部分構造を立体選択的に合成する2つの経路を確立した

Wolff転位は高い立体選択性と収率で目的の二環式骨格を与えた

得られた知見はHumilisin E全合成や類似天然物の合成研究に役立つ


将来の展望

今後は効率化と大量合成法の開発が必要である

2024年5月16日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0029~

論文のタイトル: High-Pressure Promoted Nazarov-like Electrocyclization Enables Access to trans-4,5-Diamino-cyclopent-2-enones Bearing Electron-Poor Anilines

著者: Lídia A. S. Cavaca, Tiago M. P. Santos, Joao M. J. M. Ravasco, Rafael F. A. Gomes, Carlos A. M. Afonso

雑誌: The Journal of Organic Chemistry

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

trans-4,5-ジアミノシクロペンテノン(DCP)は生理活性天然物の合成に重要な中間体

ルイス酸触媒を用いたフルフラールとアミンの縮合反応で合成可能

従来法では電子豊富なアニリンしか使えず、電子不足なアニリンとの反応は困難


2: 未解決の問題点

電子吸引性置換基を持つアニリンからのDCP合成が極めて困難


3: 研究の目的

高圧条件下での反応を検討し、電子吸引性アニリンからのDCP合成を実現


方法

1: 研究デザイン

密閉系での高圧反応を実施

密閉容器内でフルフラール、アミン、Sc(OTf)3触媒を混合

900 MPa、室温で8時間反応


2: 反応条件最適化

モデル基質を用いたスクリーニング実施 

圧力、触媒、溶媒、反応時間などを最適化

DFT計算で遷移状態の活性化体積を確認


結果

1: 代表的な基質例

種々の電子吸引性アニリンから高収率でDCPが得られた

NO2、CF3、Cl置換体など幅広い基質に対応

200 MPaの低圧でも反応は進行


2: 生理活性化合物の合成

ATP感受性カリウムチャネル作動薬の前駆体である6-ニトロ置換DCP

高圧条件で65%の収率で合成可能(従来法5%のみ)  

工程短縮と原料使用量の削減が可能に


考察

1: 高圧条件の効果

遷移状態での負の活性化体積により高圧で反応が促進される

特に律速の電子環状反応で顕著な効果あり  

一般に低温・低圧が望ましいが、本反応は室温・高圧が有利


2: 反応機構と特徴

従来法と同様のStenhouse塩の生成を経由  

高圧条件下で電子環状反応が加速される

様々な求核剤との組み合わせが可能


3: 既存研究との比較 

従来の方法より幅広い基質適用が可能

収率の大幅な向上が認められた

環境に優しい工程であり、実用化が期待される  


4: 限界点

高圧反応装置の入手が容易でない

量産化に向けたスケールアップ研究が必要

他の環状反応への応用研究が今後の課題


結論

高圧条件下での電子環状反応により電子吸引性アニリンからのDCP合成が可能に

工程の簡略化と原料使用量の削減が期待される

本手法は電子環状反応の新しい活用法として興味深い


将来の展望

多様な誘導体合成への応用で医薬品開発への貢献が期待される

2024年5月15日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0028~

論文のタイトル: Pentamethylphenyl (Ph*) ketones: Unique building blocks for organic synthesis

著者: Roly J. Armstrong, Timothy J. Donohoe

雑誌: Tetrahedron Letters

巻: 74, 153151

出版年: 2021


背景

1: 研究の背景

既存の芳香族ケトンは平面構造を好む

ペンタメチルフェニル(Ph*)ケトンは特異な反応性を示す

カルボニル基と芳香環が90度ねじれた構造

求核剤の1,2-付加を抑制

エノラート形成が可能


2: 未解決の問題点

Ph*ケトンの特性を利用した新規な化学反応の可能性

    - 水素借用型アルキル化反応

    - 環化反応

    - 不斉アルドール反応など

有機合成ビルディングブロックとしての可能性は未開拓


3: 研究の目的

Ph*ケトンの独自の反応性を活かした新規変換反応の開発

様々な有用官能基への変換法の確立

有機合成におけるPh*ケトンの応用範囲拡大


方法

1: Ph*ケトンの合成

ペンタメチルベンゼンと酸塩化物のフリーデル・クラフツ反応  

エーテル塩基存在下のエノラート形成と求電子剤との反応


2: 反応例  

水素借用的アルキル化反応

    - 遷移金属触媒とアルコールを用いたワンポット反応

    - 1級、2級アルコールの両方が可能


アヌレーション反応 

    - 1,5-ジオールとの環化反応


結果

1: 水素借用的アルキル化

α-分岐ケトン生成物を定量的収率で合成可能

    - ベンジル性/非ベンジル性の1級アルコール

    - エーテル、アミン基含有基質に対応


β-分岐生成物の不斉合成も達成

    - キラル配位子で高いエナンチオ選択性


2: アヌレーション反応  

ジオールとの環化で多様な環状ケトンを合成

    - 5員環、6員環、7員環環状体  

    - 高い立体選択性


不斉触媒的変換で高いエナンチオ選択性

    - キラル環化生成物の一段階構築


考察

1: Ph*基の立体反発によるユニークな反応性

カルボニル基の1,2-付加を抑制

エノラート形成を許容  


2: 環境調和型プロセス

水素借用型アルキル化は水のみを副生成物とする


3: 芳香環の嵩高さが選択性に影響  

ジアステレオ選択性向上

エナンチオ選択性向上


4: 結晶性の向上による利点

単結晶X線解析が可能

再結晶による光学純度向上  


5: 限界点

γ-アミノPh*ケトン類でラセミ化が問題になり、窒素へのトリチル保護基の導入が必要

Ph*基の導入が困難な基質では新規導入法の開発が必要


結論

Ph*ケトンの特異な構造と反応性が有機合成に有用

    - 新規変換反応の開発が可能

    - 高選択的な環化や不斉合成  

官能基変換法の確立で合成等価体としての価値向上


将来の展望

今後のさらなる活用と方法論拡張が期待される

2024年5月14日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0027~

論文のタイトル: Molecular Dynamics Investigations of Dienolate [4 + 2] Reactions

著者: Peng-Jui Chen, Alexander Q. Cusumano, Kaylin N. Flesch, Christian Santiago Strong, William A. Goddard, III, Brian M. Stoltz

雑誌: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景 

[4+2]環化付加反応は有機合成で広く利用されている手法

2つの新しいC-C結合と最大4つの立体中心を同時に構築できる

非極性または対称的に極性化した基質では立体特異的な経路が知られている

しかし、極性化した基質では中間体を経由する立体選択的な経路が提案されている


2: 研究の目的

極性化したジエノレートの[4+2]環化付加反応の機構を解明する

シロキシジエン、リチウムジエノレート、パラジウムエノレートの3種を比較

結合形成過程の同期性と中間体の寿命を分子動力学シミュレーションで解析


3: 期待される成果  

[4+2]環化付加反応の機構に関する新たな知見を得る

反応の同期性と立体化学的結果の由来を明らかにする  

基質の選択が反応機構に与える影響を評価する


方法

1: 計算手法

密度汎関数理論による基質と遷移状態の構造計算

遷移状態からの分子動力学シミュレーション 

結合形成の時間差(Δt)を中心とした解析


2: 基質と反応条件

シロキシジエン: 溶媒=トルエン、383 K

リチウムジエノレート: 溶媒=ヘキサン/エーテル混合物、195 K  

パラジウムエノレート: 溶媒=DMSO、333 K


3: 解析方法 

分子動力学シミュレーションから100本の軌道を抽出

生成物と出発物質への分岐を追跡

2つのC-C結合形成時間の差(Δt)を計算

Δt ≤ 60 fsを動力学的に同時、Δt > 60 fsを動力学的に段階的と定義


結果

1: シロキシジエンの結果

平均Δt = 26.5 fs 

97%の軌道が生産的

高い同期性、動力学的に同時的


2: リチウムジエノレートの結果  

分子内反応: 平均Δt = 251.0 fs、100%が動力学的に段階的

分子間反応: 平均Δt = 154.5 fs、95%が動力学的に段階的

長寿命の電荷分離中間体が観測された


3: パラジウムエノレートの結果

平均Δt = 172.9 fs

90%が動力学的に段階的 

シロキシジエンよりも非同期的だが、リチウムジエノレートよりは同期的


考察  

1: 主な発見とその意味

基質の極性化の程度に応じて、反応の同期性が変化する

高い非同期性では長寿命の電荷分離中間体が生じる

しかし、中間体の寿命が結合回転より短ければ立体化学は保持される


2: 先行研究との比較

Houkらの研究と同様に、高い非同期性が動力学的段階性をもたらす

リチウムジエノレートでは実験的に単一のマイケル付加体が単離されている例がある

シロキシジエンは同期的であるとされてきた


3: 基質選択の重要性

基質の選択が反応機構と生成物の立体化学制御に大きな影響を与える

適切な基質設計が全合成等での応用に重要である


4: 限界点

溶媒効果や求核剤・求電子剤の影響は考慮されていない

より複雑な基質系への外挿には注意が必要

実験的検証による裏付けが不可欠


結論

極性化したジエノレートの[4+2]環化付加反応の機構が明らかになった

反応の同期性と中間体寿命が生成物の立体化学を決定する鍵因子であることがわかった  


今後の展望

実験的検証と理論計算の融合により、さらに詳細な機構解明が期待される

効率的な立体選択的合成の開発

2024年5月13日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0026~

 論文のタイトル: Parametric Analysis of Donor Activation for Glycosylation Reactions

著者: Mei-Huei Lin, Yan-Ting Kuo, José Danglad-Flores, Eric T. Sletten, Peter H. Seeberger

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024


背景

1: 糖鎖合成の課題

糖鎖合成は複雑で再現性に乏しい

糖供与体の活性化温度が重要な因子

適切な温度制御が反応収率と副反応抑制に不可欠


2: 研究の目的  

糖供与体の活性化温度(TA)と分解温度(TD)の決定

構造効果と反応条件がTAおよびTDに与える影響を評価


3: 期待される成果

糖供与体ごとの最適活性化温度の決定

糖鎖合成反応の再現性と効率の向上


方法

1: 研究デザイン

半自動化システムによる温度分析アッセイ


2: 実験手順  

糖供与体溶液を目的温度に冷却

活性化剤溶液を添加し一定時間反応

反応停止剤を加えて反応を停止

1H NMRにより未反応の糖供与体の有無を確認


3: 評価項目  

活性化温度(TA): 糖供与体が未変化の最高温度

分解温度(TD): 糖供与体が消失する最低温度  


4: 解析手法

糖供与体の構造と反応条件の変化がTAおよびTDに与える影響を分析


結果

1: 反応条件の影響

活性化剤濃度が高いと副反応が増加

残留水分が多いと分解が促進される


2: 糖供与体の構造効果1  

エステル型保護基は活性化に高温を要する

アミド基を持つ場合は比較的低温で活性化


3: 糖供与体の構造効果2

Fmoc基の位置と糖の種類によりTA、TDが変化

一般にマンノース(Man)>グルコース(Glc)>N-トリクロロアセチルグルコサミン(GlcNTCA)>ガラクトース(Gal)の順にTAが高い


考察  

1: 主な発見

反応条件を最適化することで、望ましい活性化温度が得られる

特に活性化剤濃度と残留水分量が重要

糖供与体の構造が活性化温度に大きな影響を及ぼす

保護基の種類と位置、糖の立体配置が関与


2: 先行研究との比較

電子的・立体的効果による反応性の変化は先行研究と一致

新規に糖供与体ごとの最適活性化温度が明らかに


3: 限界点

求核体の影響は検討されていない

多段階の糖鎖合成に関する評価は行われていない  


結論

各糖供与体の最適活性化温度を決定することで、副反応を抑制し収率を向上できる

反応条件と構造効果に関する知見は、高効率な自動糖鎖合成に役立つ  

機械学習等を組み合わせることで、試行錯誤を最小限に抑えた反応設計が可能に


今後の展望

複雑な糖鎖合成における知見の適用と、求核体の影響評価が課題

2024年5月12日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0025~

論文のタイトル: The Role of Aryne Distortions, Steric Effects, and Charges in Regioselectivities of Aryne Reactions

著者: Jose M. Medina, Joel L. Mackey, Neil K. Garg, K. N. Houk

雑誌: Journal of the American Chemical Society

巻: 136, 15798-15805

出版年: 2014


背景

1: 研究の背景

アライン反応は複雑な分子を合成する有用な手法

しかし、置換基の影響でアライン反応の選択性が変わる

選択性を説明する従来の3つのモデル

    - 電荷制御モデル

    - 立体障害モデル 

    - アライン歪みモデル


2: 未解決の問題点  

アライン反応の選択性に影響する主要な要因は不明

3つのモデルのうち、どれが最も重要か分かっていない


3: 研究の目的

3-ハロベンザインの反応性と選択性を実験と計算で体系的に調査

アライン反応の選択性を支配する主要な要因を特定する


方法

1: 実験デザイン

様々な3-ハロベンザイン前駆体を合成

求核剤として N-メチルアニリンやベンジルアジドを使用

補足反応により生成物の比を測定


2: 計算手法

密度汎関数理論(DFT)を用いた遷移状態探索

反応経路の自由エネルギー変化を計算  

異性体比の理論予測と実験値を比較


結果

1: N-メチルアニリンを用いた実験結果

F、OMe置換体は高い選択性 

Cl置換体は中程度の選択性

Br、I置換体は低い選択性


2: ベンジルアジドを用いた実験結果  

OMe、F置換体は高い選択性

選択性はCl > Br > I の順に低下


3: 計算結果の概要

実験結果と計算結果は良く一致

置換基による歪みが大きいほど高い選択性

電荷や立体効果による影響は小さい  


考察  

1: アライン歪みが選択性を支配

置換基による歪みが遷移状態の安定性に影響  

歪みが大きいと特定の付加体が有利になる


2: 電荷効果は無視できる

ベンザイン環上の電荷は小さく、選択性に影響しない

簡単なCoulomb相互作用モデルでも説明できない


3: 立体効果の影響は小さい

原子半径の違いによる立体効果は予測と一致しない

置換基の大きさと選択性に相関がない  


4: 限界点

塩基性の高い求核剤では異なる挙動が予想される

他の置換基効果(π効果など)は検討していない


結論

3-ハロベンザイン反応の選択性はアライン歪みが主な決定因子

アライン歪みモデルはアライン反応の解析に有用


今後の展望

複雑な生理活性分子の合成へのアライン活用が期待される

2024年5月11日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0024~

論文のタイトル: Significant Enhancement of Absorption and Luminescence Dissymmetry Factors in the Far-Red Region: A Zinc(II) Homoleptic Helicate Formed by a Pair of Achiral Dipyrromethene Ligands

著者: Hiroaki Ito, Hayato Sakai, Yoshinori Okayasu, Junpei Yuasa, Tadashi Mori, Taku Hasobe

雑誌: Chemistry - A European Journal 

巻: 24号頁1-7

出版年: 2018


背景

1:  研究の背景

キラル分子の円二色性(CD)と円偏光発光(CPL)特性が注目されている

しかしレアアース金属や貴金属フリーの小分子ではこれらの値が小さい


2: 未解決の問題

ヘリセンなどの既存のキラル分子は吸収・発光波長が可視域に限られる

遠赤外領域での高い異方性因子を示す分子は希少


3: 研究の目的

アキラルなベンゾ[a]フェナントレン-ジピロメテン配位子を用いた新規キラル亜鉛(II)ヘリケートの開発

遠赤外領域での高い吸収・発光異方性因子の実現


方法

1: 合成と単結晶構造解析

ベンゾ[a]フェナントレン-ジピロメテン配位子の合成

亜鉛(II)イオンとの配位により新規キラルヘリケートを合成

単結晶X線構造解析によるヘリカル構造の確認  


2: 分光学的測定

UV-Vis吸収、円二色性(CD)、蛍光、円偏光発光(CPL)の測定

吸収と発光の異方性因子(gabs、glum)の算出


3: 理論計算 

時間依存密度汎関数理論(TD-DFT)による電子遷移の解析

電気および磁気遷移双極子モーメントの導出

大きな異方性因子の起源の理論的考察


結果

1: 吸収およびCD特性

ヘリケートは522nmの吸収極大に加え、548、615nmにエキシトン結合由来の吸収ピークを示す

CDスペクトルで500-650nm領域に大きなコットン効果(|gabs| = 0.20@615nm)


2: 発光およびCPL特性  

ヘリケートは700-850nmの遠赤外領域で強い発光を示す(ΦFL = 0.23)

CPLスペクトルでは660nmに強い正負の発光が観測される(|glum| = 0.022)


3: 理論計算結果 

励起状態では配位子間の重なりが増大し、励起子構造が形成される

電気および磁気双極子モーメント間の小さい角度が大きな異方性因子の要因


考察  

1: 吸収異方性の向上

配位子の二量化とエキシトン結合が大きなコットン効果をもたらす

アキラルな配位子のヘリカル配列が重要である


2: 発光異方性の向上 

遠赤外発光は配位子の拡張π共役系に由来

発光のエキシトン結合が遠赤外CPLの起源


3: 既存研究との比較

本研究のglumは貴金属錯体に匹敵する高い値

レアアース金属・貴金属フリーの分子としては最大級


4: 限界点

キラル安定性が低く、溶液中で徐々にラセミ化する

合成効率が低く、収率の改善が必要


結論

キラル亜鉛ヘリケートにおいて世界最高レベルの吸収・発光異方性因子を実現

アキラル配位子の適切な配列がその鍵となる新規設計指針を提案


今後の展望

さらなる長波長化と高効率発光が今後の課題

今後の改良により生物・化学センサーなどへの応用が期待される

2024年5月10日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0023~

論文のタイトル: New Solids Based on B12N12 Fullerenes

著者: J. M. Matxain, L. A. Eriksson, J. M. Mercero, X. Lopez, M. Piris, J. M. Ugalde, J. Poater, E. Matito, M. Solà

雑誌: Journal of Physical Chemistry C

巻: 第111巻, 第36号

出版年: 2007年


背景

1: 研究の背景

フラーレン発見後、同様の構造をもつBN化合物への関心が高まった

理論計算により安定なBN fullereneクラスターが予測された

実験的にもBN fullereneの合成が報告されている


2: 研究の目的 

B12N12 fullereneを基にした新規固体の理論的探索

B12N12一分子を単位とする固体構造の特性解明


3: 期待される成果

B12N12 fullereneを基にした新規ナノ多孔性固体の発見

この固体の電子構造、エネルギー的安定性、物性の予測


方法

1: 計算手法

密度汎関数理論 (DFT) を用いた第一原理計算

B12N12 fullerene二量体の構造と相互作用エネルギーを計算


2: 計算レベル

B3LYP、MPW1PW91の交換相関汎関数を使用  

原子軌道基底関数、有効内核疑ポテンシャルを適用


3: 固体状態計算

SIESTAコードを用いた周期的境界条件下での最適化計算

PBE汎関数、ノルム保存擬ポテンシャル使用


4: 解析手法  

構造最適化、結合エネルギー、電子構造、IR スペクトルを解析


結果

1: 二量体の安定構造

正方形同士が向かい合う構造 (S-S) が最安定

共有結合性二量体 (Cov) と van der Waals 性二量体 (VW) が存在


2: 二量体の相互作用エネルギー

CovS-S が最も安定 (B3LYP: -1.50 eV, MPW1PW91: -2.07 eV)  

VWS-S と VWH-H はそれより不安定

共有結合性二量体と分子間力で結合した二量体が共存 


3: 固体構造 

Cov 固体はナノ多孔質構造を形成、VW 固体は密な構造

Cov 固体の方が 12 eV 程度安定

共有結合性多孔質固体が最も安定


考察  

1: 二量体の安定性

N原子の非共有電子対とB原子の空軌道との相互作用が重要

正方形面どうしの方が六員環面よりも立体反発が小さい


2: 共有結合性二量体の形成

B-N結合距離の伸長により、モノマー構造を維持しつつ共有結合可能  

先行研究との一致: Batsanovらの実験により観測されたE-BN相の発見


3: ナノ多孔質固体の特徴  

表面積が大きく、分子吸着や触媒への応用が期待される

フラーレン固体と同様の構造を有する可能性


4: 固体の電子構造

Cov固体、VW固体ともに絶縁体的性質を示す

モノマーに比べバンドギャップは小さくなる  


5: 限界点

実験的合成の指針は得られていない

より大きな系への展開が必要


結論

B12N12 fullereneから新しいナノ多孔質固体が理論的に提案された

BNナノ構造体の合理設計につながる重要な知見が得られた


今後の展望

エネルギー的に安定で、分子吸着や触媒への応用が期待される

実験的検証と、さらなる大規模系への展開が今後の課題

2024年5月9日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0022~

論文のタイトル: A Homogeneous Method for the Conveniently Scalable Palladium- and Nickel-Catalyzed Cyanation of Aryl Halides

著者: Finn Burg, Julian Egger, Johannes Deutsch, and Nicolas Guimond

雑誌: Organic Process Research & Development

巻: 20, 1540-1545

出版年: 2016年


背景

1: 研究の背景

ベンゾニトリルは化学工業で広く使われる重要な中間体

アリールハロゲン化物からの触媒的ベンゾニトリル合成が主流になりつつある


2: 従来法の問題点

従来法では不均一系や2相系の反応が多く、再現性とスケールアップの課題があった

既存の均一系法では、条件の最適化や配位子設計が十分でなかった  


3: 研究の目的 

広範なアリールクロリドおよびブロミドに適用できる均一系条件を開発

反応を容易にスケールアップ可能にすること


方法

1: 研究デザイン

モデル基質を用いた種々の条件検討

最適条件の同定と反応スコープの探索


2: 反応条件

触媒: [Pd(cinnamyl)Cl]2、(TMEDA)NiCl(o-tolyl)

配位子: XPhos、dppf、t-BuXPhosなど  

溶媒: i-PrOH、n-BuOH

塩基: DIPEA


3: 評価項目  

反応時間、温度、収率への影響を評価

各種置換基の影響を検討

ヘテロ環式化合物の適用性を調査


4: 実験手順

小スケール条件を確立後、400gスケールでの実験を実施

反応条件のモニタリング(pH測定など)

単離、精製方法の最適化


結果

1: ハロゲン化アリールの反応性

電子求引性、電子供与性置換基に対して高い反応性

立体障害が大きい基質にも適用可能

アルコール、アミン、カルボン酸の官能基が許容される


2: ヘテロ環化合物への適用  

ピリジン、キノリン、インドール、チオフェンなどが良好な収率で変換された

Ni触媒でも単純なベンゾニトリル合成に有効


3: 大規模反応結果

400gスケールで97%収率で目的物を単離

反応液からの析出結晶化が可能で、高純度品が得られた


考察  

1: 均一系の利点

不均一粒子の影響が排除され、再現性が向上  

スケールアップが容易になり、基質溶解性の影響が軽減


2: 反応機構

アセトンシアノヒドリンを触媒回転率よりも遅い速度で反応混合物にゆっくりと加えることが重要

pHモニタリングから反応初期の添加速度制御が鍵


3: 既存研究との比較  

Beller法に比べ、より汎用的で高収率

溶媒選択で単離工程が簡便化された 

還元剤を使用した Ni(0) の事前生成の必要がない

配位子のスクリーニングが簡単に実行可能

低コスト


4: 適用範囲

広範なアリール基質に有効


5: 限界点と将来の展望

一部の塩化アリールや電子豊富なアリール化合物では低収率

配位子および反応条件のさらなる最適化が望まれる


結論

ハロゲン化アリールのベンゾニトリルへの変換に対して、広範囲に適用可能な均一系パラジウムおよびニッケル触媒系を開発

均一系反応では再現性が向上し、スケールアップが容易になった

アルコール溶媒の使用により単離工程が簡略化された


今後の展望

さらなる条件検討による適用範囲の拡大

医薬品や材料製造分野などのベンゾニトリルの需要が高い産業におけるプロセス設計

2024年5月8日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0021~

論文のタイトル: Stereoinversion of tertiary alcohols to tertiary-alkyl isonitriles and amines (第三級アルコールのイソニトリルおよびアミンへの立体反転)

著者: Sergey V. Pronin, Christopher A. Reiher, Ryan A. Shenvi

雑誌: Nature

巻: 501, 195–199

出版年: 2013年


背景

1: 研究の背景

天然に存在する窒素含有マリンテルペノイドは、不安定なカルボカチオンを経由し、無機シアン化物から生合成される

これらの化合物の合成は困難で、立体化学の制御が課題だった


2: 従来法の課題

第三級アルコールは従来のSN2反応が進行しにくく、立体反転を伴う変換が限られていた

新しい立体選択的な第三級アルコールの活性化法が必要とされていた  


3: 研究の目的

ルイス酸を用いた第三級アルコールの立体反転的イソニトリル化反応を開発

マリンテルペノイドなどの複雑な窒素含有天然物の効率的合成


方法

1: 研究デザイン

第三級アルコールをトリフルオロ酢酸エステルに変換 

スカンジウム(III)トリフラートとTMSCNの存在下で反応


2: 評価手法

生成物の構造と立体化学をNMR、X線結晶構造解析で決定

各種誘導体への変換を検討


結果

1: 反応結果

第三級トリフルオロ酢酸エステルが高い立体選択性でイソニトリルに変換された

第一級および第二級アルコールは反応しない高い化学選択性を示した  


2: 基質による差 

直鎖アルコールでは脱離基に長鎖ペルフルオロカルボン酸を用いた際に高い立体反転選択性が得られた

環状アルコールの場合は立体構造的に柔軟性に依存した選択性の違いがあった


3: 反応の応用性

得られたイソニトリルはアミン、アミド、イソチオシアナートなどに誘導化可能

マリンテルペノイドの合成に有用であることが示された


考察  

1: 主要な知見

本反応は第三級アルコールの新規な立体反転変換法である

これまで困難だったマリンテルペノイドなどの合成が可能になった


2: 反応機構

カチオン中間体とTMSCNの攻撃過程が提唱されているが詳細は不明

基質の構造と反応条件が立体選択性に影響を与えていると考えられる


3: 発見の意義

第三級アルコールの新たな活性化法を提供した点にある

カルボカチオン化学の進展と新たな合成変換の開拓


4: 限界点

適用範囲が制限されていることが課題

条件の一般性が高くない  


結論

第三級アルコールのイソニトリル化による立体反転的変換法を開発した

マリンテルペノイド合成などの複雑な分子構築に有用である

カルボカチオン化学の新たな可能性を拓いた発見である


今後の展望

より一般性の高い反応条件の検討などが今後の課題となる

2024年5月6日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0020~

論文のタイトル: One-Step Continuous Flow Synthesis of Antifungal WHO Essential Medicine Flucytosine Using Fluorine

著者: Antal Harsanyi, Annelyse Conte, Laurent Pichon, Alain Rabion, Sandrine Grenier, and Graham Sandford

雑誌: Organic Process Research & Development

出版年: 2017, 21, 273-276


背景 

1: 研究背景

クリプトコッカス髄膜炎は、HIV/エイズ患者に多く見られる真菌感染症

年間62万5000人が死亡しており、サハラ以南のアフリカで髄膜炎の主要原因

世界保健機関(WHO)は、この感染症の第一選択治療薬としてアムホテリシンBとフルシトシンの併用を推奨


2: 従来の問題点

フルシトシンはアフリカのどの国でも使用登録されていない

製造コストが高く、ジェネリック医薬品メーカーが少ない  

低所得国での入手が困難な状況


3: 研究の目的   

フルシトシンの低コスト・簡便な製造方法を開発

安価な原料とフッ素ガスを用いた1ステップ連続フロー合成法の確立

WHOのフルシトシン供給要求に応える低コスト製造プロセス


方法  

1: 研究デザイン

化学反応の最適化と製造プロセスの確立


2: 原料と試薬

原料: シトシン

試薬: フッ素ガス、ギ酸  


3: 連続フロー反応装置

ステンレス鋼製チューブ反応器 (1.4 mm ID x 1 m)

ケイ素炭化物製パイロットスケールフロー反応器 (16 m 長、61 mL 容量)


4: 分析

生成物の同定: NMR、MS など

純度分析: HPLC


結果

1: バッチ法との比較

バッチ法では不純物が多く生じ、収率が38%  

連続フロー法で選択性が向上し、収率が63%に改善


2: ラボスケール連続フロー合成

ステンレスチューブ反応器で100%転化率

フルシトシン収率63%  


3: パイロットスケール連続フロー合成  

ケイ素炭化物製フロー反応器を用いた製造プロセス

1時間で純度99.8%のフルシトシン58 gを合成(収率83%)


考察

1: フッ素化反応の改善  

連続フロー法で反応時間とフッ素量の最適化が可能に

望ましい生成物への選択性が大幅に向上  


2: 従来法との比較

従来の4ステップ合成に比べてプロセスが大幅に簡略化

初期設備投資が低コストで済む


3: WHO必須医薬品リストへの対応

WHOがフルシトシンをHIV/エイズ治療の必須医薬品に指定  

本製造法で低所得国への供給が可能に


結論

フッ素ガスとシトシンから、1ステップの連続フロー合成でフルシトシンを製造

従来法に比べて大幅に簡便なプロセス

WHOの要求に応えられる低コスト製造が可能に  

HIV/エイズ治療薬アクセス向上に貢献する重要な製造技術


将来の展望

製造コストの詳細な分析が必要  

ジェネリック製薬会社との連携による実用化

他の医薬品合成への応用可能性の検討

Catch Key Points of a Paper ~0019~

 論文のタイトル: Interpreting Oxidative Addition of Ph−X (X = CH3, F, Cl, and Br) to Monoligated Pd(0) Catalysts Using Molecular Electrostatic Potential

著者: Bai Amutha Anjali, Cherumuttathu H. Suresh

雑誌: ACS Omega 

巻: 2, 4196-4206

出版年: 2017年


背景

1: 研究の背景

パラジウム触媒は有機合成において非常に重要

酸化的付加反応が触媒サイクルの開始段階で決定的

配位子選択が酸化的付加の活性化エネルギーに影響


2: 未解決の問題点

酸化的付加における配位子効果の定量的評価が困難

効率的な触媒設計のための電子的指標がない  


3: 研究の目的

分子静電ポテンシャル(MESP)を用いて金属中心の電子密度を評価

MESPと配位子効果・酸化的付加の活性化エネルギーの相関を確立

MESPに基づく合理的な触媒設計手法を提案


方法

1: 計算手法

B3LYP/BS1レベルの密度汎関数理論

50種の配位子(リン、NHC、アルキン、アルケン)

Ph-X (X = Br, Cl, F, Me)の酸化的付加反応の計算


2: 解析手法 

配位子単独の分子静電ポテンシャル(MESP)最小値(Vmin)を計算  

金属中心のMESP値(VPd)を算出

VPdと配位子効果、活性化エネルギーの相関解析


3: 計算システム

Pd(L)2および単核Pd(L)種

配位子置換基効果の検討

酸化的付加の経路と活性化エネルギーの算出


結果

1: 配位子のMESP(Vmin)解析結果

リン置換基: Cy3 > tBu3 >  alkyl > (SiMe3)3 > aryl > 電子求引性置換基

NHC: NMe2H2 > NH2H2 > NMe2(COOMe)2 > NMe2X2 (X = 電子求引性置換基)

アルキン・アルケン: アミノ > アルキル > フェニル > 水素 > ハロゲン


2: 金属中心のMESP(VPd)解析結果

電子供与性配位子でVPdが負に大きい

VPdと配位子解離エネルギーの相関性は低い


3: 酸化的付加の活性化エネルギー比較結果

Ph-F, Ph-Meが最も高いEact 

Ph-Brが最も低いEact

電子供与性配位子でEactが小さい


考察  

1: 配位子効果の分子静電ポテンシャル(MESP)解釈

Vminが負に大きいほど配位子は電子供与性

VPdが負に大きいほど金属は電子過剰

電子過剰金属種は酸化的付加を受けやすい


2: VPdとEactの相関

VPdとEactに強い直線相関

配位子の電子供与能がEactを決定  

VPdからEactの定量的予測が可能


3: 指標の有用性

VPdは酸化的付加の反応性指標として有用

配位子設計によりVPdを制御可能

効率的な酸化的付加触媒の分子設計に応用できる


4: 限界点

アニオン性Pdや3配位Pd種など他の系への適用


結論

分子静電ポテンシャル(MESP)で金属中心の電子状態を定量評価できる

VPdと活性化エネルギーに強い相関

配位子設計によるVPd制御が望ましい触媒を提供

効率的な酸化的付加触媒の合理設計法を確立


今後の展望

実験的検証

他の反応や物性予測への拡張が期待される

2024年5月5日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0018~

論文のタイトル: Mild and catalytic electrocyclizations of heptatrienyl anions (触媒的なヘプタトリエニルアニオンの温和な電子環状反応)

著者: Faizan Rasheed, Andrei Nikolaev, Anmol Dhesi, Tao Zeng, You Xuan Guo, Yarkali Krishna, Samira Komijani, Arturo Orellana  

雑誌: Chemical Science

出版年: 2024


背景

1:  研究の背景

複雑な生理活性天然物に見られる中程度の環状構造体の構築が困難

環状の有機化合物の合成は医薬品開発において重要な課題


2: 既存のシクロヘプタン合成法の限界  

高エネルギー前駆体や強塩基条件を必要とする

官能基許容性が低い


3: 研究の目的

ヘプタトリエニルアニオンの温和な電子環状反応条件の確立

触媒的変換のための新規設計指針の提案


方法

1: 反応設計

置換基の導入による環状/非環状アニオンの安定化

同程度の塩基性により温和な条件での反応を可能に  


2: 基質合成

ビルスマイヤー・ハック反応 鈴木・宮浦カップリングホーナー・ワズワース・エモンズ反応


3: 反応条件の最適化  

各種塩基、溶媒、温度の検討

計算化学による機構解析


結果

1: 脂肪族基質の電子環状反応

当量のDBUで良好な収率 

触媒量では進行しない


2: 芳香族基質の電子環状反応 

当量のDBUで良好な収率

触媒量のDBUでも良好な収率


3: 基質適用範囲

様々な置換基を有する芳香族基質で適用可能

脂肪族基質は不安定


考察  

1: 計算化学的考察

環状/非環状アニオンのエネルギー差が小さい

芳香族基質では連鎖反応機構が示唆される  


2: 連鎖反応機構の実験的証拠

強塩基存在下での反応進行

脂肪族基質では進行しない


3: 本手法の利点  

温和な条件で官能基許容性が高い

触媒的変換が達成できる


4: 限界点

一部の基質が不安定

より多様な基質クラスへの適用が必要


結論

ヘプタトリエニルアニオンの電子環状反応に対する新たな設計指針を提案した

本指針に基づき、従来より温和な条件での反応開発に成功した

さらに、芳香族基質に対しては触媒的な変換が達成できることを実証した

本手法は、シクロヘプタン合成の有用な選択肢となり得る


今後の展望

より幅広い基質適用範囲の検討と、実用的な合成への応用が期待される

Catch Key Points of a Paper ~0017~

論文のタイトル: E-Olefins through intramolecular radical relocation

著者: Ajoy Kapat, Theresa Sperger, Sinem Guven, Franziska Schoenebeck

雑誌: Science

巻: Vol. 363, Issue 6425

出版年: 2019年


背景

1: 研究の背景

炭素-炭素二重結合の幾何構造の制御は医薬品、食品、香料産業で中心的な役割を担う

従来のWittig反応やBirch還元では立体選択性が不十分


2: 未解決の問題点

貴金属水素化物を用いた二重結合異性化が一般的だが可逆的で水素交換が起こる

非貴金属触媒を用いた二重結合異性化では立体選択性が低い


3: 研究の目的

ラジカル機構による1,3-水素原子移動で高いE選択性を実現  

安価な非貴金属であるニッケル触媒を利用


方法

1: 研究デザイン

ニッケル(I)二量体触媒の合成と反応検討

基質スコープと反応条件の最適化


2: 反応機構解析手法

同位体標識実験、ラジカルプローブ実験

計算化学的手法による解析


結果

1: 反応結果

室温・短時間でE選択的二重結合異性化が進行

幅広い官能基に対する高い基質一般性 


2: 反応機構解析結果

シクロプロペニルオレフィンを用いたラジカル性の実証


考察  

1: 主要な知見

新規ラジカル的1,3-水素原子移動機構の発見

金属ラジカル種を経由する分子内ラジカル的水素移動


2: 先行研究との比較

可逆的水素交換が無く、高E選択性発現

共酸化剤や水素源を必要としない


3: 反応の一般性と官能基許容性    

ハロゲン、ニトリル、ボロン酸エステルなどの官能基が許容される


4: 反応の工業的有用性

簡便な条件、スケールアップ可能、溶媒不要による持続可能性 


5: 限界点

長鎖状基質の場合、副生成物が増加する


結論

安価な非貴金属ニッケル触媒を用いたE選択的ラジカル的二重結合異性化反応の開発に成功

従来法の問題を克服し、多様な基質に適用可能

官能基許容性が高く、工業的にも有望な手法


今後の展望

長鎖基質への適用

更なる反応加速・高選択化が期待される