2024年11月30日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0202~

論文のタイトル: Understanding and Tuning the Electronic Structure of Pentalenides

著者: Niko A. Jenek, Andreas Helbig, Stuart M. Boyt, Mandeep Kaur, Hugh J. Sanderson, Shaun B. Reeksting, Gabriele Kociok-Köhn, Holger Helten* and Ulrich Hintermair*

雑誌名: Chemical Science

巻: Volume 15, 12765-12779

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1039/d3sc04622b


背景

1: ペンタレニドとは?

ペンタレニドは、2つの5員環が縮合した平面10π電子系芳香族性を有する有機化合物

ペンタレニド配位子は、単一の金属中心に折り畳まれたり、2つの金属を結合したりするなど、η1からη8までの様々な結合様式をとる


2: ペンタレニド研究の現状と課題

ペンタレニド配位子は、窒素や二酸化炭素などの小分子の活性化やオレフィン重合触媒など、様々な用途を持つ有機金属錯体の合成に利用されている

しかし、ペンタレニドの合成は難しいため、その有機金属化学や多金属錯体をベースとした協同結合活性化戦略における利用に関する研究は進んでいない

特に、置換基の制御された導入を可能にする一般的な合成手法は知られていない


3: 研究の目的

9つの新しいペンタレニド誘導体の合成と特性評価を行い、置換基がペンタレニドのコアに及ぼす電子効果を体系的に調査

NMR分光法およびDFT計算を用いて、電荷分布分析、NICSスキャン、ACID計算などを行い、置換基による電子構造の変化を明らかにする


方法

1: ペンタレニド誘導体の合成

対称な置換基を有するペンタレニド誘導体は、対応するジヒドロペンタレンをLiNEt2で脱プロトン化することにより合成

非対称な置換基を有するペンタレニド誘導体も同様に、対応するジヒドロペンタレンをLiNEt2またはKHMDSとLiNEt2の組み合わせで脱プロトン化することにより合成


2: 分光学的分析

合成したペンタレニド誘導体は、多核NMR分光法および質量分析法により特性評価

特に、1H NMRおよび13C NMR化学シフトを測定することで、ペンタレニドコアの電子状態を調査


3: DFT計算

ペンタレニド誘導体の電子構造をより深く理解するために、DFT計算を行った

芳香族性と電荷分布の計算には、溶液中でのイオン対形成を考慮し、裸のジアニオンを用いた


4: 電子構造解析

誘起電流密度 (ACID) の異方性および核非依存性化学シフト (NICS) スキャンを計算することで、ペンタレニドの芳香族性を評価

自然結合軌道 (NBO) 計算を用いて、ペンタレニドコア内の電荷局在化と置換基効果を調査


結果

1: 対称テトラアリールペンタレニドの合成と構造

テトラフェニル、テトラ-p-トリル、テトラ-m-キシリルペンタレニド誘導体を高収率で合成した

X線結晶構造解析により、これらの誘導体がtrans η5配位様式で結晶化することを確認した

溶液中では、溶媒分離イオン対を形成し、置換基が速やかに反転していることが示唆された


2: 非対称アリールペンタレニドの合成と特性

異なるアリール基で置換された非対称ペンタレニド誘導体を合成した

1H NMRスペクトルにおいて、ウィングチッププロトンの化学シフトに差が見られ、ペンタレニドコアの分極が示唆された

電子求引性基を導入することで、分極の程度を調整できる


3: アルキル置換ペンタレニドの合成

従来法では、アルキル置換基を有するジヒドロペンタレンは、脱プロトン化の際に環外二重結合を形成してしまうため、ペンタレニド誘導体の合成が困難

メチル基の位置とアリール置換基の組み合わせを調整することで、環外二重結合形成を抑制し、アルキル置換ペンタレニド誘導体の合成に成功した


考察

1: 置換基によるペンタレニドの芳香族性の変化

DFT計算により、アリール置換基はペンタレニドコアの芳香族性を低下させることが示された

これは、置換基への電荷の非局在化によるものと考えられる

非対称置換ペンタレニドでは、置換基を持たない5員環の方が、置換基を持つ5員環よりも芳香族性が高い


2: 置換基によるペンタレニドの電荷分布の変化

NBO計算により、アリール置換基はペンタレニドコアから電荷密度を引き抜くことが示された

電子求引性基を導入することで、ペンタレニドコアの分極が強くなる

アルキル置換基は電子供与性を示し、ペンタレニドコアの分極に影響を与える


3: ペンタレニドのフロンティア軌道解析

DFT計算により、アリール置換基はペンタレニドのフロンティア軌道を安定化させることが示された

アリール置換ペンタレニドは、非置換ペンタレニドよりも弱いドナー配位子ですが、より良いアクセプター配位子であることが示唆された


4: 非対称ペンタレニドの遷移金属錯体への応用

非対称に置換されたペンタレニド配位子を用いることで、分極した二核ロジウム(I)錯体を合成

この錯体では、それぞれのロジウム原子とその補助配位子は、電子的にだけでなく立体的に区別される


5: 研究の限界点

主にエーテル溶媒中におけるペンタレニドの性質を調べたが、他の溶媒系における挙動や反応性については、さらなる研究が必要

合成したペンタレニド誘導体を用いた遷移金属錯体の触媒活性については検討していない


結論

9つの新しいペンタレニド誘導体を合成し、その電子構造を詳細に解析した

置換基の種類によってペンタレニドコアの芳香族性、電荷分布、フロンティア軌道エネルギーレベルを調整できることを明らかにした

非対称置換ペンタレニドを用いることで、分極した二核遷移金属錯体を合成できる可能性を示した


将来の展望

触媒、センサー、機能性材料など、様々な分野への応用が期待される

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