著者: Adrián Calvo-Molina, Adrián Pérez-Redondo*, and Carlos Yélamos*
雑誌: Organometallics
巻: 43, 17, 1780–1784
出版年: 2024
背景
1: 研究背景
モノシクロペンタジエニルバナジウム錯体は反応性が高く、有用な前駆体
中間原子価のバナジウム種の化学は十分に発展していない
毒性の高いスズ試薬を用いた従来の合成法には問題がある
低毒性で効率的な合成法の開発が必要
2: 未解決の問題点
[{VCp*(μ-Cl)2}3] (1)の性質に関する矛盾点の解明
化合物1を前駆体とした中間原子価モノシクロペンタジエニルバナジウム錯体の合成
小分子活性化における低原子価バナジウム錯体の可能性の探索
3: 研究目的
[Ge(C5Me5)Me3]を用いた1の低毒性合成法の開発
化合物1の構造と反応性の解明
化合物1からの新規バナジウム錯体の合成と特性評価
合成した錯体の小分子活性化能の調査
方法
1: 合成と単離
[VCl3(thf)3]と[Ge(C5Me5)Me3]の反応による1の合成
化合物1の溶媒依存性の調査(ベンゼン、クロロホルム、ピリジン、THF)
化合物1の酸化反応による[{VCp*(μ-Cl)2}3](BPh4)の合成
[VCp*Cl2(L)] (L = thf, py)のMgによる還元反応
2: 構造解析
X線結晶構造解析による分子構造の決定
NMRスペクトル測定による構造と動的挙動の解析
磁気測定によるバナジウムの酸化状態の評価
3: 反応性調査
アゾベンゼンとの反応による窒素-窒素結合の還元
酸素との反応によるオキソ錯体の生成
窒素および水素との反応性試験
結果
1: 化合物1の合成と性質
[Ge(C5Me5)Me3]を用いた1の高収率合成(98%)に成功
化合物1は芳香族溶媒中で三核構造を保持
配位性溶媒中で単核種[VCp*Cl2(L)]に解離
2: 還元生成物の構造
[(VCp*)2(μ-Cl)3] (3): V(III)/V(II)混合原子価二核錯体
[{VCp*(py)(μ-Cl)}2] (4): V(II)二核錯体
X線構造解析により3と4の構造を決定
3: 小分子活性化
化合物4とアゾベンゼンの反応により[{VCp*(μ-Cl)}2(μ−η2:η2-N2Ph2)] (5)を生成
化合物5の加熱によりN-N結合開裂し、イミド架橋二核V(IV)錯体6を生成
化合物4は窒素および水素と反応せず
考察
1: 化合物1の合成と構造
[Ge(C5Me5)Me3]による低毒性合成法の確立
溶媒依存的な構造変化の解明
三核構造の保持と単核種への解離挙動の理解
2: 還元生成物の特性
V(III)/V(II)およびV(II)二核錯体の合成に成功
構造解析により架橋塩化物の結合様式を明確化
磁気測定によりバナジウムの酸化状態を確認
3: 小分子活性化能
アゾベンゼンのN=N結合を室温で2電子還元
N-N単結合の開裂とイミド架橋錯体の生成を確認
N2やH2との反応性は低い
4: 研究の意義
低毒性前駆体の開発により安全性が向上
新規バナジウム錯体の構造と反応性の解明
小分子活性化における可能性と限界の示唆
5: 研究の限界点
N2やH2との反応性が低く、活性化条件の最適化が必要
生成物の触媒活性や応用面での検討が不十分
長期安定性や大量合成に関する知見が不足
結論
[Ge(C5Me5)Me3]を用いた1の低毒性・高効率合成法を確立
化合物1からの新規V(III)およびV(II)錯体の合成と構造解明に成功
アゾベンゼンの還元的開裂を実現
将来の展望
今後はより強い還元力を持つ錯体の設計が課題
触媒反応への応用や他の小分子活性化の探索が期待される
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