論文のタイトル: Wavelength Selective Photocontrol of Hybrid Azobenzene-Spiropyran Photoswitches with Overlapping Chromophores(重なり合う発色団を持つハイブリッドアゾベンゼン-スピロピラン光スイッチの波長選択的光制御)
著者: Torben Saßmannshausen, Dr. Anne Kunz, Nils Oberhof, Friederike Schneider, Chavdar Slavov, Prof. Dr. Andreas Dreuw, Prof. Dr. Josef Wachtveitl, Prof. Dr. Hermann A. Wegner
雑誌: Angewandte Chemie International Edition
巻: Volume63, Issue10, e202314112
出版年: 2024年
背景
1: 研究の背景(多重光クロミック化合物の可能性)
複数の光スイッチユニットを持つ化合物は魅力的
ナノ技術、再生可能エネルギー利用、データストレージなどに応用可能
新たな機能性を持つ分子複合システムの開発が課題
合成、分光学、理論の分野での挑戦が必要
2: 未解決の問題(光スイッチの結合と機能性)
光スイッチの理想的な共有結合方法が不明確
結合パターンによってアゾベンゼン(AB)の異性化動力学が変化
メタ位結合のABは単量体に近い性質を示す
パラ位結合のABは赤色シフトし、量子効率が低下
3: 研究目的(ハイブリッド光スイッチの設計)
アゾベンゼン(AB)とスピロピラン(SP)を直接結合したハイブリッド二量体の設計
メタ位とパラ位で結合したAB-SP二量体の合成
個々のスイッチユニットの電子的分離と独立したスイッチング機能の実現
赤色シフトによる紫外線吸収の低減
方法
1: 合成方法(AB-SP誘導体の合成)
メタ位結合AB-SP: ABを先に構築し、次にSPユニットを形成
パラ位結合AB-SP: SPを先に合成し、次にABユニットを付加
置換基としてNO2基を導入し、MC形態の半減期を延長
2: 分光学的解析(静的・時間分解分光法)
UV/Vis吸収スペクトル測定
過渡吸収分光法による超高速ダイナミクス観測
光定常状態(PSS)の分析
NMR実験によるPSSの組成決定
3: 理論計算(量子化学計算)
CAM-B3LYP/6-311G* D3(BJ) PCM(MeCN)レベルでの計算
吸収スペクトルの計算
電子遷移の局在性とキャラクターの解析
デタッチメント/アタッチメント密度の可視化
結果
1: パラ位結合AB-SPの光物理学的特性
ABユニットの吸収が60 nm赤色シフト(385 nm)
SPユニットの遷移はクロメン部位に局在化
波長選択的な光異性化が可能
パラ-(E)-AB-MCの選択的生成は困難
2: メタ位結合AB-SPの光物理学的特性
ABとSPの吸収スペクトルが単量体の和に近い
電荷移動遷移が400 nm付近に出現
ABとSPユニットの個別励起が可能
メタ-(E)-AB-MCへの変換時にABの(E)→(Z)異性化も発生
3: 超高速ダイナミクス(過渡吸収分光法による動的挙動)
パラ位結合体: ABとSPの動的挙動が混在
メタ位結合体: ABとSPの動的挙動がより独立的
励起波長によって異なるダイナミクスを観測
トリプレット状態の形成と減衰を確認
考察
1: パラ位結合の影響(パラ位結合による電子的結合)
ABユニットの赤色シフトにより可視光での制御が可能
SPユニットの遷移はスピロ原子により分離され、影響が小さい
波長選択的な制御が可能だが、完全な独立性は達成できず
2: メタ位結合の利点(メタ位結合による電子的分離)
ABとSPユニットの電子的分離が促進される
個別のスイッチング制御が可能
完全な直交性は達成されないが、高い独立性を実現
3: ハイブリッド光スイッチの設計戦略
結合位置の選択により電子的相互作用を制御可能
パラ位結合は赤色シフトを利用した応用に有効
メタ位結合は独立したスイッチング機能に適する
目的に応じた結合様式の選択が重要
4: 研究の限界
光定常状態の正確な組成決定が困難
短い熱的半減期による生成物の蓄積制限
完全に独立したスイッチングの実現が課題
長波長での制御にはさらなる分子設計が必要
結論
ハイブリッド光スイッチの可能性
AB-SPハイブリッド二量体の合成と特性解明に成功
メタ位結合とパラ位結合で異なる光物理学的特性を実現
波長選択的な光制御が可能な多機能分子システムを開発
将来の展望
ナノ構造や材料の複雑な光制御への応用が期待される
さらなる分子設計の最適化により、完全な直交性の実現を目指す
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