論文のタイトル: Lewis base adducts of NpCl4
著者: Lauren M. Lopez, Madeleine C. Uible, Matthias Zeller, Suzanne C. Bart
雑誌: Chemical Communications
巻: 60, 5956-5959
出版年: 2024
背景
1: 研究の背景
トランスウラン元素の基礎化学探索には、適切な出発物質が不足
有機溶媒に可溶な非水系ハロゲン化物の開発が重要
現在利用可能なトランスウラン酸化物から非水系ハロゲン化物を生成
NpCl4(DME)2が便利な出発物質として報告されている
2: 未解決の問題点
NpCl4(DME)2の合成にはTMS-Clが必要で、N系付加体の生成が困難
NpCl4(DME)2のTHF中での挙動は知られているが、他の溶媒での挙動は不明
Np(IV)クロリドの様々な有機溶媒中での同定が必要
3: 研究の目的
NpCl4(DME)2から新しいNp(IV)ルイス塩基付加体の合成
アセトニトリルとピリジンを用いたNp(IV)溶媒付加体の調製
4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンとトリフェニルホスフィンオキシドを用いたNp(IV)付加体の合成
得られた化合物の分光学的・構造的特性解析
方法
1: 合成方法
NpCl4(DME)2をアセトニトリルまたはピリジンに溶解
溶液を約16時間攪拌後、真空下で揮発性物質を除去
4,4'-ジ-tert-ブチル-2,2'-ビピリジンまたはトリフェニルホスフィンオキシドとNpCl4(DME)2をTHF中で反応
2: 分析手法
1H NMR分光法による構造解析
固体赤外分光法による結合特性の評価
X線結晶構造解析による分子構造の決定
電子吸収分光法によるUV-Vis-NIR領域のスペクトル測定
3: 比較研究
合成したNp(IV)化合物とウラン類似体の特性を比較
スペクトル特性や結晶構造の違いを分析
Np(IV)とU(IV)の電子構造の差異を考察
結果
1: 新規Np(IV)化合物の合成
NpCl4(MeCN)4 (1): 非常に薄いピンク色粉末、95%収率
NpCl4(pyr)4 (2): 黄褐色粉末、93%収率
NpCl4(tBuBipy)2 (3): 明るいピンク色、81%収率
NpCl4(OPPh3)2 (4): 薄い青色結晶
2: 結晶構造解析結果
化合物1と2: 8配位、歪んだ十二面体構造
化合物3: 8配位、近似的な十二面体構造
化合物4: 6配位、オクタヘドラル構造
Np-Cl結合距離: 2.5732(17) - 2.6282(9) Å
Np-N結合距離: 2.5526(17) - 2.6877(14) Å
3: 分光学的特性
化合物1: アセトニトリル中で305 nmと360 nmに強い吸収
化合物2: ピリジン中で300 nm付近に強い吸収、388 nmに肩
化合物3: ジクロロメタン中で493 nmと530 nmに吸収
化合物4: ジクロロメタン中で365 nmに強い吸収
すべての化合物でNIR領域に弱い鋭い吸収(f-f遷移)
考察
1: 主要な発見
NpCl4(DME)2からのDMEリガンド置換が容易に進行
Np(IV)イオンの配位環境は溶媒やリガンドにより多様
Np(IV)ビピリジンおよびトリフェニルホスフィンオキシド化合物の初めての結晶構造解析
2: ウラン類似体との比較
Np(IV)とU(IV)化合物で類似のスペクトル特性
結晶構造に若干の違い(例:UCl4(tBuBipy)2は正方反柱形)
NIR領域の吸収パターンに差異(例:UCl4(OPPh3)2の1930 nm吸収)
3: 溶液挙動
アセトニトリルとピリジン付加体は溶液中で動的挙動
トリフェニルホスフィンオキシド付加体は溶液中で2種の異性体
ビピリジン付加体は溶液中で安定な構造を維持
4: 研究の意義
新規Np(IV)出発物質の開発に貢献
Np(IV)の配位化学に関する理解を深化
トランスウラン元素の非水系化学研究の基盤を提供
5: 研究の限界
放射性物質の取り扱いによる実験の制約
長期的な安定性や反応性に関する情報の不足
より広範なリガンドや反応条件の探索が必要
結論
NpCl4(DME)2からの4種の新規Np(IV)ルイス塩基付加体の合成に成功
Np(IV)イオンのリガンド置換化学に関する重要な知見を獲得
分光学的・構造的解析によりNp(IV)化合物の特性を明らかに
将来の展望
今後の非水系ネプツニウム有機金属化合物合成への基盤を確立
さらなるリガンド置換反応や有機金属誘導体の研究が期待される
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