著者: Vadim Krivitsky, Marina Zverzhinetsky, and Fernando Patolsky
雑誌: ACS Nano
巻: 14, 3587−3594
出版年: 2020年
背景
1: 研究背景
化学修飾された電界効果トランジスタ(FET)ナノデバイスは選択的で高感度な検出プラットフォーム
FETセンサーは、ナノメートルスケールの半導体チャネルの静電ゲーティングに基づく
アナライト-レセプター相互作用がデバイスのトランスコンダクタンスに影響を与える
しかし、実世界のバイオセンシング応用には3つの根本的な制限がある
2: 研究課題
生体液中の高イオン濃度による電気二重層が電荷キャリアを遮蔽
小さな非荷電分子標的は半導体のトランスコンダクタンスへの影響が最小限
ほとんどの検出方式では、バイオ認識イベント後に洗浄ステップが必要
これらの制限により、複雑な生体液環境でのリアルタイムモニタリングが困難
3: 研究目的
複雑な生体液環境で直接バイオイベントをリアルタイムモニタリングできるナノFETデバイスの開発
表面に共有結合した可逆的レドックス系を利用したamperoFETデバイスの開発
小分子代謝物の連続的リアルタイムモニタリングの実現
インプラント可能なナノセンサーアレイに向けた基盤技術の確立
方法
1: デバイス設計
シリコンナノワイヤFETアレイを光リソグラフィーで作製
ナノワイヤ表面を9,10-アントラキノン-2-スルホクロリドで化学修飾
PDMSマイクロ流体チャネルを用いた流体送達システムを構築
ワイヤボンディングによりPCBに接続し、多重直流入出力システムを構成
2: 測定方法
ソース-ドレイン電圧(Vsd)と、ゲート電圧(Vg)を印加
電流vs時間信号を1秒間隔で記録
H2O2検出:100 nM〜1 mMの範囲で測定(Vsd=0.3V, Vg=-0.9V)
グルコース検出:0.1 mM〜10 mMの範囲で測定(Vsd=0.3V, Vg=-0.4V)
3: 生体液サンプル測定
未処理血液サンプルでのグルコース検出
模擬体液(25%ウシ血清+75% PBS)での連続グルコースモニタリング
流速5 μL/minおよび15 μL/minで測定
キャリブレーション応答の計算方法を定義
結果
1: H2O2検出
100 nM〜1 mMの範囲でH2O2を検出可能
検量線の相関係数R = 0.961
生理的なH2O2濃度範囲(1-5 μM)をカバー
2: グルコース検出
0.1 mM〜10 mMの範囲でグルコースを検出可能
検量線の相関係数R1 = 0.99, R2 = 1.00
血中グルコース濃度の生理的範囲(4.4-6.1 mM)および糖尿病範囲(〜10 mM)をカバー
3: 生体液中での連続モニタリング
未処理血液サンプル中で2-5 mMのグルコース濃度変化を検出(R = 0.993)
模擬体液中で少なくとも2時間の連続モニタリングが可能
濃度変化に応じたリアルタイムな信号変化を観察
考察
1: 主要な発見
表面修飾レドックス系の電気化学的還元が可能
ゲート電圧-0.4 V〜-0.9 Vの印加で制御可能
特定のレドックス反応性部位に対する選択性を確認
2: グルコースの検出
生理的条件下でH2O2とグルコースの検量線を取得
未処理血液サンプル中でのグルコース検出に成功
模擬体液中での連続グルコースモニタリングを実現
3: 先行研究との比較
従来のFETセンサーの課題(電気二重層の遮蔽効果など)を克服
小分子代謝物の直接検出が可能に
洗浄ステップ不要の連続モニタリングを実現
4: 研究の意義
インプラント可能なナノセンサーアレイの開発に向けた重要な一歩
複雑な生体液環境での小分子代謝物のリアルタイムモニタリングを可能に
医療診断や生体モニタリングへの応用が期待される
5: 研究の限界
長期的な安定性や生体適合性の検証が必要
より多様な代謝物への応用可能性の検討
実際の生体内環境での性能評価が今後の課題
結論
レドックス反応性FETナノデバイスによる小分子代謝物の直接モニタリングを実現
生体液中での連続的リアルタイムモニタリングが可能に
インプラント可能なナノセンサーアレイの開発に向けた基盤技術を確立
将来の展望
長期安定性の向上、より多様な代謝物への応用、生体内での実証実験
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