2024年10月5日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0147~

論文のタイトル: Photocatalytic Generation of Divalent Lanthanide Reducing Agents(光触媒によるランタニド二価還元剤の生成)

著者: Monika Tomar, Rohan Bhimpuria, Daniel Kocsi, Anders Thapper, K. Eszter Borbas

雑誌: Journal of the American Chemical Society

巻: 145, 22555-22562

出版年: 2023

注釈:Catch Key Points of a Paper ~0142~にて紹介したPhotodriven Sm(III)-to-Sm(II) Reduction for Catalytic Applicationsの先行研究にあたる論文をDr. Rohan Bhimpuriaからご指摘とともに紹介いただきました。



背景

1: 研究背景

ランタニド(Ln)は再生可能エネルギー生産から生体イメージングまで幅広く応用

二価ランタニド(Ln(II))イオンは強力な還元剤として知られる

SmI2は学術研究で広く使用される化学選択的な還元剤

現在のLn(II)使用法は過剰量や有害な添加物を必要とする


2: 未解決の問題

ランタニドの採掘は高コストで環境負荷が大きい

触媒量でのLn(II)使用が急務

既存の触媒的Ln(II)使用例は限定的で、基質の適用範囲が狭い

化学選択性や還元力の調整可能性が失われている


3: 研究目的

安定なLn(III)前駆体から反応性のあるLn(II)種を効率的に生成する方法の開発

光励起クロモフォアを用いたLn(III)の光化学的還元の実現

犠牲還元剤によるクロモフォアの再生と触媒サイクルの確立

幅広い基質に適用可能な触媒的Ln(II)反応の実現


方法

1: 触媒設計

3種類の触媒(LnL1-LnL3)を設計 (Ln = Eu, Sm, Gd, Dy)

6,7-オキシクマリン類縁体L1, L2: 強いLn(III)およびLn(II)結合能を持つ

7-アミノカルボスチリルL3: Eu(III)との弱い相互作用を利用

UV・可視光励起可能な光捕集ヘテロ環を導入


2: 反応条件の最適化

初期検討: Eu(II)を用いてベンジルクロリドの還元を実施

犠牲還元剤: Znおよび非金属系還元剤を検討

触媒量: 10 mol%が小・大スケール反応に適していることを確認

光源: 365 nm UV光または青色LED (463 nm)を使用


3: 機構解析

蛍光量子収率(ΦL)と寿命(τL)測定によるエネルギー移動過程の解析

EPR分光法によるEu(II)種生成の直接観測

ラジカル捕捉剤(TEMPO, PBN)を用いた中間体の同定


結果

1: 基質適用範囲 (ベンジルハライド)

様々なベンジルハライドを高収率で還元 (79-97%)

エステル、ケトン、ニトリル、アリールブロミド等の官能基を許容

触媒や反応条件の変更により生成物選択性を制御可能


2: 基質適用範囲 (アリールハライド)

電子不足および電子豊富な(ヘテロ)アリールハライドを効率的に脱ハロゲン化

アルデヒド、エステル等の官能基を保持

重水素化実験によりDMFやDIPEAがプロトン源として機能することを確認


3: 官能基変換反応

C-S, N=N, C=C, P=O結合の還元を高収率で達成

ピナコールカップリング反応を触媒的に実現

アルデヒドおよびニトロ基の選択的還元に成功


考察

1: 主要な発見

Ln(III)前駆体から光化学的にLn(II)種を生成可能

触媒量(0.1当量)のLn錯体で効率的な還元反応を実現

従来のSmI2法と比較して、最大99%のLn使用量削減を達成


2: 反応の特徴

配位子設計により反応選択性を制御可能

水などの環境負荷の低い添加物で反応性を調整可能

幅広い官能基変換反応に適用可能(C-C, C-N, C-P, C-S, N-N結合形成など)


3: 先行研究との比較

従来の化学量論量Ln(II)反応と同等以上の収率・選択性を実現

有害なHMPA等の添加物不要で環境負荷を低減

触媒的Ln(II)反応の基質適用範囲を大幅に拡大


4: メカニズムの考察

光励起クロモフォアからLn(III)への電子移動でLn(II)生成

EPRによりEu(II)種の生成を直接観測(光化学的Ln(II)生成の初の分光学的証拠)

クロモフォアラジカルカチオンの生成も確認


5: 研究の限界点

一部のアリールハライドは還元できず(より強力な還元剤が必要)

クロスカップリング反応の適用範囲に制限あり

配位子設計のさらなる最適化が必要


結論

光触媒的Ln(II)生成法の開発に成功

幅広い基質に適用可能な触媒的Ln(II)還元反応を実現

従来法と同等以上の機能群許容性と反応選択性を達成

環境負荷の低い添加物で反応性を制御可能


将来の展望

光化学的Ln(II)生成は強力な触媒的還元反応戦略として期待

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