2024年10月4日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0146~

論文のタイトル: Enhancement of London Dispersion in Frustrated Lewis Pairs: Towards a Crystalline Encounter Complex(フラストレートルイス対におけるロンドン分散力の増強: 結晶性エンカウンター錯体に向けて)

著者: Flip Holtrop, Christoph Helling, Martin Lutz, Nicolaas P. van Leest, Bas de Bruin, J. Chris Slootweg*

雑誌: Synlett 

巻: 34, 1122–1128

出版年: 2023


背景

1: フラストレートルイス対(FLP)化学の基礎

2006年にStephanらによって発見されたFLP

金属フリーで小分子(H2, CO2など)を活性化可能

ルイス酸とルイス塩基の相互作用が重要

エンカウンター錯体の形成が提唱されている


2: エンカウンター錯体の課題

弱い相互作用のため溶液中で高濃度化が困難

分光学的手法での研究が難しい

計算科学的研究では、ロンドン分散力の重要性が示唆

実験的には19F,1H HOESY NMRやUV/Visで観測例あり


3: 研究の目的

ロンドン分散力を増強したFLPの設計

エンカウンター錯体の濃度増加を目指す

結晶性エンカウンター錯体の単離と構造解析

FLP前駆体の相互作用の理解を深める


方法

1: 計算化学的アプローチ(計算化学による設計)

B97XD/6-311+G(d,p)//B97XD/6-31G(d)レベルでの構造最適化

エンカウンター錯体形成エネルギーの計算

様々なルイス酸・塩基の組み合わせを検討

ロンドン分散力の寄与を評価


2: 合成と構造解析(実験的アプローチ)

計算結果に基づき、有望なFLP系を選択

N(3,5-tBu2C6H3)3とB(3,5-tBu2C6H3)3の合成

単結晶X線構造解析による構造決定

NMR、IR、融点測定による特性評価


3: エンカウンター錯体の研究(エンカウンター錯体の探索)

FLP成分の混合と溶液挙動の観察

結晶化条件の最適化

得られた結晶の各種分析(X線回折、NMR、IR)

単一成分結晶との比較解析


結果

1: 計算によるFLP設計結果

N(3,5-tBu2C6H3)3/B(3,5-tBu2C6H3)3系が有望

エンカウンター錯体形成エネルギー: -39.93 kcal/mol

ロンドン分散力の寄与: -25.33 kcal/mol

N-B間距離: 3.778 Å (弱い相互作用を示唆)


2: FLP成分の合成と構造解析

N(3,5-tBu2C6H3)3とB(3,5-tBu2C6H3)3の合成に成功

単結晶X線構造解析で分子構造を決定

両成分とも平面三角形構造を持つ

分子間の最短N...N、B...B距離は10 Å以上


3: エンカウンター錯体の探索

FLP混合物の結晶化

トルエンまたはn-ペンタンから無色結晶を得た

X線回折で N(3,5-tBu2C6H3)3の結晶構造と類似

NMR解析で1:1混合物であることを確認

IRスペクトルは両成分の特徴を示す


考察

1: エンカウンター錯体の形成と評価

結晶中でN(3,5-tBu2C6H3)3とB(3,5-tBu2C6H3)3が1:1で存在

NとBの位置に置換型無秩序が観測される

ホモ二量体とヘテロ二量体の形成エネルギーが近い

完全な秩序構造は得られなかった


2: ロンドン分散力の役割と重要性

計算結果と実験結果が整合

ロンドン分散力がFLP成分の会合を促進

従来のFLPよりも強い相互作用を実現

結晶化を可能にする駆動力となった


3: 本研究の意義とFLP化学への影響

エンカウンター錯体の構造的証拠を初めて提示

FLP前駆体の相互作用の理解を深めた

分散力制御によるFLP設計の新たな指針を示した

H2活性化などのFLP反応機構解明に貢献する可能性


4: 研究の限界点

溶液中での挙動解析が不十分

N/B無秩序のため厳密な構造決定ができていない

反応性や触媒活性の評価が未実施

より多様なFLP系での検証が必要


結論

ロンドン分散力を増強したFLPの設計・合成に成功

N(3,5-tBu2C6H3)3/B(3,5-tBu2C6H3)3の1:1共結晶を得た

エンカウンター錯体の構造的証拠を初めて提示

FLP化学におけるロンドン分散力の重要性を実証


将来の展望

今後、異なる形状のルイス酸・塩基での研究が期待される

FLP反応機構解明への貢献が期待できる

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