論文のタイトル: Enhancement of London Dispersion in Frustrated Lewis Pairs: Towards a Crystalline Encounter Complex(フラストレートルイス対におけるロンドン分散力の増強: 結晶性エンカウンター錯体に向けて)
著者: Flip Holtrop, Christoph Helling, Martin Lutz, Nicolaas P. van Leest, Bas de Bruin, J. Chris Slootweg*
雑誌: Synlett
巻: 34, 1122–1128
出版年: 2023
背景
2006年にStephanらによって発見されたFLP
金属フリーで小分子(H2, CO2など)を活性化可能
ルイス酸とルイス塩基の相互作用が重要
エンカウンター錯体の形成が提唱されている
2: エンカウンター錯体の課題
弱い相互作用のため溶液中で高濃度化が困難
分光学的手法での研究が難しい
計算科学的研究では、ロンドン分散力の重要性が示唆
実験的には19F,1H HOESY NMRやUV/Visで観測例あり
3: 研究の目的
ロンドン分散力を増強したFLPの設計
エンカウンター錯体の濃度増加を目指す
結晶性エンカウンター錯体の単離と構造解析
FLP前駆体の相互作用の理解を深める
方法
1: 計算化学的アプローチ(計算化学による設計)
B97XD/6-311+G(d,p)//B97XD/6-31G(d)レベルでの構造最適化
エンカウンター錯体形成エネルギーの計算
様々なルイス酸・塩基の組み合わせを検討
ロンドン分散力の寄与を評価
2: 合成と構造解析(実験的アプローチ)
計算結果に基づき、有望なFLP系を選択
N(3,5-tBu2C6H3)3とB(3,5-tBu2C6H3)3の合成
単結晶X線構造解析による構造決定
NMR、IR、融点測定による特性評価
3: エンカウンター錯体の研究(エンカウンター錯体の探索)
FLP成分の混合と溶液挙動の観察
結晶化条件の最適化
得られた結晶の各種分析(X線回折、NMR、IR)
単一成分結晶との比較解析
結果
1: 計算によるFLP設計結果
N(3,5-tBu2C6H3)3/B(3,5-tBu2C6H3)3系が有望
エンカウンター錯体形成エネルギー: -39.93 kcal/mol
ロンドン分散力の寄与: -25.33 kcal/mol
N-B間距離: 3.778 Å (弱い相互作用を示唆)
2: FLP成分の合成と構造解析
N(3,5-tBu2C6H3)3とB(3,5-tBu2C6H3)3の合成に成功
単結晶X線構造解析で分子構造を決定
両成分とも平面三角形構造を持つ
分子間の最短N...N、B...B距離は10 Å以上
3: エンカウンター錯体の探索
FLP混合物の結晶化
トルエンまたはn-ペンタンから無色結晶を得た
X線回折で N(3,5-tBu2C6H3)3の結晶構造と類似
NMR解析で1:1混合物であることを確認
IRスペクトルは両成分の特徴を示す
考察
1: エンカウンター錯体の形成と評価
結晶中でN(3,5-tBu2C6H3)3とB(3,5-tBu2C6H3)3が1:1で存在
NとBの位置に置換型無秩序が観測される
ホモ二量体とヘテロ二量体の形成エネルギーが近い
完全な秩序構造は得られなかった
2: ロンドン分散力の役割と重要性
計算結果と実験結果が整合
ロンドン分散力がFLP成分の会合を促進
従来のFLPよりも強い相互作用を実現
結晶化を可能にする駆動力となった
3: 本研究の意義とFLP化学への影響
エンカウンター錯体の構造的証拠を初めて提示
FLP前駆体の相互作用の理解を深めた
分散力制御によるFLP設計の新たな指針を示した
H2活性化などのFLP反応機構解明に貢献する可能性
4: 研究の限界点
溶液中での挙動解析が不十分
N/B無秩序のため厳密な構造決定ができていない
反応性や触媒活性の評価が未実施
より多様なFLP系での検証が必要
結論
ロンドン分散力を増強したFLPの設計・合成に成功
N(3,5-tBu2C6H3)3/B(3,5-tBu2C6H3)3の1:1共結晶を得た
エンカウンター錯体の構造的証拠を初めて提示
FLP化学におけるロンドン分散力の重要性を実証
将来の展望
今後、異なる形状のルイス酸・塩基での研究が期待される
FLP反応機構解明への貢献が期待できる
0 件のコメント:
コメントを投稿